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第3-13話 ゴッドメッセンジャー・ノウズ・シークレット

 重要なことを知ることになった神装使い三人。三人は軽く緊張した様子を見せながら夜を待っていた。歴戦の戦士であるカルミリアまで緊張した様子を見せていたこともあり、隊の部下たちもその様子につられるように緊張していた。


 そんな感じでどうにもギクシャクした感じで彼らは夜を迎えた。ようやくこの時を迎えた三人は隊の野営所の端に集まる。カルミリアが持ってきた温かい葡萄酒を受け取ったアベルとナターリアはそばに会った切り株に座り込む。最後にカルミリアがそばの木に背を預けた。


「さて……、神々よ、世界が滅ぶだのなんだのの説明をしてもらおうか」


『ああ、それじゃあ説明しようか。神装が一本無くなったら世界に異変が起こるといった話は聞いたな?』


「えっ、そうなんですか?」


「ああ、俺もよくわからないんだけどヴィザたちによるとそうなるらしいんだ」


「そうなんですか……。ていうことは私がここにいるのはまずいんじゃ!?」


『その辺は後で説明しよう。ともかく我々神装が一人でも欠けてしまうと世界がおかしくなってしまう。夜に太陽が出たり、風も吹いていないのに洗濯物がはためいたりな』


 アボリスヒイトから説明される事実に身を震わせるナターリア。アベルも身体を強張らせており、カルミリアも眉をひそめている。そんな中、アボリスはさらに説明を続ける。


「この異変の数々は我々神装が十本あることでこの世界がバランスが取れているからだ。理解できるだろうか」


 アベルたちは彼の言っていることを理解し、首を縦に振った。しかし、ナターリアは少し理解が遅れているらしく、小さく首を傾けている。しかし、少し考えて意味を理解できたのか、表情を明るくさせた。


「十本の神装が世界のバランスを保っている。そこから一本無くなれば微妙なバランスで保たれている世界に狂いが生じるというわけだ」


「なるほど。でも話だけ聞くとそれってそう簡単に起こるものじゃないよな?」


『ああその通りだ。まず、神装というものは壊れるようなものじゃない。神装を壊すというのはいわば神殺しだ。現行の人類がまともな手段で神を殺すことは不可能、故に壊すことは難しい。神装が並行世界に跳ぶというのも、歴史上今回が初めてだ』


「つまり起こる確率はゼロに近いと」


『ああ、しかし今現在それは起こってしまった』


 アベルとカルミリアはその言葉を聞くと同時に、反射的にナターリアのほうに視線を向けてしまった。急に二人の視線を受けることになった彼女は慌てたような様子を見せる。無用な心労を与えてしまったことに気づいた二人は、罰が悪そうな表情を浮かべながら彼女から視線を逸らした。


『話を続けるぞ。神装が世界から一本失われてしまった後のことを説明しよう。まず先ほど説明したような異変が世界各地で起こる。今まで普通の暮らしをしてきた人々の生活に大きな問題が起こる。おかしくなった環境に適用できない多くの人間が死ぬことになるだろう』


 話しを聞いたナターリアがさあっと顔を青くさせる。 


『だが、適応できた人間はその後も生き残っていくだろう。残った神装の力も使って生きていけるだけの環境を作るだろう。故にそれだけで世界が滅ぶことはない。問題となるのはその後だ』


「その後?」


『パラミラズスと同じ、後から来た四柱の一柱、破壊と再生を司る神、ウリヴァッティスが世界の均衡を取り戻そうとする。今まで十本でバランスが取れていたのを九本でとれるようにするということだ。彼の力によって地上のすべてが滅ぼされつくし、何もなくなったところで新たに再生されることになる。この過程で人類はもれなく全員滅ぶことなる』


 アボリスの口から聞かされた衝撃の事実に言葉を失う三人。もはやなんといっていいかもわからないスケールに圧倒され、思考が追い付かない。


『だが、パラミラズスは快楽主義者であっても人類が滅びることを楽しむほど破綻してはいない。彼は人類が苦悩しながら前に進むことを楽しむタイプだ。そのことはしっかりと考えてこちらに神装を送り込んだと考えるのが妥当だろう』


「つまりは彼女の世界が滅びることはないと考えていいんだな?」


 いち早く思考能力を回復させたカルミリアが問いかけると、アボリスから肯定的な声が返ってくる。


『ああ。恐らくだが、彼女があちらに帰った時、彼女は送られた瞬間の時間、あるいはその少し後に送られることになるだろう。少なくとも彼女があちらに帰ったとき、既にあちらの世界が滅んでいるということはないだろう』


 そんなアボリスの答えを聞き、安心したナターリアは脱力し肩を落としながら、大きく息を吐いた。それも当然の事。世界の命運が彼女の肩に乗りかかったのだ。そんな重たいもの、彼女が十回人生を繰り返しても背負えるようなものではない。


「よかった……」


 息を吐き終わると彼女は蚊の鳴くように小さく呟いた。


「ていうかさ。この話今する必要あったか? 今すぐ、あるいは少し後だとしてもそう簡単に滅ぶようなもんでもないんだろ?」


 三人の周りの空気が緩んでいく中、アベルが自分の中で生まれた疑問を投げかけた。確かに彼に言うことはもっともでもある。世界が滅ぶわけでもない今、彼らにこのことを教えるのは逆に混乱させることになりかねない。


 しかし、アボリスはそんな彼に問いかけに対し、最初から想定していたかのように淀みなく答えを返す。


『このような事態が起こってしまったということは今後何が起こってもおかしくない。故に今後、世界を導く運命を背負うことになる神装使いとしてこのことを知っておいてほしかったのだ』


 アボリスの答えを聞き、一応納得した様子を見せるアベル。しかし、同時に重いプレッシャーを感じてもいた。世界を導くことなる運命、良いにしろ悪いにしろ、神装使いは世界を引っ張っていくだけの強大で場合によっては手の施しようのない力がある。今の彼らはそれを自分の意思で振るっている。それを改めて実感させられたのだ。


「話は理解した。とりあえずは、ナターリアが元の世界に戻るためには、ナギスと名乗った神装使いを倒すことが必要、と仮定して彼女を強くするための訓練をしていくことになる。アベル君にもある程度協力してもらうぞ」


「わかりました。俺も未熟者ですからついでにご指導いただきます」


「よし、それじゃあ明後日には王都に到着する。諸々の用を終わらせたら早速ナターリアは特訓に入るぞ」


「わかりました。よろしくお願いします」


 世界を守る神装使いとしての決意を露わにしたアベルとナターリア。二人は翌日に備え、行動を起こすのだった。





























 カルミリアたちと別れたアベルは、ヴィザと先ほどの話について語り合っていた。


「しっかし、お前たち神装があんなに重要な役割だったなんて。なんで教えてくれなかったんだよ?」


『教えたところで、お前たちには何もできないだろう。混乱してオタオタするのがオチだ』


「しかし、いきなり異変が起こったってほかの人たちが迷惑するだろ」


『神装が壊れた時点で、異変が起ころうが起こるまいが滅びの運命は変えられない。それなら何も知らないうちに眠るように死んだほうがお前たちにとっていいと思うが?』


「そういうもんじゃねえだろ。最後の時間を未練を残したままで死んだら、死にきれない」


『そんなことを俺に言われても困る。そういうことを言うんだったら、神装の一つでも蘇らせてから言え』


「そっちこそそんな無茶苦茶言うなよ」


 歩きながら会話を繰り広げる二人。そんな二人の前にラケルが現れる。彼女の胸には袋のようなものが抱えられており、アベルの存在を認識した彼女はトトトと軽い足取りで近寄ってくる。


「アベルさん、お話はどうでしたか?」


「ん~。まあぼちぼちかな。あんまり内容は言えないけど、いろんなことを教えてもらったよ。ラケルちゃんのほうはどうしたの?」


 彼女の問いかけに応えたアベルは逆に彼女に質問をかける。すると、彼女は袋を顔を半分隠すように持ち上げた。そして小さな小鳥のような声を上げる。


「最近、私はナターリアちゃんのお世話をしてましたし、アベルさんもお忙しかったみたいで、あまりお話もできませんでしたので……。軽くお茶でもしないかなー、と思いまして……」


 少し恥ずかしそうに袋の奥から見つめてくるラケル。そんな彼女を見て小さく笑みを浮かべたアベルは親指を立て彼女の誘いに同意することにした。


「そういえばそうだったね。オッケー、付き合うよ」


「ありがとうございます。荷車を操縦してた兵士の人が少しお菓子と飲み物をくれたんですよ」

 

 ラケルはアベルに袋の中を見せる。中にはクッキーと葡萄ジュースが入っていた。


 二人は二人きりになれる場所に移動すると、簡単なお茶会を始めるのだった。クッキーをかじり葡萄ジュースを飲む二人。軽く会話をしながらこの静かな空気を楽しんでいた。


 その時、ふとアベルの脳内に考えが浮かび上がる。別に今聞く必要性はないだろうし、忘れてしまえばあとになって聞くこともないだろう。


 しかし、脳内に思い浮かんだその思考を彼はラケルに問いかけた。


「ねえラケルちゃん。もし、一週間後に人類が滅びるってなったら、何する?」


「え、急にどうしたんですか?」


 突然のアベルの問いかけに、ラケルは思わず素っ頓狂な声を上げた。さすがに唐突すぎたかと反省するアベルであったが、そんな彼の内心を知らないラケルは素直に声を上げた。


「そうですね……。もう滅びる運命が決まっているんだったら、いつも通りに行動するのがいいと思います。もうどうしようもない状態で慌ててもしょうがないですから。本当にできるかはわかりませんけどね」


 ラケルは笑みを浮かべながら答える。そんな変わらない彼女を見て安心感を覚えたアベルだった。


「アベルさんはどうなんですか?」


 アベルがホッとしていると彼女から先ほどの質問を聞き返される。聞き返されるとは思わなかったアベルは一瞬口を紡ぐが、すぐに彼女の問いかけに応えた。


「俺もラケルちゃんと同じだよ。変に慌ててもしょうがないしね」


「やっぱりそうですよね。そんな人類が滅びるなんて物騒なこと、起こらないのがいいんですけどね」


「まあ、それはそうだよね。俺だって死にたくないし」


 ラケルの声に同意を示すアベル。笑みを浮かべ和やかな雰囲気に包まれる二人の空間。突然のアベルの質問から始まった二人の会話はそのまま穏やかに終了するかと思われた。当事者である二人も当然のようにそのまま会話が終わると考えていた。


 しかし、次の瞬間。


「うわッ!」 「キャアッ!!!」


 アベルとラケルの間の空間が一瞬強く発光する。二人は突然の出来事に悲鳴を上げる。


 光によって二人の視力が奪われ、近くにいたはずのお互いすら見えなくなる。突然、何も見えなくなったことで二人は軽いパニック状態になってしまう。


 しかし、アベルはすぐにパニックになっている場合ではないと、残った五感に集中させる。ラケルと二人きりの状態で視力を奪われた。もはや襲撃としか考えられない。


 アベルが周囲に意識を張り巡らせる。いつ襲い掛かってきても不思議じゃないこの状況に彼の心臓は大きく跳ねる。五秒も経っていないにも拘らず、彼の背中は冷や汗まみれになる。さあ、いつ来るか。緊張でアベルは剣を強く握った。


 その瞬間はそう遅くなかった。アベルの頭上、右斜め前上で木の上の葉っぱが揺れる音がする。ただ風で揺れただけかもしれない。しかし、彼に迷っている暇はなかった。アベルは全力で剣をその方向に振った。


 すると、彼の勘は的中する。剣を振った方向から重い手ごたえが感じとれ、金属音が響き渡った。しかし、何が起こったかを考える暇はない。何者かの気配を感じるところに向かって剣をめちゃくちゃに振り回す。


 だが、最初の一回以降、剣に手ごたえが走ることはなかった。それどころか、彼の脇腹に斬られるような痛みが走る。


 目が見えないことでここまで戦闘能力が下がるのかと考えながら、襲い来る何者かから身を護るアベル。視力はまだ回復しない。このままではじわじわと追いつめられてしまう。どうすればと思考を巡らせていると彼の脳にいつものように声が響き渡る。


『視力は俺の魔力でどうにかしてやる。とっとと終わらせろ』


「助かる!」


 ヴィザの手助けにより、まともに戦えるようになったアベル。目を開いてみるとシルエットのように物が見えるようになる。輪郭くらいしかわからないがこれでも見えないよりはましである。


 背後で混乱しているラケルをチラリと見つめたアベルは見えていないふりをする。よく見ればわかりそうなものだが、襲撃者は焦っているのか、気づいていない。再び襲い掛かってくる。


 右側面に回り込んだ襲撃者は剣を横薙ぎに振るおうとする。当たれば、腹部に横一文字が刻まれることになる。


 しかし、今のアベルは動きが見えている。アベルは剣が当たらないギリギリのところで躱す。そして剣を握る手と逆の手を握り締めると襲撃者の顔面に叩きこんだ。


 その衝撃で吹き飛ばされた襲撃者。そのタイミングで周りが見える程度に視力が戻ってくる。


「お前……、また来やがったのか!」


 アベルの目に映ったのは以前サリバンたちとの特訓中に襲い掛かってきたアイリースであった。以前のように仮面を付けている。


「チッ、集まってきたか」


 舌打ちを打ったアイリースは不満そうに言葉を漏らした。周囲に耳を澄ませると、先ほどの金属音を聞いた獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の面々が集まってきている。


「お前はなんで俺を殺そうとするんだ! 何が目的だ!」


 アベルが問いかけるとアイリースは小さく声を上げる。


「貴様に教えてやる義理はないが……。あえて言うならば世界の滅びを防ぐため、か……」


「な!?」


「また殺しに来るぞ。覚悟しておけ」


 アベルが彼の言葉に驚きの声を上げるが、そのあとの言葉を続ける暇もなく彼は姿を消す。その直後、隊の面々が姿を現した。


「どうした、何があった!」


 彼らの問いに答えようとするアベルであったが、腹部の痛みで声が紡げなくなる。思い出したら悪化する一方で痛みは増していく。アベルは答えることもできず膝をついてしまった。


「クソッ、なんなんだよ……」


 アベルは小さくぼやくのだった。



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