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第4-17話 チェアリング・エンド・バトル

 アベルとストレイの戦いが決着し、一段落する少し前。ナターリアたちのいる最初の戦場は激戦を極めていた。


「全員、お互いを庇いあってこれ以上の被害を抑えろ! もうこれ以上死人を出すな!!!」


 一人の自爆から混乱した戦線。獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)などの防衛班の面々は、自爆特攻してくる大地信教団との乱戦に発展していた。


 既に王都の衛兵が半分以上が死んでおり、生き残っている衛兵は運よく彼らから逃げ延びることが出来た者か、冷静に獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の指揮に従って行動できたものかの二通りであった。


 しかし、爆発の衝撃が大きかったせいで、生き延びている者も決して浅くない傷を負っている。戦力的には最高の状態より圧倒的に劣っており、攻撃どころか防戦一方を強いられていた。それは獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の面々も同様である。


「てか、他のところでも爆発音が聞こえたぞ! 本当に援軍は来るんだろうな!?」


「知るか! 今の俺らには耐えるしかねえんだよ!!!」

 

「てか副隊長は? さっきまでそばにいたはずだよな!?」


「それも知るか! どうせまたいつものだろ!」


 ダメージや援軍が来るのかの不安などで苛立ち、荒げた声を上げる戦士たち。未だに大地信教団の者たちは隙あらば戦士たちに抱きついて自爆を試みており、半数が爆死したにも拘らず未だに倍近い戦力差の彼らに囲まれ、対処もままならない。彼らが苛立つのは自明の理であった。


 そんな中ただ唯一、無傷の状態で大地信教団の人間の動きを止めて回っていた人物がいた。ナターリアである。


「行って!」


 自爆しようと跳びかかってくる教団の信者たちを自分を包んでいる水の球体で受け止めると同時に彼らの身体に水を纏わせて身体についている爆弾を無効化する。これでは爆発しても水に威力を吸われてまともな威力など発揮できない。


 何とか水を引き剥がそうとする信者たち。そんな彼らにナターリアの一撃が襲い掛かる。


「やあっ!」


 引き剥がそうともがく彼らの肩口に彼女の一撃が叩き込まれる。まだまだ非力で斧の振り方なども未熟な彼女だが、斧の重さがあれば刃を使わなくても十分な威力を発揮する。鎖骨を砕かれた男は膝をつき、痛みでのたうち回る。


「死ねぇええええ!!!!!」


 仲間が傷つけられたことで脳が沸騰した仲間の一人が怒号を上げながらラケルに迫っていく。ラケルはその勢いに押され恐怖を覚えた彼女は、思わずギュッと目を瞑った。その直後、周囲に鳴り響く爆音。


 しかし、彼女に傷は一切ない。それどころかその場から一歩たりとも動いていない。


『落ち着いて。私の盾はこの程度じゃ突き破れない。あなたは恐れず、ただ相手を倒すことだけ考えなさい』


 そんな彼女を宥めるようにウェインは声をかける。彼女の不愛想ながらも愛の感じられる声を聞いたナターリアは再起動し、他の者たちを助けるために再び動き始めた。


 そばにいる信者から水を纏わせ、爆弾を無力していく。そのそばに衛兵がいればあとは彼らが対処してくれる。まだ、操れる水の量が多くないため、処理する速度はそこまで早くないが、それでも着実に数を減らせていた。


「お前らァ!!! あんなかわいい女の子一人にやらせて恥ずかしいと思わねえのかァ!!! 思わねえ奴はすっこんでろ! 恥ずかしいと思うやつは行くぞォ!!!!!」


 彼女の動きに触発された他の戦士たちも負けられないと言わんばかりに力を振り絞り、信者たちに向かって行く。


 そうして彼らはどんどん信者たちに向かっていく。背中をかばいあいながら武器の間合いを活かして信者たちを抑えていく。足を突かれ、動きが鈍った信者が魔技で吹き飛ばされると、背中を打ち意識を失う。


 ほかにもさまざまな方法で抑えようとする獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の面々であったが、信者たちもバカではない。取り押さえられるくらいならと抱き着く前に自爆をして少しでも戦士たちに負傷させようと試みる。


 それは思いのほか効果を発揮し、安定し始めた隊列が再び崩れ始める。


 そんな中、一つの集団が爆死の危機に晒される。迫りくるは三人。陣形を崩された彼らでは回避も防御もできない。このままでは彼らは爆死し、名も名き肉塊に変貌するだろう。


「危ないッ!」

 

 そんな彼らを見てナターリアは動いた。二人に対して水を纏わりつかせて動きを封じ、爆発を妨げる。しかし、今の彼女にできる妨害行為はここまでである。ならばどうするか。自分の身をもって妨げるだけである。


 信者の一人に駆け寄ったナターリアはそのまま彼女に飛びつき吹き飛ばし、それに伴って信者は倒れこんだ。まさか向こうからタックルをされるとは思わなかった信者は思考が停止し、爆弾を起動することすらできなかった。


 しかし、飛びついてきたのは神装使いである少女であり、大地信教団からしてみれば憎悪の対象である。一瞬止まった思考を回復させた彼女は爆弾を起動させるためにスイッチ部分に手を伸ばした。あとは軽く触れるだけで少女は吹き飛ぶ。


 しかし、スイッチに手を触れる前に彼女の頭に衝撃が走る。彼女の頭を叩いたのは爆死させられそうになった一団の内の一人である。おかげでナターリアを爆死させるには至らなかった。


「あ、ありがとうございます……」


「こっちこそ、おかげでこっちも死ななくて済んだから……」


 お互いに生かしてもらえたことに礼に言う二人。彼女の捨て身の行動によってその一団は救われた。彼らの生存がその後の大地信教団との戦いで彼ら以外をより多く生き残らせることがつながったと言える。


 しかし、生き残ることができたという喜びで彼らは大事なものを見落としていた。まだ、小さな綻びと言っても何の差支えもないものであったが、そのまま放置すれば確実に牙をむくことになる。


 近づけば確実に死ぬ状況で彼女は何の躊躇いもなく飛びついた。あれだけの至近距離で爆発すればさすがに怪我をする。それでも彼女は躊躇わずに行動を起こした。


 一体、何を考えて行動したのか、それとも何も考えていない無意識のものだったのか。もはや本人にしかわからない。


 が、それでもわかることが一つだけあった。それは彼女の心は本人すら気づかないほど、小さくであるが確実に罅が入っているということだった。

























 それからも凌ぎ続けていたナターリアたちであったが、その終わりは一瞬のうちに訪れた。


「なんだ? 爆発音が聞こえなくなったが、まだ終わっていなかったのか」


 乱戦の最中であったそこに響いたのはカルミリアの声であった。傷だらけの状態でラケルを背負っている彼女は傍から見たら何が起こっているのかはわからないだろう。


 しかし、頼れる人物がやってきたということは確かである。戦士たちの士気は限りなく上がる。


 憎悪の対象であるカルミリアが現れたことで信者たちの意識が彼女に向く。カルミリアはラケルを下ろすと槍を構えた。


「隊長! 彼らは爆発します! 接近戦は危険です!」


 そんな彼女を見て部下の一人が声を上げた。しかし、彼女はそれを見ても気にした様子もなく、片手で槍を構えると、もう片方の手のひらから火球を出す。いつものようにメラメラと燃えたそれではなく鉄球のようにつるつるとした表面をしている。 


 それを見た部下の一人は焦ったように声を上げる。


「全員、隊長がアレを撃ち出したら目と耳を瞑れ!!!」


 その直後、カルミリアは炎の球を打ち出した。目で追える程度の速度で飛翔し、乱戦の中央に移動した火球はすべてに逆らってピタリと停止する。


 次の瞬間、火球が破裂。瞳を焼きかねないほどの光が発生し、鼓膜を破りかねないほどの爆音が周囲に鳴り響いた。当然、その対処をしていなかった信者たちは何の抵抗もできずに瞳を焼かれショックで全員気絶する。


 その一方で目を瞑り、耳を塞いでいた戦士たちは少々痛みが走る程度で無事で済んだ。


 丸めた背中をもとに戻し、耳を塞いでいた手を離して恐る恐る目を開くとカルミリアが獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の面々のもとに歩いてきていた。彼女の担がれているラケルは目を閉じるのが間に合わなかったのか、目を抑えている。火球から距離が遠かったのが幸いした。


 歩み寄ってきた彼女を迎えるように近寄っていく部下。そんな彼に対してラケルは槍を振り上げると彼の頭に対して振り下ろした。


「イダイッ!」


「一体何をやっている! 私がいなければまともに戦えないのか? まともに負傷していないのはナターリア君くらいの者ではないか! 後輩にかっこいいところを見せようとは思わないのか!」


 彼女の言葉にぐうの音も出ない兵士たち。確かに自爆してくるとは言え、本来の力を出せば数の暴力を生かされてもできただろう。そうでなければエリート戦士である獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)所属とは言えない。

 

 しかし、敵が自爆してくるというのは予想外すぎたのだ。そんな状況で本来の実力を出せというのは少々酷ではないだろうか。うつむきながらそう考える部下たち。


「……まあ不甲斐なくも一番最初に戦線を離脱してしまったのは私だからな。こうなるのも仕方ないか。次からはこうならないようこれから特訓を積んでいくぞ。いいな?」


 しかし、彼女も彼らを責めるだけではない。視線を逸らしながらも、彼らにフォローするような言葉をかけ、彼らが落ち込みすぎないようにする。


「はいッ!!!」 


 彼女の言葉に自分たちへのやさしさのようなものを感じ取った部下たちは声をそろえて彼女の言葉に返事をした。続いてナターリアに視線を向けたカルミリアは彼女に対しても声をかける。


「ナターリア君。よく一人で頑張ってくれた。恐らく状況を鑑みるに君がいなければ全滅していた可能性がある。改めて礼を言わせてもらう。ありがとう」


「い、いえ。神装使いになった使命のようなものですから! それにお力になれてうれしいです!」 


 頭を下げる彼女に対してナターリアも頭を下げる。頭を下げたナターリアは頭を上げると、少し離れたところで目を抑えてうずくまっているラケルの下へ駆け寄った。


「大丈夫ラケルちゃん? 回復する?」


 それを聞いて首を縦に振ったラケル。彼女に回復の魔技を掛けるナターリア。


 彼女たちの姿を離れたところで見ていたカルミリア。しかし、黙って長々と見ている暇は彼女にはない。すぐに部下たちに指示を出し始める。


「生きている者を全員拘束しろ。奴らから情報を引き出す!」


 彼女の動きに従って部下たちは気絶している大地信教団の信者たちを拘束していく。それと同時に亡くなった者たちの遺体を処理していく。原型が残っている者の方が少ないくらいだが、無いよりはなしだろう。


 ラケルを治療したナターリアは処理をしている彼らのもとに戻っていき、肉片の処理の手伝いを始める。水を作り出せる彼女はこういったことには向いているだろう。


 てきぱきと処理をしていく戦士たち。それを見ながらカルミリアは一抹の違和感を感じ取っていた。


 彼らがテロ行為をするというのはともかくとしてわざわざ日時を指定する必要があったのだろうか。今は王都にカルミリアがいるだけでなくほかの神装使いであるアベルやナターリアがいる。ナターリアはともかくアベルは戦闘経験を積み、ある程度神装使いとして噂になるほどの実力がある男になっている。


 それに対して、切り札となるドラゴンやパワードスーツの存在があるからとはいえ、たった二百人程度で勝てると考えるのはいささか見通しが甘いような気がする。


 この戦い。実は他に狙いがあったのではないだろうか。そう考えながら、ではその狙いは何だったのだろうかということに思考を走らせるカルミリア。


 そんな彼女らのもとにパワードスーツを引きずって戻ってきたアベルがやってくる。


「カルミリアさーん。こいつ持ってきましたよー。バラシて中から引きずり出しましょー」


 アベルは彼女に対して声をかけるが、思考を巡らせることに夢中になっているカルミリアは彼の声に気づかない。


 彼女の様子を見て、後頭部をポリポリと掻いたアベルはふと視線を走らせる。そこにはラケルがおり、視力が回復しつつあるのか目をシバシバと瞬かせていた。


 視力が回復し、周囲を見渡した彼女はアベルの存在を発見すると真っ先に彼のもとに駆け寄ってくる。そしてストレイとの戦いの結果を聞いた。


「アベルさん。どうでしたか?」


「ああ、もちろん勝ったよ。楽勝だったね」


「そうですか。何はともあれ、この戦いで何事もなかったようでよかったです」


 ラケルはそういうとアベルの腕に絡みつく。両手を回して自分の身体を押し付けるようにがっちりと腕を掴んでくる彼女にアベルは困惑しながら声を上げる。


「……ちょっと邪魔くさいんだけど」


「アベルさんなら大丈夫ですよ。力持ちですし片手で運ぶのなんて余裕です」


 そういった後、ラケルは拗ねた子供のように顔をプイと逸らしてしまった。言っても離れないだろうなと察したアベルは片手に彼女を、もう片手にパワードスーツを持ち、処理している隊員たちのもとに向かうのだった。






























 獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)が王都で勝鬨を上げ、事後処理に入ろうとしていたその一方。空を飛ぶヴァルガルの背中の上で苦しみの声を上げていたストレイは悔しそうに歯を食いしばっていた。


「クッソ……。アイツ、今度こそは絶対に勝ってやるからな… …」

 

 ギリギリと歯の擦れる音を立てながら怨嗟の声を漏らす。眉間に皺の寄った彼の瞳の奥にはアベルに対する負の感情が集まり、鈍く光る漆黒の炎へ変化していた。


 しかし、時間が経つにつれて炎はどんどん小さくなっていく。


「クソッ、クソ、クソォ……、ォ……」


 彼の燃え盛る炎を消していたのは、瞳から流れ出る涙とそれが付随する悔しいという気持ちであった。一度ならず、二度も敗北を味合わされた。今まで大人であろうとねじ伏せ、勝利を積み重ねてきた彼は敗北の苦い味をほとんど知らない。故にこれほどの屈辱は知らなかった。


 自分の中でグルグルと暴れている悔しさに吐きそうになるほどの気持ち悪さを覚え、瞳に溢れる涙をこらえることが出来ない。更に頬に伝わる感覚で自分が泣いている事実を突きつけられ、嘔吐感が強まっていく。


 本当に吐きそうになりえずきながら涙をこぼし続けるストレイ。そんな彼を慮ってかヴァルガルは

跳ぶ速度を落とし揺れを小さくするように努力する。


 神獣である彼が、一市民であるストレイについてきている理由の一つがこれであった。純粋に悔しいと思って涙を流せる純粋さ。この純粋さの中に弱い人間たちに手を伸ばせる素養を見出しヴァルガルは千年以上の長い間自由を謳歌していた自分を鎖につなぎ彼についていくことを決めたのだ。


 三十分ほどストレイの泣き声を聞きながら、適当に空を飛び回ったヴァルガル。しばらく飛び回ったところで彼は何かを見つけたようにゆっくりと速度を落とし地面に近づき始めた。


 ズンと重い音を立てながら地面に落下したヴァルガン。そんな彼のもとに影から姿を現しながら近づいてくる男の姿があった。


「やあ、お久しぶりです。その分だと随分手ひどくやられたらしい」


「…………うるさい。次は絶対に負けない」


 彼らの前に姿を現したのはグルマ。いつものように仮面の下で張り付けたような笑みを浮かべながら声をかける。口ぶりから察するに彼らは旧知の仲らしい。


 泣き顔を腕で隠すように覆いながら、煽るようなグルマの声に反発するストレイ。しかし、グルマはそんな彼の様子を気にすることなく言葉を続けた。


「我が主がお呼びです。そのためにあなたをお連れします」


 グルマは軽く頭を下げながらストレイに告げる。それを聞き、ピクリと身体を動かしたストレイ。


「あの人が……」


「はい。神装使いを間近で見たあなた様から話を聞きたいと」


「……わかった。連れてけ」


 グルマの話を聞き、彼の言葉に従うことを決めたストレイ。彼はグイと目元を拭くと、泣き腫らした赤い瞳でグルマを睨むように見つめる。そしてヴァルガルから降りると彼に近寄っていく。


「喜んで。ではヴァルガル殿も行きましょうか」


 ストレイとヴァルガルの間を取るような位置に移動したグルマは、転移の魔技を発動する。彼らを包むように光が放たれるとその光がどんどん強くなっていく。そしてその強さが最大まで高まったところで光が一点に収束する。それと同時に三人も吸い込まれるように姿をくらました。


 姿を消した三人。彼らが姿を消す前に話題に上がった人物。破神装を奪うための王都の襲撃行為ですら、彼らの上に立つ人物からすれば様子見でしかなかったのだ。


 アベルたちの知らないところで戦いの火種は燃え上がりつつあった。




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 ぜひ次回の更新も見に来てください!


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