第3-4話 ガール・コンタクト・ゴッド
ラケルとエンデュと呼ばれるようになった少女が友人となってから二日が経った。ラケルが彼女と仲良くなったことでアベルたちが仲良くなるための懸け橋となっていた。そのおかげで徐々にアベルたちも彼女と世間話程度の会話はできるようになり始めていた。
そんな感じで王都への旅を進めていた獣鏖神聖隊。しかし、彼らはその旅路の中で言葉にできない違和感のようなものを覚えていた。
「なんか最近魔獣の量が多くありませんか? このあたりの街道はこれほどまで魔獣が出るような環境じゃなかったはずです」
「確かにそうだよねぇ。いつもここを通るときにはこんなに多くないのに」
同僚のぼやきに同意するヘリオス。そんな二人の会話にそばで聞き耳を立てているアベル。魔獣に止めを刺しながらヴィザリンドムにこの原因を問いかけた。
「なあ、なんでこんなに魔獣が襲い掛かってくるんだ?」
『そんなの決まってる。神装が三人も集まってのこのこ歩いていれば魔獣が襲い掛かってくるのは当たり前だ』
「そういえば魔獣はお前らを狙って襲い掛かってくるんだったな」
『とは言え俺たちだけが原因ではないだろうな。最近周囲に妙な感覚がある。同じ神が二人いることでこっちの世界のユガルネの位置が全くわからん。そのせいで他の神の位置を探れる範囲も狭くなっている。おかげで本来できるはずの神装使いの位置の測定が出来ん』
「そうなのか……。なんかしんどそうだな」
『他人事のように……。お前が俺を使い始めてからこんなことばっかりだ。どこかおかしいんじゃないか?』
「失敬な。まじめに育った俺におかしくなる要素があるとでも?」
『おかしくなる要素だらけだろ。魔獣に家族を食い殺された時点でな』
「おま……。神だったとしても言っていいことと悪いことがあるんだぞ!」
「何をぶつくさ言ってんの~。魔獣も倒し終わったし行くよ~」
アベルとヴィザの言い合いがヒートアップしそうなところでヘリオスの横槍が入り二人は言い合いを中断せざるを得なくなる。もとより大した言い合いではないがそんなことで無駄に時間を消費するわけにもいかない。
アベルは握り締めた剣を背中に収めると馬車に向かって歩き始めるのだった。
「すみません。私、何のお役にも立てなくて……」
「ん、何の話?」
荷馬車を守るように並行して進むアベルの耳に蚊の鳴くような小さなエンデュの声が響く。しかし、彼女の言葉に全く心当たりのないアベルが彼女の声に聞き返すと彼女はさらに声を落ち込んだように顔を下げた。
「だって……。私、神装なんていうすごく強くて貴重な武器を持ってるのに、戦力になるどころか戦うこともできなくて……」
「ああ大丈夫だよ、手は足りてるし。それに……」
「自分のことでいっぱいいっぱいの人間に魔獣と相対しろなどと無茶ぶりをするつもりはない。戦闘はせいぜい私の部下に任せておけばいいんだ」
「あ、カルミリアさん」
アベルがエンデュの主張をなだめていると、隊列の前方からやってきたカルミリアが割って入ってくる。彼女の襲来にアベルが声を上げると、カルミリアはさらに言葉を続ける。
「それに、うら若き乙女が魔獣との戦闘など、しないほうが平和でいい」
「全面的に同意。身体に傷でもつけたらお嫁に行けなくなるかもしれませんしねぇ」
カルミリアの言葉に同意を見せたアベルは少しでも不安を与えないようにおどけたように自分の身体を抱くと左右に何度もよじった。そんな彼の奇行に反応していいのか困ったような表情を見せるエンデュと呆れたような視線を向けるカルミリア。
そんな二人の反応を他所にアベルは思い出したように問いを投げかけた。
「そういえばカルミリアさん。隊の指揮をとらないでこんなとこにいていいんですか?」
するとその問いにカルミリアは小さく息を吐くとゆっくりと口を開く。
「隊の奴らは一人でもどうとでもできるし、指示は代理でヘリオスたち他の者でもどうとでもできる。今、最優先で守らなければならないのはエンデュの方だ」
「わ、私ですか?」
カルミリアの言葉に驚いたように自分を指さしながら声を上げるエンデュ。そんな彼女にカルミリアはさらに状況を説明し始める。
「今、この世界には神装が十一本ある。そして十一本目の現状の所有者である彼女、エンデュは全く戦えたものではない。つまりそれなりの実力者からしてみれば彼女の存在などあってないようなもの、いわば神装に足が生えて勝手に歩いているようなものだ。奪うのにそう手はかからない状態だ。奪おうと思って襲い掛かってくる連中がいないとも限らない。護衛ついでに君をそばに置いているが万が一ということもある。奪おうとやってくる悪漢たちから彼女を守るのが今の私の最優先事項だ」
「まあ、それは確かにそうですね。そもそも彼女が所有者なのかも怪しいですし」
カルミリアの言葉に納得の感情を抱いたアベルは顎に手を当て考えながら首を縦に振る。神装使い二人の間で勝手に進む会話に困惑の表情を見せるエンデュであったが、一応自分の置かれた状況を理解したらしく片手に握るユガルネウェインを強く握りしめた。
現状、ほぼ宙づりに近く誰が所有者になっているかも明らかになっていない異世界のユガルネウェイン。それについてさらに会話を進めようとしたその時、アベルの口が彼の意思と関係なく動いた。
「つーかよ。いい加減挨拶の一つもしたらどうなんだ。異世界から来たっつったって丸ごと別物ってわけじゃねえだろうがよ」
アベルの肉体を乗っ取ってまで口を開いたヴィザが一体誰に向かって話しかけているのか、一瞬頭を捻るその場の面々。しかし、この場で口を聞いていない存在など一つしかない。彼らがその存在を認識するのと同時に、その存在は重い腰を上げ、ゆっくりと言葉を紡ぎ始めた。
「……なに。挨拶とか、いる?」
「相変わらずの声と気の小せえ奴だな。そんなんだから無理やり並行世界の飛ばされんだ」
「……余計なお世話。あんたに言われる筋合いない」
エンデュの身体を使って口を開いたユガルネウェインに対して毒を吐くヴィザ。
「それで? おめえは今宙ぶらりんの状態な訳だが、その女を所有者として認めてんのか?」
「……それ、あんたに関係、ある?」
「ああ、神として大ありだね。あのバカがわざわざおめえを送り込んできたんだったらろくでもあろうとなかろうと何か狙いがあっての事だ。その女が狙いに深く関わってるんだったらおめえがそいつを所有者として認めてるかで話が大きく変わってくる。だから早いうちに答えを出せ」
アベルの言葉にユガルネウェインは口を閉ざす。神様らしい聡明な部分を見せられたアベルが思わず感心していると、十数秒ほど口を閉ざしたユガルネウェインがようやく口を開く。
「……そんなの私が決めることじゃない。この娘が私を使いたいっていうなら力を貸すし、いやだっていうなら私は力を貸さない。それだけよ」
「……お前はほんとそうだよな、ウェイン」
ユガルネウェインのどっちつかずな答えを聞いたヴィザは呆れかえるように大きく溜息を吐くと一言だけ告げアベルに肉体を返還した。
肉体の自由を取り戻したアベル。しかし、神々同士の会話に割り込む気になれず、じっとユガルネウェインの動向を見守る。
「……ふん」
するとヴィザが戻ったことで彼女も話す気を失くしたのか小さく息を吐くと肉体の制御権をエンデュに返還した。
「な、なんですか今の!?」
肉体の制御権を奪われるという初めての体験にエンデュが慌てふためているのを他所にアベルは口を開いた。
「いやぁ……、ヴィザお前……」
『なんだ?』
「さっきの話し方とか内容とか聞いて……、やっぱり神様なんだなって思わされたよ」
『捻り潰すぞ貴様』
アベルの頭の中で今までにないほどドスの聞いた声が響き渡るのだった。
月の煌めく夜。生きとし生けるもののほとんどが寝静まり、獣鏖神聖隊の面々も見張り以外の全員が眠りについたころ。
何故か寝付くことが出来ず、思いにふけっていたエンデュは、傍らに置いてある神装に意識を落とし込んでいく。誰に習ったわけでもないのにスムーズに神装の奥深くに意識を落とし込んだ彼女はユガルネウェインの姿を認識する。
赤、黒、白の三色で構成されたフリル付きの衣装を身に纏った小柄な女性態。エンデュはそれがユガルネウェインの本来の見た目だと理解する。
すると目で捉えたわけでもないのにユガルネウェインは彼女の存在を認識する。最もここは彼女の領域。振り返らずとも侵入者の存在を認識できるのは当然であった。
ヴィザ同様に尋常ならざる美貌を持つ彼女に、エンデュは何故かごくりと生唾を飲む。が、即座に気持ちを切り替え、口を開いた。
「と、突然ごめんなさい! あ、あなたに用があって」
「何? 私、別にあなたに用なんてないんだけど」
エンデュが勇気を振り絞って発した声にユガルネウェインは素っ気なく応対する。興味のなさそうな声に若干怯むエンデュであったが、息を吸い込むとさらに言葉を続ける。
「私、いろいろとあなたについて聞きました。世界に十本しかないすごく貴重な物で、世界を創った神様が形を変えたものだって。……あと、選ばれた者じゃないと持ち上げることすらできないことも」
彼女が発した最後の言葉にユガルネウェインは片眉をピクリと反応させる。それに気づかずエンデュは言葉をさらに続ける。
「……なんで、私を選んでくれたんですか?」
彼女の問いかけの後、二人の空間には静寂が広がる。これは答えない限りいなくならないだろうと察したユガルネウェインは重い口を上げその問いの答えを紡ぐ。
「別に選んだわけじゃない。前の所有者が死んで、一番先に手に取ったのがあなただったってだけよ」
「そうですか……」
ユガルネウェインの答えを聞いたエンデュは無意識のうちに相槌を打つ。再び広がろうとした静寂であったが、エンデュが言葉を紡いだことで静寂は水蒸気のように空間に溶け消える。
「お昼に神のお二人の話の中で、私がこの世界に送られたのは何か意味があって送られたっていうのを聞きました。だったら私はその意味を見つけて、それを達成してみたい。そのためにはあなたの力が必要になるかもしれません」
「だから、私をあなたのおそばにいさせてください!」
はっきりと意思を伝え、その意思とともに深々と頭を下げたエンデュ。今まで消極的だった彼女が初めて積極的な様子を見せた。そのことに何か感じるものがあったのだろうか。興味なさげに視線を逸らしていたユガルネウェインが彼女に視線を向けると、はっきりと彼女の存在に意識を向け口を開いた。
「……勝手にすれば。私の力が使いたくなったら適当に使いなさい」
「わかりました! ではユガルネウェイン様のもとにいさせていただきます!」
深々と頭を下げていたエンデュは顔を上げ花が咲いたような笑顔を浮かべると、再び深々と頭を下げた。五秒以上頭を下げていた彼女は素早い動きで頭を上げると、再び口を開いた。
「でもユガルネウェイン様って呼ぶのはなんだか長い気がしますね! なのでこれからはウェイン様と呼ばせていただくことにします。それではおやすみなさい! これからよろしくお願いします!」
矢継ぎ早に、まるでブレーキの壊れたブルドーザーのように自分の言いたいことだけ言ったエンデュは三度頭を下げるとユガルネウェインの空間から姿を消した。
自分の呼び名が勝手に決まってしまったことに釈然としない感覚を覚えるウェインであったが、まあいいかと諦観に近い感情で自分を納得させると興味を別の物に向けるのであった。
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