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第3-2話 ゴッドメッセンジャー・プロテクト・ガール 

「これは……」


 引き上げた少女の手に握られた不釣り合いな斧にアベルは思わず声を上げた。治療のために離そうとしても少女はその腕の細さに見合わない力でがっちりと握り締め全く離そうとしない。


 一体何が彼女をこんなに必死にさせるのか。疑問に思いながら、まず優先すべきは少女の治療。斧の謎を明らかにしている場合ではない。 


 少女から水を吐かせようとしているとカルミリアが歩み寄ってくる。彼女は少女を、正確には少女の握る斧を何かを認識した瞬間、慌てたように駆け寄って斧に手を添え撫でた。


「これは……。なぜこの少女かこの斧を持っているんだ……」


「これが何か知っているんですか?」


 少女の身体を温めるため、自身の上着を少女にかけながら彼女の持つ少女の斧について問いかける。するとカルミリアからその答えが返ってくる。それはアベルの思いもよらない解答であった。 


「これは地神斧ユガルネウェイン。我々の持つ神装と同じ、十柱のうちの一つだ」


 カルミリアの口から放たれた事実にアベルは声が出ない。まさか冒険を始めて三か月もしないうちに十本しかないうちの神装のうち、四本を目にすることになるとはというものあるが、それ以上になぜこの少女が持っているのだろうかというものもあった。


 もっともアベルのように偶然手に入れる機会もないわけではない。そう考えると不思議ではないが、そんなことはやはりめったにない。


 なぜ手に入れることが出来たのだろうかと新たな謎が浮かび上がると、さらにカルミリアから紡がれた言葉で謎が深まる事態になる。


「しかし妙だな。この斧は私の前の獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の隊長が持っていた神装だ。彼は私に隊長の座を譲って引退、子供がいたなどという話は聞いたことがない。なぜこの少女がこの斧を持っているのだ」


「いいや。それ以上にもっと妙なことがある」


 疑問を呈したカルミリアやそれを聞いていたアベルにそれが重要ではないかのようにアボリスが彼女の身体を乗っ取って声を上げる。


「何?」


「ああ、妙だ」


 さらにアボリスの声に乗じるようにヴィザが声を上げた。


「どういうことだ? この娘がこの斧持ってんのがそんなにおかしいのか?」


 このままでは二人だけで完結しかねないと思ったアベルは二人に対して疑問を投げつけた。すると彼らから彼らの持つ疑問が返ってくる。


「いや、この少女が持っているのは大した問題ではない。問題なのは別だ」


「ああ。ウェインの奴、この世界に二人いやがる。何でそうなってんのかはなんとなく予想がつくが」


「つまり……、本来合計十本しかないはずの神装が世界に十一本あるってことか」


「ああ、そういうことだ。奴め……、とうとう神装まで送りつけてきたのか?」


 彼らから重大なことを聞いた二人。しかし、二人ともいまいち事の重大さがピンと来ていなかった。 

 

「まあ、このままでは話が進まん。その少女のことも心配だ。とりあえず隊に合流してそのあと詳しく話すことにしよう」


「……それもそうだな。アベル、この子を荷車まで運んでくれるか?」


「わ、わかりました」


 情報量の多さに脳が混乱するアベルであったが、とりあえず彼女の指示に従うことにする。少女に上着を掛けたまま彼女を背負うと降ろしていた剣を片手で持ち、獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の隊列に向かって走り始める。カルミリアをそれに続くようにして走り始めるのだった。


 




























 ゴトゴトと揺れる荷車の横を歩くアベル。荷車の中ではカルミリアとラケルの二人がかりで少女の治療を行っていた。どこか不安そうにそわそわとした様子でいる彼に鬱陶しそうな声が届く。


『いつまでそわそわしてる。男ならシャンとしてろ」


「わかってるけど……」


 ヴィザからの叱責を受けてなお、そわそわした様子を消そうとしない。呆れたように溜息を吐く。もう自分ではどうにもできんと考えたヴィザリンドムは意識をアベルから逸らし眠りこむ。


 アベルがそのようにしていると、荷車からカルミリアが降りてくる。


「とりあえず命に別状はない。今は眠っている」


「そうですか。よかったですね」


 カルミリアの言葉を聞き胸を撫で下ろすアベル。しかし彼女の顔は険しいままである。


「しかし、また問題が増えたぞ。あの子の身体、川でおぼれただけならば絶対に付かない傷がついていた。裂傷、火傷、おまけに飛んでくる小石か何かが当たって抉れた傷まであった。それだけ考えれば先代とあの子が戦ったように見えるが、実際にはそんなわけがないんだ」


 深刻そうな声色でしゃべり続けるカルミリアはさらに言葉を続ける。


「確かにあの人は歴代の神装使いの中でも弱い方だったらしいが、それでも戦う力の無い少女と戦って負けるほど弱くはなかった」


「つまり、何らかの理由で宙ぶらりんになり、そのタイミングで彼女が神装を手に入れてしまったってことでしょうか?」


「何があったかはわからんがな。それにまだ教えてもらっていないことがある」


「そういえばヴィザたちに説明してもらうつもりでしたね。おいヴィザ、起きろ」


『神に向かって不敬だぞ貴様。今回は見逃してやるが。それで? あの小娘の事だったか?」


「ああ、神装が十一本だか何だかって話だ」


「ああ、そのことか。だったら二人纏めて説明してやる。お前の身体を使って説明するのも面倒だ」


 ヴィザがそういうとアベルだけでなくカルミリアの脳内にもヴィザの声が響き始める。ヴィザは今、彼女の脳にも干渉しており、本来であれば聞こえないはずのヴィザの声が聞こえるようになっていた。


「まず前提として、この世界に俺たちと同じ存在が何人いるかわかるか?」


「十四人だろ? 最初に来た無法者(十人)と後から追加でやってきた四人。あとからやってきたほうがお前らの行動を監視する目的で来たんだよな」


「……まあいい。そのうち俺たち含めた十人が武器となって存在しているわけだが、今回の異変はそのうちの一人が同じ世界に二人存在してるってことだ」


「神名をユガルネウェイン。この世界の大地や水を司っている神だ」


「こんなことが起こっている理由なぞ一つしかない。あいつがこの世界に送り付けてきたんだ」


「す、すまん。いろいろ情報が多すぎる。ちょっと整理させてくれ」


 彼らの口から発せられる情報はやはり何度聞いても理解するのに時間がかかる。一度情報を整理するためにアベルは情報を口に出しながらまとめ始める。 


「つまり、同じ神様がいちゃいけないのに二人いるってことか?」


「ま、端的に行っちまえばそうだな」


「で、一体誰なんだ。それをやったのは」


 置かれた状況を理解したカルミリアはこんな異変を起こした張本人の正体を問いただし始める。すると意外な存在の名前がアボリスの口から話される。


「今回、これをやったのは後から来た四柱のうちの一柱。並行世界を司る神、パラミラズスだ」


「パラミラズス……? 並行世界?」


「ああ、そこの説明も必要か。とはいえ長々説明している時間はない。端的に説明させてもらうと並行世界というのは我々とほとんど同じだが、いろいろな部分が少しずつ違う世界のことだ。今はこれで納得してくれ」


 アボリスの説明を聞き、了承するように首を縦に振るアベル。


 そんな彼と違い、並行世界というものを説明なく大まかに理解し、別のことに思考を巡らせていたカルミリアがポツリと呟く。


「パラミラズス……。聞いたことがない名だな」


「それはそうだろう。我々、十柱と違って四柱は基本的に表に出ない。大っぴらに活動している一柱もいるが他はほとんど話題にすら上がらない。一般人が知らないのは当然のことだ」


 アボリスの言葉になるほどと一応の納得を見せたアベル。そんな彼らの意識を引き付けるようにヴィザが再び話し始める。


「話を続けるが、こいつは恐ろしくタチの悪い性格をしてる。何も知らない人間を並行世界に飛ばしてどうやってそこで生きていくかを楽しむ変態だ。送ったやつが魔獣に食われてもお構いなし。人間をおもちゃにして遊んでるのはある意味で神らしいと言えるかもしれん」


「だが、今回は少し話が違う。人間と一緒に神装が送られてきている。これが非常にまずい」


「なんでだ? 同じ神が二人いるってのは確かにまずいかもしれんけど……」


「ヤバいのは俺たちの世界じゃなくて、もともとそいつがいた世界だ。今の世界ってのは俺たち十人がいることで安定してる。そっから一人いなくなるとバランスが取れなくなって世界中に異変が起こっちまうんだ。川が下流から上流に流れたりな」


「それって相当ヤバくないか? てか聞かなくてもやばいよな!」


「異変もまずいが、その後がそれ以上にヤバい。詳しく話すと情報が多くなりすぎるから結果だけを言うと世界が滅亡する」


「すまない。あまりに唐突すぎて何もわからなかったんだが」


「我々としても続きを話したいところなんだが、これ以上は一度に与える情報が多くなりすぎる。とりあえず今日のところはここまでにしておこう。今は寝ている彼女が神装を持ってしまった以上、彼女も無関係ではいられない。後で彼女にもまとめて話すことにしよう」


「わかった。今日のところはこれで終わりにして神装使い同士で情報を整理しておく。なあ?」


「お役に立てるかはわかりませんが、頑張ってみます」


 顔をのぞき込むようにして見つめてきたカルミリアの声にアベルは苦笑いを浮かべながら答える。この言葉を最後に二柱の声は一度消え失せ、再び地面を踏みしめる音が二人の脳内を占めることになる。


「しかし、恐ろしい内容だったな。神装の十柱以外の四柱、並行世界、そこから送られてきた神とそれを手にした少女」


「情報量に押しつぶされそうです。あの娘のこととかいろいろと考えないといけないんでしょうか?」


「おそらくそうなるだろう。あの娘は相当特殊な存在だ。彼女が安心して暮らせる環境を作り、どうにかして彼女を元の世界に送り届ける方法を、な」


「頭が痛いですね……」


「「ハァ……」」


 情報を整理しつつ、その後の対応や周りの行動を考え、思わず揃って溜息を吐いた二人。そんな二人に向かって声が投げつけられる。それは二人の横を進む荷車からであった。


「カルミリアさん! 女の子が目を覚ましました!!!」


 荷車で少女の面倒を見ていたラケルの声で視線を合わせた二人は行動を起こす。カルミリアは荷車に飛び込んでいき、少女の対応を。アベルは隊列の戦闘に向かい、カルミリアの代理としてヘリオスに行軍停止の指示を伝えに。


 十人目の神装使いの誕生により揃った神装使い。そこにさらに加えて並行世界からやってきた異常(イレギュラー)な少女。彼女の存在で世界に起こったうねりは、運命は大きく、大きく加速し始めていた。
































 二人に説明を終え、一仕事を終えた二柱。ヴィザとアボリスは使い手である二人にも聞こえない神々の身の回線で会話を繰り広げていた。


「しっかし、お前のところは狭えな。居心地悪くて仕方なかった」


「仕方なかろう。人の器というものはそんなものだ」


「だけど、俺のとこはもう少し広いぞ。お前、使い手選び間違ったんじゃねえのか?」


「そんなことはないぞ。今の私の子は長い歴史の中でも既に三本の指に入る使い手だ。これからさらに伸びれば歴代で最高の使い手になることは間違いないだろう」


「だけどそっちに行ったときには窮屈だった」


「それは一人の人間に神が二人入ること自体が前提として想定されていないからだろう。どんな人間でも器としてそこまで頑丈ではない。……だが確かに彼の器は広かったな。私とお前でもそれなりに余裕があるくらいには」


「だろ?」


「……まあ、お前が単純だからそこまで場所を食わないだけかもしれんな」


「テメェぶっ飛ばすぞ!?」


 二柱はまるで人間のように軽口を叩きながら会話を繰り広げるのだった。






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 ぜひ次回の更新も見に来てください!


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