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第4-6話 ニューサッグ・コール・エクスプロージョン

 ラケルがギランの買い物に付き合ったその翌日。カルミリアは仕事が終わり、久しぶりに日が暮れる前に家に帰れると柄にもなく浮かれていた。


 彼女はその仕事上、王都にいても帰るのが夜中になったり朝になったり。悪い時には何日も帰られないこともある。そういったことに慣れっこの彼女ではあるが、やはり愛する夫のいる我が家というのは恋しい。


 心做しか軽い足取りで我が家に向かって歩くカルミリア。彼女の目に人だかりが入った。女性だけで構成された人だかりに物珍しさを感じた彼女は軽くそちらに意識を向けてみた。人垣でその中央は見にくいが彼女の動体視力なら何の問題も無い。


 すると人垣の中央、そこには絶世の美青年がいた。アベルが中の上、サリバンが上の中だとするならば彼は間違いなく上の上。間違いなく最上位に君臨する存在であった。もはや女だけでなく男ですら虜にしてしまうのではないかと錯覚させるほどの美貌であった。


 あれならば何もしなくても女性が寄ってくる。少なくとも興味を惹かれてしまうだろう。しかし、カルミリアは何の関心もわかない。自分にはもう見るべきものがある。だから見る必要などない。


 とりあえず平和そうにやっているため、関わる必要は無いだろう。囲まれている女性にあの男が差される可能性はあるが、それは、彼女の預かり知らぬところである。勝手にやってくれ。


 彼女は意識を再び家路に向け、歩みを速めた。最早彼女の意識の中に男の存在はなかった。それが問題だったかと言われれば、別にそんなことはない。犬がじゃれ合っていても可愛いな、と思う程度でそれ以上何もしないのと同じようなものである。


 しかし、彼女が一言声をかけておけば彼の素性に気づくことが出来ていたかもしれない。後々起こる事件も防げたかもしれない。


 だが、それは傍から物事を見ている我々に言えることであった。当事者であるカルミリアには難しかっただろう。それほどに彼の気配を消す技術は優れていた。たくさんの女性に囲まれながらもカルミリアにそれ以上の感想を抱かせなかったのだ。むしろ称賛されるべき、天性の才能であった。


「ん~、こんなものかな。これだけ付けておけば後ですごい綺麗になるだろうし」


 カルミリアが離れてから一時間ほど集まってくる女性と交流を重ねた彼は彼女らを解散させ、町の隙間に消えていった。


 その間にポツリと呟いたこの言葉。言葉だけを聞けばなんてこともない美青年の言葉であるが、その言葉の中には恐ろしい意味が隠されていた。しかし、その声色は何の罪悪感すらない、とても澄んだものであった。






























 カルミリアが妙な光景を目にしたその翌日。ナターリアは久しぶりの休息日を堪能していた。王都に来てからおよそ三週間近く経過したが、彼女は毎日のように激しい特訓を行っていた。他の隊員とは違う別メニューではあるが、彼女にとって地獄の特訓であった。


 そもそも、彼女はアベルと違って戦闘用の肉体を持っておらず、それを作るところから始める必要があった。当然、肉体を作るのは時間のかかる作業となる。肉体ができる前ではなかなか無理もさせづらい。故に今の彼女の特訓は体力づくり五割、座学五割で行われていた。


 それでも肉体を動かしながら、勉強で頭を使うというのは当然体力を使う。人並程度しかない彼女がそれをこなそうと思うと、終わるころには体力も完全に無くなってヘロヘロ状態。帰宅した直後、玄関で倒れるといった日々が続いた。毎日のようにベットに運んでくれたラケルには感謝しなければならない。


 それに同じようなことをして、毎日ピンピンしているアベルの肉体に彼女は驚嘆していた。戦いに身を置くことになり、特訓をしてみてやって初めてわかることであった。あれでほとんど訓練をしていないというのだから、天性の肉体というのはすごい。


 そんな彼女が久しぶりに何もない休息日を得た。何をしようか迷い、子供のころに親に何か好きなものを買ってもらえると言われた時のワクワク感を覚えていた。身体を休めるために一日中寝ていてもいい。座学の復習のために本を読んだっていい。どこかに出かけたっていい。今日だけは何をしたっていいのだ。


 だが、そんな彼女の考えは自らの意志で一蹴されることになる。今日までヘトヘトになって帰ってきた自分のことを世話してくれたラケルやアベルにお礼でもしたい。彼女はそう考えたのだ。


 そう考えた彼女は今日はラケルに感謝の気持ちを伝えようと、早速行動に移る。あいにくアベルは特訓のために隊に合流して王都付近の見回りに出ているため、今日何かをすることは出来ないが、ラケルは魔技の本を読んでいる。お金だって多少はもらうことができたし、何かお礼をすることぐらいできるはずだ。


 そう思い、ナターリアは早速ラケルのいる部屋に歩き始める。一分もしないうちに辿り着いたナターリアは彼女に声をかけた。


「ラケルちゃん」


「ん? どうしたの?」


「うん。ちょっとお茶でもどうかなって。いつもお世話になってるし」


「えっ? 別に何もしてないよ?」


「ううん。私がいっつも疲れて帰ってきて何もできないのに、二人が私の分までいろいろとやってくれるから。そのお礼をしたくて」


「別にそんなの気にしなくていいよ! ナターリアちゃんは自分の目標のために頑張ってるだけだもん。それを支えるのは友達として当然だよ」


 ナターリアの申し出を断ろうとするラケル。しかし、ナターリアは折れようとせず、強引に彼女を連れ出そうとする。


「いいの! 私が気にするんだから! お茶一杯私のために飲んでも罰は当たらないでしょ!」


 ラケルに近づいた彼女は本を読む彼女の手を取ると強引に立たせようとする。それを受けてラケルは少し顔を歪める。


「ちょ、引っ張らないで……。わかったから。お茶ごちそうしてもらうから」


「じゃあ早く行こう! 魔技のことでも話しながらゆっくりしよ!」


 勢いのまま、ナターリアはラケルを引きずるようにして進む。引きずられているラケルは少々強引さを感じながらも悪い気はしていなかった。


 屋敷を離れて十分ほど歩いた二人は一軒の茶店に入る。この店はこのためにナターリアが目をつけていた店だ。雰囲気もいいし、客層も穏やかでゆっくりとした時間を過ごすのにもってこいの店であった。


 店に入り、オーソドックスなティーセットを頼んだ二人。最初はこういった小洒落たものを頼むのは気が引けていた二人であったが、今では何とも思わず、堂々と振舞うことができる。


 席に座り、ティーセットが届いたのを確認した二人はお茶を楽しみながら年頃の少女のように話を始めた。もっとも内容はとても年頃の少女のものではなかったが。二人共の色気のある話の一切もなく魔技のことばかりであった。


「なあ、あの二人可愛くね?」


「わかる。俺、本持ってる子がタイプ」


「俺、さっきからその子に話しかけてるほう」

 

 和やかな時間を過ごす二人。そんな彼女たちに男たちから視線が向けられていた。二人の座る席がテラス席で通りに面しているのも一役買っていた。二人とも周りの人間が言わないし、本人たちも真面目に受け取らないため、あまり気にしていないが二人とも十分に美少女と言える部類である。そんな二人が楽しそうに話しながらお茶を楽しんでいる。絵になる光景であることは間違いなかった。


「なぁ、ちょっと声掛けに行ってみろよ」


「行ってみるか? 気難しそうな感じはしなそうだし」


 そんな彼女たちに遠巻きに見ていた男たちのうちの一グループが声をかけようとする。多少、警戒心を持たれるだろうが、それ以前に声をかけなければ始まらないだろうという気持ちからであった。一歩踏み出して彼らが声をかけようとしたその時。


「お二人さん、今暇かな?」


 彼らより先に二人に声をかけた男がいた。いつの間にか、二人すら気づかないうちに、触れられそうな距離まで近づいていた男に驚いて身を強張らせるラケルとナターリア。一体誰かと、顔を上げ確認しようとする。


 そして男の顔を見た瞬間、二人の思考が一瞬停止した。目の前に絶世の美少年が立っていたからだ。比べるのもあれであるが、今まで会った男性の中で飛び切りの美少年。その驚きで二人は一瞬声すら上げられなくなってしまった。


「座ってもいい?」


「あ、ハイ……」


 停止した思考の中、問うてくる声に思わず肯定の形で答えてしまったナターリア。その声に従い、男は残った二つのイスに座り込む。先客に取られてしまったことで彼女たちに声をかけられなくなった男たちは素直に引き下がった。


 男が椅子に座ったことで正気に戻り、思考能力が回復する二人。自分たちで許可を出して座らせてしまった以上、ここで追い返すのも立場が悪い。とりあえず応対することにした。


「二人とも用心しないとダメだよ。二人とも可愛いんだから変な虫が寄ってきちゃうよ?」


 お前が言うなと二人とも突っ込みたくなるが、心の内で留めた。ニコニコと笑みを浮かべ続ける男に対して不信感を抱き続けているラケルは疑いの気持ちを隠すことなく彼に対してその目的を問いかけた。


「ところで私たちに何か用ですか?」

 

 すると、男はラケルの疑心に気づきながらも表情を変えることなく彼女の問いかけに答える。

 

「ん? いやぁ、僕こういうの好きなんだよ。知らない人に声かけて少しの間話すの。いろんな人の人間性みたいなのが見れて楽しいんだ。君たちに声をかけたのもそういう理由。だからちょっとでいいから話そうよ。お茶も僕の奢りでいいからさ」


 男の言葉を聞いて顔を見合わせる二人。無言のまま、視線で相談する二人はとりあえず男の提案に乗ることにした。白昼堂々、こんな人の目の届くところで何かをすることはないだろうと考え、自分たちの身に危険が降りかかる可能性は極めて薄いと判断したからである。


「わかりました。少しですよ? えっと……」


「ハルヴィーって呼んで。よろしくね」


「すみませーん。お菓子追加でお願いしまーす」


「うわっ。なんていうか……、図太いねぇ……。まあ別にいいんだけどさ」


 牽制がてらにお菓子の追加を要求すると、男は苦笑いを浮かべた。しかし、特に彼女たちを責めるでもなく、すぐに口角の上がった表情に戻り、二人となんて事のない会話を繰り広げ始めるのだった。




























「「ごちそうさまでした! すごく楽しかったです!」」


「うん。こっちもすごく楽しかったよ。いつかまた会おうね」


 ()()()()()()笑顔を浮かべながらハルヴィーと名乗った男に礼を告げる二人。二人は非常に満足そうな表情を浮かべており、もはや最初の警戒心などどこへやらといった様子であった。


 ハルヴィーは恐ろしいほどの人懐っこさと話術であっという間に二人の心に入っていってしまった。最初こそ警戒していた二人だったが、徐々にその警戒心も失われていった。彼が二人の魔技の話に入っていけたことも要因の一つである。


「じゃあ俺はこれで。楽しかったよ、また会う日まで」


「さようなら、お元気で!」


「またいつか会いましょうね~」


 三人は別れを告げそれぞれの帰宅の途につく。その帰り道、二人はハルヴィーについて語る。


「面白い人だったね~。それに魔技のことも教えてくれたし」


「強い冒険者の人なのかな。あんなに魔技についても詳しかったし」


 二人の持った彼の印象は非常に好意的。とはいえ昨日の彼を囲んでいた女性陣のように恋愛感情まで入っていなかった。ナターリアはやるべきことの前にそんなことは考えていられないし、ラケルは既に相手がいる。彼のことは話の面白い好青年としか見ていなかった。


 それが命運を分けることになることを彼女たちはまだ知らないし、今後一切知ることはなかった。


 その一方で、夕日の中を進むハルヴィーは独り言ちる。


「うーん、なんかあの子たちイマイチだったな。他に好きな人でもいるのか……。ともかく標的にする必要はないかな」


「え? いつやるのかって? うーん。今日中にはここを離れるつもりだし、三日後とかにしようかな。その時はまたいつものように頼むよ」


「そんなことより、そろそろ路銀がきつくなってきたなぁ。また、稼げるようなものの作り方教えてよ」


 ()()()()()()()()()()()()()()()()一人で呟き続けるハルヴィー。ひとしきり言葉にした彼は歩く速度を速めていく。同時に彼は、空気のように町の雑踏に消えていく。

 

 気配を消し始めてから三十歩もしないうちに彼の存在を認識できるものは誰一人としていなくなった。夜の影のように気配を消した彼は、夜の闇に紛れて王都を離れたのだった。



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 ぜひ次回の更新も見に来てください!


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