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第2-21話 ウォリアー・プリペア・リーブ

二か月ぶりの投稿です。こんなことになって本当に申し訳ない……。

「どっちにも所属はしない。サリバンとカルミリアさん、二人の話を聞いた時からそう決めてた」


「「えっ!?」」


 アベルの言葉に二人は思わず驚きの声を上げる。彼の口から放たれた結論はまさに寝耳に水。言葉を失った二人はその結論を追求するための言葉が出ず、息を漏らすことしかできない。


「この街に来た時から考えてたんだ」


 そんな二人の言葉を待たずしてアベルが口を開く。


「どちらかに付けば救うことのできる人間が増えるのは間違いない。けどどちらに付かないことですくうことが出来るようになる人間もきっと出てくるはずだ。俺はそういう人たちを救う。今救える人たちはお前たちに任せるよ」


「それは……、茨の道になりかねないぞ。収入も安定しないし、何の後ろ盾もないことになる」


「収入はまあ、おじさんに預けてある分でどうにかできるだろうし、無くなったらその時考えるさ。それに……、後ろ盾は頼れる友人がいるからな」


「お前……、……わかった。お前がそこまで言うんだったら俺はもう何も言わない。何かあったらいつでも頼ってくれよ」


「ちょ、ちょっとお待ちを。よろしいのですか?」


 話が勝手に進んでいくのを見守るしかなかったギルド長がなおも引き留め説得を続けようとするが、それをサリバンが話を遮ってそれ以上話させない。


「ギルド長。もう本人が決めたって言っちまったんだ。野暮なことは言いっこなしだぜ。困ったらその時に考えるって言ってるんだからその時まで待とうじゃねえかよ」


「しかし……」


「ほらほら、スマンがもう終了だ。よおアベル。飯でも行こうぜ」


「あ、ああ。すいませんギルド長。これで失礼します」


 その場を離れる口実をもらったアベルは、ギルド長に頭を下げるとそそくさと部屋を後にする。そんな彼の肩を彼に続いて部屋を離れたサリバンが叩く。


「さ、行こうぜ。俺マジで腹減ってんだよ」


「え、マジ?」


 サリバンの話が口実だと思っていたアベルは思わず驚きの声を上げる。彼らと会う前にたらふく食べてしまったアベルの胃にもうほとんど容量はない。サンドイッチ程度しか食べられないだろう。しかし、どんな形であれ、その場を離れる理由をもらったのだ。付き合わないとダメだろう。


「……軽くで頼むぜ?」


「任せとけよ。品ぞろえのいい店に連れてってやるぜ!」


 上機嫌で肩に手を回したサリバンはギルドの廊下を軽い足取りで歩き始めた。







































 町の防衛戦から早二週間。アベルはサリバンたちとともに自己鍛錬に励み続けていた。彼の戦闘能力が常人離れしているとはいえ戦闘技能や経験の面があまりにも足りていない。それを補うための特訓を日夜続けていた。


「ハァッ!」


「うぉっ!?」


 アベルが横薙ぎに剣を振るうと、その予想以上の鋭さにサリバンは声を上げる。後方に跳び紙一重で回避したサリバンに追撃しようとアベルは剣を強く握り直し駆けだした。


 が、彼が間合いを詰め切る前に素早く体勢を立てなおしたサリバンが地面に足をつけた瞬間、アベルの懐に低い体勢で飛び込んだ。逆に飛びこまれるとは思わなかったアベルは対応しきれずに腹部に柄の一撃を受けてしまう。


「ウゲッ!?」


 アベルは潰れたカエルのような声を上げながら後ろにもんどりうって倒れる。勝負がついたことを確信したアベルは空を見上げながら先ほどの戦いを頭の中で振り返っていく。


 そんな彼をサリバンは剣を肩に当てながら見下ろす。彼と目が合ったアベルはゆっくりと身体を起こした。


「だいぶ近接戦の腕も上がってきたな。力の使い方や読みが冴えてきてる」


「おかげさまでな」


「まあ、総合力じゃまだまだだな。俺は弓や魔技使ってないし」


「それを言われちゃったら俺にはどうしようもないよ」


 サリバンに突きつけられた現実にアベルは肩をすくめる。サリバンはまだ剣しか使っておらず最も得意な弓での攻撃や魔技による強化を使っていない。それを加味するとアベルは彼の全力の足元にも及んでいない。


 とはいえ見方を変えれば、アベルにはまだまだ成長の余地があると考えられる。サリバンの全力にアベルが追い付くのもそう遠くないかもしれない。


 溜息を吐いたアベルはの目の前にサリバンの手が差し出される。それを掴み立ち上がったアベルは剣を背中にかける。それを見たサリバンは不思議そうに声を上げる。

  

「お? 帰るか?」


「ああ、明日はもう出発だしな。ちょっと多めに休ませてもらう。メッタメタにされたせいで体も痛いし。


「そうか。なんだか寂しくなるような気がするな……」


「おんなじ道を進むんだから機会があればまた会えるだろ。それまで死なないでいればいいだろ」


「俺たちは死なねえよ。逆にお前はラケルちゃんを残して死ぬなよ」


「んなこと絶対しねえよ。絶対生き抜いてやるからな」


 ハハハと冗談を交えながら町への道を歩く二人。三十分もしないうちに町に辿り着いた二人は別れ、それぞれのことを待っている者たちのところへ向かう。サリバンはこの予定があるらしく仲間たちと待ち合わせをしている場所へ向かって行った。一方で自分の宿に向かって歩くアベル。道をゆったりとした足取りで進んでいると、周囲に彼を呼ぶ声が響き渡った。


「アベルさーん!」 


 アベルが声の方向に視線を向けると、そこにはお茶を飲むカフェがあり、ラケルとカルミリアの二人がカップを前に向かい合っていた。なかなか珍しい組み合わせに一瞬驚きながら進む方向を変え、そちらに向かって歩き始める。


「お帰りなさい!」


「ただいまラケルちゃん。それにしても随分珍しい人とお茶飲んでるね?」


「ええ、宿の部屋に勉強をしてたらカルミリアさんが部屋に来てお茶に誘ってくれたんです。それでお言葉に甘えさせてもらいまして」


 彼女の言葉を聞き、カルミリアのほうに視線を向けると彼女もお茶をしている理由を話始める。


「なに、私は仕事上、周りにいるのが野郎ばかりだからね。同性と絡める機会というのはそう多くない。だから彼女を茶に誘って交流をさせてもらったというだけさ。彼女はあまり私の地位を気にしていないのか気さくでこちらとしても気が楽だしね」


「なるほど。ところで俺も混ぜてもらっても?」


「構わないさ。椅子はまだまだあるしね」


 承諾を得たアベルはテーブルに残った最後に椅子に腰かける。すると、示し合わせていたかのように店員が彼の分のカップと紅茶を持ってきた。気の周り様に感謝しながらお茶会に参加するアベルは、早速話題を切り出した。


「そういえば今まで聞きそびれていたんですけど、話に聞く何百、何千の魔獣を焼き尽くしたっていうのは、一体どうやったんですか?」


「ん? ああ、神技の事か。あれは神々にその権能を振るうことを許された神装使いが使うことのできる特別な技だ。神装使いでなければ使えない、その武器を司る神に認められなければならないなど、条件が厳しい代わりにその分威力は現在ほぼ再現不能なほど高い。ものにもよるが連発もきく。まさに必殺、神装使いだけのとっておきだ」


「そんなすごいのか……。じゃあ俺には使えないかもですねぇ。俺はアグリスの代わりみたいですし」


 カルミリアの説明を聞き、なんとなく劣等感のようなものを覚えたアベルは視線を下げ、肩から力を抜いた。そんな彼を見て、その様子を一蹴するかのように鼻を鳴らした。


「そう自分を卑下することはない。君のことは聞かせてもらった。ヴィザリンドム様はそれで何も感じない神ではないだろう。それに私だって使えるようになったのは神装使いとなって三年ほど経ってからだ。神装使いとなってすぐ使えるようになるものではない。きみならば地道に鍛錬を積んでいけば使えるようになるだろう」


「そんなものでしょうか……」


 アベルの返答を聞き、この話を切ったほうがいいと判断したカルミリアは、話題を明日のことに切り替える。


「それよりも明日になれば我々とともに君は王都メンディマに出発だ。準備は済んでいるのか」


「ええ一応は。食料の類はある程度保存がきくものを昨日のうちに買い込んでおきましたから。ついでに必要になるであろうものも」


「そうか。だったらもう少しゆっくりできるな。ここは私のおごりだ。遠慮なく楽しんでくれ」


「ありがとうございます。だったら軽く食べさせてもらいます」


「だったら私もいただきます」


 カルミリアの提案を聞いたアベルはメニューを手に取ると、店員を呼ぶために右手を上げた。































 出発前日、その夜の事。人々が寝静まり、普段であれば気づかない雑音が耳に届くほどの静寂に包まれている中、意識を保っている者たちがいた。それは珍しくも、この街に集結している三柱、ヴィザリンドム、アボリスヒイト・ルーネビリティの三人であった。


 彼らは使用者たちが寝静まる中、神だけが会話できる専用の回線で会話を繰り広げていた。


「それにしてもヴィザリンドム。彼のことを少し低く見ているのではないか。未だにほとんど力を貸していないらしいじゃないか」


「そうそう、私のダーリンほどじゃないけどあの子も結構いい男だと思うわよ?」


「うっせえ、俺の剣の力は魔力の扱えない人間に使わせたところで何の意味もねえ。だったら使わせなくたって変わらんだろ」


「そんなの屁理屈じゃないのよ。こういうのはね、気持ちの問題なのよ。認められてないってのは結構心に来るらしいんだから」


 三人は神々とは思えない、軽い―――旧知の友人のような―――口調で会話を繰り広げていた。話題の中心はアベル、彼に力を貸そうとしないヴィザを残りの二人で責めていた。


 言い合いを繰り広げるヴィザとルーネの二人の間にアボリスが割って入るように言葉を紡いだ。


「やはり……、アグリスが忘れられんか?」


 この彼の言葉で、今までギャンギャンと言い合っていたヴィザの口から吐き出されていた言葉がピタリと止まる。図星であると判断したアボリスはそれ以上の追及をしない。


 しかし、もう一人の当事者はさらに口の回転を加速させる。


「えー、五百年前の男にまだ未練抱いてるの!? 未練がましいわねぇ。どうしてあんたはそう人間みたいなところあるのよ」


「うっせえ、黙ってろォ!!!」


 彼女の追及に重く閉ざされたヴィザの口の閂がはじけ飛ぶ。そんな彼を気にせずにルーネはさらに言葉を続ける。


「まあ、なんとなくわかるけどね~。イケメンだったし腕もとんでもなかったわ。私たちの渾身の矢を正面から切り裂いたのは彼くらいだったわ。中身の方は知らないけど」


「彼のことを忘れろとは言わないが、彼のことも見てやった方がいいぞ。彼が死んでしまってはお前はまた一人になってしまう」


「……るせぇ、んなこと分かってんよ。俺はもう寝るぜ。これ以上話しかけんなよ」


 短く会話を打ち切ったヴィザリンドム。最後に一言残すと会話の輪から外れそれから再び会話の輪に戻ることはなかった。残された二人はそんな彼の態度に呆れたように溜息を吐いた。


「五百年ぶりだっていうのにあいつは何も変わんないわねぇ」


「それが奴の持ち味だろう。だから奴はまっすぐな人間にまるで運命のように惹きつけられていく」


「フフッ。確かにそうかも」


 二人は同じ思いに至ると小さく笑いあった。




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