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第3-15話 アフターオール、ゴッドメッセンジャー・ゲット・トラブル

 離れの部屋などを確認したアベルたちはこれからどうしようか考えていた。


「さて、これからどうしよっか? どっかにでも行こうか?」


 アベルの呼びかけに残りの二人は唸り声を上げ始める。唸り声をあげながらラケルはアベルのほうにチラリと視線を向ける。何かを彼に頼みたいらしいが、ナターリアの手前、言い出しにくいらしい。二人に交互に視線を向けながら唸っている。


 だが、そんな彼女の視線にはナターリアも気づいていた。一月も経たない短い関係であるが彼女がアベルに対してどんな感情を持っているかも知っている。故に彼女はどのようにしてこの二人を一緒にするかを考えていた。


「すいません。私ちょっとお手洗いに行ってきますね」


 しかし、こんなのは考える必要すらない。その場から離れてしまえばいいのだ。お手洗いを口実にその場を離れた彼女は置いてあったメモ用と思われる紙に軽く書き残すと、そのまま離れを後にし町に繰り出した。そのままの勢いで町をぶらつき始める。


(さてと。これからどうしようかな)


 彼女は歩きながら内心これからどうしようか考えるのだった。着の身着のままでこの世界に放り出された彼女は金など対して持っていない。恰好は最低限カルミリアの好意で整えられているが、とてもお茶を優雅に飲み、装飾品を買うなどといった行為は出来そうにない。


(まあ、適当に歩いて回って時間を潰しておこうっと。贅沢は言ってられないもんね)


 彼女は金を使わないでこの王都を楽しむ選択肢を取った。幸い、王都は広大でその分、店も多い。見て回るだけでも十分に楽しめるだろう。小さな町で生まれ育った田舎者の彼女であればなおさらだろう。


 その考えのもと彼女は王都を散策し始める。そんな彼女のもとに忘れ物と言わんばかりに物体が飛翔してくる。


「ウェイン様!? そっか私忘れて……。でもどうして私のところに?」


 幸い、音もなくウェインが飛んできたことで人目はさして集めていない。


『所有者の所に来るのは当然のこと。あの二人に気を使って出てきたんでしょ。私が話し相手くらいしてあげる』


「……ありがとうございます」


 所有者と口にしてくれたこと、話し相手になってくれるということでうれしくなり感極まったナターリアは目に涙を貯めながら、ウェインに感謝を告げた。


『それより人目を引いてるからここを離れたほうがいい』


 そんな彼女をウェインは強引に現実に引き戻した。人目を引きにくかったとはいえ、まったく人目についていないというわけではない。道路の真ん中で涙ぐむ少女、その前で浮いている斧、あまりに不審すぎる。


 斧を手に取ったナターリアは足早に路地に入り、その場を離れる。しかし、その足取りはとても逃げている人物のものであるとは思えないほど軽やかであった。


 一方、離れでナターリアが戻ってくるのを待つ二人。彼らはいつまで経っても戻ってこないのを不審がってラケルが様子を見に行き、そこで彼女が既に離れにいないことを知った。


「何も言わないで行っちゃったの? 言ってくれればお小遣いくらい渡したのに……」


 ナターリアが何も言わないで行ってしまったことに軽くぼやく。


「まあ後で会えばその時に渡せばいいか。ここにいても仕方ないし、俺たちは二人で適当に見て回ろう」


 しかし、いないものは仕方ない。これから自分も歩き回るのだ。その時にすれ違えばその時に渡せばいい。そう考えたアベルはラケルを誘って王都を探索することに決める。


 そんな彼の傍で必死にいつも通りの柔和な笑みを浮かべているラケル。弛めようものならばとろけてしまったと勘違いされるほど頬が緩むだろう。彼女からすれば願ったりかなったりの状況である。


「はい! お供させてください!!!」


 ラケルはアベルの提案に大きな声で返事をする。


「じゃ、行こうか」


 アベルはラケルを伴って王都に繰り出すのだった。



























 王都に繰り出したアベルは早速腹ごしらえのために屋台で軽く摘まめるものを買い、道端で食べ始める。食べながらラケルに言葉を投げかける。


「ラケルちゃん、何か欲しいものある?」


「いえ、特に今欲しいものは……。カルミリアさんに服なんかも整えてもらいましたので……」


「そっかぁ……。それじゃ、適当に見て回って何か気になるものがあったら買おうか」


 アベルが主導となってこの後、時間をどのように使うかを考える。ラケルは自分の金でないということで遠慮がちである。まあ、さすがに良識ある人間ならそんなものである。


「アベルさんは服を変えたりしないんですか?」


「そうだなぁ……。最初に買い替えたときから一回も変えてないし、その間戦い詰めで結構もうボロボロだしなぁ。ここで適当に変えておくのもありかも」


「お付き合いしますよ。アベルさんに似合うのを選ばせてください」


「ありがとうね」


 食べ終わったアベルたちは再び歩き始める。しばらく歩きながら道沿いに出された様々な商品を見て楽しんでいると、道沿いに出された一着の服に目が止まる。


 それに近づいて触り始めるアベル。しばらく触ったり裏側などを見たりしていた彼だったが、しばらくして一人で店に入っていってしまう。


 十分ほどして戻ってきた彼の格好は、彼が興味を示していた服装に変わっていた。


「ごめんね時間を取らせちゃって」


「さっきの服、買っちゃったんですか」


「よさそうだったからね」


 購入を即決したことに驚きの声を上げるラケル。それに対して特に何も思わずにアベルは答える。いいと思ったものを買うのに躊躇う必要は無いというのが彼の考えである。


「それじゃ次はラケルちゃんのものを買おうか」


 服装を新たにし心機一転したアベルは自分の服の話を切ると、どこか嬉しそうに話題をラケルに切り替える。そして再び町中を歩き始めるのだった。
























 それからしばらく王都を満喫していた二人。初めて見るスイーツに舌鼓を打ったり、パンチングマシーンのような興行でアベルがその月一番の成績を取ったり、今までアベルだけが持っていた旅の必需品をラケルにも買い与えるため、町の雑貨屋を片っ端から見て回ったりなどして楽しい時間を過ごし続けていた。


 しかし、そんな楽しい時間はトラブルによって遮られる。悲しいかな。アベルの下にはトラブルの方からやってくる(というより神装使いにはトラブルがつきものである)。


 大通りから少し離れ活気もそこそこといった場所を歩いている二人。視線をあちらこちらに振りながら王都の散策を楽しんでいたのだが、アベルの目に妙なものが入ってきた。ローブを着込み、太陽が出ていて暖かいなか、フードまで着込んで顔を隠している二人組。それも人目に付かないように物陰に隠れながらアベルたちについてきている。


(なんだかな、あれ……)


 内心、彼らのことを不審に思いながらもラケルがいるため、行動を起こしづらいアベル。彼女に危害を加えずにどう対処すればいいか考える。


「あの……」


 すると、ラケルのほうから声が飛ぶ。


「後ろにいる二人……。ずっと私たちについてきていますよね……」


「ありゃ、気づいてた?」

 

 どうやら彼女も二人組の存在に気づいていたらしい。彼女が気付いているならば話は早い。彼女の協力次第でいくらでも対処のしようがある。


「あの二人、どうしよっか? 明らかに俺たちのことを尾行(つけ)てきてるし」 


「何が目的なんでしょうか……」  


「ちょっと協力してもらってもいいかな?」


「わかりました」


「じゃあ、ラケルちゃんは少し人目に付くところでそこら辺の物を物色しててもらえるかな? 俺は軽く距離を取ってラケルちゃんのことを見ておくから」

 

「囮ということですか?」


「というよりどっちが狙いが判別付けれたらいいな、って」


「なんとなくわかりました。それじゃあ私はあの屋台でも見てますね」


「りょーかい。ついでに何か欲しいものがあったら買ってきていいよ」


 アベルは財布からいくらか小銭を出すとラケルに手渡し、そのまま直進、彼女から離れる。ラケルは自然な立ち振る舞いで屋台に向かって行く。まだ、戦士になって半年も経っていないが、修羅場をいくらか乗り越えているため、アベルもらしい動きになってきている。


 何事もなかったかのように振る舞い、路地裏に入ったアベルは走り始めると立ち並ぶ民家の屋根に軽業師のような動きで登り、元居た通りが見える場所まで戻っていく。ラケルと二人組、両方が見える位置まで移動したアベルが通りを見下ろすと、ラケルは屋台の店主と話しながら商品を物色しており、二人組は離れる直前に確認した位置から移動していなかった。恐らく何の前触れもなく二人が分かれてしまったことに動揺して動けなかったのだろう。


 しかしアベルとラケルが分かれたことで行動を起こしやすくなったと判断したのか、二人組はすぐに動き出す。ローブの中に手を入れた二人組はその体勢のまま歩き出す。その歩みの先にはラケルがいる。どうやら今回の目的は彼女、あるいは二人とも目的で先に楽そうな彼女を優先したといったところらしい。


 とはいえどっちにしろラケルが狙われていることには変わらない。アベルは彼女を守るために行動を起こす。幸い二人組は並んでラケルに近づいている。取り押さえることになってもそう面倒なことにはならないだろう。


 軽く助走をつけて屋根の上から跳び上がったアベルはそのまま二人組の後ろに着地する。着地と同時に振り返った彼はラケルに近づきつつある二人の肩に手を掛けた。


「お二人さん。俺の連れに何か用?」


 威嚇するような獰猛な笑みを浮かべながら二人に問いかけるアベル。それを受けて二人組は身体を硬直させる。さて、どう言い訳してくるだろうかとアベルは二人の行動を待つ。


 しかし、返ってきたのはとても平穏なものではなかった。一瞬顔を見合わせるように首を振った二人は、突然振り返るとローブの中に入れた手を引き出した。太陽の光を反射してきらりと光る銀色の何か。間違いない。短剣であった。


 突き出される短剣に対して咄嗟に後方に跳び紙一重のところで回避するアベル。そのまま、二人組から距離を取りながら様子を窺う。


 二人組は興奮したように息を荒げており、短剣を身体の前で構えている。威嚇する魔獣といった野生の動物と同じ気配を放っており、少なくとも正気には見えない。


「キャーッ!!!」


「誰か衛兵を読んで来い!!!」


 そんな二人組に当然町の住民たちも気づき悲鳴を上げる。


 しかし、二人組はそんな彼らの声など聞こえていないかのよう。


「この世界は大地が作り出したもうたもの!!!


「神に仕えし者、死すべしッ!」


 二人組は短剣を両手で握り直すと目の前のアベルに向かって跳びかかる。両者とも無茶苦茶な勢いで突撃すると胴体に向かって刃物を突き出した。


 しかし、アベルは冷静に対処する。一連の動きでこの二人が戦闘に関して素人であることを見抜いたアベルは、このままよけ続けていてもどうにかできるかもしれないと考えるが、戦闘が長引けば他の人々に危害が加わる可能性がある。それはあまりよろしくない。可能ならば速やかに制圧したほうがいい。かといって剣を抜くわけにもいかない。彼らと同じ土俵に立っては自分もあらぬ疑いを掛けられかねない。


 アベルは突っ込んできた二人組を横に移動して躱すと、もう一人の足を払い転倒させる。勢いよく走っている状態から足を払われた二人組のうちの一人は大きくつんのめりうつ伏せに倒れこむ。


 二人組を分断したところで残りのもう一人を制圧することにしたアベルは素早く間合いを詰めるとローブ越しに顔に平手を打ち込む。その痛みで一瞬怯んだ様子を見せた敵をアベルは素早くうつ伏せに引き倒す。そして肝臓部分のあたりに三発拳を叩きこんだ。

 

 痛みに呻いた敵はジタバタと暴れてはいるが、力が籠められないのか抵抗が軽い。これは戦闘不能にできたと考えていいだろう。念のため、もう一発拳を入れておく。


 さてどうにか拘束したのちもう一人を制圧しようとするアベル。敵の上に乗りながらもう一人のほうに視線を向ける。


 しかし、事態はそう簡単には終わらない。もう一人の方が何やら奇妙なものを手に持ち、アベルに向けていたのだ。短剣より少し大きく、持ち手の先が筒状になっている。刃はついておらず一見、鈍器にしか見えない。


 次の事態を予測し身構えるアベル。しかし、次の瞬間起こったのはアベルの予想の範疇になかった出来事であった。


 敵が持ち手を強く握ったかと思うと、筒の部分から銀色の何かが飛び出してくる。円筒状のそれは風切り音を立てながらアベルに向かって飛翔する。突然、攻撃されたことにアベルは思わず顔の前に腕を上げ防御態勢を取った。その直後、アベルに銀色の円筒が直撃した。


 次の瞬間、銀色の円筒が轟音を立てて爆発した。それと同時に周囲に黒色の粉末が撒き散らされ、何も見えなくなってしまう。


「失敗だ! 撤退するぞ!!!」


 見えなくなった空間に先ほど攻撃してきた敵の物を思しき声が響き渡る。同時にアベルの身体に衝撃が奔る。思わずよろめき体勢を崩したアベル。その下にいた敵がもう一人に引きずられるようにしてその場から離れていった。粉末が沈み、視界が通るようになったときには、二人組はその場から消えていた。


「どけどけ、この粉末は何だ! 一体何があった!!!」 


 そのあとすぐ、群衆が呼んだ衛兵たちがやってくる。荒らされたこの場を見て声を荒げる衛兵がその真ん中にいるアベルを睨みつけた。


「お前か! 一体ここで何をした!?」


 詰め寄ってくる衛兵にどう説明するか悩むアベル。群衆の人間たちもアベルが問題を起こした側の人間でないことはわかっている。しかし、群衆もどう説明すればいいかわからず助け舟を出せないでいた。


 しかし、そんな彼らの前に予想外の助け舟が現れる。


「ハイハイ~。ごめんなさいね~。ちょっと通りますよ~」


 現れたのは鎧を脱ぎ、平服を着込んだヘリオスであった。服装を見る限り非番らしいが、それでも彼が頼れる人物であるのは変わらない。アベルは彼に頼ることにした。


 しかし、彼が声を上げるまでもなくヘリオスは状況を理解したように行動を起こした。


「あ~? ああ、彼への聞き取りとこの場を収めるのははオジサンがやっておくよ」


 そんなヘリオスの声に異議を唱えようとする衛兵であったが、彼は仮にもエリート部隊の戦士である。言われれば否定することはできない。不満げではあるが、彼の指示に従って衛兵はその場を去っていく。


「やれやれ。アベル君また襲われたのかい?」


「別にわざとやってるわけじゃないんですけどね」


 差し出されたヘリオスの手を掴み、立ち上がったアベルは服に着いた土埃を払った。


「それで? 一体何があったの? お茶でも飲みながら聞かせてもらおっか」


 神妙な面持ちに顔を変えたヘリオス。彼は先ほどの宣言通り、アベルに事情聴取を始めるのだった。





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