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第2-11話 ウォーリアー・コライド・ビースト

 魔獣の迎撃の作戦会議から二日後、町の外に出たカルミリアたちは、魔獣を町から離れた彼らの進行方向上で、彼らがやってくるのを待ち構えていた。迎撃に向かう冒険者と獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の面々で町を離れてこの場所にたどり着くまでに半日。そこから迎撃の準備でさらに半日を費やしている。そろそろ魔獣は彼らの前に姿を見せるだろう。


 そのせいかその場の雰囲気が重苦しく、どこかピリついたものへと変化している。あと数時間もしないうちに命がけの大決戦に身を投じることになるのだ。当然のことでもある。緊張感を持ちながらも肩の力を抜くことが出来ているのはごく少数の歴戦の戦士のみである。


 その中の一人であるカルミリアは、煙草を吸いながら魔獣のやってくるであろう方向を睨みつけていた。彼女の瞳には一切の強張りはなく落ち着きを纏っている。その余裕は歴戦の神装使いとしてのものであろうか。


 そしてもう一人。彼女と同じくらい落ち着きを保っている人物がいる。サリバンは緊張気味のパーティーメンバーや他の冒険者たちの緊張をほぐそうと声をかけて回っていた。こちらは経験とリーダーとして緊張で強張った姿を見せるわけにはいかないという責任感の二つでここまでの落ち着きを見せていた。


 迫りくる魔獣の軍勢という脅威に対し両陣営は嫌悪感を見せている場合ではないと気持ちを切り替え、今までの確執がないかのような連帯感を見せている。今ならば戦力差をひっくり返して魔獣の軍勢を撃退してしまうのではないかと期待させるほど、彼らの気持ちは一つになっていた。 


 そんな彼らのもとに斥候として魔獣の動向を探りに行っていたミコト筆頭の部隊が戻ってくると、報告を入れる。


「報告します。あと三十分ほどでここに到着するかと。戦闘準備を」


「わかった。報告ありがとう。裏で出番が来るまでゆっくり休んでいてくれ」


 サリバンの言葉に首を縦に振った彼らは野営地の後方へと姿を消す。その背中を見送ったサリバンは近くで紫煙を燻らせているカルミリアのもとへ歩み寄っていく。


「カルミリア。あと三十分だと。始めよう」


「わかった」


 短く伝えたい内容を伝えたサリバン。それを聞いたカルミリアは煙草を懐から出した金属製の容器に放り込むと背中の槍を抜き放ちその穂先を天に掲げた。その穂先から第二の太陽といっても過言でないほどの、極熱の小火球が姿を現し、その場にいるすべての人間の目を引き付けた。


「いいか!!! もうすぐ魔獣がやってくる! これから貴様らはそいつらに己の剛腕を振るわなければならない! さあ、奮い立て! 町を襲おうとする不埒な魔獣たちに我らの力を見せつけてやるぞ!!!!!」


 その場にいる全員の耳に響き渡ったカルミリアの喝により、人間側の士気は最高潮に上がる。それと同時に第二の太陽の光が彼らを包み込んでいき、彼らの身体の調子を上げていく。母なる太陽の光はすべてに等しく降り注ぎ活力を与える。さらに加えて、第二の太陽の光を浴びたものはさらなる力を得ることが出来るのだ。


 希望の光、太陽神の恵みなどと呼ばれる力がこの場に立つ戦士たちを包み込んでいく。これにより全員が低級の身体強化の魔技程度の身体能力を手に入れることが出来た。身体にみなぎる全能感に戦士たちは興奮を隠せない。


 士気は高く、戦闘の準備もできた。あとは魔獣を待ち構えるだけである。戦列を組み、今か今かと興奮した息遣いで待ちわびる戦士たち。


 そんな彼らの眼に地平線から何かがやってくるのが映る。


 最初は一体だった。しかし、次第に二体、三体と数を増やしていき、最終的には数えようとすら思わなくなる数に膨れ上がる。地平線を覆いつくさんばかりの数まで膨れ上がった魔獣たちは悠然とした足取りで冒険者たちに向かって歩みを進めている。まるで勝利を確信しているかのよう。


「や、やばすぎるだろ……」


 あまりの戦力差を見て士気を上がった士気を落とす一部の戦士たち。


「何言ってんだ。もう逃げるわけにはいかねえだろ」


しかし、その一方でそれに当てはまらない多くの冒険者は、むしろ士気を落とすことなく身を震わせていた。もちろん武者震いだけではない。恐怖で身体を震わせているという側面もある。しかし、それ以上に興奮し、武者震いを起こしているという側面のほうが強かった。ここまで恐怖で臆することなく奮い立つことが出来ているのは、魔獣を睨むようにして見つめている小さな、しかし強大な覇気を纏っている背中のおかげだろうか。


 徐々に距離を詰めてくる魔獣たちは、その距離を最初の半分ほどまで詰めたところで戦士たちの存在に気づく。彼らの存在に気づいた魔獣の群れの戦闘を進む一体の魔獣が後ろに知らせるように雄たけびを上げた。それが周囲に響き渡ると、他の魔獣たちも続くように雄たけびを上げ始める。輪唱のようにして響き渡る咆哮。その音量が減っていくにつれて、次は別の音が混じり始めた。


 地面を踏みしめる音。ドガドガと土を蹴る音。徐々にその比率は傾いていき、最終的には雄たけびは消え、迫りくる音のみになっていた。


 砂煙とともに迫りくる魔獣たちは人間をはるかに上回る速度で距離を詰めていく。それは宙に舞う砂煙で戦士たちに知らされる。近づくとともに巨大になっていく音に相対する戦士たちは自らの身体を身震いさせた。


「始めるぞぉ!!!!!」


 そんな中、カルミリアの声が響き渡る。魔獣の響かせる音にも負けないほどの大声を上げたカルミリアは天に掲げていた槍を魔獣たちに向ける。


「オオォッ!!!!!」


 そして彼女の声に応えるように戦士たちも声を上げ、各々の武器を魔獣たちに向ける。遠距離攻撃のできる者は矢を引き、魔技を詠唱し魔獣に向けて放った。彼らの放った攻撃は数秒としないうちに魔獣たちに着弾し、傷を与え、命を奪っていく。


 しかし、彼らの遠距離攻撃程度では減らせた魔獣の数など微々たるもの。残った多くの魔獣たちはその速度を変えることなく戦士たちに向かって突撃していく。あわやこのまま距離を詰められ数の暴力を生かした乱戦に持ち込まれることになろうとしたその時。


「……では最後は私が行こう。全員、防御姿勢を取れ!!!」


 最後の一発まで動かなかったカルミリアが動く。槍の穂先を斜め四十五度まで持ち上げると先端で未だ燃え盛っていた小太陽を打ち出した。傍から見れば何もない場所に向かって小さな火の玉を打ち出したようにしか見えないだろう。しかしそんな考えは直後、消し炭と化されることになる。


 打ち出された火球は魔獣と戦士たちの中間程度で動きを緩やかにすると、一瞬のうちに質量を無視した数に分裂する。その数はなんと百以上。たった一つの火球から数えるのも億劫になりそうなほど分裂したすべてを焼き尽くさんとする火球の群れは、上向きの進行方向を下向きに変更すると、風を焼きながら魔獣の群れに向かって飛翔し始めた。


 火球は視認すら難しいほどの速度で魔獣や地面に殺到し、瞬く間に着弾する。その直後、その火球はその小さな見た目に反して巨大な火柱へと変化し、魔獣や地面を焼き尽くし、歩みを妨げる障害物と化した。さすがの魔獣たちも周囲に立ち上る火柱に怯みその進みを止める。その効果は覿面、周囲を火柱に囲まれた魔獣たちはどう動いていいのかわからず右往左往している。


「すげえ……。これが神装使い、神の力を使うものの力……」


 冒険者の一人が熱気に耐えながら目の前で起こっている光景を見てぽつりとつぶやいた。みる者によっては地獄にも、はたまた天国にも見える光景を彼女は一歩と動くことなく、槍を掲げただけで起こしたのだ。その力は一般の戦士とは一線を画している。


 カルミリアはさらにそこに追撃をかける。意図的に火柱を消すとすべての魔獣を囲い込むような巨大な炎の壁を作り出した。火柱が消えた代わりに炎の壁に囲まれ逃げ道を失った魔獣たちはさらなるパニックに陥る。意を決して炎の壁を突き破り外に出る魔獣もいたが、炎の壁に遮られその魔獣たちが一体どうなったか、壁の中の魔獣たちには知る由もない。


 このまま熱気にやられ全滅してしまうのかと魔獣の中の一匹が本能で思った。しかし、彼らにも一筋の光が差し込む。彼らを焼き尽くさんとする炎の壁、その一部が欠けているのだ。その先には炎など何もない草原が広がっていた。逃げ道はここしかない。最初に隙間を見つけた魔獣は一目散に走り始め、それに気づいた魔獣たちも後に続くように走り始める。炎の壁に触れないように、しかし、炎の壁から真っ先に抜けだそうと隙間にぎゅうぎゅうに詰まるようにして魔獣たちは必死で抜け出ようと走る。


 しかし、魔獣たちは気づかない。誘導されていることに気づかない。隙間が開いていることを壁を作った本人が気づかないようなことがあるだろうか。となればこのような穴を作った目的はただ一つ。この場所から出ることを強制するためである。そのことに気づかない魔獣たちは一目散にその穴に向かって走り、自らの動きに縛りをかけていく。それが自らの死の原因であると気づかずに。


 

























「どんどん来るぞ!!! ジャンジャン攻撃して数を減らせ!!! 壁を抜けてくる奴らは担当の奴らに任せて俺たちは隙間から抜けてくる奴らの処理だ!!!」


 隙間から飛び出してくる魔獣たちに攻撃を加えながら戦士たちに指示を出すサリバン。そんな彼の指示に従ってか従わずか獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の面々は隙間から飛び出してくる魔獣に攻撃を加えていく。


 その攻撃はさすがはエリート集団と言わざるを得ないほど威力、精度、処理速度、すべてが非常に高い精度でまとまっている。出てくる魔獣の急所に的確に攻撃を打ち込み、恐ろしいほどの速度で的確に魔獣を仕留め、その数を減らしている。炎の壁という地獄から抜け出たかと思えば死に至る攻撃に晒されるなど、魔獣からすればそれこそ地獄である。前門の虎後門の狼というものである。


 その一方で冒険者たちも黙ってみているわけではない。獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の苛烈な攻撃の邪魔にならない程度に魔獣に攻撃を仕掛け続け、腕に自信のあるものは割って入る。レオやサリバンなどがその一例である。更に割って入れない後衛の面々は前線で戦う者たちに支援を行い続けている。こんな状況で支援を余計なお世話だというものはいない。獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)も何も言わずにその支援を受け入れている。


 さらに彼らは壁の周囲を駆け回り壁を抜けてくる魔獣たちの息の根を止めて回っている。炎の壁を無傷で通り抜けることのできる魔獣はいない。傷ついた魔獣を屠るならば冒険者でも容易い。着々と魔獣の息の根を止めていく。


 両陣営のできることを着実に行い、徐々に徐々に魔獣の数を減らしていく戦士たち。その中でも特に力を見せつけている者が()()()()()でその力を振るっていた。


 壁の中で嵐のように荒れ狂う炎とともに槍を振り回し魔獣を吹き飛ばして行くのは、群れの中を駆け回るカルミリア。一息のうちに十数回の突きを繰り出し、合間に薙ぎ払いを繰り出して魔獣の肉体を問答無用で吹き飛ばしていく。背を向けて逃げ出そうとしようものならば纏う炎が魔獣を包み込み、その炎で焼き尽くす。近距離戦ではその小さな身体では考えられないほどの膂力で押し返し超高速の突きに見舞われる。炎の壁の中に一人入っただけで地獄はさらに加速したのだ。


 着々と魔獣を仕留めていくサリバン達。その場に転がっている魔獣の死骸を見てサリバンは息を整えながら考える。


(ここまでは順調に進んでる。誰一人死なずにこっちだけが戦力を減らすことが出来ている。けど……、なんだか嫌な予感がする。このまま順調に終わらないだろうな)


 戦場に流れる空気を感じ取り、第六感が叫ぶ嫌な予感を受け取ったサリバンは来るであろう不確定(イレギュラー)に身を震わせた。


 そしてそれをカルミリアも感じ取っていた。魔獣の首を飛ばしながら嫌な空気を感じ取った彼女は槍を握り直すと彼女の心の内を表すように身に纏う炎の火力をさらに上げるのだった。




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