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第5-2話 ソードマン・アスクコンパニオン・フォーヘルプ

「一週間ぶりかアベル君。君のことだからあまり使いたがらないと思っていたんだが、それでもかけてきたということは何かあったのか?」


「はい、実は……」


 通信機に魔力を流すと十秒ほどでカルミリアにつながり端末越しに声が響く。その声に交じって戦闘音も微かに聞こえてくるが、そんな中でも相手をしてくれる彼女の器の大きさと実力を感じざるを得ない。


 最後に一発大きな爆発音がした後、戦闘音が聞こえなくなったところでアベルは事の顛末を話し始めた。


「ううむ、神獣の毒か……」


 神獣の毒という彼女にとっても未知の存在にカルミリアは思わず声色を重くし唸り声をあげる。


「まさかあの戦闘の最中にそんなことになってしまっていたとはな……。戦闘中のことだったから謝ることは出来ないが、面倒なことになってしまったな」


「ヴィザは解毒の方法を知らないって言ってまして。けど、カルミリアさんたちの方で毒をどうにかする方法を知らないかと思って今回連絡させていただいたんですけど……」


 そんな彼女の様子を感じて、希望が薄れたような感覚を覚えたアベルであったが、それでも今の彼には彼女を頼りにするしかない。すがるように彼女に希望を見出そうとする。


「うう、ううむ……」


 しかし、再び聞こえてきたカルミリアの唸り声にさらに希望が薄れていく感覚が強くなっていく。

そして十秒ほど静まり返った後、彼女の声が通信機の向こうから響き渡った。


「すまない。結論から言うと君の力にはおそらくなれないとおもう」


 しかし、彼女から口から告げられたのはアベルを突き放すような事実であった。


「そんな……」


 それに対して絶望を孕んだ呟きを上げるアベル。彼女でどうにもならないのであればもはや彼に解決できる確率は糸のように細くなってしまった。そんな声が出てもおかしくはない。


 そんな彼に対して、せめてものの慰めとは言わないが一応理由を説明し始めるカルミリア。


「神獣というのは滅多に姿を現さない特別な存在だ。何年かに一度姿を見せる者もいなくはないが、ヴィザリンドム氏の神獣であるヴァルガルと呼ばれる神獣が文献にもなかなか姿を見せない超稀少な存在だ。実際に私もあの時生まれて初めて見たのだからな。故に彼の毒の情報は一切ない。解毒剤もそれに従って存在していないんだ。君に協力したいのはやまやまだが、解毒剤がない以上、私にできる助言は回復薬を飲んで時間稼ぎをする、という誰にでも言えることだけだ」


「そう、ですか……。わかりました。他を当たってみます。諦めたくはないですから」


「すまないな……。手を貸すことが出来なくて……」


 明らかに気落ちしたアベルの声を聞き、後悔の念を露わにするカルミリア。そのまま通信は切れてしまい、カルミリアは俯き肩を落とした。肝心なところで力を貸すことのできない自分の不甲斐なさに心から消沈していた。今回の一件が彼女が何とか出来る問題を超えているし、彼女もそのことには気づいているのだが、それでも自分の不甲斐なさを呪うしかなかった。


「隊長、どうしたんですか?」


 そんな彼女の前に姿を見せたのはヘリオスだった。愛用のハルバードを肩に担ぎ、顔に着いた血を拭き取りながら近づいていてくる。


「どこか怪我でもしたんですか? それとも悩み事ですか? だったら俺に話してみません? ちょっとは楽になるかもしれませんよ」


 いつものようにヘラヘラと軽薄な様子で話す彼の様子。普段であればお小言の一つでもいうだろうが、今は少しばかり気分が落ち込んでいた。彼のその様子が中和剤となって気分が楽になっていく。


「フフッ、貴様は相変わらずだな」


「え、俺そんな変なこと言いましたか?」


「いいや、別に構わん。それよりも聞いてはくれないか? 少し吐き出しておきたい」


「俺でよければ喜んで」


 彼の了承を得たカルミリアは事の次第を彼に説明し始めた。アベルたちとの付き合いの長いヘリオスであるが故、彼女の説明がすんなりと頭に入っていく。


「なるほどなるほど……」


 カルミリアから事情を説明され、首を縦に振るヘリオス。アベルたちの今置かれている境遇に同情するように目元を伏せている。


「ヤバいですね……。まさか、あの戦いの裏であんなことになってたなんて。ん? じゃあ隊長はなんで大丈夫なんですか?」


「私にはアボリスがいる。彼の熱で毒くらいであれば蒸発させることが出来る。しかし、彼女はそんなことはできない人間だからな。こうなるのも仕方がない。しかし、このまま死ぬのを見過ごすのはどうにかならんもんか……」


 話を事細かに一から説明し直して、改めてアベルたちの置かれた状況に頭を抱えるカルミリア。このままではアベルはラケルが死ぬのをただ黙って見守るしかできないのだ。それはあまりにもむごすぎる。


 頭を抱えて、せめて症状でも抑えられないだろうかと思考を巡らせるカルミリア。そんな彼女と同じように考えを働かせていたヘリオスであったが、急に何か思いついたように顎に手を当て、空を見上げる。


「ん……。あれって神獣の毒にも効くのか……。でもな……、可能性が低すぎるし、一種の賭けになりかねんしな……」


 ぶつぶつと呟きながら思案するヘリオス。そんな彼の様子に気づいたカルミリアが彼に声を上げる。


「なんだ。何か考えがあるなら言ってみろ」


「いやー。ですがね。これに頼るのはあまりにも確率が低いというか……」


「構わん。今は少しでも選択肢を増やしたい。どんなに可能性が低い事でも構わん」


「……でしたら」


 カルミリアは必死でヘリオスから聞き出そうとする。縋るようなそんな彼女の必死な様子を久しぶりに見た彼はそんな彼女に応えるため、意を決すると彼女に説明を始めるのだった。


「なるほど……。それならばどうにかできるかもしれんな……」


 そしてヘリオスから説明を受けたカルミリアは、納得したように首を縦に振った。どうにもできないかもしれないと考えていた彼女ですら納得せざるを得ない方法であり、これならばラケルを救えるかもしれないと首を縦に振った。


「しかし、一体どうやって私ですら知らないような情報を……。いや、今はどうでもいいか。お前の口からアベル君に説明してやれ。多分私が説明するよりも詳細を知っているお前のほうがわかりやすいはずだ」


「わかりました。それじゃあ通信機をお借りして……」


 カルミリアからアベル直通の通信機を受け取ったヘリオスはそれに魔力を流すのだった。
































 カルミリアに無慈悲な現実を突き付けられることになったアベルは、通信機を片手に握ったまま、意気消沈しうなだれてしまっていた。


「……クソッ」


 沈み切った重い声で小さく呟くアベル。このままではラケルが死んでしまうかもしれないのに、何もできないという事実はあまりにも重く、腰を浮かすことすらできないほどであった。


 自分ではどうにもできないという悔しさを地面に拳を叩きつけることで解決しようとするが、そんなもので晴れるほど事態は簡単ではない。


「どうすることもできないのか……」


 後悔で頭を抱えそうになったその時。


「ゲホッ!」


 傍らで寝込んでいたラケルが咳き込んだ。同時に彼女の口から吹き上がる血。彼女の身体が毒に侵されているということである。


 それを見てアベルは彼女に慌てて近づくと、彼女に回復薬を飲ませる。三口ほど飲んだところで彼女の顔に血の気が戻り始め、落ち着きを取り戻す。


 何を諦めようとしているんだ。彼女が必死になって生きようとしているのにお前は座ってるだけか。血を吐きながらも生き続けている彼女の姿を見て、無意識のうちに自分が諦めそうになっていた事実を突きつけられたアベル。


「ふざけんな……。俺が諦めたら誰がこの子を救えるんだよ……」


 回復薬の瓶を置いたアベルは両手で自分の頬を全力で張った。おかげで彼の頬は赤く腫れてしまったが、目は覚めた。もうあんな温いことは考えない。


「意地でもあがいてやる……」


 彼女を助けるという決意を新たにしたアベル。


 そんな彼の通信機が光を放ちながら揺れる。一瞬何が起こったのかわからないアベルであったが、それがカルミリアの方から通信が入ったことを知らせる者だと理解すると、通信機に魔力を注ぎ、応答する。


「……アベルですけど、何でしょうか。まさか何か解決法が見つかったんですか?」


「あー、ヘリオスです。解決法っていうか、どうにかできるかもっていう方法が見つかったからとりあえず教えておこうと思って」


 カルミリアでなく、ヘリオスの声であったことで一瞬驚いたアベルであったが、すぐに切り替え彼の言葉に耳を澄ます。その方法でラケルが救えるかもしれないならば一言一句聞き逃すわけにはいかない。


「アベル君はライーユっていう町は知ってる?」


「いえ、知りませんけど……」


「じゃあ一から説明するね。世界樹近くにライーユっていう街があるんだ。規模は小さいけど静かなところで飯もおいしい、知る人ぞ知る保養地みたいなところなんだけど……。そこには温泉みたいなものがあるんだ。まあ、温泉というより近くの泉の水を沸かしてるから厳密に言えば違うんだけど……」


「……続けてください」


 関係の無い話を持ち出すヘリオスにアベルは少々苛立ちを覚えるが、冷静に彼の言葉に耳を傾ける。


「そのお湯には身体の悪いところを治す効果があるらしいんだ。誰でも入れるようなお湯は肩こりとか二日酔い程度にしか効かないらしいけど、ちゃんとお金を払うようなちゃんとしたところは、飲めば解毒までできるくらい効果が強いらしい。ひょっとしたらそこの泉の水をラケルに使えれば……」


「毒をどうにかできるかもしれないってことですか!?」


「確証はないけどね。解毒が出来たっていうのはちゃんとした解毒薬が出回ってるような弱いものだったらしいし。神獣クラスの毒だと本当に解毒できるかは怪しい。けど何もすることがないなら行ってみる価値はあると思うよ」


「わかりました。ありがとうございます。それじゃあそこまで行ってみます」


「そっか。だったら早い方がいい。ラケルちゃんのためにも早く行ってあげて」


 ライーユという街に希望を見出し、その町に行くことを決めたアベル。早速そこに向かうため、通信を切ろうとするが、それを遮るように再びヘリオスから声が届く。


「ああ待って待って。アベル君、向かうのはいいけど、下手しなくてもそこまでラケルちゃんがそこまで持たない可能性が高い。だからまずは近くの中規模でいいから町に行って町中の回復薬を買えるだけ買ったほうがいい。行くのはその後にした方がいい」


「わかりました。それじゃあ失礼します」


「頑張って。幸運を祈ってるよ」


 そういうと通信機の向こうから響いていた声がプツリと途絶えた。


 通信が終わったと判断したアベルは早速民家から飛び出すと、近くの村民に近くの町について問いかけた。


「すいません。このあたりで回復薬を売っているような街を知りませんか」


「ん? 兄ちゃん急にどうしたんだい。そうさな……。近くで回復薬と売ってるのは、ギフドとマーブルくらいかなぁ」


「マーブル……。そっかここってマーブルの近くだったのか……」


 老人の言葉を聞き、一筋の光明を見出す。次の目的地をマーブルに決めたアベルは老人に礼を言い民家に戻ると出発の準備をする。


 民家に戻る道すがら、アベルは小さく呟く。


「確かマーブルにはオジサンの会社の支社があったはずだ。金も大量に使えるし、頼めばオジサンに回復薬を集めてもらえるかもしれないな……」


 アベルが以前叔父の会社で商隊として活動していた時、マーブルの町に来たことがあった。その関係でマーブルの町に何があるかもある程度把握している。だから向かうならばそっちのほうがいい。


 呟きながら民家に戻ったアベルは早速準備を始める。幸いここに滞在するのもわずかの予定だった。大した手間もかからずに準備を終える。


「よし……」


 準備を終えたアベルは半分ほど減った回復薬の瓶を手に取ると、ラケルの口に当て飲ませていく。半分も飲ませればしばらくは持つだろう。


 ゆっくりとラケルの口に回復薬を流し、半分ほど飲み瓶が空になったところでアベルは瓶を投げ捨てる。


「よし……」


 飲ませ終わり落ち着いたところでアベルは小さく声を上げ、最後の仕上げに移る。今の彼女に歩けるだけの力はない。必然的にアベルが背負っていく必要がある。そのために彼女を背負って紐か何かで固定する必要がある。


 そのために彼女の身体に手を掛けようとしたその時、彼の耳の鼓膜が揺れる。


「アベルさん……」


 今まで意識不明で目を覚まさなかったラケルが意識を取り戻したのだ。蚊が飛ぶようなか細い声を上げたことでアベルは安堵を見せ笑みを浮かべる。


「ラケルちゃん、よかった……」


「すみません。迷惑をかけて……」


「いいや、迷惑なんかじゃないよ。それに毒をどうにかできるかもしれない手段を見つけたんだ。だからもう少し、もう少しだけ頑張ってちょうだい!」


「わかりました……。できるだけ、頑張ってみますね……」


 それだけ言い残すと彼女は再び目を瞑ってしまった。それで一瞬動揺したアベルであったが、寝息を立ててる彼女で眠っただけだと気づいたアベルは、肩を弛め安堵すると再び彼女の身体に手を掛けた。

 

 リュックから細長い紐を取り出し手に取ったアベルは、そっと彼女の身体を持ち上げると背に乗せる。そして手に持った紐で彼女の身体を固定した。ガッチリと、しかし彼女に負担がかからない程度に固定した。これならば走っても彼女の背から落ちることはないだろう。


 やることは終わった。ならばあとは町に向かって走るのみ。民家から飛び出したアベルは早速目的地であるマーブルに向かって走り始めるのだった。




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