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第2-20話 ソードマン・ディサイド・ウェイトゥゴウ

「マジか……。そんな人に助けてもらったなんて……」


「はわわ……。私でも名前は知ってます……」


 とんでもないビックネームが目の前に現れたことに狼狽え、呆然とする二人。そんな二人に誇らしげな表情を向けながら師であるサドリティウスの胴体に軽く肘をぶつけた。それを受けて弟子のヤンチャな行動にサドリティウスは優しい視線を向けた。


 しかし、未だに狼狽している二人の眼にサリバンの行動は映らない。目に映っているのは目の前にそびえ立つ巨躯の老人だけであった。


 彼は今までに国を滅ぼしかねないほど強力かつ凶悪な魔獣を十二回にわたって討伐し防衛したという経歴を持つ世界最強クラスの冒険者であり、また世界に十人しか存在できないアベルやカルミリアと同じ神装使いである。

 

 当然のように絵本も描かれており、その知名度は世間知らず気味のラケルですら名前と実績を知っているレベルである。まさに行ける伝説、世界中の英雄を目指す者たちの頂点に立つ存在である。


 それほどの存在が目の前に現れたため、二人は動揺し続けていた。一足先に老人と言葉を交わしていたラケルであるが、三日間で老人の名前を聞き忘れてしまっておりその存在を知らなかったのだ。故に彼女も驚いている。


「そうそう、アンタたち私たちに感謝しなさいよ。私たちが助けなかったら死んでたし、復活してすぐに相棒を失ってたんだからね」


 二人が驚きで慄いていると、彼らの耳に野太い女口調の声が響き渡る。それに違和感を感じ取ったアベルが声の主を探すと、目の前のサドリティウスがバツが悪そうに目を逸らしている。彼の様子で先ほどの言葉は彼の口から発せられたものだとわかる。


 一瞬、何が起こったかわからずにぽかんとするが彼自身も当事者であるため、すぐにその意味を理解する。直後、再びサドリティウスから女口調の声が発せられる。


「ああ、アンタはまだ私のこと知らなかったわね。私はルーネビリティ。あんたが背中に背負ってるやつと同じ神装で、この人のフィアンセよ」


 サドリティウスの身体を借りてアベルたちに語り掛けていたのは彼の相棒と言える、ヴィザリンドムと同じ十柱のうちの一人であるルーネビリティ、その人であった。女性口調であることを考えるとヴィザやアボリスヒイトとは違い、女性に近い存在であり、アベルは初めて出会う存在であった。


 アベルは目の前で起こったことに答えを返すことができず、言葉に詰まっているとルーネビリティが三度声を上げる。


「何? 命の恩人に向かって挨拶もできないわけ?」


 彼女の指摘ではっとしたような表情を浮かべたアベルはやっと復活し再びサドリティウスに向かって自己紹介をする。


「大変失礼しました。俺の名前はアベル・リーティス。ヴィザリンドムに力を貸してもらっているしがない戦士です」


「うん、知ってる。もう飽きたから戻るわね。あとよろしく」


 突然の出来事にポカンとしてしまったアベルが文句の一つも唱えられないうちにサドリティウスの肉体の主導権が本人に引き渡される。やっと肉体を自由に操作できるようになった彼は一度大きくため息をつくと、アベルに謝辞を示す。


「うちのがすまんの。天上の存在故に人の話を聞かないことが多い。戦闘ともなれば頼りになるんじゃがな……」


「ああいえ、あまり気になりませんから。どっかの誰かさんのせいでそれに振り回されるのには慣れていますので」


 サドリティウスの謝辞に謙遜するように両手を振ってアベルは、振った手を即座に剣の握りに伸ばし全力で握る。その瞬間、跳ねるようにヴィザリンドムが動き出そうとする。一瞬早くアベルが握りに手を掛けたことで傍目には何も起こっていないように見えるが、握りに手を掛けるのが遅かったらどうなっていたことやら。


『テメエ、ふざけたことぬかすな。この俺様が面倒を掛けたことがあったか?」


「まあいろいろとな。おかげさまで何度も死にかけた」


『それは自分で選んだ未来だろう。自分で選んでおいて不満もくそもあるか』


 心の中で問答を繰り返しながら力比べをする二人。何度かの押し引きを繰り返したところで飽きたかのようにヴィザが力を弱め押し問答が終了する。剣の握りから手を離したアベルは手に籠めていた力を弛めるためにブルブルと手首から先を震わせた。


 二人の神装使いの邂逅が一段落したところでその様子をそばで見ていたサリバンが声を上げた。


「そういやアベル。獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の隊長とギルド長が話があるらしいぞ。目が覚めたら来てくれって」


「あ、そうなのか。わかった、行ってくる。行こうラケルちゃん」


「あ、はい。お供させてもらいます」


「ついでに俺と師匠もついてくぜ。話の内容によっちゃ俺たちがいたほうがスムーズかもしれんしな」


 目を細めながらそう言ったサリバンはサドリティウスに視線を向けた。弟子の頼みを断れないタイプなのか仕方なさそうに頬を弛めた彼は首を縦に振った。


「で、その二人ってどこにいるんだ?」


「隊長の方は知らねえけどギルド長は集会場にいるだろ。先に行くのはそっちだろ」


 サリバンから二人の居場所を聞いたアベルは冒険者の集会場に向かって歩き出し、他の三人もそれに追随して歩き始めた。

































 集会場に向けて歩みを進めるアベル。そんな彼の前にまるでおあつらえ向きかのタイミングでカルミリアとその部下が姿を現した。アベルの存在に気が付いた彼女は一瞬驚いたように目を見開くと速足で歩み寄ってくる。


「意識が戻ったんだな。何とか無事でよかった」


「サドリティウスさんのおかげで何とか。助けてもらえなかったらおそらく死んでました」」


 アベルの背後に彼女に笑みを向けているサドリティウスに会釈をしたカルミリアは話を再開する。


「まずは討伐協力の感謝を。民兵の協力者として獅子奮迅の活躍をしてくれた上、一人で魔獣化した敵の撃退をしてくれたと聞いた。獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の隊長として礼を言わせてほしい」


「礼は受け取らせていただきますが、それ以上は不要です。戦いの中に身の投じるのは神装に選ばれたとき、ラケルちゃんを助けたときに覚悟を決めていたことです」


「ありがとう」


 頭を下げたカルミリアの礼を受け流したアベル。それを受けてカルミリアはフッと小さく笑った。


「ところで少し話は変わるんだが、いいだろうか?」


「かまいませんよ。どうしましたか?」


「君に王都への同行を頼みたい」


 そんな彼女の言葉を聞き、後ろで聞いていたはずのサリバンが声を荒げる。


「はぁ!? それってつまり!」


 その声には怒りが込められている。彼女の提案の何かが気に障ったらしい。そんな彼の様子から何が言いたいのかを察したカルミリアは補足を説明し始める。


「勘違いしないでもらいたい。念のため、神装使いとして王の前に顔をだしてもらいたいというだけだ。隊に勧誘するつもりはないし、無理やり拘束するつもりもこちらにはない」


 彼女の一息で発せられた淡々とした説明にサリバンは言葉を詰まらせる。彼女の説明で文句の一つも言えなくなってしまった彼の頭を落ち着かせるかのようにサドリティウスの手が置かれた。


「落ち着けバカ弟子。彼女はちゃんと良識ある人間だ。そうあからさまに敵意を向けるのは失礼ってもんだぞ」


「……ンなことわかってる。……悪かった」


「気にするな。私の言い方も少々悪かった」


 師匠の言葉を聞き頭に上った血が下がったサリバンは、まだどことなく不貞腐れたような表情を浮かべながらではあるが、頭を下げた。それを大人の対応で流したカルミリアは再度アベルに視線を向けた。 


「それでどうだろうか?」


「まあ、王都に行って顔を見せるくらいならいくらでもしますよ。そのあとのことはその時考えさせてもらって」


「相変わらず話が早くて助かる。王都に辿り着くまでは我々に同行してもらう。そうすれば案内代わりになるだろう」


「ありがたい。こっちとして王都まで入ったことがないので」


 二人の話がまとまり、王都へ向かうことが決まったアベルとその付き添いのラケル。二人とも初めての王都にわくわくが止まらないのか、興奮で頬が緩んでいる。


「さて、話がまとまったところで。君は別に何か予定があったんじゃないのか?」


「ああ、冒険者ギルドのギルド長に呼ばれていたんでした。失礼します」 


 カルミリアの言葉を聞き、会釈をし背を向けると歩き始める。幸いなことにギルドの近くで彼女と遭遇したため、数分と経たずに集会場に到着する。サリバンを伴い集会場に足を踏み入れたその時、中にいた冒険者たちがざわつき始める。自分が入ったことでざわついたのだろうかと一瞬考えるが、どうやら原因は別にある。それは彼の後ろにいる存在であった。


「すげえな……。さすがは大英雄。一気に雰囲気変わったな」


「さすがの知名度だろ? 弟子として鼻が高いぜ」


 サドリティウスの人気に思わず声を上げると隣に立つサリバンがまるで自分のことのように喜びの笑みを浮かべた。サドリティウスと一言でも交わそうと彼の周りに続々と冒険者たちが集まっていき身動きが取れなくなっていく。それに巻き込まれる形でラケルの人ごみに消えていく。


「というわけで師匠ぅー! 先行ってるぜー」 


 人ごみにのまれた彼らの救出を諦め、サリバンはギルド長のもとへ向かおうとする。ラケルをこの場に放置することに一抹の不安を覚えたアベルであった。が近くにサドリティウスがいる。危ないことに巻き込まれる心配はないだろうと判断すると、彼もまたギルド長のもとに向かうことに決め、歩き始めた。


 サリバンに案内され少し歩くと依然足を踏み入れた部屋にたどり着く。サリバンが扉を開けるとその向こうには依然顔を合わせた制服の男が立っていた。彼はアベルの顔を見るなり作業の手を止め歩み寄ってくる。


「アベル様、お目覚めになるのをお待ちしておりました。この度は我らが冒険者に交じりこの町を守っていただいたことに感謝の言葉を言わせていただきます。本当にありがとう」


 歩み寄ってきたギルド長はアベルの前に立つと深々と頭を下げる。ここまで丁寧に礼を言われるとは思わなかったアベルは少々狼狽した様子を見せた。


「ところでアベル様。アベル様はこの後どのようになされるおつもりでしょうか?」 


「はい? ああ、獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の隊長と王都に行く約束をしていますが……」


「何?」


 アベルがカルミリアとの約束を伝えるとギルド長は一瞬にして鋭い視線を見せる。彼もまたサリバンと同じ誤解をしているのだろう。それを察したサリバンが彼に視線を向けて首を横に振った。視界の端で首を振るサリバンに気づいたギルド長は、すぐにその意図を察し鋭く細められた目を元に戻した。


「そうでございますか……。で、そのあとはどうなさるおつもりでしょうか? もし何もなく気ままに旅をするのであれば冒険者になられてはいかがでしょうか? 冒険者は国内であればその資格で様々な優遇措置を受けることが出来ます。持っておいて損はないかと思いますが」 


 ギルド長の話を聞き、アベルは彼が話をしたいと言ってきた目的を理解する。要するに彼はアベルを冒険者陣営に引き込みたいのだ。今回の戦いでは協力したとはいえ両者の隔たりは決して浅くない。場合によっては手を出し合うことになることだってあるだろう。その時に神装使いはいろいろと役に立つ。だから獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)に取られてしまう前にアベルを引き込みたい、そしてその手柄を自分のものにして出世したいという魂胆であった。


 あまりにも見え透いた魂胆にサリバンは溜息を吐く。しかし、彼の立場上、ダメだとは言いにくい。それに冒険者の資格はあってデメリットがあるわけでもないため、取っておいて損をすることはない。声を大にして否定はできなかった。


 視線を向けながら次のアベルの発言に注目する二人。徐々に高まっていく緊張感の中、アベルは十数秒ほど考えたところでゆっくりと口を開いた。


「俺は……」


 そして彼の口から発せられた問いかけへの答えは二人の予想だにしないものであった。








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