第4-8話 バトル・アプローチ・キャピタル
女性同時爆破事件から五分ほど時間を戻す。小休憩のために屋敷に戻っていたカルミリアは再び仕事に戻るために、外に出る扉に向かって歩いていた。
「いつもすまないね」
「気にするな。私はこれでも仕事好きでね。意外とこの忙しさも嫌いじゃない」
テイオンの自嘲するような声に笑みを浮かべながら答えるカルミリア。彼女は彼のことを負担だと思ったことはないし、かなり自由に活動できる今の状況を気に入っている。先ほどの言葉に嘘はない。
それでも男として彼女より稼ぎやら地位やらが低いというのはちょっと差しさわりがあるというか。プライドに障るというか。彼は王都の政治の末端の職員でしかない。国のエリート部隊の隊長であり、神装使いである彼女とは稼ぎも地位も格が違う。
悔しくても見送るしかないというのがさらに歯がゆいところだが甘んじるしかないし、正直悪い気分もしない。
「それじゃあ行ってくる。今日は遅くなるだろうから夕食の準備はいらないと言っておいてくれ」
「わかった。気を付けて」
外に出るため、彼女が扉に手をかけようとする。その瞬間、肌を撫でるような違和感を感じる。今、この扉から出てはいけない。そう直感させるものであった。
その違和感を感じ取った次の瞬間、カルミリアはテイオンを抱えると同時に扉から距離をとった。
その直後、扉が爆風で吹き飛び、二人に熱風が襲い掛かる。布を焼く程度の熱などカルミリアにとってそよ風に等しい。自らの身体を盾にしてカルミリアはテイオンを熱風から守った。
「い、一体何が!?」
カルミリアの胸の中で戸惑いながら声を上げるテイオン。その一方で彼の声を聴きながら爆風の先を見つめるカルミリアは何が起こったのかを分析する。
まず、家の前で爆発が起こったというのは間違いない。問題なのは誰が何のために爆発をしたのかというところであった。
しかし、これも少し考えて心当たりがあることに気づく。というかこんな仕事をしているのだから恨みを買うことも少なくない。それを考えるとこうなるのもおかしな話ではない(彼女に襲撃をかけるというのは、相当精神が不安定な人間であろうが)。
だが、この王都にはそれをしてもおかしくない人間たちが存在しているのだ。
(大地信教団、か?)
大地信教団は反神装主義であり、彼女を襲っても別に不思議ではない。それに彼らは何度か爆破以外にもテロ行為を働いている。これが彼らの行動だと考えるのが普通であった。
「私は行く。修理業者に話をつけてくれ。今日はもう家から出ないでくれ」
「わ、わかった。気を付けて」
そういうとカルミリアは外に駆けだした。屋敷の前の頑丈そうな門は粉々に破壊されてしまっている。それにその奥から町から何本もの爆炎が上がっているのが見える。
「連中め、一体どれほどの規模で破壊活動をしたんだ……」
予想できる惨状を想像しながら呟いたカルミリアは自身の持てる最速で現場に向かうのだった。
少しの休息をとって怪我人の救護をし始めたアベル。身体は痛いが今は痛がっている場合ではない。救えるのなら救ったほうがいい。
爆発で崩れた建物に埋もれてしまった人を助けようと瓦礫を持ち上げようとする彼であったが、けがの生が思ったよりも力が出ない。瓦礫を持ち上げるどころか軽く浮かせる程度で精いっぱいである。
これは誰かに手を借りる必要がある。そう考えたアベルは手を貸してもらうため、瓦礫から手を離し誰かを呼びに行こうとする。
しかし、彼が動くよりも早く瓦礫に手をかけた人物がいた。先ほどラケルに声をかけてきて、彼が助けた男だった。
腕に軽さを覚えたアベルが咄嗟に彼のほうを向くと、彼はニッと笑みを浮かべた。
「呼吸を合わせて! いっせーの!」
彼の掛け声に合わせてアベルが持てるすべての力を用いて瓦礫を持ち上げた。補助がある分、余裕をもって持ち上げることができた。上げることができれば維持するだけなら出来る。アベルが瓦礫を持ち上げている間に、男が下敷きになっていた人物を引っ張り出した。
息を切らしながら瓦礫を落としたアベルは男に礼を告げる。
「あ、ありがとう……。おかげで助かった……」
怪我人を寝かせた男は彼の礼に笑顔で答えた。
「いいんだよ。こういうときは助け合いだ。それにさっきはありがとうな。助けてくれたんだろ?」
「そっちこそ気にしないでくれよ。目の前で爆死されるのは気分悪いし、ラケルちゃんに教えてくれたからな」
「それじゃ俺は別のところに行くから気をつけてな」
アベルは手を振りながら男の背を見送った。男の意識が完全に自分から逸れたと確信したところでアベルは再び膝をついた。やはり回復なしではまともに動くことができないらしい。
しかし、今の彼に肉体を回復させる方法はなく、自然回復を待つほかない。かといってそれを待っていては時間がかかる。休息をとって十分に働けるようにするか、それともこの状態で動いてできる限りの救護活動をするか、今のアベルの脳裏にはこのような考えが漂っていた。
膝をつきながらどちらにするかを悩むアベル。そんな彼の肩に手が置かれる同時に彼の身体を蝕んでいた痛みが薄れていき、苦痛から解放される。
手の置かれている肩に視線をやると、そこにはヘリオスがいた。どうやら彼は回復の魔技を使ったらしい。周りを見ると獣鏖神聖隊の面子含めた衛兵たちが駆けつけていた。
「お待たせ。こっからは本職のオジサンたちの出番だ。ちょっと休憩してくれてていいよ」
優しい笑みを浮かべアベルに休むように伝える彼であったが、アベルにその気はない。
「冗談でしょ。せっかく回復の魔技使ってもらってマシに動けるようになったのに。それにこの状況じゃ少しでも手が多いほうがいいでしょ」
「だったらオジサンたちに協力してもらおうかな。手は多いほうがいいし、働く人が多いとオジサンが楽できるしね」
「ちゃんと働いてくださいよ? マジで動けるだけで全力の半分くらいしか力だせないんですから」
「わかってるわかってる。そろそろ隊長も来るだろうし、その時に働いてなかったらどやされちゃうし」
そういうと彼らは負傷者たちの救護を始めた。それを見てアベルは負けていられないと身体を動き始めるのだった。
しばらく救護活動をしていると、カルミリアが現れ指揮を執りながら大怪我を負った負傷者を治療院へ運んでいくのだった。
爆発事件の処理が一段落し、アベルたちは状況をまとめるための事情聴取をされることになった。
「被害件数はどうなっている?」
カルミリアが部下の一人に問いかけると彼は彼女の問いに応える。
「死亡者数は百八十五人。そのうち、直接爆死したのが五十二人、怪我人は約三百人ほどになります。そのうち、軽度の負傷者は治癒の魔技をかけ、重傷者は治療院での治療を行っております」
被害人数を聞いて眉を顰めるカルミリア。王都内で百人以上の死亡者が出たことなどかなり久しぶりである。この事件を察知することが出来なかったことが悔やまれる。
「また、直接爆死した人間はすべて女性だったそうです」
「そうか……。ご苦労だった。下がっていいぞ」
「ハッ、失礼いたします」
敬礼をした兵士はカルミリアの執務室から出ていく。残された彼女は弱音のように大きく息を吐いた。
「このような事件が起こってしまうとは……」
彼女の呟きに何も言うことが出来ないアベルは黙り込むのだった。
「いや、すまない。みっともないところを見せたな」
しかし、彼女は下げていた視線を上げると、いつものような厳とした雰囲気を漂わせ始める。
「さて。まずは礼を言わせてもらおう。君のおかげで助けられた市民がいることが報告として挙がっている。少しでも被害を減らしてくれた」
「いつも通りです。礼なんていりません」
頭を下げてくる彼女に対して、頭を上げるように要求するアベル。
アベルの言葉に従い頭を上げたカルミリア。しかし、彼女は視線だけは伏せたまま、身体を震わせ始める。
「おのれ大地信教団め……。私たちだけを狙うのならともかく無垢な市民たちを狙うとは……」
彼女の心で茹っているのは怒りの感情。自分たちが狙われるなら神装使いとしての運命と受け入れることが出来るが、無垢な市民を狙うのはあまりにも卑劣すぎる。魔獣を倒す矛と市民を守る盾としての誇りを持つ彼女の怒りは燃え上がっていた。
しかし、アベルは彼女の考えに違和感を覚える。
「ん? あの事件は大地信教団のやったことなんですか?」
「ん? どういうことだ? 君の口ぶりだと違う存在がやったみたいではないか?」
二人はお互いの思考がすれ違っていることを認識する。カルミリアは大地信教団の仕業、アベルは別の何者かの仕業だと考えていた。
「現場には以前も大地信教団が使ったと思われる爆弾の破片が残っていた。それを踏まえれば大地信教団の仕業だというのは明らかな気がするが」
「でも俺の前で爆発しそうになった女の子は宗教に手を染めてるって感じはしませんでしたよ」
「何だか噛み合ってないな……・どうなってるんだ?」
二人がお互いの主張に混乱し、首を傾げていると二人の主張を纏める声が響く。
「どっちもなんじゃないですか?」
「部屋に入るときにはノックをしろ。それよりもどっちもとはどういうことだ?」
部屋に入ってきたのはヘリオスであった。書類を抱えており、タイミングよく来ただけらしい。
彼はカルミリアの問いかけに応える。
「いや、そう難しくありませんよ。たまたま二つの事件が同時に発生しちゃったんでしょう。ほら、大地信教団以外でこんな事件前に会ったじゃないですか」
「……ああ、思い出したぞ。同時多発女性爆破事件か」
「それです。それと大地信教団のテロ事件が偶然同じタイミングで起こっちゃったんでしょう」
「だとしたらなぜ同じタイミングにした?」
「さあ? 本当にたまたま実行のタイミングが同じになっちゃったんじゃないですか? では失礼いたします」
肝心なところをはっきりさせないまま出て行ってしまったヘリオスにカルミリアは何とも言えない感情を覚えるが、それでも彼の言葉で思考がいい方向に向いた。そのことには感謝しなければならない。
「てか、前にも爆発事件があったんですか!?」
アベルが以前にも同じような爆破事件があったということに驚きを隠せずに問いかける。彼の指摘している事件というのが、大地信教団ではないほうであることを察したカルミリアは彼の声に応える。
「ああ、大地信教団以外でこのような事件は起こっている。中規模程度の町で三十人ほどが爆死した事件があった。どうやって爆破したのか、何処から爆破したのかなどの情報が全くなく、足取りを掴むことが全くできなくてな」
腕を組み、眉を顰めながら解説するカルミリア。やはり何もわからないまま、無辜なる民が理由もなく爆死させられているというのは気分のいいものではない。
「あ、だったらこれどうぞ。爆破現場で浮いてたので叩き落としたんです」
そんな彼女に対してアベルは腰のポーチから金属の破片を取り出し、カルミリアに差し出した。
「なんだこれは? 見たところ魔道具、いや何か魔道具でもない何か別の……」
見たことの無い物体に首を傾げながらその物体について考察するカルミリア。少しの間、見つめていた彼女であったが、そんな彼女の脳内に声が響いた。
『……ふむ、済まないミリ。少し見せてもらってもいいか?』
「あぁ」
カルミリアがアボリスに制御権を渡すと、彼は金属片を角度を変えながら見つめる。しばらく見つめたところで彼は溜息を吐き、声を上げた。
「その事件の犯人が、というより首謀者が分かったぞ」
『なに?』
カルミリアたち軍人が血眼になって探して尻尾を掴むことが出来なかった首謀者のことが分かったというアボリスに驚く彼女たち。
「これは魔力無しで動く遠隔操作映像送信機だ。そしてこれは数が少ない。つまりこれは新たに現代で作られたもの、そしてこれの作り方を知っている戦神鞭ボロアスだけだ」
「つまり、今のその神装使いがこんな事件を起こしていると?」
「そういうことだろうな」
それを最後にカルミリアに制御権が返る。
「なるほど。そいつを探せばいいということか」
『しかし、難しいだろう。私たちですら奴の居場所を知ることが出来ないからな』
「でも手掛かりが掴めただけでも大収穫じゃないですか」
「そうだな。しかし、現状その神装を使っている人物のことは何一つわからないというのも事実だ。どうにか対策を打たなければならないな……」
「でも大地信教団のほうも無視はできないですよね」
「悩ましいところだな。とりあえずは大地信教団のほうを優先して対策しなければならないな」
次々に降りかかってくる問題にカルミリアは頭を悩ませるしかできなかった。
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