第4-3話 ソードマン・シェイクハンド・スミス
ヴェッスミシードに改めてアベルは神装使いとして認められた。
彼の顔の横で蹴り足を止めていたアベルはゆっくりと足を下ろした。そんな彼に対してスミシーは手を差し出した。
「改めて王国鍛冶師、ヴェッスミシードだ。何か戦いに入り用なものが出来たら言ってくれ。同じ神の力を振るうものとしていつでも作らせてもらおう」
「アベル・リーティスです。よろしくお願いします」
差し出された手を自分の名前を告げながら掴み取ったアベル。両者はお互いの顔を見合わせながらしっかりと握り締め合った。
十秒ほど握手を交わし合った二人は、手を離すと声を上げる。
「すまんが、ヴィザに変わってくれるか。少し奴に聞きたいことがある」
「はあ、わかりました」
彼の要求に応えるため、アベルはヴィザに表に出るように要求する。しかし、彼は何故か表に出て彼と話すのを渋っている。
しかし、出てもらわなければ話が進まない。無理やり彼を表側に出す。
「はあ……。何の用だ、オッサン」
「なんだじゃねえ。お前俺が造ってやった鞘はどうした?」
スミシーはヴィザを睨みつけるようにしながら問いかける。前に作ってもらった鞘という単語を聞き、アベルはそんなものあっただろうかと、疑問を抱える。少なくとも彼の知るところで鞘なんてものは見ていない。
問われてバツの悪そうな表情を浮かべたヴィザは視線を逸らした。しかし、スミシーは逃がすつもりもないらしく、視線を逸らすことなくじっと彼を見つめ続けた。
それに耐えきれなくなったヴィザはやっと重い口を開いた。
「五百年前の戦いで壊された……」
苦しそうにその言葉を吐き出したその瞬間、スミシーから鉄拳が飛来する。それを予想していたかの如くヴィザは肉体の制御権をアベルに返還し、その拳から逃れた。一方で飛来する拳を押しつけられたアベルは拳を回避する暇もなく、立ち尽くすことしか出なかった。
肉体が返還されたその直後、アベルの頬に拳がめり込んだ。ヴィザが受けようとアベルが受けようと肉体に蓄積されるダメージは同じだが、自分が受けるのと他人が受けるのとでは精神的な痛みが違う。あえて攻撃を受けたい人間などもの好きでない限りいないのだから。
拳が直撃し、体勢を崩したアベルの胸元を掴むスミシー。彼は非常に怒っているらしく、歯を食いしばり目を三角にしている。
「貴様どういうことだ! 俺の作った装備を壊しただと!? いったいどんな使い方をした、言ってみろ!? というか隠れてないで出てこい!!!」
怒声を上げまくしたてるスミシー。彼自身もとっくにヴィザが隠れてしまっていることに気づいてはいるらしいが、その事実だけでは怒りが収まらないらしく怒りのままに掴んだ胸元をブンブンと振りまわしている。
しかし、彼の声に反してヴィザが表に出てくることはない。何十回とスミシーがアベルの身体を振り回しても出てこないため、もう今日のところは出てこないと判断したスミシーはそこでやっとアベルの胸元から手を離す。
「まあいい。今日のところは勘弁しておいてやるからな、ヴィザ。次は覚悟しておけよ。ところでもう一人いるって聞いていたがそいつはどうした? そこの娘っ子じゃないだろう」
場の空気を変えるために話題を切り替えるスミシー。彼の問いに対してカルミリアが答える。
「彼女は今日のところは連れてきませんでした」
「なんでだ。いっぺんに連れてきたほうが時間を取らんだろうが」
「そうはいってもですね。あなた、彼女にも同じことをするでしょう? 彼女はまだ素人です。そんな彼女をあなたと戦わせるのはちょっと」
「むう、確かにやるつもりだったが。まあ、別に理由があるんなら別に構わん」
彼女の答えを聞いて納得した様子を見せる。初対面にあれをやるあたり少々あれではあるが、実力が明確に足りない人物に強要しないあたりマシかもしれない。
「しっかし」
スミシーは落ち着いた様子を見せると、突然声を上げ、アベルとカルミリアを交互に見つめる。何の話だろうかと思いながら彼の言葉に耳を傾けていると、彼は言葉を続けた。
「こうしてお前たち十人が同じ時期に活動してるのはいつ以来だ? 十人揃ってるのは俺の記憶が正しければ相当前だったはずだが」
彼の言葉を聞き、カルミリアが答える。いや、厳密には答えているのは彼女の身体を借りたアボリスである。
「ヴィザが五百年間眠りっぱなしだったから、最後に十人揃ったのは八百年くらい前だったはず。その前が確か……、千五百年前だったはずですね」
「そんなだったか。しかし、あれだな。お前ら十人が揃うときは大概とんでもないことが起こるからな。まあ、これも運命なのかもしれんな」
「え? どういうこと?」
「あ? 鈍い奴だな。昔から武器になった住人が同時期に活動すると大抵そいつらが戦い始めるんだよ。しかも大半が同じ場所に集まってな」
「つまり……」
「大規模な戦いが起こるかもしれねえってことだよ」
スミシーの言葉にアベルは耳を疑った。まさかそんな時期に自分が神装使いになってしまうとは思ってもいなかったのだ。魔獣を倒すだけでも大変なのに同じ神装使いとも戦わなければならない。もしそうなれば熾烈な戦いになるだろう。自分に務まるか不安で仕方なくなった。
しかし、彼の思考には間違いがある。正確には思考の順序が逆。世界の重要な時期に彼が神装使いになったのではなく、彼がヴィザを目覚めさせたことで世界の重要な時期、転換期が訪れたのだ。彼がヴィザを目覚めさせたのもまた運命なのである。
「マジか……」
しかし、そのことを知らない当の本人からすれば堪ったものではない。これからの戦いを想像し頭を抱えるのだった。
「がんばれよー。例外はあれど基本的に神装使いは神装使いにしか対応できないんだからな」
「ヴェッスミシード殿。彼に余計なプレッシャーを与えないでください。それに大規模な戦いが起こることはそもそも確定していないことです」
「あんだよ、事実を言っただけじゃねえか」
しかし、そんな戦いは起こらないほうが民にとって幸せなのは当然のこと。民の安全を第一に考えているカルミリアがスミシーを窘めると彼は不満げな声を漏らした。確かに大規模な戦いが起こるというのは歴史に照らし合わせると正しいのだが、言葉にすると本当に起こりそうな気がしてくる。それを防ぐためにもわかっていても声にしないほうがいい。
それをスミシーも理解したらしく、もうそれ以上話を深堀せずに話題を別のものに切り替える。
「ところでアベルよ。お前に鞘を作ってやろう」
「どうしたんすか急に」
スミシーの急な提案にアベルは口調が崩れながらも答える。
「いやなに、革の鞘に入れておくというのはあれだしな。それに前に使っていた鞘は壊れたと本人が言っていたからな。新たに神装使いになったお前にプレゼントというやつだ」
口角を好意的に上げ説明するスミシー。確かに神装を革製のどこにでもありそうな鞘に入れておくくらいだったら、国一番の鍛冶師の作る鞘に入れたほうが見栄えもいい。アベルも彼の提案を好意的に捉え、快諾しようと考えていた。
しかし、そんな彼に待ったをかける存在がいた。
「待て、それはそんなもの使わないぞ」
アベルの口から放たれた真っ向からの拒絶の意思。
「うるせぇ。俺の鞘を壊すような奴がいっちょ前な口きくんじゃねえ」
そんな彼の意思はスミシーに一瞬でくじかれた。さっきの言葉が誰のものかをすぐに理解したスミシーは彼の言葉に耳を傾けようとしなかった。今、彼が話しているのはアベルであって、ヴィザではない。
「構わんな?」
「…………ええ、ぜひお願いします!」
ヴィザから肉体の制御権を取り返したアベルは、スミシーの提案を快諾した。この時、あえてヴィザのことは考慮しなかった。彼の意見を交えては場がややこしくなるだけ。
「それじゃあ、一週間以内に仕上げてやる。来週、またここに来い。それと後ろの嬢ちゃん」
「は、はいっ!」
今まで、話しに入らずにアベルたちのやり取りを見ているだけだったラケルにスミシーの視線が向く。
突然声を掛けられたことで一瞬戸惑った様子を見せたラケル。そんな彼女に対してもスミシーは一つの提案をした。
「ついでだ。お前さんにも防具を作ってやる。飛び切り軽くて丈夫な奴をな」
「えっ、良いんですか!?」
「構わんよ。それよりもあんさんがこいつに守られるだけの存在になっちまう方がお互いにとってよくねえからな」
スミシーがアベルを脇腹を小突きながら告げる。それを受けてラケルは少しばかり表情を暗くさせた。やはり今の私は彼に守られるだけの存在でしかないのだと。そう見えている事実を改めて突きつけられたような気がした。
しかし、そんなことは自分だってわかっている。だからこそ彼の足手纏いにならない努力をすると決めたじゃないか。だったら今はその言葉に甘んじろ。悔しい気持ちをばねにして前を向き続けろ。
「よろしくお願いします!」
元気よく声を上げながら頭を深々と下げたラケル。彼女の元気のいい行動に好感を覚えたスミシーは小さく笑みを浮かべた。
「よし。それじゃあまた明日ここに来な。防具を作る以上身体の寸法を測らんといけねえからな。ああ、安心しろ。ちゃんと同性に測らせる。俺は何もしねえよ」
とりあえず二人は今必要なものを作ってもらえることになった。
一時間近く、鍛冶師の町に滞在したアベルたち。ヴェッスミシードとの顔合わせを終えた彼らはこれ以上町の活動を妨げるわけにいかないと町を後にするのだった。
「あの、神装って十本あるんですよね? どんなのがあるんですか?」
町を進むアベルは、カルミリアに問いかける。これから神装使い同士の激しい戦闘が行われる可能性があるという事実は彼の恐怖心を煽っていた。当事者となることが確定している彼は少しでも情報が欲しかった。
すがるような気持ちで問いかけたアベルにカルミリアは答える。
「そうだな……。あまり正確とは言えないが、過去の文献などで語られていることからある程度説明できるぞ」
一度口を閉ざしたカルミリアは一拍おいて説明を始める。
「まずは君の魔神剣ヴィザリンドム。彼は生を司る神として使用者に海のごとき魔力を与えたらしい」
「ああ。だからこいつは俺にほとんど力を与えてくれないのか……」
彼がアボリスヒイトのような絶大な力を与えてくれないのは、魔力を使いこなせないとどうしようもないからであるとアベルは理解した。故に魔力を扱うための手段、すなわち魔技を使いこなせるようにならなければならなかった。
「次に私の灼神槍アボリスヒイト。彼は太陽神として太陽の力を与えてくれる。圧倒的な火力とすべての源となる母なる力だ」
彼女はさらに続ける。
「サドリティウス殿が持つ狂神弓ルーネビリティ。彼女は月と狩猟の神として月と弓の力を与えてくれるとのことだが、月の力というのはいまだにどういうものかわかっていない」
「地神斧ユガルネウェイン。ナターリア君が持っている斧だ。彼女は豊穣の神として大地と水と自由自在に操作する力を与えてくれる。その気になれば一切作物の実らない不毛の土地を一瞬で作り上げることが可能だ」
彼女の説明を聞いてごくりと唾をのむアベル。彼女の話を聞いて改めて思い知らされる。神装は使いこなすことができれば、世界をまるで綿を千切るがごとく簡単に破壊できてしまうのだと。それほどまでに強力なものなのだと。
「ここまでが君の知っている神装だ。そして五本目、空神双剣クライネルン。空間を自由自在につなげて物を移動させることができる。これの所有者は不壊竜骨跡地の頭目だ」
「あ、知ってますよそこ。世界に見捨てられた、いわゆるならず者って呼ばれる人たちが集まって活動している場所ですよね」
「ああ、あそこは我々もどうにかしたいと考えているのだが、彼らをまとめるリーダーが恐ろしく強くてな。兵隊を送り込んでもどうにもならんし、かといって私が行ったらそれこそ戦争になって被害が甚大になる。だから王国も手を出せんのだ」
不壊竜骨跡地の説明をしながら頭を抱えるカルミリア。彼女の様子を見る限り本当に困っているのだろう。
「あとは私自身はあまり詳しくなくてな。戦争を司る戦神鞭ボロアス。知恵を司る智神杖グリダングルス。死を司る亡神鎌サーディン。光と闇を司る対神両剣ロウド・スタウト。そして、極東の国からほとんど出てこないせいで情報のない名も知らない一振り。この十本でこの世界の神装は成り立っている」
「そして、残りの四柱は彼らを見守りながら世界を管理している……」
「まあ、ヴェッスミシード様以外はあまり表舞台に出てこないがな」
「この辺はナターリアちゃんとも共有しておいたほうがいいですね」
「それもそうだな。今の説明は相当簡単だったからあとで詳しく教える時間も設けることにしよう」
神装について話す二人。
その後、自分の仕事に戻った彼女を見送ったアベル達は、昼ご飯を食べるためにナターリアと合流することにしたのだった。
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