表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
89/178

第5-9話 ガール・セーブ・ブリングオブデス

 アベルは剣を仕舞いながら、座り込む少女に近づくと声をかける。


「大丈夫か?」


「え、うん。大丈夫……」


 血まみれのアベルに多少怯えた様子は見せているが、それでも受け答えに問題はない。少女の無事を確認したアベルは、安心したように首を縦に振る。


「よし、じゃあ行くかな」


「助けてくれてありがとう。それじゃあ」


「何言ってんだ。お前も行くんだよ」


 簡潔に礼を言った少女はその場から離れようとするが、アベルが彼女の首元を掴んで、引き留める。


「な、何すんのよ!」


「お前も一緒にライーユに行くに決まってんだろ。この辺に子供が迷い込むわけもないし、ライーユの人間なんだろ? それに魔獣がうろつくようなところに戦えないお前を一人にさせるわけにはいかないだろ?」


「余計なお世話よ。一人でいたいんだからそっとしといてよ!」


 暴れて振り払おうとする少女であったが、アベルは全く離そうとしない。暴れる少女を力でもって肩に担ぐと、彼女の了承もなしに歩き始める。


「やかましい。こっちも急ぎなんだ。行くぞ」


「離せ変態痴漢! 私に構うんじゃないわよー!」


 担がれてもなお暴れようとする少女だが、背負われているラケルを見て何かを思ってか、暴れ具合が控えめになる。しかし、それでも暴れる少女は全身全霊の思いを込めて叫ぶ。


「フザケルナァーーー!!!!!」


 アベル達二人と少女の三人組は鈴の音をBGMにライーユに再び向かい始める。





























 鈴の音と肩の上で暴れ散らしている少女の罵声を聞きながら、森の中を進むアベル。しばらく歩くといきなり鈴の音が止んだ。故障か何かかと一瞬考えたアベルであったが、その理由はすぐに判明する。


 まずは、何かが暖められているときの独特な臭いがアベルの鼻に届き、次にムワッとした湿気が肌に届く。鈴の音が止んだこととお湯を想起させる感覚で、事態を理解したアベルは一目散に走り始めた。


 森の中を五分ほど走った彼の視界が開ける。そこには彼が待ち望んだ町であるライーユの町が広がっていた。


「やっと、ついた……」


 目的地に到着したアベルは、その喜びから思わず声を漏らし頬を緩めた。


「おい、貴様!」


 しかし、その安心も束の間。傍の建物から出てきた男はアベルに槍を向けてくる。


「貴様、鈴は持っているか!」


 男はアベルに鈴の所有を問いかけてくる。彼はこの町を守る衛兵であり、鈴を持っているかが正式な道のりでやってきたのかの判断材料としているのだろう。ライーユは湯治客がやってくる観光地だ。こうなるのも致し方がない。


 アベルは素直にここに来るまでに使った鈴を差し出した。アベルが鈴を持っていることを確認した男は素直に槍を下げ、頭も下げる。


「持っているか。これは失礼した。ん? リュティエル、何をしているんだ? お前、また街を一人で出たのか!」


 男は近づいてくるとアベルの肩に担がれている少女に近づいていく。リュティエルと呼ばれた少女はむくれた表情でそっぽを向く。


「お前はいつもいつも! お前の勝手な行いが町のみんなに迷惑をかけていることがわからないのか!」


 男はリュティエルを叱りつけると拳で少女の頭を小突いた。しかし、少女はそれでも懲りた様子はなく、減らず口を叩く。


「フンだ! いいわよ私のことなんて放っておいても!」


「この子は……! 申し訳ございません、この子がご迷惑をおかけしたようで」


「いえいえ、俺は大したことはしてません」


 男が頭を下げてくるのに対してアベルは謙遜して見せる。


「それよりもその後ろの子は……、これはひどい。リュティエル、この子を町長のところまで連れていくぞ!」


 男が頭を上げると、すぐに背中のラケルに気が付く。と同時に彼女の状態を焦った様子を見せ、リュティエルに指示を出した。さすがの彼女もラケルの状態を見て反抗する気はないらしく、アベルの肩から降りると町に向かって駆け出した。


「こちらへお願いします。……御仁?」


 男はアベルの異変に気付く。黒目が上を向き始め、何もしていないのにフラフラと揺れ始めている。

 

 アベルはここにたどり着くまでほとんど不眠不休で走り続けていた。いくらアベルが人よりも頑丈で、根性や回復薬で誤魔化しても来るべき限界というものは必ずある。ライーユに辿り着いた時点で彼は限界寸前だった。それでも何とか気合で耐えていたのだが、男の言葉でついに限界が訪れ、たまっていた疲労がドッと溢れだし、強烈な毒性は一瞬にしてアベルを蝕んだ。


「御仁? 御仁!」


 白目を剥いて意識を失ったアベルはそのまま前のめりに受け身もとれずに気絶した。






























「気が付いたようだね」


 次にアベルが目を覚ましたのは、どこかのベットの上であった。かなり長い時間眠っていたのか、既に日が傾きかけている。


「ラケルちゃんは!?」


 意識を取り戻したアベルは、まずラケルの安否を確認するために男に彼女の所在を問いかける。が、彼自身も限界だったのだ。体を起こすの維持できずにベットにへたり込む。


「無理をしてはいけないよ。彼女のことは心配いらない。こちらで責任をもって治療している。だから君も少しは休んだ方がいい」


「俺は……、どのくらい眠っていたんですか?」


「丸一日と……、五時間くらいか。よほど疲れていたんだね。物音を立てても全く起きようとしなかった」


 男の言葉を聞いて驚くアベル。それほどの疲れが身体に溜まっていたとは思ってもみなかったのだ。ラケルをここまで連れてくることができた今、休息をとる時間はたっぷりとある。それほど寝てもさして影響はないだろう。


「紹介が遅れたね。私は、ロバート・ノーラル。この町の衛兵兼リュティエルの保護者をやっているものだ。よろしく」


「ご丁寧にどうも。俺はアベル・リーティス。旅人で、神装ヴィザリンドムの使い手をさせてもらっています」


 神装使いをしているというアベルの言葉にロバートは目を見開く。


「そうか君が……。噂には聞いているよ。魔神剣の使い手が何百年ぶりに現れて活動しているとね。同じ神装使いに仕えていた身としてはなんだか懐かしく感じるよ」


「神装使いに仕える、ってことは獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)に?」


「ああ、もう十五年も前の話になるがね。ヘリオスのやつは元気かい? 奴は同期でね」


「あ、ハイ。今でもカルミリアさんのそばで補佐みたいなことをしてます」


「相変わらずだな」


 アベルの答えを聞き、乾いた笑いを上げるロバート。


「まあ、その辺の話は君が休んだ後、一緒に呑みながらでも話そうじゃないか。今は君はゆっくりと休んでくれ」


 ロバートは立ち上がると部屋を後にしようとする。扉を出る直前、彼は振り返ると笑みを浮かべ口を開いた。


「それじゃあ、いい夢を」


 その一言を告げるとロバートは部屋を後にした。一人残されたアベルは、ラケルのことを考えながらも今はゆっくりと休むことにし、目をつぶり意識を落としていくのだった。
































 アベルが気絶した後、アベルは適当なベットに眠らせるために運ばれ、背負われていたラケルは町長のもとに運ばれた。町長であるのと同時に、実力ある医者でもある彼女はラケルが運ばれてきてすぐにその容体に目を見開いた。


「これはひどいな。毒……、それもかなり強いものね。これでは普通の湯ではどうにもできない。泉から直接使うしかなさそうね」


 町長は男手を呼びラケルを運ばせると、町の中を歩き始める。彼女が向かったのは町の外れ、通ってきた森のさらに奥である。泉の水を町に運ぶためのパイプを横目に彼女は進む。後ろを歩く男の内、一人はラケルを背負い、もう一人は人一人が入りそうなほどの大きさの桶とバケツ、樽そして風呂用の道具一式を持っている。


 しばらく歩き辿り着いた町長。彼女の眼の前には水の張った泉が広がっていた。水の揺れすらないそこには木々の隙間から差し込んだ光が当たっており、神々しさを感じさせる。


「あとは構わないわ。下がっていてちょうだい」


「かしこまりました」


 町長の指示を受けて二人の男はその場から姿を消す。男たちの眼が無くなったところで彼女は息を吐き身体に力を入れた。


「始めましょうか……」


 町長は袖をまくり上げると、早速彼女の治療に取り掛かった。


 まず、泉から水を汲み上げると持ってきてもらった桶に溜めていく。バケツ一杯で家どころか、小さな町一つ変えてしまうほどの超高級品なのだが、躊躇う様子は一切ない。バケツから汲み上げどんどん桶に溜めていく。


 そしてある程度溜まったところで一度バケツを置くと、寝込んでいるラケルの服を脱がせ全裸にさせる。そして一糸まとわぬ姿になったところで彼女をゆっくりと桶の中に入れた。町長は懐から取り出した布で赤子の沐浴のように彼女の身体を優しく拭い始める。


 ラケルを入れてしばらくは何ともなかった泉の水だが、しばらくすると変化し始める。彼女の身体から滲み出るようにして出た紫の液体が水に溶け込み始めたのだ。その様子を見て町長は眉をひそめた。


「やはり毒にかかっていたのね。それにこの毒性の強さ、こんなのにかなり長い間侵されていたなんて。かわいそうに……」


 ラケルのことを慈愛深く撫でる町長。彼女の身体は肋骨が浮き上がるほど瘦せ細っており、肌は紙やすりかと思うほどガサガサに荒れていた。


 それだけではない。彼女の手にはピリピリとした痛みが走っており、この二つは水に少量溶け込んだだけで皮膚に痛みを走らせるほどの毒であることを現している。これほど強い毒が全身に回っていて、それでもなお心が折れずに耐え続けた彼女の心の強さは驚嘆に当たるものであった。


 彼女は彼女の身体から滲み出てくる毒を洗い流しながら言葉を続ける。


「それでもかなりギリギリ……。ここまで耐えたこの子を褒めるべきか、それとも今日までに連れてきたあの青年を褒めるべきか……」


 町長の頭の中に一人の青年が浮かぶ。この少女を連れてきたかと思えばすぐに意識を失ったあの青年。彼の肉体を追い込むほどの尽力がなければ彼女は死んでいただろう。


「こんなものかしら。大部分の毒は抜けただろうし、あとは普通の湯に入るだけでどうにかなるわね」


 町長はラケルを桶から上げると彼女の身体を丁寧に拭いていく。水滴の一滴も残らないように彼女の身体を拭き上げると、替えの服を着せた。


 落ち着いた呼吸で寝息を立てているラケルを見て安心したように肩の力を落とした町長は今度は使い終わった水に意識を向ける。


 だが、その前にやることがある。未だに水のついた手にピリピリとした刺激が走っている。これをどうにかしないと、今度は私が毒に侵されてしまうだろう。


 町長はバケツで泉から水を汲み上げると、その水の中に手を入れた。するとじんわり薄い紫の液体が滲み出てくる。


「ちょっと水に入れただけでこの浸透力……。この水を風呂に使うことは出来ないわね。捨てるわけにも蒸発させるわけにも……。保管しておくしかないかしら」


 改めて毒性の強さを確認した町長は、小さくため息を吐くとバケツの水、そして桶の水を持ってきていた樽に注いでいく。そしてその蓋を閉めると席を外すように指示を出していた男たちを呼び戻し、指示を出す。


「この子を病院のベットまで運んでおいてちょうだい。あと、この樽は私の家まで持ってきて、桶とバケツは燃やして処分するように。決して他の人間に使わせないように。決してですよ」


「はあ、わかりました。処分しておきます」


 そう言い残すと町長は彼らに任せて、その場を後にする。仕事を任された二人の男は片方はラケルと彼女の服の入った服を背負い、もう片方は桶とバケツを持つ。


「あとで毒の解析でもしてみましょうか……」


 町長は水の処理方法を考えながら町に戻っていくのだった。





 この話は面白いと思った方は



 ☆☆☆☆☆からの評価やブクマへの登録、願うならば感想をよろしくお願いいたします!



 ぜひ次回の更新も見に来てください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ