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第5-5話 ソードマン・アタックド・ハイランクソードマン

 荷馬車の男女を助け、再び疾駆するアベル。彼は道なりに進むうちに小さな森に入り込んでしまった。

 

 規模も小さく魔獣の生息域から微妙に外れている森。一時間も走れば抜けることができるだろう。そう考えながら森の中を走ること十分。彼は異変に気が付く。あまりに森が静かすぎる。魔獣の声どころか通常の動物の声すら聞こえてこない。聞こえるのは草花の揺れる音だけ。


 何かがおかしいということに動物的直感で気が付いたアベルは、走る速度を緩め周囲に睨みを利かせ警戒心を露わにする。直後、彼の本能がアベルに「止まれ」と警告する。アベルがそれに従って停止すると、足元のちょうど脛あたりに肉眼では目視するのも難しいほどの糸のようなものが張られていた。もし、あのまま止まらずに進んでいたら、糸で足にダメージを与えられてしまい、最悪の場合足を切断されていただろう。


 ほんの少しだけ安心すると同時に、警戒心をマックスにするアベル。こんな殺意の高い罠を仕掛けてくるということはどこぞの刺客が確実にアベルを仕留めに来ているということである。そんな連中がこんなちんけな罠一つで終わるはずがない。


 次なる襲撃に備えて戦闘態勢に入るアベル。そんな彼の推測通りに背後から矢が風を切りながら飛んでくる。先端には何かしらの液体が塗られている。おそらく毒だろう。


 だがしかし、戦闘態勢に入り集中力がマックスになっているアベルに気づけないほどのものではない。籠手の能力を発動し背後に障壁を張ると、矢はそれに防がれ、軽い音を立てながら地面に落下する。


 刺客からの攻撃は続く。今度はアベルを挟み込むようにして二人の暗殺者が飛び掛かってくる。毒の短剣を持ち、その切っ先を突きつけようとしている彼らに対してどのように対応するかを思案するアベル。対応を考えたところでアベルは動き出す。


 籠手のついた左腕を一方の敵に向けるとそこからヴィザが大砲のように敵に向かって飛翔する。アベルはそれと同時にもう片方の敵に向かって走り始める。


 ヴィザが飛来するのを真正面で認識した敵。突然飛来する剣に動揺を隠せずにいたが、一瞬どうするかの思考が停止するが即座に再起動し、間一髪のところで回避することに成功する。回避に成功した敵は内心でホッと一息つく。


 その一方でアベルと相対した暗殺者は来るなら来いと短剣を握りしめる。彼とて暗殺者。真正面からの戦闘は苦手でも武器を持たない相手に対して劣勢を被るほど弱くもない。むしろリーチの関係で有利なのはこちらだと息まき、アベルに飛び掛かる。


 だが、アベルは両方の暗殺者の想像の上を行った。アベルは自身の目の前に障壁を設置するとそれを力の限り殴りつけ、暗殺者に向け飛ばして見せた。それと同時に飛ばしたヴィザリンドムを操作、もう一方の暗殺者の背後から襲わせた。今の彼は魔力を介して飛ばしたヴィザリンドムを引き戻すだけでなく、ある程度自由に操作することができる。この程度であれば朝飯前である。


 急に飛来した障壁で、前に進む意識を強めていた暗殺者は回避できずに障壁に叩きつけられその衝撃で吹き飛ばされ背中を強かにうち意識を失う。もう一方の暗殺者も投げられた剣が戻ってくるとは思っておらず、回避もままならないまま、後ろから脇腹を切り裂かれ、血を噴き出しながら地面に叩きつけられるように落ちる。


 飛来して戻ってくる剣をアベルはつかみ取り、ついた血を剣を振るい、ビッと払う。


 瞬く間に襲い掛かってくる二人の暗殺者を撃滅したアベル。そんな彼の耳に乾いた破裂音のような音が響いた。


「いやぁ、お見事お見事。ずいぶんな手さばきだったねぇ。すごいすごい」


 拍手をしながら木の影から出てきたのは一人の少年。百六十センチもない身長にハイライトのない目で見つめてくる彼に対してアベルは警戒心を露わにする。


 拍手を終えた少年は瞼を一度閉じて何かを考えるように頷くと再び瞳を開いた。


「うんうん。さっきので君の実力は大体わかった。じゃ、死んでいいよ」


 少年の瞳がアベルを見下す侮蔑のこもったものへと変化する。同時に周囲の空気が一段階重くなり、息苦しくなる。


 ピりつく空気にアベルが少年を睨むと、そんな彼を取り囲むように顔を隠した男たちが現れる。


「大丈夫だよ。こいつらは僕が君を殺すときに、君が逃げないようにするための肉壁。君には手を出させないよ」


 そういうと少年は腰の後ろに下げた剣を抜き放つ。一般的にフランベルジュと呼ばれる波打った黒い刀身を鈍く光らせるとアベルに向けて構えた。


「じゃあ、やろうか。殺してあげるよ」


 少年の身体から発せられたものとは思えないほどの重圧にアベルは一瞬怯んでしまうが、すぐに切り替え、背後のラケルを囲むように障壁を展開し彼の切っ先を少年に向けた。


「お前は何者だ。なんで俺を狙うんだ?」


 緊迫した空気の中、アベルは少年に狙ってきた目的を問いかける。すると彼は少し驚いたように目を見開き、気が抜けたように剣を下ろした。


「何? まだ気づかないの。思ったよりも鈍いんだね君。ま、別にいいか。冥土の土産にでも教えてあげるよ」


 少年は一息つくと自分の名前と所属を明かす。


「僕の名前はクォス・パンセ。大地信教団の破神装使いさ」


 クォスの自己紹介を聞き、狙ってきた目的まで理解したアベル。同時に破神装使いという言葉が本当であるかも確かめるため、ヴィザに問いかける。


(あいつは神装使いって言ったが……。じゃああの持ってる剣がそうか?)


『ああ、あの剣からは俺たちを殺せる気配が漂ってる。絶対にあの剣を俺で受けるんじゃないぞ』


(努力はするが……。ちなみに聞くが何発まで受けられるんだ?)


『二、三発程度で折れるなんてことはないが、受けるという行為だけでこっちはムカつくんだ。できる限り受けるんじゃないぞ!』


 ヴィザの力のこもった声をBGMにアベルはクォスの挙動に注意を払う。この状況から逃げることは出来ないだろう。だったら嘘でも彼を行動不能にして隙を見てこの場を離れるしかない。ラケルもいる現状、まごまごしている暇はない。迅速にこの場を切り受けなければならない緊張感でアベルの掌に汗が滲む。


「あ、終わった? それじゃあ行くね!」


 そういうとクォスは地面を踏み込むと、静かな足取りでアベルに飛び込んだ。土煙を動きで近づいてくるクォスの動きは魔力で強化したアベルの動体視力で捉えることは出来る。彼は左右に緩急をつけながらこちらに接近してきている。


 しかし問題だったのは、捉えた後。一人しかいなかったはずのクォスが近づいてくるにつれて、二人、三人に見えるようになってきたのだ。突如として増えたクォスにアベルは戸惑う。もう少しでクォスの剣が届くといったところでアベルは彼の動きを見切ることに集中する。


 今の視認できるクォスの数は三人。その中で一つだけ挙動がおかしいのは右側のクォスであった。彼だけが剣の握りがわずかに緩い。


「そこだァッ!!!」


 そのクォスに狙いを定めてアベルは剣を振り下ろす。半ば勘の一撃であったが、彼の推測は当たっていたらしく、クォスは驚いたような表情を浮かべ、持っていた剣でアベルの振り下ろしを受け止めた。


 だが、アベルは次の瞬間クォスの行動に目を見開くことになる。


「……なんてね」


 剣が接触する直前クォスが小さく呟いた。それを聞き、アベルが何事かと思った次の瞬間、接触したヴィザリンドムが彼の剣の上を滑り始める。クォスが受け止めた瞬間、剣の上を滑らせ受け流しているのだが、それを止める方法をアベルは知らない。フランベルジュ特有の波打った剣の上をヴィザリンドムが滑り握る手に不快な振動が伝わる。


 剣を滑らされ完全に進路の変わったアベルの一撃は空を切り地面に直撃する。だが、それにかまけている暇はない。即座に回避行動をとるアベル。


 しかし、そうなることを予想出来ていたクォスと出来ておらず咄嗟に動くアベルでは動作の開始が違う。クォスの方が速く動き、切っ先をアベルに向かって突き込む。


 クォスが放った突きをかろうじて回避するアベルであったが、決して無傷ではない。突きが脇腹をかすめ、傷をつける。それだけでなく独特の形状の刀身はアベルの脇腹の肉を抉るようにして削り取る。


 しかし、アベルも黙っているわけではない。突きの際に踏み込んだことでクォスとの距離は蹴りが届く程度に収まっている。躱すために身を翻した勢いを利用して脇腹に向かって蹴りを打ち込む。


 だが、その一撃は防御されてしまい、たいしたダメージは与えられなかった。だが、それでも意表を突いたという意味では効果を見せた。


「へぇ……。躱すだけじゃなくて反撃までしてくるなんて。ごめんね、君のことを見くびってた。思った以上に強いね」


 しかし、クォスとアベルの形勢が逆転したわけではないのだ。


「まあ、関係ないけど」


 そのことをわかっているクォスは小さく跳ねてリズムをとると再びアベルに飛び込んだ。それに受けて立とうとするアベル。しかし、二人の実力の差は歴然であった。


 十合ほど打ち合うだけでわかる実力差。たったのそれだけでアベルの身体に再び傷がつく。二人の剣士としての実力差は明らかであった。


 今までアベルは、ある程度身体能力でどうにかなる相手としか死ぬ気で戦ってこなかった。対人戦のノウハウはある程度教えてはもらったがそれも実践になれば話が変わる。そのために剣士としての実力が高い相手になると対抗できなくなる。


 今、アベルと相対しているのは剣術の修練を行い、それでいて対人の実践を積み重ねてきた人物だ。必然的にアベルは劣勢を強いられる。


「ほらほら。そんなんじゃすぐに死んじゃうよ」


「くっ、クソっ!」


 縦横無尽、上下左右から襲い掛かってくる剣戟に必死で食らいつくアベル。しかし、その戦況は防戦一方、攻撃に対処するので精一杯で反撃のチャンスを得られない。それに防御に徹してもクォスの剣戟はまるですり抜けるようにアベルの身体に迫ってくるのだ。それ故徐々に彼の身体に傷が増えていく。


『おい、そろそろこっちも厳しいぞ!』


 攻撃を捌くことに集中していたアベルの脳内にヴィザの声が響き渡った。それだけに集中していたせいでヴィザの負担を考えている暇がなかった。そのことを本人に指摘され、アベルはハッとする。


 その瞬間、最大限に高めていた集中力が途切れる。たった数秒の出来事。すぐに復帰することができたのは、アベルが修羅場を乗り越えてきた証拠である。


 しかし、その一瞬をすり抜けるようにクォスの剣戟がアベルに襲い掛かった。襲い来る剣戟を半分は反射的に捌くことは出来ても残りの半分が牙をむく。アベルの身体は斬撃に切り刻まれ、傷口から血が噴き出し始める。

 

 全身を奔る痛みに意識をつなぎとめるので精一杯のアベル。敗北の味を知り、全身から血が抜けるのを感じ、血に膝をつく。


「ま、こんなものか。俺相手に頑張ったほうだと思うよ」


 全身から崩れ落ちたアベルを見て勝利を確信したクォスはニヤリと口角を上げた。勝ち誇るようにゆっくりと膝をついたアベルに近づいていき、そのまま首元に剣を当てた。


「じゃあ、殺すね。さよならさん」


 まるで水でも飲むかのようにアベルの命を終わらせようとするクォス。現に彼はアベルを殺すことに何の抵抗もない。それどころか彼が死ぬことで世界が平和になるとさえ考えていた。


 アベルの首を掻き切るために剣を握る力を強めるクォス。そんな彼の剣に手をかけるアベル。うつむいたままの状態で触れる彼の姿を見て、最後の抵抗だと判断したクォスはそれを気にせずに剣を引こうとした。


 しかし、動かない。先ほどまでアベルの力は手をかける程度しかかかっていなかったのに、今では万力のようにクォスの破神装を握っていた。


 次の瞬間、俯いていたアベルの顔が起き上がり、同時に膝をついてもなお握りしめていた神装が全力をもって突き出された。今、クォスの破神装はアベルに固定されている。これでは防御もできない。それに完全な不意打ちで回避すること出来ない。突き出された剣は易易とクォスの腹部を貫いた。


 完全な不意打ちにクォスを貫いたアベル。勝った、彼はそう確信していた。その感情は表情に現れてしまっていたのだろう。自分でも頬が緩んだのが分かった。


 が、戦いはそう簡単なものではなかった。勝ったと思った瞬間、形勢は再び逆転する。横から来た衝撃でアベルの身体が吹き飛ばされ血をまき散らしながら地面に転がった。


「な……」


 か細く驚きの声を上げると同時に衝撃の方向を見ると、そこには傷一つ負っていないクォスが立っていた。


「どう、して……」


「分身だよ。普通だったら探知できたかもしれないけど、ずいぶん切羽詰まってたみたいだからね。ま、わかっててやったんだけどさ。ごめんね、買ったかもなんてぬか喜びさせてさ。でも俺はすっごく楽しかったから」


 いつの間にかアベルに迫っていたクォスの肉体は霧のように消え去っており、そこには破神装が残されているのみ。その破神装を拾ったクォスは今度こそ、アベルにとどめを刺すために近づいていく。全身を斬られ、先ほどの一撃で動くための気力を奪われたアベルに今度こそ抵抗の余地はない。ただ横たわり近づいてくるのを見ているしかなかった。


「それじゃ、今度こそ」


 クォスは、アベルの首めがけて剣を振り下ろすため、剣を振り上げた。



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