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第4-19話 ツー・リーブ・ロイヤルキャピタル

 

 打ち上げで散々酒を呑んで酔っ払い、やりたい放題するだけして眠ってしまったアベル。彼はカルミリアに担がれるようにして運ばれていた。その隣ではラケルがナターリアをおんぶして運んでいる。彼女は恐ろしく酒に弱かったらしく、少し含んだ程度で真っ赤になってしまい、そのまま眠ってしまった。


「意外と彼も普通の青年だな。飲んで悪酔いするとは」


 アベルを担ぐカルミリアがぽつりと呟いた。彼女の前では彼は頭が回って腕の立つ青年として振る舞い、基本的に弱い所を見せなかった。だからこそこういった姿を見るのは新鮮であった。


「アベルさん、あんまりお酒強くないみたいなので……。まあ、あんな変な飲み方したら誰でも酔うと思いますけどね」


「それで? ラケル君、君はアベル君についていくことにしたんだろう? 正直私も彼の不安は最もな元のだと思う。どうするんだね?」


 カルミリアがアベルを背負った状態でラケルに問いかけると彼女は答えた。


「王都にいる間、カルミリアさんのおかげで魔技のことについてある程度学ぶことができたので、簡単なものだったら使えるようになりました。それにヘリオスさんに新しく魔技の本をもらえたので、それで自分なりに勉強するつもりです。自分で戦えるようになればアベルさんも納得してもらえるかな、と」


「それならば、……まあ問題ないかもしれんな」


 カルミリアは一瞬迷った様子を見せながらも彼女の言葉に同意した。


「アベルさんの迷惑にならないように頑張りますから!」 


「その意気だな。彼についていけるようにな」


 決意を露わにするラケルにカルミリアは激励するように声を上げる。


 そんな彼女らの声に反応するようにカルミリアに担がれているアベルが眠ったまま声を上げた。


「絶対に守るからぁ、ぅ……」


 そんな彼の声を聴いて、心の底から自分を守ってくれていることを実感しラケルは思わず頬をほころばせた。


 そのまま、屋敷に戻った二人は寝息を立てている二人を離れに運ぶ。それぞれ運んでいる人物をベットに寝かせた。


「じゃあ、あとは任せるぞ」


「わかりました。ここまでありがとうございました」


「ああ、おやすみ」


「おやすみなさい」

 

 挨拶をしたカルミリアは屋敷を後にした。今、屋敷で意識があるのは彼女だけ。必然的にこの後のことは彼女一人でやることになる。


 彼女は早速歩き出すと、眠りこけているナターリアに布団を掛けなおした。むにゃむにゃと口を動かしながら眠っている彼女を見て、ラケルは口元を緩ませた。


 風邪をひかないよう、布団を掛けなおし、ナターリアの部屋を後にしたラケル。続いて彼女はアベルのベットに向かった。


 アベルの部屋の入り、起こさない様に静かに扉を閉めた彼女はゆっくりと彼の眠るベットに近づいていくと、ベットの端に座り込んだ。


 眉に皺を寄せながら身動きせずに眠っているアベルの顔に手を伸ばした彼女はおでこにかかる髪の毛をサラサラと弄び始めた。彼を愛おしそうに見つめながら髪の毛をもてあそんでいる彼女は月光に照らされていることも相まって、蠱惑的な魅力を発していた。


「アベルさん……。大好きですよ……」


 誰にも聞こえないほどの大きさで呟いたラケル。彼女は髪の毛をもてあそびながら身体を乗り出し、眠りこけているアベルに近づいていく。


 そして頬に手を当て、軽く彼の顔を固定するとゆっくりと彼の顔に自分の顔を近づけていく。あと少し、彼女が顔を近づければ二人の唇が接触する。


 近づいていくにつれて激しくなるラケルの鼓動。しかし、ドクドクと速くなって行く鼓動に構わずラケルはどんどんと近づいていく。


 あと指三本分。あと二本分。あと一本分。どんどん近づいてく二人の顔。あと、一センチも顔を近づければ唇は接触する。


 しかし、唇が接触する直前、彼女はぴたりと動きを止める。唇が接触する直前で動きを止めたラケル。この期に及んで怖気づいてしまったのだろうか。


 しかし、その考えは誤りであった。ピタリと動きを止めた彼女は顔を横にずらす。彼女の視線は唇ではなく、アベルの首元に向いていた。そして彼女はそのまま唇ではなく彼の首に唇を落としたのだった。


「んっ……、ふっ……」


 息を荒くしながら覆いかぶさるようにして首元を貪るラケル。彼女のその姿は恐ろしく情熱的であり、他の人間が見ればその扇情的な姿に惑わされてしまうだろう。


 しばらくアベルの口元を貪ったラケル。満足したように顔を持ち上げた彼女であったが、まだ彼女の触れ合いは終わらない。


 チロリと舌を出し唇を濡らした彼女は再びアベルの首に顔を近づける。しかし、今回は唇を落とすだけでは済まない。彼女は小さく口を開けたかと思うと、首元に歯を突き立て、吸血鬼のように噛みついた。


 さすがに噛みつかれたことで鬱陶しそうに腕を振るい追っ払おうとするアベルであったが、ラケルは離れようとせず、一切噛みついたまま微動だにしなかった。

 

 しばらくするとアベルは噛みつかれた痛みに慣れてしまったらしく、振るっていた腕を下ろし、落ち着きを取り戻す。堂々と噛みつかれているにも拘らず目を覚ますどころか眠り続けている彼は、大物なのか鈍感すぎるのか。

 

 ラケルが噛みつかれているまま、眠り続けるアベル。そんな彼にかまうことなくラケルは首元に歯を突き立て続ける。


 しばらくしてやっと顔を持ち上げたラケル。彼女が歯を突き立てていたところにはくっきりと歯型が残っていた。これは二、三日、痕となって残り続けるだろう。まるで自分の所有物であるよう、主張しているかのようであった。


 アベルの首元に残った噛み痕を見て、ラケルは満足そうに笑みを浮かべる。傷跡を指先で撫でた彼女はベットから立ち上がると毛布を掛けなおし、部屋を後にするのだった。


 今の彼女ではアベルを手に入れることは出来ない。守られるだけの立場である彼女がアベルを手に入れようなどおこがましいにもほどがある。調子に乗るなと言われるレベル。


 だからこそ、彼女はアベルに嚙み痕を付けた。いわば予約のようなものである。アベルとラケルの関係を知っていればそれを一目見るだけで何が起こったのかを把握することができる。あからさまな他への牽制であった。


 彼女のアベルに対する想いはそれだけではない。自分がアベルについていっていいかの意見を聞いて回る情報を風の噂で耳にした彼女は、知るや否や行動を起こしていた。問われるであろう獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の面々に肯定するに根回しを行っていた。否定するものへは説得を、肯定するものへはその考えを曲げないように愛想を。大体すべての兵士に対して根回しを行い、彼らの意志を統一させていた。


 よって実はあの戦い、最初から勝敗が決まっていた、一種の出来レースだったのである。そのことをアベルが知らないのはなんというか、幸運なことである。


 それはさておき、ラケルはついていくことに決まり、予約も済ませた。もう今日のうちにしておかなければならないことはない。素直に今日は寝ることにしよう。


 ラケルはどことなく軽い足取りで自分のベットに向かって歩くのであった。






























「あー、クソ頭いてえ……」


 翌日、二日酔いの状態ながらも出発の準備をするアベル。彼はかなりの量の食料や消耗品を買いこんでいた。傍から見れば持ち運べないほどの量を買い込んでいるアベル。しかし、彼には持ち運ぶための手段がある。

 

 彼が持っている鞘は剣だけでなく他の物、例えば剣以外の食べ物などを入れることができる。つまり彼が買い込みまくっている物は鞘に入れることで持ち運ぶことができる。重さも鞘に入れた時点で鞘の重さだけになるため、軽々と持ち運ぶことができる。劣化もしない。故に彼は割と無茶な買い込みを行っていた。


 買い込みの費用は教団との戦闘の際の協力の報酬としてもらっている。懐に負荷がかかることはない。思う存分買い込みを実行できる。


「とりあえずこんなもんでいいか。しかし薬が結構するな。報酬でもらった金全部なくなっちまった」


 買い込みを終えたアベルは薬の思わぬ高さにため息を零す。今まで、持ち前のタフさで耐え忍んできたが、ここから先の戦いではおそらく即時回復の手段が必要となる。ラケルが回復系の魔技を覚えてくれれば楽なのだが、今は望むべくもない。故に彼は即効性の回復薬を買い込んでいた。


 買い込みを終え王都内を歩くアベル。この街ともしばらくお別れかと思うとなんだか少しだけ感傷的な気分に陥る。


 実際にはそこまで長い時間滞在したわけではないのだが、いかんせん内容が濃かったことで記憶に強く残ってしまっている。


 それに生活も快適だった。衣食住すべてが完備されていてどれも質が高かった。これから王都を離れて前のような生活が出来るだろうか。アベルは少しだけ不安だった。

 

 しかし、いつまでも言っていてもきっと仕方がない。郷に入れば郷に従え。何とかやっていくしかないだろう。そのために大量に買い込んだのだから。


「やることもないし、戻るか……」


 旅立ちの準備を大体終えてしまったアベルは手持無沙汰になり帰宅することに決める。彼がカルミリアの屋敷に向かい始めたその時、彼に対して声が掛けられた。


「アベルさーん」


 声をかけたのはラケル。彼女は王都を出るための挨拶回りをヘリオスたちにして回っており、ちょうどそれが終わったため、アベルと合流した。


「買い物は終わったんですか?」


「うん、金の許す限り買い込んだしこれ以上買うものもないから帰ろうと思って」


「そうなんですか」


「ところでさ、昨日はありがとうね。わざわざベットまで運んでくれたみたいで」


「運んだのは私じゃなくてカルミリアさんですよぅ」


 世間話をしながら屋敷に向かって歩く二人。以前と変わらない様に振舞っている二人、本人すらもそのつもりであった。がしかし、二人をつなぐ絆は以前よりも明らかに強固なものに変化していた。


 王都を離れまた、新たな生活を始めようとしていたアベルとラケルの二人。しかし、彼らは神装使いとその連れ。大きな出来事の渦中にいるべき人物である。故にトラブルが彼らを見逃すはずもない。その渦中に引きずり込もうと手を伸ばしてくる。


 この後、彼らに対してまた新たな災難が降りかかることになるのだが、彼らはまだ知らない。しかし、彼らに対する魔の手は静かに、しかし着実に手を伸ばしてきていた。


 そのことを彼らが知ることになるのは少し後。具体的には王都を離れておよそ三日目の事である。


 アベルはその時どうするのだろうか。その選択が世界に大きな変革をもたらすことになるのだが、当然彼はそのことを知らない。何も知らないまま、アベルに大いなる選択のときが迫ってきていた。


 これで四章は終了になります。次回の投稿は二月に入ってからになります!


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 ぜひ次回の更新も見に来てください!


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