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第4-2話 スミス・コンフィルム・アビリティ

 カルミリアの口から彼が四柱のうちの一柱であることを告げられたアベル。その脳は混乱の極致に至っていた。


 そんな彼の様子を見て眉をひそめたヴェッスミシード。どうやら彼はアベルが彼女の言葉の意味を理解できていないことに気づいたらしい。


「おい、ガリーズ。お前、この男に俺のことを話してねえのか?」


「本人を目の前にした方が理解しやすいと考えたので」


「アホか。わかりやすさに重きを置いて、紹介の時点で混乱してちゃ世話ねえじゃねえか?」


 彼女の意見を聞き、溜息を吐く彼。しかし、起こってしまったことに文句を言っても仕方がない。これ以上彼女を責めることなく、話を進めることにした。


「……まあいい。とりあえず、俺は今作ってるそいつを片付ける。その間に説明しておけ」


 カルミリアが挟んで保持している作りかけの剣を火箸で掴んだヴェッスミシードは一度彼女たちに背を向けた。その間、彼に言われたとおりにアベルに説明をすることにしたカルミリアは、再度アベルたちのほうを向いた。


「すまない。聞いての通りだ。彼の説明をさせてくれ。彼は神装の神々と同じように全力を振るえないように人の形をとっていない。だが、彼は力を振るうために一つ工夫をした。彼は人の身体を依り代とすることで力を振るえるようにしたんだ」


「ヴィザたちが剣の形を取ったのに対して、彼は人の身体を借りたってことですよね」


「物分かりが早くて助かるよ。とはいえ借りるためにも力を発揮するためにも条件はあるがな。それでも彼はアボリスたちよりも自由に力を振るうことが出来る」


 彼女の説明を聞き、ヴェッスミシードの在り方を理解していくアベル。それを理解してか、カルミリアはさらに説明を続けていく。


「それで彼はさらに効率よく力を振るうために依り代の数を増やした。意識を世界中に分散したのだ。現在、彼は世界中に三百人いるとされている。そのうえで王国に籍を置いているのは、そのうちの三人。彼はそのうちの一人なんだ」


「まあ、王国に協力してるのは俺一人だがな。あとの二人の俺は適当にこの世を楽しんでるさ」


 カルミリアではない第三者の声が割って響く。そのほうを向くと、手を布で拭きながら近づいてくるヴェッスミシードがいた。手を拭いた布を適当にその辺に投げ捨てた彼はアベルの前に立つ。


 王国一の鍛冶師を改めて顔を合わせたアベル。彼は予想外のビックネームと出会ったことで期待に近い感情を覚えていた。王国一、そして鍛冶神である彼は一体何を言うのだろうか。ちょっとした不安を抱きながらも彼は期待の眼差しで彼を見つめ返していた。


 その一方でアベルをじっと見つめ続けているスミシー。アベルを見つめる彼の目には失望の感情が混じっていた。


「まだ必要最低限ってとこだな……。おい小僧」


「はい」


 スミシーの呼びかけにアベルは視線を逸らすことなく応じる。

 

「お前は何のために戦ってきた? そして、これから何のために戦う?」


 そしてスミシーはアベルにこれから戦いに身を投じる理由を問いかけた。


 その問いかけにアベルは答えをすぐに頭の中で出す。それはもちろん、魔獣の恐怖におびえる人たちを救うため。そして、困っている人たちを助けるためにこれからも戦う。


 この答えを頭の中でまとめたアベルはそのことをスミシーの問いに対する答えとして言葉にしようとした。だが、それは喉から声をなって出かかったところで止まる。もちろん止めたのは本人の意思である。


(多分違うんだろうなぁ……)


 言葉にしようとしたとき、スミシーの顔を見てふとこのように思ったのだ。そんな当たり前のことが聞きたいのであれば、わざわざ聞いてこないだろう。そんなことはきっと戦士となって魔獣と戦うことになった誰もが考えているはず。彼が聞きたいのはそれとは別のアベル自身の考えなのだ。


 一度、言葉にしようとした考えをリセットし、改めて何のために戦うかを考え始める。一言も発さず、目を瞑ったまま考え続ける彼に発破をかけるようにスミシーは声を上げる。


「どうした。こんな簡単なことにも答えられないのか?」


 しかし、アベルは発破をかけられても一切動じることなく、思考に集中する。そしてそれからたっぷり一時間ほど考えた末、瞼を開き、声を上げた。


「……俺はこの子が親に捨てられたって知ったときにこの子のことを絶対に守ると誓いました」


 アベルはスミシーをじっと見据えながら言葉を紡ぐ。言葉の中で誰のことを言っているかは言及されていないが、文脈からラケルのことを指しているのだとスミシーは理解した。


「俺は今まで、究極的に言えばこの子を守るために戦ってきた。そしてそれはおそらくこれから先も変わらない。いや、これから先生きていけばもっと守るものは増えるかもしれない」


「だからこそ。俺は守るって決めたものくらいは守りたい。そのために俺は全力を、この命を懸けて俺たちに牙を向けてくる奴らと戦う」


 アベルはそう言い切った。それを表情一つ変えずに聞ききったスミシーは眉に皺を寄せた。


 先ほどまで自信たっぷり、何にも動じることなく自分のこれから戦う理由を語ったアベルであったが、一切表情を変えないスミシーを見て、一転して不安そうな表情を浮かべた。 


「あの……、ダメですか?」


 アベルが不安そうに問いかけると、スミシーは声を上げた。


「まあいいだろう」


「へ?」


「まあいいだろうと言ったんだ。お前のことを認めてやる。神装、ヴィザリンドムを持つものとしてな」


 アベルは彼の言葉に混乱するが、どうやら認めてもらえたらしい。その事実を混乱しながらも認識したアベルはホッと胸を撫で下ろす。


「よし、じゃあ次は表に出ろ」


「は!?」


 だが、次にスミシーから告げられた言葉にアベルは疑問の声を上げる。そんな声に当事者であるスミシーは不思議そうに首を傾げながら声を発する。


「当たり前だろうが。俺が認めたのは精神的な面だけだ。戦闘技能なんかの肉体的な部分はこれから見るんだよ。健全な精神は健全な肉体に宿る。当然だろう」


「それだったら精神的な部分を認めてもらった時点でいいんじゃ……」


「いくら肉体が健全だろうと、弱かったら意味がないだろう。神装使いに最も大切なのは戦闘の強さ。お前さんが弱かったら完全に認めるわけにはいかんからな」


「んな無茶苦茶な……」


「グダグダ言ってねえでとっとと表に出やがれ。この俺が直々に腕を見てやるって言ってるんだ。これ以上文句を言うつもりなら炉の中に頭ブチ込むぞ」

 

 アベルの主張を悉く跳ね除け、立ち会うことを決定してしまったスミシーは入ってきた扉に向かって歩き始める。取り残された三人の内、カルミリアがアベルを慰めるように肩を叩いた。


「すまんな。ああなったら彼は聞かないんだ。少し付き合ってくれ」


「……まあ別にいいんですけどね。もうちょっと段階を踏んでほしかったなぁって」


 当人のいないところで文句を言ったって仕方がない。アベルは気持ちを切り替えると、扉に向かって歩き出すのだった。




























 屋敷から出て、手ごろな広場に移動したアベル達。彼らのいる広場の周りでは暇なのか、他の鍛冶師たちが野次馬として見物している。


 アベルと相対するヴェッスミシードは、武器の一つも持たずに足を肩幅に開いて直立していた。


「……いいの?」


 アベルはこれから戦うとは思えない彼の姿を見て、思わず問いかける。


「ああ、構わん。先手は譲ってやる。とっととかかってこい」


 アベルの質問の意図として『武器を持っていないがこのままかかっていっていいのか?』というものだったが、うまく伝わったらしい。彼は短くその問いに答えると、戦闘態勢をとる。腰を落とし、両手を身体の前で軽く広げる。徒手空拳の構えだ。


「……じゃあ遠慮なく」


 スミシーの言葉通り、先手をもらったアベル。ヴィザリンドムを背中から引き抜くと両手で構え、相手を様子をうかがいながら、ジリジリと間合いを詰めていく。


 二人の間合いがあと三歩ほどで制空権が触れるところまで近づいたところでアベルが約束通り先に行動を起こした。一瞬のうちに剣を片手の逆手持ちに持ち帰ると、スミシーに向かって投げつけた。


 二人の距離はかなり近く、防具もつけず無手のスミシーでは防げないはずの一撃。しかし、投擲された剣は甲高い金属音を響かせながら、宙に舞うという結果に終わった。


 投擲された側、剣を弾いた張本人であるスミシーはどこからか取り出した手斧を振り抜いた体勢で保持していた。体勢から鑑みて彼が剣を弾いたということになる。 


 傍で見ていたラケルはどこからともなくスミシーが武器を取り出したことに驚きを隠せなかった。しかし、アベルは冷静で落ち着いており、短く、そして小さく声を上げた。


「やっぱり」


 まるで最初から武器を持っていたかのような声を上げるアベル。しかし、スミシーの服は身体のラインに沿ったゆとりのないものである。物を隠す余地などどこにもない。


「その口の利き方。まるで最初から分かっていたみたいだな」


「んー。まあ、牽制のつもりで投げたんだけど。鍛冶神だし、素手で武器相手に殴り合うようなタイプじゃないと思った。だから投げてみたらなんかしてくれると思って」


 アベルは宙に舞う剣を引き戻しながら、スミシーの問いかけに答える。隠せるような場所はないが、スミシーが武器をどこかに隠し持っているというのは彼は動物的な直感で理解していた。


 だから、とりあえず牽制で剣を投げつけてみた。そしたら武器を見せてくれた。先ほどはその程度のことであった。しかし、最も適切な方法でスミシーの手を一つ明かすことができた。何も考えずに突っ込めば、いきなり武器を出され、不意打ちで傷を負ってしまっていたかもしれない。そのことを考えると彼の行動は適切であると言える。


「てか、その腕につけてるの。籠手とかじゃないよね?」


「こいつは俺の造った鞘だ。籠手としての機能もあるがな。どんな形でも武器をしまうことができるし、普通に鞘を持ち歩くよりもかさばらん」


「へぇー。いいねそれ」


「さあ、おしゃべりは後だ。続きをするぞ」


「了解」


 アベルは剣を握りなおすと、左下段に構えスミシーに向かって駆け出した。三か月以上にわたる訓練や魔獣との戦いでアベルの動きはこれまで以上に洗練されている。目にもとまらぬ速さで距離を詰めると剣を振り上げる。


 しかし、スミシーは予測していたかのごとく、手斧で受け流すと両手でアベルの頭に向かって振り下ろした。それを剣で受け止めようとするアベル。幸い受け止めるのに十分間に合う。余裕をもって振り下ろしの軌道に剣を差し込むことができた。


「なっ!?」


 だが、アベルが剣を差し込んだ時には手斧は既にスミシーの手から離れていた。投げつけるようにしてアベルの脳天に襲い来る手斧を受け止め弾いたアベル。その時既にスミシーは鞘となる籠手から別の武器と取り出そうとしていた。


 それもただ取り出すのではない。いわゆる抜刀術のようにして勢いよく手槍を取り出し、その勢いのまま手槍を投げつけた。狙いは胸部。あたれば致命傷になりかねない。


 が、これもアベルは身体を逸らすことで回避する。戦闘経験を積んだアベルにはこの程度では通用しない。


 しかし、そこまでスミシーは織り込み済みであった。アベルの重心は先ほどの回避の際に崩れてしまっている。それが彼の狙いであった。


 回避したアベルの体重のかかっているほうの足を払い、彼の体重を崩した。それによりアベルは膝をつくようにして転倒する。さらに倒れた際に地面に切っ先が付いた剣を踏みつける。おかげで剣を持ち上げられない。ここまでやれば並みの戦士では躱せない。


 アベルが並以下なのか、それとも以上なのかを見極めるため、スミシーは最後の攻撃に移る。鞘から剣を取り出し、アベルの脳天に向かって振り下ろした。ここでどうするかによって認めていいかが決まる。彼は一体どっちなのだろうか。ダメなら死んでも別に構わない。そういう気持ちでスミシーは全力で剣を振り下ろした。


「なるほど……。お前はそっち側か」


 しかし、アベルは並以上側の人間であった。剣を握っていた手を離すと振り下ろしを躱せる程度に横に移動、立ち上がる勢いを利用しながらスミシーの顔に向かって蹴り上げていたのだった。先ほどの呟きは躱す間もなく、顔の横で蹴りを寸止めされたことでアベルの実力を見たスミシーの感嘆の呟きであった。


 洗練されているわけではない野性的な動きであるが、攻撃を回避し反撃に転じてきた。もはや認めざるを得ない。


「参った。俺の負けだ」


 スミシーは剣を下ろすと両手を上げ敗北を認める。こうしてアベルは精神的にも肉体的にも認められるのだった。





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