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第2-14話 ガール・プロテクト・フューチャー

 半分魔獣と化したかつての冒険者たちとアベル・カルミリアの二人が激闘を繰り広げているその一方。魔獣の脅威から逃れるために町の中心部の避難所に逃れていたラケルは、アベルの無事を祈っていた。


 何もできない自分に歯痒さを覚えながら、精一杯祈っていた彼女。そんな彼女のそばを一人の少年が通りかかる。


「お母さん……。どこー……」


 どうやら母親とはぐれてしまったらしく瞳に涙を浮かべながらキョロキョロと周囲を見回している。今、彼女が避難している大広間はかなりの大きさがある。小さな子供一人で母親を探すのは難しいだろう。そのことを理解したカルミリアは少年の肩に手を置くと、声をかけた。


「僕、どうしたの?」


 肩に手を置かれビクリと肩を震わせた少年は、ラケルの顔をうるんだ瞳で見つめると自分の状況を伝える。


「えっと……、あのね、お母さんがどこかに行っちゃって……。それで探してたの……」


「そっか。じゃあ一人で探すのは大変だと思うから、お姉さんも一緒に探してあげる。お名前は?」


「えっと、アクレア」


 少年の名前を聞き、笑顔を見せたラケルは少年に向かって手を差し伸べる。一瞬戸惑ったような表情を見せた少年であったが、おずおずとラケルの手をつかんだ。偏にそれは信用の証、少年から見てラケルが信じるに値する人物だと思われた証拠であった。


 手をつないだ状態で母親を探し始めた二人。最初は非常におとなしいそぶりを見せていたアクレアであったが、次第に心を開いてきたのか、彼本来の活発な様子を見せ始める。


「あのねあのね。僕のお父さんは冒険者で、すっごく強くて、魔獣をやっつけに行ってるの! それでね、僕も大きくなったらお父さんみたいに強くなるの!!!」


「へぇ~、すごいねぇ。じゃあ今、たくさん魔獣をやっつけてるんだ」


「そうだよ! 僕のお父さんはこの町で一番強いんだ!」


 胸を張り父親を自慢げに語るアクレアに、首を縦に振るラケル。仲睦まじく話しながら母親を探して回る二人。しかし、その時間も長くは続かなかった。


「あ、ママだ!」


 アクレアはラケルの手を握ったまま、もう片方の指で前方を指さす。その指の先にはきょろきょろと視線を動かし何かを探すそぶりを見せる女性がいた。彼女の様子から鑑みるに彼女が少年の母親で間違いないだろう。


「見つかったならよかった。お母さんが心配してるだろうから早く行ってあげて」


「うん! 一緒に探してくれてありがとう!」


 バイバーイといい手を振りながらラケルの元を離れようとするアクレア。しかし、そんな彼の行動を妨げるように避難所に轟音が鳴り響いた。


「ハッハァー!! 女ぁ!! いるかぁ!!!」


 避難所の壁を破壊しながら姿を現した半魔獣の男。男の口調から察するにラケルのことを探しているらしく、わざとらしくあたりを見回している。しかし、避難所に避難している人間はかなりの人数である。当然一瞥した程度では見つけることができない。


「おい、女ぁ! もしここにいるんだったら今すぐ出てこい!!! さもなくばここにいる人間を一人ずつ殺してくぞ!!!」


 その声に反応し、彼の放つ殺気で微動だにすることができずにいた避難民が動揺した様子を見せる。まあ、いきなりやってきた男が何のことかもわからないことを要求し、叶わなければここにいる全員を殺すといっているのだ。動揺して当然である。


「さあ、早くしろぉ!! もう時間はねえぞ!!! イーチ! ニィー! サァーン!」


 ラケルを急かすようにカウントダウンを始める男。彼に視線を向けながら緊張で生唾を飲み込むラケル。恐怖で体が強張り、出ていきたくとも出ていけない中。彼女にスカートの裾が引っ張られる感覚が襲い掛かった。


 足元に視線を落とすと、同じように恐怖で体を震わせているアクレアがラケルのスカートをつかんでいた。大の大人が震えるほどの圧力。子供が受ければその負担は大人の数倍になる。


 そんなアクレアを見てラケルは不思議とすぐに身体の震えが止まった。小さな身体を恐怖で震わせているアクレアを見て自分が守らなければならないという気持ちにさせられたのだ。アベルが魔獣の前に立ち自分を守ってくれた時の気持ちが不思議とわかるような気がした。


 あの時は自分がしてもらった。次は自分がしてあげる番だ。そう考えたラケルは震えるアクレアの頭にやさしく手を置いた。優しく手を置かれたことでアクレアは視線を上げた。彼の眼は恐怖で暗く沈んでおり、先ほどのような溌溂とした目とは真逆である。


「大丈夫。お姉さんが何とかして見せるから。あの人はすぐにここから離れると思うからそしたらすぐにお母さんの所へ行って」


 暗い表情で見上げていたアクレアの瞳に光を取り戻さんと声を変えたラケルは元気づけるように小さく、優しく微笑んで見せた。人を安心させるための、以前アベルが見せたものと同じ表情を見せたラケル。


 覚悟を決めたラケルは大きく深呼吸をし、息を整え外に続く扉の位置を確認する。そしてキッと気持ちを引き締めると避難所の扉に向かって一目散に駆け出した。誰もが恐怖で動けない中、一人だけ動いたラケルは非常に目立つ。故に


「そこにいたか女ァ! 今すぐ殺してやるからなァ!!!」


 男の目に留まりすぐに見つかる。目標を見つけた男は堂々と殺害宣言をすると駆け出したラケルを追う用にして動き始めた。扉を開け放ち避難所の外へ逃げ出したラケルを見て男は破った壁から外に飛び出していき彼女の後を追い始めた。


 残された者たちは恐怖から解放されたことで小規模のパニック状態に陥る。そんな中で言われた通り母親に駆け寄っていったアクレアは、すがるように母親の足に縋りついた。


「ああ、アクレアちゃん! 無事でよかったわ!」


 やっとの思いで見つけた我が子を母親は抱き上げると力強く抱きしめた。恐怖というストレスから解放されたアクレアは母親との再会を喜ぶように子供らしく声を上げてワンワンと泣きじゃくったのだった。
































 一方で男から逃げ出したラケルは町の中を疾駆していた。戦闘に参加しているもの以外誰一人としておらず閑散としている通りを彼女は必死で走る。男の身体能力はすさまじく、瞬く間にラケルに追いつくが、彼女は右へ左へジグザクと走ることで必死で男の魔の手から逃れ続けていた。


 上空から急降下し地面に叩きつけられる拳を左に進路を変更することで回避するラケル。そんな彼女の動きに苛立ちを募らせていく。攻撃手段が爪というリーチの短いものしかないことも災いしてラケルを仕留めることができていなかった。


「クソがァ! ちょこまかちょこまか逃げてんじゃねぇ!!!」


 しかし、彼女を仕留められない要因はほかにもある。単純に彼女の足が速い。すぐに追いつかれるとはいえ攻撃直後の一瞬の硬直のうちに彼女は男と間合いを離し、振り返って次の行動を確認する余裕を得ていた。まさに韋駄天、天性の脚力を持っていた。その程度の脚力がなければ、二日間魔獣から逃げ続けるなんていう離れ業はできない。


 しかし、それでも殺気をまき散らす男から逃げ続けるというのは精神を擦り減らす行為である。アベルほど戦いの精神構造を持っていない彼女には長々とはできない。すでにギリギリの綱渡りの状態であるラケルの緊張が崩れるのも時間の問題である。


 男の苛烈な攻撃を回避しながら逃げ続けているラケル。一応彼女も目的をもって町の中を疾駆していた。目的地は町の外側、現在戦場となっている外壁近くであった。戦場まで行けば必然的に屈強な戦士たちに男をぶつけることができる。それに外壁近くまで運ぶことができれば無関係の一般市民を巻き込まずに済む。まさに一石二鳥である。

 

 しかし、ということは当然ラケルは自ら危険に身を投じることになる。たどりつけなければ何の多助けも受けることができずに男に襲われるにことになるし、辿り着いたとしても今なお激戦を繰り広げている戦場に身を投じることになる。命を落とすか、助けてもらえるか。一か八かの大勝負である。


 やっとの思いで戦場までおよそ半分の所までやってきたラケル。今まで追ってきていたはずの男の姿もなぜかなくなり一息つけると考えたラケルは視線の通らない路地に入り込むと、走るのをやめ大きく息を吐いた。


 今まで追われていた人物から解放されたことで、ラケルは無意識のうちにホッとしてしまう。殺気から解放され縛るものがなくなったことで心の余裕が現れたゆっくりと呼吸を繰り返し息を整えていく。呼吸を整えたラケルはもっと安全な場所に移動しようと行動を起こそうとする。


 そんな彼女はふと妙なにおいを嗅ぎつける。何かが焦げるようなにおい。それと同時に後ろから黒い煙が押し寄せてくる。まさかと思いながら振り返ると、彼女の背後に置かれていた木箱が炎を上げていた。黒煙がもうもうと上がっており、その勢いはどんどん強まっていく。


 一体いつ炎がついたのだろうか、そんなことを考える暇もない。ラケルは路地から一目散に駆け出す。


 慌てて路地から通りに出てきたラケル。すると、彼女は何かにぶつかってしまい、後方に尻もちをついて倒れる。何もない通りで何かぶつかるはずがない。では一体何にぶつかったのか。


 ラケルは何の気なしに視線を起こしぶつかったほうを見上げた。そこには逃げ切ったと勘違いした男が立っている。先ほどラケルを追い回していた時のように殺気に満ち満ちており射殺さんばかりの目力で彼女を睨みつけ、見下ろしていた。


 まずい。そう思う暇もなく、男は行動に移る。距離を取ろうとしたラケルの腹部に向かって勢いをつけて蹴りを振る。数々積み重なったショックで硬直したラケルに躱せるはずもない。振り下ろされた蹴りを何の防御もできず受けたラケルは十メートルは吹き飛ばされ勢いよく地面を転がった。


「ゲホッ! ゲホッ!」


 蹴りの衝撃で体内のすべての空気を吐き出しらラケルは、苦しみで瞳に涙を浮かべると必死で空気を取り入れようとする。それを妨げるように彼女を襲う浮遊感と頭皮の痛み。髪を持って強引に彼女を身体を引き上げているのは当然蹴り飛ばした男。続けて彼女の身体を髪を掴んだ状態で投げ飛ばす。宙に浮いた彼女の身体は近くの建物に音を立てながら突っ込んだ。


 その様子を見て男は口角を吊り上げる。殺気は強まっていく一方であるにも拘らず口元だけが、まるで嬲り殺しを楽しんでいるかのようにつり上がっている。


「さんざんてこずらせやがって。だがようやっと捕まえたぞ……」


 首をゴキゴキと鳴らした男はラケルの突っ込んだ民家に向かって行く。瓦礫の山から彼女を引きずり出した男は首を鷲掴みにすると鋭い爪の生えた指をまっすぐに揃え、いわゆる抜き手の形を作った。


「あの男の前でテメエを殺せねえのは癪だが、さんざん逃げ回ってくれたテメエにむかっ腹が立ちまくりなんでなァ……。アイツがつく前に死にたくなるほど苦しませて殺してやる!」


 最後にラケルの苦しむ表情を見てその柔らかい肌を貫こうとした男は、苦しみで歪む顔を睨むように見つめた。しかし、彼女の表情は歪んでいても彼女の瞳が一切絶望していなかった。まだ自分が死なないとでも言いたげな一点の曇りもない瞳。その瞳が気に食わず、さらに怒りを高ぶらせた男は貫手を放つため、引き絞った腕を解放させる。


 しかし、それはあえなく『解放させようとした』程度で留まることになる。彼女に集中していたことで注意の逸れた側面から奔った衝撃でラケルを手放してしまったから、貫手を放つ前に吹き飛ばされたからである。


「間に合った! ラケルちゃん、大丈夫!?」


 地面に落ちそうになったラケルの身体を受け止めたのは男を追っていたアベルであった。男を全力疾走の勢いを乗せたドロップキックで吹き飛ばしたのもまた彼である。男を完全に見失った彼であったが、空中に上がる一筋の煙に何かを感じ取り、ここまで駆けてきたのだ。そしてその判断はまったくもって正しかったといえる。直感に従わず、避難所に向かっていれば彼女とすれ違いになり彼女は殺されていたのだから。


 戦場から彼女を守るために駆けたアベルと避難所を離れあえて戦場に向かって走ったラケル。二人の奇跡的な行動によってラケルは命を落とすことなく生き延びたのだった。




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 ぜひ次回の更新も見に来てください!


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