第3-14話 ソードファイターズ・リーチ・ロイヤルキャピタル
王都に向かうために旅を続けていたアベルたち。一月近くという長い時間と、数々の困難を乗り越えて、彼らはようやく王都に到着した。
「これが王都メンディマか……」
「おっきいですねぇ……」
「山みたいです……」
アベル、ラケル、ナターリアの王都を知らない三人は口々に王都に対する感想を呟いていく。彼らが見上げている王都メンディマは広大な敷地がアベルの十五倍はあろうかという壁で囲われており、その上には何やら砲撃用の設備も備えられている。
何より目を引くのはただでさえ大きい壁の向こうからでもはっきりと見える巨大な王城であった。ナターリアが山のようと言ったのも間違いでないと思うほどに大きく、ある程度商隊の一員として旅をしてきたアベルも初めて見るほどの大きさであった。
その規模に比例するように、人の往来も激しく、四角の壁の四本の辺に作られた門からはひっきりなしに人が出入りしている。これらがあと数キロはあろうかというところから見て確認できるのだから恐ろしい。
「すんごいでしょ。今までさんざん越えてきた壁の最終地点。この国の魔獣防衛の最終防衛線さ」
「なんでオッサンが偉そうにしてんのさ」
ヘリオスが三人を見て自慢気に鼻を鳴らすが、それに横から他の隊員が茶々を入れる。それを聞きヘリオスはシュンと落ち込んだ様子を見せる。
「そんなふうに落ち込むなよ、いいオッサンがさ。見苦しいぞ」
「はぐわッ」
兵士からの追撃にヘリオスは膝をつく。そんな彼の様子など気にしたことではないと言わんばかりに兵士たちは横を通り抜けていく。
「立てヘリオス。遊んでいる暇などこれっぽっちもないぞ」
ようやく声をかけてくれたのは隊長のカルミリアであったが、その言葉に優しさなど詰めの先ほども含まれていない。かけるだけかけてさっさと行ってしまう。
どうやら優しくなどしてくれないことを悟ったヘリオスはまるで先ほどまでの態度が嘘であるかのようにスッと立ち上がる。
「あーあ、誰も優しくしてくれない。少しは年長者を敬うべきだよね」
「敬うべき場面を分けてるだけさ」
ヘリオスの愚痴に近くの隊員は口を返す。そんな言葉に反論せずにヘリオス自身もスタスタと歩き始める。なんなんだと思いながらもアベル達も続く。
王都のほうを見ながら歩く彼ら。そんな中でラケルが声を上げた。
「あっ! あれなんですか!?」
彼女の指さす方向には一本何かが立っていた。王都の王城から少しズレたところにあるそれは雲をも貫きながらそびえ立っている。それ。初めて見るそれにアベルとナターリアも目を丸くした。しかし、アベルの頭の中で思い当たるものが一つ思い浮かんだ。
「世界樹……」
「そうそうそれそれ」
アベルがポツリと呟くとヘリオスがそれに相槌を打つ。するとラケルも驚いたような声を上げた。
「え? 世界樹ってあの世界樹ですか?」
「そ、雲すら超えて上ったものは神になれるとすら言われている人類未開の場所。最後のフロンティアさ」
「なんか聞いたことありますね。その木の根元のあたりでは未知の出来事がたくさん起こるって」
「そういうのの解明に王国もある程度探索しようとはしてるみたいなんだけど、何があるかもわからないしお金もかかるしで実質的に最上位の冒険者の道楽に近くなってるみたい」
歩きながら世界樹のことを話すアベルたち。話しながらのせいか体感時間も短く感じられ、王都へどんどん近づく。するとナターリアがポツリと小さく呟いた。
「しかし、あんな大きな城に住んでる王様に私たちはこれから会うんですか……。緊張しますね……」
彼女の言葉で世界樹の話がいったん途切れる。緊張した面持ちの彼女を見て、つられるようにアベルもゴクリと生唾を飲んだ。これから彼らが顔を合わせるのは一般階級では顔を見ることすら難しい国王である。粗相をすればどうなるかわからない。そのことを彼女の言葉でアベルも改めて思い出したのだった。
そんな彼女らの様子に気づいたヘリオスがスススと寄ってくると彼らの緊張を解くための言葉をかける。
「そんなに緊張することはないよ。今の国王様はすっごく器の広い人だから。ちょっとやそっと失礼を働いたところで起こるような人じゃないよ。なんせオジサンが間違ってこの口調で話しかけた時でも何も言わなかったような人だし」
「それは単に呆れて物も言えなかったって言うだけなんじゃ……」
「うわ辛辣。こう見えてもオジサン、偉い人の前ではちゃんとするんだよ? その時はうっかり出ちゃっただけで」
「それはともかくとしてもやっぱり緊張しますよ」
「まあ、失礼にならない程度に振舞えば大丈夫だよ」
国王の謁見を前に会話が弾む三人。その様子を蚊帳の外になりながら見ていたラケルは少し寂しそうにしながら見ていた。
「皆さん大変そうですねぇ……。頑張ってくださいね」
「そういえばラケルちゃんは関係ないもんね。いいなぁ……」
「みんなの話の輪に入れないのはちょっと残念だけどね」
そんな彼女をナターリアは優しく抱きしめる。ラケルもそれに応えるように抱きしめ返した。そんな少女二人が抱き合っているのが目の保養になっているのか、ヘリオスたち兵士は表情筋を緩くしている。
そんなときに彼らに喝を入れるのが隊長の役目の一つ。
「王都が近いからと言って油断するなァ!!! きびきび歩けェ!!!」
そんな彼女の一声に触発されたように表情をひきつらせた隊員たちは、慌てた様子で隊列を組みなおして歩き始めた。
そんな彼らを見て抱き合った体勢から戻ったラケルたちも再び歩き始めた。最後にアベルも歩みを進める。もうすぐ長い旅路の終着点。ここで魔獣に襲われて怪我でもしたら目も当てられない。
勝って兜の緒を締めよ、ではないが油断せずに旅を終えよう。それが一番である。気持ちを引き締めアベルは足を踏み出すのだった。
やっと王都の壁の真下までやってきたアベルたち。これから門をくぐることになる。門の前には多くの人々が並んでおり、この列に並ぶことになればそれなりの時間待つことになるだろう。
しかし、アベルが帯同しているのは獣鏖神聖隊。国のエリート集団である。それに加えてこの隊は隊長のカルミリアが控えている。国の中でもその地位はトップクラスである。
当然のように彼らは並んでいる人々の横を抜けて門に近づいていく。その姿を見て文句をいうものもなく、むしろ彼らを称えるような声がチラチラと聞こえてくる。
改めて獣鏖神聖隊の知名度というものを実感させられたアベルは溜息を漏らす。
門まであと少しというところまで近づいたところで門のほうから甲冑を着込んだ男が近寄ってくる。
「獣鏖神聖隊隊長ガリーズ殿、長期間に及ぶ国内の見回り、お疲れ様でございます。そちらの方々は?」
胸に手を当て敬礼を示した男はカルミリアたちの後ろに立っているアベルたちに視線を向けながら問いかけた。
「彼らは国王への謁見のために連れてきた。連絡はよこしたはずだ」
「ああ、彼らが例の……、わかりました。しかし、今一度確認を取りますので少々お待ちを」
「わかった。部下たちは先に入れてもらっていいか?」
「わかりました。では門を開けさせていただきます」
男が門のほうに合図を送ると、今列に並んでいる人々が入っていく門の横が開き始める。少しすると彼ら専用の通路と言わんばかりの門がもう一つ出来上がり、そこから隊員たちが続々と王都に入っていく。彼らの顔は明るく笑みを浮かべている。家族や恋人との再会が待ち遠しいのだろう。
その一方で待たされることになったアベルたち。彼らは列の人々の視線に晒されていた。
「なんか……。悪いことしてる気分になりますね……」
「気にするな、神装使いなどこんなものだ。堂々と胸を張っていればいい」
人々の視線に不安を覚えたナターリアが声を上げると、カルミリアが視線の壁になるように移動しながら彼女を励ますような声をかける。
視線による居心地の悪さはアベルも感じており、人々から背を向けるように体勢を変えた。しかし、そんな彼らに人々はさらなる興味を持ち、ひそひそと会話を始める。
「槍の神装使い、ガリーズ様だ……。相変わらず凛々しい姿だ……」
「その横にいる娘っ子たちは誰だ?」
「もしかしてあの男が新しい魔神剣の所有者か?」
「何、どういうことだ?」
「知らねえのかよ。今、噂になってるんだぜ。何百年も現れなかった魔神剣の使い手がつい最近現れたってさ」
「伝説のアグリスの剣か!?」
「おい、あの斧見たことあるぜ。前の獣鏖神聖隊の隊長が持ってた斧だぜ」
「てことはあのかわいい女の子が戦うってことか? マジかよ」
「え、じゃあもう一人の女の子も何か関係あるってことか?」
アベルたちを見ながら会話を続ける人々。しかし、声が大きいせいでアベルたちの耳にも届いており、居心地の悪さがさらに増す。早く入れてくれないだろうかなどと考えながら待っていると、その願いが届いたかの如く確認を終えた男が戻ってくる。
「確認できました。どうぞお入りくださいませ」
その言葉を聞きカルミリアを除いた三人は逃げるように壁の中へ入っていく。自分たちの知らない場所であるが故、彼女より先に入るのはマナー違反かもしれないが、そんなことは気にしていられない。三人は速足で壁の中に消えていった。
「神装使いが三人入っていった……。あとはそちらに任せるぞ」
三人に残されたカルミリアが後を追って壁の中に入っていく。それを見送り、一人残された男。彼は耳につけたイヤリングに手を当てると誰に聞こえないように小さく呟いた。一体誰と交信したのだろうか。少なくとも国を守るための兵士たちではないだろう。
「三人とも衆目に晒されるのを嫌がりすぎじゃないか?」
「あんな風に言われるのは誰でも嫌だと思いますよ。なんかありもしない悪事を突っつかれてる感じで。してないのは自分で知ってますけど、堂々とできるかは話が別ですよ」
そんなアベルの言葉に賛同するようにナターリアとラケルは首を縦に振る。
「知らない人にジロジロ見られるのはちょっと……」
「私はなんでもないのに、特別な人みたいに見られるのは……」
「ふむ、そういうもんか……。だが、これからはそういう目で見られることは当たり前になりかねない。早いところ慣れたほうがいいな」
三人の言葉を聞き一応の納得を見せたカルミリアであったが、視線に慣れるように三人に忠告した。
「とりあえず謁見は明後日だ。今日と明日は王都を見て回るなり、ゆっくりと休むなり好きにしてくれ。こちらで確保した宿まで案内するからそこからは自由に行動してくれ」
「わかりました」
謁見が明後日ということを聞き、首を縦に振ったアベル達はカルミリアの案内に従って歩き始める。王都内を三十分ほど歩くと周囲とは少々趣の違う豪華な建物が見えてくる。さすがは王都、一つの建物の規模が大きいなど考えながら、歩みを進めていると、カルミリアの足がその建物の前で止まる。
「え、もしかしてここですか」
「ああ、そうだ。ここは私の家なんだが君たちには客用の離れを使ってもらうことにした」
アベルが問いかけると、カルミリアの口からこの豪邸が彼女のものであることが告げられる。その事実を認識した三人は驚きで目を剝いた。
彼女は目の前の鉄製の門を開けると何の躊躇もなく足を踏み入れていく。自分の家なのであれば当然であるが、アベル達は少々躊躇する。
「どうした? 遠慮なく入るといい」
彼女に促されて三人はやっと足を踏み入れた。彼女の家は非常に広く。周囲の建物より二回りは大きい屋敷に加えて、それと同じほどの大きさの庭までついている。さらには庭の隅のほうに王都に建てられている民家と変わらない大きさの建物が建てられている。あれが彼女の言っていた客用の離れであろう。
「ひえ~。大きくてきれいなおうちですねぇ……」
「実は部屋を持て余しているからもう少し小さくてもよかったんだがな」
彼女の屋敷をきょろきょろと見回していたラケルが感嘆の声を漏らすと、カルミリアが肩をすくめながら自嘲するような声を上げた。
離れにたどり着いたカルミリアは扉を開ける。その向こうには客用と銘打つだけのしっかりとしたつくりの内装が広がっていた。
「君たちが王都に滞在している間、この離れは自由に使ってもらってもいい。何か必要なものがあれば本邸の使用人に言ってもらえればできる限り用意しよう」
「そんなに至れり尽くせりで……。いいんですか?」
手厚い扱いに不安を覚えたアベルがカルミリアに問いかけるが、彼女は顔色一つ変えずに答える。
「君たちは大切な客人だ。それにこの客間は対して使っていないし、君たち用の費用は上からもらっている。要は君たちが気にするようなことはないってことさ」
「下手に壊したりしたら、大変なことになりそうな物がチラチラ見えるんですけど……」
アベルがちらりと内装に視線を向けると高そうな壺や皿がある。これに割ったらとんでもないことになりそうだし、そもそも豪華な内装すら傷をつけられないというプレッシャーがあった。アベルと同様のことを残りの二人も思っているらしく、借りてきた猫のように縮こまっている。
しかし、そんな彼らの主張をカルミリアは笑い飛ばした。
「なあに、あの辺の壺は安物だよ。前に高い壺も置いてあったんだが、私が割ってしまってね。あのへんのは形だけさ。それに建物の傷は早かれ遅かれつくものさ」
「はぁ……。そこまで言っていただけるのであれば使わせていただきます」
「それならよかった。それじゃ私は自分の仕事に戻る。何かあったら本邸の使用人に言ってくれ」
「わかりました。わざわざここまでしていただいてありがとうございます」
「何、後輩の面倒を見るのは先輩の仕事だからね。それじゃ」
そう言い残すとカルミリアは離れに背を向けて一瞬にして姿を消す。どうやら離れの中からでは見えないほど高く跳躍したらしく、離れの外に出ると落下していく彼女が小さく見えた。
カルミリアに離れを借りることになったアベル達。とりあえずこれから自分たちの生活する場所を確認するために動き始めるのだった。
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