第4-4話 ガール・ミート・ヒドゥンキング
ヴェッスミシードとの顔合わせから一週間。鞘とラケルの防具の完成の約束の日。彼らは鍛冶師の町に向かっていた。ちなみにカルミリアは相変わらず多忙の身。ナターリアは特訓のために彼女について回っている。故に今回は二人きりである。
鍛冶師の町に入り前のようにスミシーの屋敷に足を踏み入れた彼らが工房に向かおうとすると、彼らを待ち構えていたかのように工房へ向かう通路からスミシーが姿を現した。
「おう、待ってたぞ。物は工房にあるからこれから取りに行くぞ」
彼に促され工房に向かって歩き始める。工房に辿りついた彼らがさらに奥まで足を踏み入れると、そこには以前、スミシーがつけていた籠手と同じような形をした籠手と、布かと思うほど薄い素材で作られた防具一色が置かれていた。
「これが俺たちの?」
「そう、こいつがお前たち用に作ったもんだ」
アベルが置かれたそれを指さしながら問いかけると、スミシーは自信満々の表情で答える。
「とりあえずつけてみな。きっとピッタリだと思うぜ」
彼に促されアベルは早速籠手を腕に、ラケルは防具を纏っていく。防具というものを始めてつけることになったラケルは二人に手を借りながら時間をかけて身に着けていった。
防具を身に着けた二人は正直戸惑いを隠せなかった。二人の防具は違和感を感じるどころか、まるで最初から身体の一部であったかのようにピッタリとフィットしたのだ。名工の技術がこれほどだと思っていなかった二人は驚きを隠せない。
「どうだ。気に入っただろう」
「……ええ、まさかここまですごいものを作ってもらえるとは」
「ほとんど重さを感じませんし、何よりすごく身体に合うんです。動いても違和感がありません」
二人の好意的な感想を聞き、スミシーは自分の作品の出来栄えに満足そうな笑みを浮かべた。
「嬢ちゃんの防具は魔獣の革に極限まで薄くした金属を重ねてある。軽くて丈夫、多少であれば伸びるからかなり違和感なく使えると思うぜ」
彼の言う通り、初めてつけるはずの防具にラケルは違和感なく対応することが出来ている。防具を付けて今まで通り動けるか、少し不安であった彼女であったが、これをもって不安を消すことが出来た。
「俺のほうは前にスミシーさんが使ってたのと同じやつですか?」
「少しばかり違うな。俺のは武器なんかを入れるだけの鞘だったが、お前さんのには特殊な能力をつけてある。魔力を消費して、自分の出したいところに障壁が出せるようになってる。一枚しか出せんけどな」
「でも俺は魔力なんてまともに使えませんよ?」
「そこは鞘に入るやつの魔力を勝手に吸い上げて溜め込んでおける。お前さんは障壁を出すイメージをするだけでいい。有効活用ってやつだ。試しにヴィザを入れてやってみな」
アベルは試すために背中のヴィザを籠手に収納しようとする。しかし、なぜかヴィザは鞘に入るのを拒絶する。
「グググ……。テメッ……、入りやがれ……」
しかし、その抵抗も長くは続かなかった。十秒ほど経つと気抜けしたように抵抗を止め、すんなりと鞘に収まるのだった。なぜ急に収まる気になったのか。昨日スミシーに言われたことが響いているのかもしれない。しかし、それは本人にしかわからない。
籠手にヴィザを収めたアベルは早速能力を試すことにした。彼自身は魔力を使うことはできないが、強制的に魔力を流された経験はある。
あの時の感覚を思い出しながら拳を突き出すようにして腕を出したアベルは、少し離れたところに障壁を出すイメージをする。すると彼がイメージしたとおりに半透明の障壁が現れる。
障壁が現れたことを確認したスミシーはつけている籠手から短剣を取り出すと障壁に向かって投擲する。短剣は障壁に移動を阻まれカランと高い音を立てながら地面に落ちた。
「投擲物ならこんなもんだ。最低二十回程度は守れる。直接攻撃も一回は耐えられるだろう。二回目以降はどうなるかわからんがな。うまく使えば離れたところにも手を出せる。一人じゃ手が足りないときもあるだろう。こいつを有効活用しな」
彼の言葉を聞いてアベルはピンとくる。これはラケルを攻撃から守るための防具なのだと。確かに多数の敵を相手にしたとき、彼女も攻撃に巻き込まれる可能性が出てくる。その時にこれを使えば、敵の相手をしながら彼女を守れる。そういう想定の下、スミシーは鞘にこの能力を付けた。
「……ありがとうございます」
「気にすんねぇ。守らなきゃならんのだろう。だったら頑張れ」
彼の心遣いを受け取ったアベルは深々と頭を下げた。そんな彼の感謝をスミシーはいつものように受け取った。
「とりあえず俺から渡すもんはこの程度だ。また入り用になるものがあればここに来い。可能な限り作ってやるからな」
スミシーの声を聴いたアベル達二人は、感謝の礼をすると、鍛冶師の町を立ち去った。
防具を得たことで、間接的に戦力増強することができたアベルは早速鞘の使い勝手を試そうとする。
「俺はこれから試しにこの鞘を使いに行ってくるけど、ラケルちゃんはどうする?」
「私は……。防具をつけたばかりなので戦いに行くのはちょっと早い気がします。ので一人で散歩でもしてますね」
「ん、わかった。それじゃこれ。気を付けてね」
アベルは彼女一人が遊ぶのに不自由ない金額を渡すと外壁方向に向かって走り始めた。とりあえず、彼は基本外壁付近で訓練をしていることの多い獣鏖神聖隊の面々に付き合ってもらうつもりであった。
勢いよく走っていったアベルの背中を見送ったラケルは、気持ちを切り替えると一人で町をぶらつき始めた。王都の中は恐ろしく広い。ここについてから二週間以上が過ぎているにも拘らず、まだ回れていない場所が数多くある。最近の彼女の楽しみは魔技の勉強をすることと、王都内を散策することである。故に一人で町中を歩くこの時間も悪くはない時間であった。
今日は思い切って王都の中心付近を見て回ってみよう。そう思った彼女はゆっくりとその方向に足を進める。
王都の中心というのは王城の近くであるという関係上、高級店が多く立ち並んでいる。故に彼女一人で足を運ぶことはなかった(もっともアベルがいても彼はあまり行きたがらないが)。彼女が今日そこを回るのを決めたのもただの気まぐれである。
それからしばらく歩いて高級店街に辿り着いたラケル。見ただけでわかる高級さに圧倒された彼女はやっぱり辞めようかとも思ったが、ただ見るだけならば遠慮する必要は無いだろうと思い、一度喉を鳴らし、脚を踏み入れていった。
高級店街を見て回るラケル。やはり置かれている商品は見るからに高そうな商品ばかりで店頭に裸で置かれている商品など一つもない。店の外から見える商品はすべてガラスのショーケースの中に入っている。それほど高価な品物なのだろう。
それは見るだけでもはっきりと分かる。つくりもしっかりしているし、デザインも趣向が凝らされている。それゆえに触ったりせずとも見ているだけで楽しめる。
ラケルはゆっくりと歩きながら一店一店の商品を目で楽しんでいく。彼女はそれだけのためにやっていたのだが、その行動が傍から見て誤解を生んでしまった。
「ちょっとお姉さん。さっきから何も買わないで見てるだけだけど何やってるのかな?」
「えっ? ただ見てるだけですけど……」
二人組の男が彼女に近づいてくると、彼女に声をかけてくる。
「ホントに? ずっと見てたけど、お店にも入らずにガラス越しに見てるだけで。お店の商品盗むために物色してるんじゃないの?」
どうやら彼らはラケルが商品を盗むための下調べをしているのではないかと疑っているらしい。まあ、ただふらふらと歩き回っているだけの彼女がそう見えても不思議ではない。
が、そんなつもりのない彼女からしてみればとんでもないとばっちりである。彼らの疑いを晴らすべく否定する。
「いえ、違いますよ! 本当にただ時間を潰すだけに見てただけなんです!」
「そういわれてもねぇ。ちょっと向こうで話聞かせてもらってもいいかなぁ?」
しかし、彼女の言葉を聞いてまだ疑いの目を向ける二人組。彼らは人気のない場所を指さしながら、ラケルについてくることを要求する。
このままでは疑いが晴れないんじゃないかと考えたラケルは、身の潔白を証明するため仕方なく彼らについていこうとする。
「いたいけな少女をだまして発散か? とても人とは思えんな」
そんな彼女を引き留めたのは男の声。三人が声のほうを向くと、そこにはなぜか、この国の王であるギランが護衛の一人もつけずに立っていた。
「あ? 何だてめえは?」
「そんなろくでもない手段で少女を騙すなど人の道に反すると言ったんだ。耳が遠いのか?」
男の問いかけにギランは煽るような口調で返す。それを聞き頭に血が上った男はギランに詰め寄ろうとする。が、もう一人の男がそれを止めた。今彼らがいるのは王城近くの高級店街。こんなところでトラブルなど起こそうものならば即座に衛兵がすっ飛んでくる。それは避けたい。
「チッ……。覚えておけ」
短く言い残した二人組は、ラケルに背を向けると一目散にその場から去っていく。何が起こっているのかわからないラケルは首を傾げることしかできなかった。
「危なかったな」
そんな彼女に声をかけながらギランは近づいていく。彼の言葉でさらに混乱を深めたラケルは彼に状況を問いかける。
「あの、あの人達って?」
「奴らは何の関係もない一般人だ。さも店に関係あるように振舞って、騙しやすそうな人間を騙し、金を巻き上げたり暴行を振るったりするような連中だろう。ついていったらお終いだった」
彼の説明で自分が騙されかけていたことを知り、ゾッとするものが背筋を奔るラケル。もし、彼が止めてくれずについていってしまったらいったい何をされていたのだろうか。
「あの、ありがとうございました!!!」
そのことでギランに感謝を覚えたラケルは深々と頭を下げ、感謝の気持ちを伝えた。それを小さく手を上げることで受け取ったギランは再び声を上げる。
「気にするな。あのまま止めなかったら目覚めが悪いからな。とはいえ君の行動に漬け込むような奴らが悪いが、漬け込まれるような行動をする君にも非はある。疑われるような行動をしないようにな。なぜ一人でここに?」
「普段は一緒にいてくれる人がいるんですけど、今日はみんな忙しいみたいで。それで時間つぶしに歩き回っていたんです。あっ、私ラケル・ヘルブミアって言います」
「ヨミゴルド・アールだ。よろしく」
彼は本来のギランという名前でなく偽名をラケルに伝えた。それに彼はいつものような高級感あふれる衣服ではなく、町の青年が着るような服を着ており、化粧や髪形を変えることで身元がバレないように変装を施していた。まるで自分の身分がバレたくないかのようである。
「なるほど、君のような女の子を一人にするとは悪い奴もいたもんだ」
彼はわざとらしく、彼女を口説くかのような口調で声を上げる。以前、彼女が王城に来ていた時にギランはラケルの顔を遠巻きながら見ている。当然、ラケルがアベルたちといたことも知っており、彼との関係も知っている。
「ところで俺もこれから店を見て回るつもりなんだ。一人で暇なんだろう? だったら俺と見て回らないか? そのほうが変な疑いもかけられないだろうし、ちょうど女性の意見を聞いてみたいものを買うんだ?」
わざとらしい声を上げたギランは続けざまに彼女に一緒に回らないかと誘いをかけた。こういった軽い感じの口調は慣れていないが、必死でそれを隠しながら彼は声を上げていた。
それを聞いたラケルは彼に軽い疑いの目をかけた。彼もまた先ほどの二人組のように自分を狙っているかもしれない。先ほどの話を聞いて疑わないほうがどうかしているというもの。
しかし、彼女はすぐにその疑いの目を向けるのをやめた。彼は一度自分を助けてくれている。彼の人柄は少なくとも先ほどの二人組よりかはいいはず。だったら別についていっても大丈夫なのではないか。彼の行動は彼女を油断させるための手段とも考えられるのだが、彼女の脳内にそのような思考はない。彼女はどうかしている側の人間だったらしい。
実際ギランはそんなことをするような人間でないため、間違っていないと言えば間違っていない。ただ、もう少し警戒心というものを彼女は持ったほうがいい。
「大丈夫ですよ。お誘いありがとうございます」
彼の申し出をラケルは快諾する。
「オーケー。それじゃあ行こうか?」
「はい。よろしくお願いします」
一緒に見て回ることに決めたラケルとギランは、二人仲良く肩を並べて高級店街を歩き始めるのだった。
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