第3-18話 ソードマン・ラーン・デンジャラスグループ
ヘリオスの案内で店にたどり着いたアベル達。
豪華絢爛な外観で高級そうな雰囲気を感じ取ったアベルは不安を覚えヘリオスに耳打ちする。
「大丈夫なんですかこんなお店?ここで食べるんだったら俺も払いますよ?」
しかし、ヘリオスはアベルの問いかけに手を振って否定する。
「ああ大丈夫大丈夫。ここ馴染みの店だからさ。それにオジサン独り身でお金余ってるんだ。さ、入ろう。店の前で固まってても迷惑だからね」
そういうとヘリオスは半ば押し込むように三人を店に入れた。
彼の言葉通り、店員にすんなりと受け入れられたヘリオスは店員について歩き出す。アベルたちもその後を追うと、少し歩いた後個室に辿り着いた。
個室に入り、席に着いた四人。高級感漂う雰囲気に女性陣は緊張気味だ。
「あの……、こんなお店大丈夫なんでしょうか。マナーとか私知りませんよ?」
ラケルの主張に同調し、ナターリアは首を縦にブンブンと振る。それをヘリオスは再び否定する。
「この部屋は今、オジサン達しかいないから好きなように食べればいいよ。それに下手にものとか壊さなかったら怒られることもないし、楽にしてても大丈夫だよ」
ヘリオスの声を聞いて肩まで力が入ってガチガチになっていた二人の力が抜ける。
「さあ、とりあえず食べながら話をしようか。ここで話すだけじゃもったいないしね」
そういうとヘリオスはベルで店員を呼び料理を注文し始めるのだった。
「で、すいません。あの時ラケルちゃんはなんであんなに慌てていたんですか?」
食事もなかほどまで進んだところでナターリアが店に来る前のことを問い始める。その説明をすっかり忘れてしまっていたアベルたちは少し慌てたように説明を始める。
「そうだった。そのことについて説明しないとね。俺たち、二人で町を散策してたんだけどその時に怪しい奴らに襲われたんだよね」
「そうなんですか!? 大丈夫だったんですか?」
「まあ、見ての通り特に問題はないんだけどね。襲ってきた奴らが問題だったんだよね」
自分たちの事件を説明したアベルはヘリオスに視線を送った。彼のほうがこの説明をするのに適していると判断したが故の行動であった。
アベルの視線を受け取ったヘリオスはテーブルにフォークを置き説明を始めるのだった。
「みんなは大地信教団って知ってるかな?」
「名前くらいは知ってますけど」
「じゃあ、彼らがどんなふうに活動してるかを説明しようかな。彼らは大地が今いる世界をつくったと考えている人たちの集まりでね。王国内のありとあらゆるところで活動してる。じゃあ何をやってるかというと、彼らは世界は大地が造ったと考えており、あとから勝手にやってきた神々が邪魔な存在であると考えている。故に彼らは神々を信仰している人々や神装使いをこの世界から消し去ろうとしている。いわゆる過激派ってやつだね」
「それってすごく危ない人たちじゃないですか! そんな人たちにアベルさんは襲われたんですか!?」
「まあ、その二人組は戦闘訓練を受けてたわけじゃなかったみたいだから大丈夫だったんだけどね」
声を張り上げるナターリアに返答するヘリオス。その一方でその事実を踏まえて彼女の身に危険が迫っていることに気づいていないナターリアに少々呆れたような視線を向けた。
このままではそのことに彼女は気づかないと判断したラケルはそのことを言葉として伝える。
「ナターリアちゃん……。神装使いが狙われるってことはあなたも狙われるってことなんだよ……」
「あっ、だからあんなに心配そうにしてくれたんですね!」
ラケルに言われてその事実に初めて気づいた彼女は嬉しそうに声を上げた。彼女の様子に一抹の不安を覚えながら会話を進めていく。
「まあ、国中に教団の人間はいるから気を付けてねって話なんだけど……」
「でも不思議ですね。なんで彼女のほうは襲われなかったんでしょうか」
「よくよく考えればそれもそうだね。二人と一人だったら普通、一人のほうを狙うだろうしね。もともと彼女にも刺客はついていたけど何らかの理由で行動を起こせなかったとかかな? 人通りの多いところでは襲えなかっただろうし」
「でも俺らの刺客はある程度人目のあるところで襲ってきましたよ?」
「あっそうか。だったらなんで襲ってきたんだろ?」
ナターリアが襲われなかった理由について考察を深めるアベルとヘリオス。
「ここのお料理美味しいね」
「そうだね。お肉もすっごく柔らかいし」
そんな二人を他所にナターリアとラケルは料理に舌鼓を打っていた。
襲われた当事者である彼女たちが和やかに会話していて危機感というものはないだろうかと思う二人であったが、先ほどの会話を考えてもこれ以上話したところで答えが出ることはないだろう。
アベルもせっかくの料理を楽しもうとフォークとナイフを手に取るのだった。
それから四人は料理に舌鼓を打ち続けた。四人全員が満足したところで料理屋を後にすることになった。
「ヘリオスさん、ごちそうさまでした。」
「どういたしまして。明後日の謁見頑張ってね」
礼を言うナターリアたちに対して、軽く手を振って応えると背を向けて町の雑踏に消えていった。残された三人はカルミリアの屋敷に戻るために、夜の王都を歩き始めた。
「神装使いが嫌われて狙われるなんてこと怖いですね……」
「なんか他人事みたいに言ってるけど当事者の一人だからね。ラケルちゃん」
「わかってますよぉ。これからは気を付けます」
道を歩きながら大地信教団について話す三人。これから彼らは狙われる立場になる。それに狙われることになってしまったのはラケルだけではない。
ラケルは王都に入ってくるときに神装使い三人と王都に入っている。その現場を見られているが故に彼女は日中二人組に狙われたのだろう。見るから町娘なナターリアが神装を持っていたこともラケルが神装使いの一人なのではないかという疑いを持たせる一因になっているだろう。
これから魔獣だけでなく、教団からもラケルを守らなくてはならなくなる。アベルの負担は増すことになる。それでもアベルは命がけで彼女のことを守らなければならない。
潰されそうな重圧に圧し掛かれながらも、これは彼が選んだ道である。守れないのは男としても人としても失格である。音が響かない程度に程度に頬を張って、アベルは気持ちを引き締め直すのだった。
そのまま屋敷のそばまで戻ってきた三人。あと一つ、角を曲がれば門が見える。あとは、従者の人に頼んで開けてもらえば離れに辿り着くことが出来る。今日はいろいろあって身体も疲れている。早く戻って休みたい。
そんなふうに考えながら門を曲がったアベル。そんな彼の目に映ったのはカルミリアと、門の前で歓談する背の高い男であった。夜の闇で顔はよく見えないが。その二人を見た途端、なぜか見てはいけないものを見てしまった気分に陥ったアベルはバックステップで角に身を隠す。
突然の奇行に眉をひそめた二人はその理由を問いかける。
「何やってるんですか、アベルさん?」
「……そこの角から屋敷の門見てみな」
アベルの言葉に従い、二人は門を除く。すると笑顔、というよりにやけ顔になり、キャアキャアと年相応の声を上げ始める。
そんな彼女たちの声を聞き、カルミリアはどうやらアベルたちの存在に気づいてしまったらしい。
「そこの角に隠れている奴。今すぐ出てこい」
彼女は隠れている者に警告すると同時に手のひらの上で火の玉を作り出す。警告に従わなければ彼女の火の玉が襲い掛かることになるだろう。
彼女の言葉を聞いたアベルたちは角から彼女の前に姿を現す。三人の姿を見てほっとしたような表情を見せたカルミリアは、手のひらの火の玉を霧散させた。
「なんだ君たちか。なぜ隠れていたんだ?」
「いやぁ、お邪魔しちゃいけないかなと思って」
「なんだそんなことか」
アベルは言い訳をしながらカルミリアたちのほうに歩み寄っていく。近づいていくにつれて月明りで彼女と話している人物の顔が見えてくる。彼女と話していたのは目の下が薄いクマで染まっているが、顔の整った男性であった。身長が高めのアベルと並んでも彼よりさらに高く、カルミリアと並ぶと身長差がすごいことになっている。
「この際だから紹介しておこうか」
「テイオン・ファーマジーです。妻がお世話になっています」
テイオンと名乗る男が自己紹介をしながら頭を下げる。しかし、名前の続いて発せられた言葉に三人の思考が停止する。
「え、妻?」
「てことはご夫婦ですか?」
女性陣二人が問いかけると、テイオンは照れたようにはにかみ、頬を掻いた。
「ええ、ありがたいことに」
「「へぇ~。なんだかお似合いですね」」
「そういってもらえるとありがたいです」
テイオンの言葉に二人は声をあわせて祝福する。一方でアベルが視界をカルミリアに視線を向けると彼女は自慢げな表情を浮かべてどことなく胸を張っていた。
「それじゃ私は仕事に戻る。三人を頼むぞ」
「わかりました。行ってらっしゃい」
カルミリアがテイオンを見上げながら言う。それに応えてテイオンも返す。これから彼女は仕事に戻るらしく何か理由があって戻ってきたらしい。
出発の挨拶をしたはずのカルミリア。あとは彼らの背を向けて王城に向かうだけなのだが、彼女は動こうとせずにテイオンを見つめている。何か顔についているのだろうかと、テイオンは首を傾げた。
その直後、カルミリアはテイオンの胸元に手を伸ばす。ガッと胸倉をつかむとグイっと引き寄せる。必然的にテイオンは屈むような形になる。
カルミリアはそんな彼の唇を奪った。人目も気にせずに口づけをした彼女は数秒ほど動くこともなく彼の唇を貪っていく。その光景に女性陣二人は顔を赤くし、アベルは何を見せられているんだと、眉をひそめた。
十秒もしたところで彼女はテイオンから離れ、パッと胸倉から手を離す。
「それじゃあな」
そういうと彼女は颯爽とその場を去っていく。なんと男らしい姿だろう。その場に残された者たちは一人を除いてときめきのようなものを感じていた。
「いやぁ……。どうもお見苦しいものを見せました……」
「えーと、そんなことないですよ!」
目の前で見せつけられたラケルたちはなんと言っていいかわからなくなるが、否定するテイオンの声を聞き、一瞬迷った様子を見せてから彼の言葉を否定した。
「こんなところで立ち話もなんだしとりあえず中に入ろうか。君たちもここで寝泊まりするんだろう?」
「あ、はい。喜んで」
テイオンに促された三人は屋敷に入っていく。女性陣が入っていき、次にアベルが続き、最後は家主のテイオンが入る。そんな中、テイオンがアベルのもとに寄って来る。
「アベル君、お酒は飲めるだろう? ちょっと私に付き合ってくれないかい? 私はあまり友人がいなくてね。友達と飲むとか、そういうのちょっと憧れてるんだ」
「はあ、構いませんよ。あんまり強くはないですが」
「よかった。それじゃ、時間が出来たら屋敷のほうまで来てもらえるかな。お酒を準備して待ってるよ」
そういうと彼は少々浮足立った様子で屋敷に入っていく。彼とは違い、離れで寝泊まりすることになっているアベルたちはその通りに離れに戻っていった。
ラケルたち二人が部屋で落ち着いたころ、アベルは屋敷に向かう。屋敷ではテイオンが既に酒とそれに会う軽い食事を用意していた。
それからは男二人だけで静かに夜が消化していった。アベルは今までの冒険の話、テイオンは彼女との馴れ初めや自分の仕事の話を持ち寄り、酒のつまみとして酒を喉に流していった。お互いの話の中で感じた驚きや感動といったスパイスは酒をさらに進める促進剤となった。
彼らが分かれたのは夜が明け、しらしらと周囲が明るくなり始めるときの事だった。いい大人のすることではないが、神装使いとして国王に謁見するのは明後日。せめて今日くらいはこのくらいは目を外しても許されるだろう。
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