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第5-10話 ソードマン・ビギン・ゲットユーズトゥタウン

 ライーユに無事到着し、そのまま意識を失ったアベル。一度目を覚ました彼は、二日後の早朝になり目を覚ました。体調は決して万全とは言えないが、起き上がって歩き回ることができるくらいには回復した。


 朝日と冷えた空気を求めたベットから起き上がった彼は外を目指して歩く。扉を越え、廊下を歩き外につながる扉に辿り着いた彼は扉を開け、外に足を踏み出した。


「あー、気持ちいい……」


 肌を刺すように冷えた夜の空気と、肌を優しく撫でる朝日の二つで言葉に表せない心地よさを得たアベルはその気持ちよさに打たれ大きく伸びをする。ラケルを背負っての半月ほどの旅と眠り続けた二日間の旅で凝り固まった身体に血液が循環し、コリがほぐれていく。


「さてと、とりあえずもうちょっと時間が経ったらロバートさんのところに礼を言いに行こうかな。それまでは散歩でも」


 大きく伸ばした身体を元に戻したアベルはそのまま町中を歩き回り始めた。早朝であるにも関わらず、浴場の湯は湯気を立てている。いつでも入られるような環境が整えられている。湯治の町と銘打っているのだからこのくらい出ないといけないのだろうが。

 

「いろいろと落ち着いたら入りてえなぁ」


 湯気を立ち昇らせる湯舟を横目にしながらアベルは散策を続ける。しばらく町を歩き続けていると彼の前におあつらえ向きの物が現れる。


「ん、これは……、足湯か?」


 アベルの前に現れたのは普通の湯舟よりも浅く狭く、円状になっている湯舟であった。その傍には足湯であると示す看板が添えられており、さらにその下にはご自由にどうぞと書かれている。


「ご自由に、って書いてあるし……。入ってみるかな」


 肩まで浸かれる湯舟には落ち着いてからでないと入る気にはなれないが、足湯くらい気楽に入れる物だったら入ろうと思える。ご自由にと書かれているのもアベルの好奇心をくすぐった。


 足湯に入ることを決めたアベルは足につけている物をすべて脱ぐと足先を湯につけた。その温かさは朝日とはまた別。包み込み、身体の奥まで染み渡る温かさはお湯ではなければ味わえない独特の物だろう。


「あー、気持ちいぃ……」


 その心地よさにアベルは蕩けそうにになり、絞り出すような声を漏らす。足しか湯につけていないにも関わらず、反対の顔まで蕩けている。全身浸かってしまえば一体どうなるのだろうか。


 人目もないし、全身イッてしまいたくなる衝動をこらえながら足湯を堪能するアベル。しばらく入っていると彼の対面に新たな客が座り込んだ。


「昨日はゆっくり休めましたかな?」


「ロバートさん。おかげさまでゆっくり休ませてもらいました。その甲斐あって今はピンピンしてますよ」


 隣に座ってきたのは時間が経ったら顔を見せに行こうと思っていたロバートだった。身体から蒸気を上げ、既に一っ風呂浴びてきたのだろうと察することができる。


「それよりもラケルちゃんはどうなりましたか?」


 そんな彼に対してアベルはラケルの状態を問いかける。すると彼は表情一つ変えることなく、そのことについて答えた。


「町長に話を聞いたところ、峠は越えたとのことだ。今は病院のベットで眠っているらしい。まあ、詳しいことは私の口から聞くよりも本人に聞いたほうが早いだろう。あとで連れて行こう」


「ありがとうございます。何から何まで」


「いやいや、頑張る若人に力を貸すのは年長者の役割だからね。気にしなくていい。それにリュティエルの命を救ってくれた礼でもあるからね」


 ロバートの気遣いにアベルは感謝しながらぺこりと頭を下げ礼を述べると、ロバートは柔和な笑みを浮かべながら顔の前で手を横に振る。


「それよりもどうだい。この後一杯でも。今日は仕事が休みでね。誰かと一杯ひっかけたいと思っていたんだ。面白そうなつまみを持っていそうだしね」


「さすがに挨拶に行く前にお酒はまずいでしょう。その後だったらお付き合いしますよ」


 ロバートの提案に苦笑いを浮かべながら修正しつつ、喜んで承諾するアベル。彼の言葉を聞いてロバートは嬉しそうに笑みを浮かべた。


「それじゃあそれまでは少し君の話でも聞かせてもらおうかな」


「そのくらいだったら喜んで話させてもらいますよ。じゃあ、まずは……」


 アベルはロバートの提案を了承し、神装使いになってからの自分のことについて話し始めるのだった。一年たたないほどの短い期間であるにも拘らず、波乱万丈な彼の生活にロバートは目を丸くし、感嘆の声を上げながら耳を傾けるのだった。



























 足湯を堪能したアベルとロバートの二人は肩を並べて町長のもとに向かう。やはり緊張気味なのかアベルの足取りはどこか重い。


「緊張しているかい?」


「ええ、治ったとは聞いてもやっぱり不安ですから……」


「この町の町長は優秀な医者だよ。信じるに値する人物だ。ほら、ついたよ」


 そんなアベルの緊張をほぐそうと声をかけるロバート。彼が指さした方には他よりも清潔感の溢れる建物が現れる。


 二人で足を踏み入れるとそこには病院服を着た人々が何人もうろうろとしていた。彼らはこの町に湯治に訪れた人間たちだろう。


 そんな彼らを横目にアベルはロバートについて病院の奥に向かう。一つの扉の前に辿り着いたロバートは軽く扉を叩くと扉に手をかけた。


「失礼します」


 扉を開けながら部屋に入るロバート。その向こうには白衣を着込んだ壮年の女性が椅子に座っていた。来客であるロバートとアベルに視線を送りながら書類を片付けている。


「どうした」


「先日やってきた少女の連れの男を連れてきました」


 アベルはロバートの紹介に合わせて軽く頭を下げる。すると彼女はピンと来たらしく言葉を紡ぐ。


「ああ、やってきてそうそうぶっ倒れて運ばれた青年か。あの娘についてかな?」


「ええ、詳しい話を聞きたいとのことで」


 ロバートがアベルの要件を伝えると町長は腰を浮かせ、彼らのもとに近寄ってくる。


「わかった。詳しく説明しよう。紹介が遅れたな。私はミランダ。ミランダ・ガーラ―だ。この町の町長をやっている」


「アベル・リーティスです。ラケルちゃんの治療をしてもらってありがとうございました」


「礼には及ばないよ。死にそうな人間を助けるのが私の仕事だ。それに私も君に聞きたいことがあるからね。とりあえず本人を見せながら説明したほうが早い。ついてきてくれ」


 そういうとミランダは歩き始め、アベルのその後に続く。一応部外者であるロバートはついてきても仕方ないと判断したらしく、適当に時間を潰すとのことで同行しなかった。


 アベルとミランダの二人は病院内の廊下を歩く。その道中、ミランダは早速アベルに問いを投げかけた。


「まずあの毒のことだが。昨日軽く調べてみたが文献にはない毒性を秘めていた。あれはいったい何の毒だ?」


「あれですか。あれは十柱の内の一柱。ヴィザリンドムの神獣、ヴァルガルの持つ毒です」


 アベルはミランダの問いに答え、毒を受けてしまった経緯を説明する。すると、彼女はその言葉を聞いて納得したように首を縦に振った。


「なるほど、神獣の毒……。道理で見たことのなかったのか……。それにしてもよくこの町に来ることを選んだね」


「ええ、最初は解毒できなくて諦めかけてたんですけど。詳しそうな人に話を聞いた時にここのことを教えてもらって。どうにもできないんだったら一か八かで来てみようと思って」


「それですがってみたら見事に大当たりだったと。君は運がいいな。そら、ついたぞ」


 毒のことについて話していると、ミランダが一つの扉に手をかけ、無造作に開いた。その向こうにはベットが二つほど置かれており、そのうちの一つでラケルが安らかな表情を浮かべながら眠っていた。その表情はとても穏やかで血色もとてもいい。旅の間に浮かべていた青白いものとはまるで別物であった。


「ラケルちゃん!」


 彼女の無事が確認できたアベルは思わず駆け寄り、彼女の状態を確認する。アベルの声で起きることはなかったがそれでも健康そうな姿を見られただけでも彼としては満足だった。


「高濃度の源泉で毒は抜いておいたから、今すぐにもう毒で死ぬことはないよ。医者として断言できる。だけど何日もの間、毒が身体の中に留まっていたことで身体全体、特に内臓が衰弱しきっている。おそらくあと三日は目を覚まさないだろう。よほど彼女を痛めつけたくないのであれば、二、三週間ほどはこの町で療養したほうがいい」


「わかりました」


 ミランダの説明を聞いたアベルは素直に彼女の指示に従うことにする。専門家がいうのだからわざわざ無碍にする必要もない。彼女のことを思うのならば従うのが妥当だろう。


 穏やかな表情で眠る彼女の表情を見て、彼の中に助かってよかったという気持ちと同時に、そんなになるまで我慢させて申し訳ないという気持ちが溢れ出る。


「彼女自身の免疫の強さと、君の尽力がなければ助けられなかっただろうな。自分を責める必要はない」


 そんな彼の気持ちを悟ってか、ミランダは声を上げる。その励ましが功を奏し、アベルはだいぶ気持ちが楽になる。


「食らった毒が毒だからね。彼女はこのままこの病室に一人で眠ってもらおうと思っている。ベットが一つ余るから、君がこの町に滞在する間余ったベットで眠ってもらっても構わないよ」


「そこまでしていただいてありがとうございます」


「それじゃあ私は仕事に戻るわ。この町をゆっくり楽しんでいってちょうだいね」


 そう言うとミランダはひらひらと手を振りながら病室を後にする。残されたアベルはラケルの顔を見ながら彼女の存在を確かめるように頬に手を当てた。陶器でも扱うよう指先から触れ、徐々に触れる面積を増やしていく。アベルの指には人間特有の温かみが伝わり、彼女が生きていることを実感する。


 その時であった。三日は目を覚まさないだろうと言われていたラケルが目を覚ましたのだ。辛うじて瞳が見えるほど細く瞼を上げた彼女にアベルは驚きを隠せない。


 しかして彼は外面上、冷静さを取り繕いながら彼女に声をかけた。


「おはよう、ラケルちゃん」


「あー……、アベルさん……、おはようございます……」


 蚊の鳴くようなか細い声でアベルの声に応えるラケル。彼女は二の句を紡ごうとするが、体力が消耗しているためか、あまり大きな声が出ない。


「ありがとう、ございます……」


 うまく働かない頭脳で自分が生きていることを認識したラケルは、アベルに礼を告げる。


「巻き込んじゃったのは俺だからね。君を助けるためだったら何でもできるさ」


 それに対するアベルの返答。彼の返答を受けてラケルは照れたように小さく目尻を下げた。


 アベルに感謝を告げたラケルはそのまま微睡むと再び眠りに落ちてしまった。そもそも体力のことを考えると、目を覚ますだけでも奇跡に近かったのだろう。


 再び穏やかな笑みを浮かべながら眠り始めてしまった彼女を見つめたアベルは、彼女の傍らから立ち上がると、病室の扉に向かって歩き始めた。


 彼女の無事は確認できた。ならばあとは彼女の回復を待つのみである。その間、アベルはここまで来た褒美ついでに湯舟を楽しませてもらおう。


 病室を後にし、病院まであとにしたアベル。彼のことを待っていたかのように病院のそばにロバートが待っていた。


「すいません。お待たせしました」


「それじゃ行こうか」


 ロバートに声をかけると彼は笑みを浮かべながらアベルの声に応えた。アベルは彼との約束に応えるために彼と肩を並べて歩き始めるのだった。




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