第4-18話 ソードファイター・イズフィッティド・バンケット
大地信教団のテロを乗り越えたアベルたち防衛部隊。その翌日、彼らは事後処理を行い、混乱し爆破の衝撃で壊れた建物の復興作業にあたっていた。
翌日ということもあって作業は対して進んでいないが、それでも作業が始まったというだけで需要が生まれる。それにテロリストを多少の被害を出しながらも完膚なきまでに撃退したということで市民は活気づいていた。町もテロの標的にあったとは思えないほど人が往来し、商売に励んでいた。
しかし、その一方で頭を抱えている人物もいた。だが、それは自分の家を壊された者ではない。
「やはり囮だったか……。しかし、何ということだ」
カルミリアは昨日の書類を捌きながら頭を抱えて呟いていた。彼女の頭の中にあるのは大地信教団のテロの事であった。
問題があったのは王城内部の事。彼女たちが戦っている最中、王城内に敵の侵入を許してしまったのだ。幸い、そのころ国王は事情で王城から離れており、彼に危害が加わることはなかった。
問題なのは王城に保管されていた逸品がいつの間にか奪われてしまっていたことであった。
「失礼します……」
「失礼しまーす。 何か話があるって聞いたんですけど……」
そんな彼女のもとにアベルとナターリアが姿を見せる。彼らはカルミリアに話したいことがあると言われここに足を運んでいた。
「ああ、そうだ。ここに座ってくれ」
彼女に促されソファーに座った二人。その対面に座ったカルミリアは大きく息を吸い込むと、二人を呼んだその理由について話し始めた。
「君たちを呼んだのは神装使いである君たちに共有しておきたい情報があった情報があるからだ」
「はあ……」
「大地信教団は神装を破壊して大地を取り返すと主張していたな?」
「ええ、ずいぶんと無茶苦茶なことを言ってるな程度にしか考えてませんでしたけど……。それが何か?」
「奴らは決して無茶なことを言っているわけじゃない。ちゃんとできる可能性があるうえで言っているんだ」
「ええっ! それって神様たちが殺される可能性があるってことですか!?」
「ああ、実は奴らは神を殺すための力を持っている」
ナターリアが驚きの声を上げるとカルミリアはその驚きに応えるように説明し始める。
「それを奴らは破神装と言っていた。以前私もその使い手と戦ったが……」
言葉途中でカルミリアが口を閉ざし、目を瞑る。
「確かにその武器は私の肉体に確かな痛みを与えてきた。神を殺せるというのはでまかせじゃないだろう」
その一言だけを告げると、再びカルミリアが語り始める。
「その時は使用者を倒しその破神装を回収したんだが、今回の戦いの際に王城に保管していたそれが奪われてしまったらしくてな」
「ええっ!? それって大変じゃないですか」
「ああ、おまけにそれを管理していた兵士も殺された。忍び込んだのは恐ろしく腕の立つ使い手だろう」
驚くナターリアに現状を補足するカルミリア。彼女は言葉を続け、さらに補足する。
「とはいえ、向こうも取り返したばかりで使用者を選定しなければならないだろうし、破神装にも弱点はある。すぐに動いてくるようなことはないだろう」」
「弱点? そんなものあるんですか?」
アベルが声を上げるとカルミリアは首を縦に振る。
「破神装は神装を破壊することに全特化しているせいで、他の能力がないんだ。だから、例えば私の炎で焼き尽くされたり、サドリティウス殿の弓で遠距離から一方的に打ち抜かれたりするような攻撃にすこぶる弱い。だから破神装の使い手は本人の腕が相当よくなければならないんだ。そして神装使いに使用者の実力だけで勝てる奴は早々出てこない。だから簡単には選定できないんだ」
「なるほど……。神装の力をちゃんと引き出せればそうそう負けるようなことはないと。……ってそれじゃ俺はダメじゃないですか」
「正直に言ってしまえばそうだな。君の神装は汎用性は高いが、使いこなすのに時間がこなす。ヴィザ殿は性格も頑固なところがあるしな」
アベルが自虐するような言葉を発するとカルミリアはそのことを冷静に分析する。正直笑ってほしかった気持ちと、遠回しにまだまだ弱いと言われているようで落ち込む気持ちで、アベルはなんだか複雑な気分になる。
「その点、ナターリア君は安心だな。もう既に能力をだいぶ扱えている。この分ならば遭遇しても神装を壊されることはないだろう」
「私、ウェイン様と別れる気なんてありませんよ。まだまだ頑張らないといけませんから」
アベルに対して、褒められるナターリア。彼女は褒められたことで満足した様子を見せず、拳を胸元でぐっと握って見せた。彼女が褒められたことでアベルはさらに複雑な気持ちになる。
「神装を破壊できる。使用者が生粋の大地信教団信者。破神装使いとして認められた高い実力。破神装使いは恐ろしく危険だ。十分注意するように気を付けてくれ」
「了解です」
「わかりました」
彼女の言葉にアベルとナターリアの二人は返事をする。その声色には神装使いとしての威厳が込められていた。
さて、堅苦しい話が先ほどのカルミリアの話でいったん途切れた。ここからは軽く雑談の時間。
最初の話題はアベルのことである。彼は近いうちに王都を離れることになっている。カルミリアはそのことを思い出し話題として振った。
「そういえばアベル君は近いうちに王都を出てもらうことになっていたな。すまないな。損な役回りを押し付けてしまって」
「いいんですよ。自分から決めたことですから」
カルミリアの言葉にアベルは首を横に振りながら、彼女の声に反論する。すると彼女は思い出したように腰のポーチに手を伸ばした。
「君がそう言ってくれると私としてもありがたいよ。……そうだ。アベル君、君に渡しておくものがある」
口を開いたカルミリアが腰のポーチから取り出し、差し出したのは模様の刻み込まれた黒い金属板であった。その模様と形状に見覚えのあったアベルは思わず言葉を零す。
「これって通信用の魔道具ですよね。確か結構高価なものだったはず」
「ああ、君とは細かに連絡を取れるようにしておきたいからな。これを渡しておけば直接私と連絡をとることができる。君に何かあった時に連絡してもらえればこちらで出来る限りのことはしよう」
「……それじゃあ受け取っておきます。ありがとうございます」
高価な品ということで受け取るのを一瞬躊躇ったアベルであったが、今までの働きに対する報酬として受け取っておくことにし、カルミリアから通信機を受け取った。
アベルに通信機を渡し終わったカルミリアは話題を元に戻す。
「ところでラケル君を連れていくというのは本当なのか? いささか危険だと思うのだが」
「そうなんですよ! そのことを話し合ったんですけど、『いや!』の一点張りでまったく聞く耳を持ってくれなくて!」
カルミリアの問いで焦りを思い出したアベルは思わず彼女に事の顛末を説明していく。最初のころは神妙な面持ちで顔で聞いていた彼女であったが、次第に真面目に聞くのが馬鹿らしくなってきたのか笑みを浮かべ始め、最終的には爆笑し始める。
「アハハッ、アッハッハッハッ!」
「ちょっと笑い事じゃないんですよ! こっちとしては真剣なんです」
爆笑する彼女に苦言を呈するアベル。しかし、カルミリアは彼の主張を真面目になど聞いていない。
「連れて行ってやればいいじゃないか。彼女だって自分から行くと決めたんだろう? だったら彼女の意志を尊重してやるべきだ」
「それはそうかもしれないですけど……。だって死ぬかもしれないんですよ!?そんなとこに俺は連れていけません!」
「それは君の主張でしかないだろう。彼女がそれを拒否している以上、彼女を連れていくのが保護者としての君の義務じゃないかね?」
「それは……」
彼女の指摘に口ごもるアベル。その時、カルミリアに便乗する形でナターリアも声を上げる。
「私も……、連れて行ってあげたほうがいいと思います」
「あんたもかよ……。戦ったナターリアちゃんならわかるでしょ! あんなのがバンバンやってくるんだよ? 俺、守り切れる自信ないよ」
賛同の意思を見せたナターリアに対して語気を乱し、説得するような声を上げた。しかし、彼女はそれでも意思を曲げず、自らの意思を伝える。
「ラケルちゃんは自分が忘れられるんじゃないかって不安だと思うんです。その不安が無くせるのはアベルさんがラケルちゃんを連れていくことだと思うんです」
「ッ、…………」
「もはや反論の余地はないな。どんなことがあっても守ってやるくらい言えないなど、男らしくもないぞ」
「ぐ、ぐうううう……」
アベルはカルミリアの声で唸り声を上げ始める。確かにここまで言われたらもう連れていくしかないのかもしれない。しかし、それでもやっぱり連れて行きたくないと考えている。確かにらしくないのかもしれないが、やはり守り切れない可能性があるのならば連れていく気にはなれない。
そんな彼の心情を読み取ったのか、カルミリアは彼に対し一つ提案をする。
「だったらこうしたらどうだ。これから君たちのことを知る者たちに聞いて回って、過半数を超えたほうを選ぶ。これならもはや文句も言えないだろう」
「……いいでしょう。それで決まったならもう何も言いません」」
ラケルを連れていくかを決めるための方法を了承したアベル。意見を集めるのは人が集まるところ。必然的にこの後ささやかながらも開かれる勝利の打ち上げの際である。
兵士たちであれば少女を連れまわすのがどれほど危険かわかっているはず。ラケルを連れて行かないという答えが出ることを期待しながら夜になるのを待つのだった。
「連れてったら?」
「本人がいいって言ってんなら連れてけよ」
「あんなかわいい子に連れてけって言われてんのに断るとか最悪だな。爆発しちまえ」
「がんばれ。応援してるから」
「大丈夫大丈夫。君は十分強いからさ」
夜、打ち上げの会場で意見を聞いて回ったアベル。結果は全敗。
「くそがッ! どいつもこいつもッ!」
誰に聞いても連れて行った方がいい、連れて行かないほうがいいという人間は一人としていなかった。
その結果にアベルは落胆と憤怒の籠った声を上げ、酒を瓶のまま流し込む。既に彼の顔は赤くなっており、そばには三本の空の瓶が転がっている。かなりペースで呑み進めており、このままでは潰れるのも時間の問題であった。
鈍り始めた思考ではなぜ皆口を揃えてラケルを連れて行けと言ったのだろうか。その原因を考えていた。しかし、鈍った思考で適切な答えなど出せるはずもない。思考を中断すると、再び瓶に口を付けた。
「おいおい、ずいぶんペースが速いじゃないか。ほどほどにした方がいいと思うぞ?」
「そんなこと言ったってねぇ! 飲まなきゃやってられないですよ! どいつもこいつもプロなのに何もわかっちゃいないんですから!」
語気を荒げ再び瓶に口をつけるアベルを見て、カルミリアは苦笑いを浮かべた。彼がここまで彼女の身を案じていると思わなかった彼女は事の始まりというか顛末を知っている以上、罪悪感すら覚える。
「全く、どいつもこいつも……」
ぶつぶつと言いながら酒を煽るアベル。非常に不満そうであり、それが明らかなほど様子や行動に出ている。
その一方で二人で打ち上げを楽しむラケルとナターリア。どちらかというと女子会に近い雰囲気で二人は食事を楽しんでいたが、会話の中でナターリアが顔をほんのりと赤く染めた。
「ほ、ほんとに告白したの?」
「うん、全然気づいてなかったみたいだけどね……」
女子会特有の色恋についてを話す二人。顔を赤く染めて、ラケルの話を興味津々といった様子で聞くナターリアに対してラケルはいつものような笑みを浮かべて応える。
「でも分かるかも……。かっこいいし優しいし……」
「ん?」
「わ、私はお母さんの仇を取るので忙しいから! 恋愛のことについて考えてる暇ないから!!!」
自分の発言でニコリと笑みを浮かべながら見つめてきたラケルに対して弁明するように言葉を紡ぐナターリア。彼女の言葉を聞き、ラケルは雰囲気を解いた。
「大丈夫。別に疑ってないから」
呪縛から解放されたナターリアは内心、ほっと息をつく。
「でも鈍すぎない? 真正面から告白して気づいてもらえないって……」
「あの時は別のことで頭がいっぱいだっただけだと思うから。後で機会を見てもう一回告白する」
「わ、積極的だね……」
ラケルの発言に再びナターリアは顔を赤くした。
「うん。もう迷わないって決めたから。ずっとついていって大好きだって伝えるの」
ラケルはその言葉とともに視線の向きを変える。彼女の視線の先には酒瓶片手に獣鏖神聖隊の面々に絡みに行っているアベルの姿があった。一見するとダメ男のように見える彼に対し、ラケルは優しく弧を描く眼を向けるのだった。
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