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第2-8話 シニア・トレイン・ソードマン

 カルミリアとの対談から一日開いての、二日後。アベルは町の外で獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)の面々と訓練を行っていた。周りで彼を見守っているのはラケルとヘリオス、そして彼女の部下が数人。そして彼と相対しているのはカルミリアである。


 身長の二倍弱はあろうかという槍を、まるで嵐のように突き出し振り回している。彼女が初めて槍を持っているのを見た時には身長の二倍弱の槍を振り回せるのだろうかとアベルは思ったものだが、今ではそんなこと思えるはずがない。というより思う暇すらない。


 怒涛の勢いで繰り出される突きと薙ぎを必死の形相で受け流し続けるアベル。しかし、回避しきれなかった一撃はアベルの身体をかすめていく。反撃の糸口どころか敗北以外のすべての糸口を潰すような連撃にアベルは無心で剣を振るっていた。


「そこだ」


「うわっ、ちょっ!?」


 連撃の隙間を縫うようにして繰り出された足払いを回避できず体勢を崩し倒れこむアベル。背中から地面に倒れこんだアベルが起き上がろうとしたときには既に彼の首元に刃の隠された槍が突きつけられており、敗北を知らせてくる。


「大丈夫か」


 首元に添えた槍で勝利を確信したカルミリアは槍を手元に引き戻すとアベルに手を差し伸べる。それを掴んで立ち上がったアベルはカルミリアの容赦の無さとあまりの勝てなさに溜息を吐くと、悪態をついた。


「あんた、ずいぶんと容赦ないよね」


「最初に動きを見たときに素人よりも動けると判断したのでな。それにこれでもかなり抑えている方だ」


「あれで抑えてるって……」


 カルミリアの発言にある意味での恐怖を覚え冷や汗をかくアベル。彼女の動きは先日同じように訓練したサリバンと同程度、それ以上には鋭かった。それを踏まえ彼女を言葉を鵜呑みにすると近接戦においてカルミリアはサリバンの何倍もの戦闘能力があることになる。エリート集団の隊長の実力が垣間見えた。


「まあいい。続きをするか?」


「当然。この程度で折れちゃ話になんないだろ」


「話が早い。さあ、行くぞ!」


 カルミリアの張りあげた声で距離を取るアベル。攻撃の雨をかいくぐるため身構えた彼は、襲い来る攻撃に剣を握り直した。


 再度、武器を交える二人。今度はカルミリアは得意の炎を操り、爆炎とともに驚愕の表情を浮かべるアベルに襲い掛かっていく。アベルはところどころを焼き焦がしながら必死で裁こうと試みていた。


 そんな二人の交わりを見るヘリオスは苦い表情を浮かべながら思わず声を漏らす。


「うっわ、容赦ねえなぁ……。素人にやることじゃないでしょ……」


 苦笑いを浮かべながら二人の動きを目で追うヘリオス。そんな彼の隣で同じように見守るラケルはチラリと彼に視線を向けるとゆっくりと口を開いた。


「あの……。ちょっと聞いてもいいですか?」


「ん? あぁ大丈夫だよ。どうしたの?」


 自分にだけ聞こえるような声で囁いた彼女の声に笑顔で応えるヘリオス。そんな彼にラケルは問いかける。


「あの、カルミリアさんが何もないところから炎を出してて……、前にも何もないところから氷の塊を出した人もいて。あれってどういうふうにしてるんですか?」


「ああ、魔技のことね。そういえばラケルちゃん田舎から出てきたんだっけ。じゃあ知らなくても不思議じゃないね。それじゃあ、オジサンが教えてあげよう!」


 わざとらしい口調と自信満々に胸を叩いたヘリオスは炎を出した現象の説明を始める。


「魔技っていうのはね、自分の魔力っていうエネルギーを使うことでいろんな現象を起こす技術だよ。炎を出したり氷を出したり地面をすごい柔らかくしたり重病人をあっという間に治したりいろんなことが出来るんだ」


 炎を出したりのところでチラリとカルミリアに視線を送りながら説明をするヘリオス。今、彼女は炎を羽衣のように纏ってアベルに襲い掛かっており、炎と波状攻撃の相乗効果でアベルは死にそうな表情を浮かべている。


「発動させるには特定の言葉の羅列が必要になってそれを組み合わせることで効果や範囲を変えることが出来るんだよね。例えばこんなふうにね」


 そういうとヘリオスは胸元に手を上げるとゆっくりと魔技の詠唱を口ずさみ始める。


「アル・ブレア・ミニス」


 詠唱が終わり声が途切れたところで持ち上げたヘリオスの指先から小さな炎が上がる。突如として現れ、ゆらゆらと揺れる炎に驚いたラケルはキャッと小さく悲鳴を上げる。


「おっとごめんね。とにかく幅広い力を持ってるのが魔技だよ。戦闘にも使えるからその手の人間は使いたいんだ。うちの部隊の人間は初歩的なのだったらみんな使えるしね」


「へえー。じゃああの人たちも一応すごい人たちだったんですね」


「まあ、あいつらよりも性格がよくて魔技のレベルも高いなんて人間はザラにいるけどね」


 自分を連れて行こうとした男たちの評価をマイナス五百からマイナス四百まで戻したラケルはふと思考を巡らせる。今は何もできないただのお荷物でしかない自分。そんな自分が魔技を使えるようになったら 少しは彼の役に立てるだろうか。おんぶにだっこで生きている自分が役に立てるのであればぜひ使えるようになりたいと考える。


 しかし、そこに辿り着くために必要なものが彼女には全く足りていなかった。まずまともに文字が読めない。今まで人里離れた田舎で外の世界を知ることなく生きてきた自分はまともに教育を受けてきていない。アベルとともに生活してきた一か月も彼女はアベルの後ろで見ているだけで何の役にも立てていなかった。


 その他さまざまな問題で彼女が踏み出すことは難しい。そのことを思ってラケルは気分を落ち込ませた。


「ラケルちゃん、危ない!」


「はい?」


 うつむいた状態で思考の海に沈んでいたラケルを呼ぶ声が響き渡る。その声で浮き上がってきたラケルは自身に覆いかぶさる影を認識する。


「うおおおぉぉぉ!」


 顔を上げたラケルが視認したのはなぜか自分に向かって飛んでくるアベルの姿であった。重力に従って落下を始めるアベルを彼女の力ではどうすることもできず、やがて来る衝撃と痛みに備えてギュッと目をつぶり身構えることしかできなかった。


 二人の距離が徐々に近づいていく。そんな中で彼女の護衛役を買っていたヘリオスが動く。いつの間にか握っていた自らの得物、槍斧(ハルバード)を振り上げるとアベルの腹部に添え、そこから力を籠め持ち上げていく。ラケル直撃のルートから逸らしたヘリオスはそのままアベルを投げ飛ばした。


「グエッ!」


 潰れたカエルのような声を上げながら地面に背をつけたアベル。そんな彼を他所にヘリオスは人間砲弾を撃ち込んできた張本人に怒声を上げる。       


「ちょっと隊長! 危ないじゃないですか! わざわざこっちに飛ばしてこないでくださいよ!!!」


「貴様が護衛を買って出たのだからその子を守るのは貴様の役目だろう。しかしまあ、すまなかった。怖い思いをさせて」


 ヘリオスの叱責にもひるむことなくカルミリアは軽口をたたきながらラケルに頭を下げた。


「一度休憩にするか。彼のことも気になるしな」


 カルミリアはラケルの背後に視線を送り、顎で指す。その先には蓄積したダメージで気絶しているアベルがいる。彼のことを思い出したことで方針から戻ってきたラケルは彼に駆け寄っていった。





























 それから少し時間が経って目を覚ましたアベルは身体を休めるためにカルミリアの言う通り、休憩を取っていた。彼とラケル、そしてなぜか未だにいるヘリオスの三人で昼食を囲んでいた。ヘリオスの人当たりのいい穏やかな性格も相まって和やかな時間を過ごす三人。 


 その一方でどこか不穏な雰囲気を放っているグループがあった。それはカルミリアとその部下のグループである。四人ほどで昼食を取っている彼らのうちの一人が不満そうな表情をしながらアベルを見つめている。そんな彼の様子にはカルミリアも気づいていた。


「どうした、彼のことをじっと見つめて」


 カルミリアが彼に声をかけると、彼は何かを言いたげにアベルからもカルミリアからも視線を逸らす。それでも不満そうな表情は変えることはない。そんな彼を見て心の内を察しているカルミリアは口を開くとあることを問いかける。


「気に食わんか?」


「当然です!!!」


 そんな彼女の問いかけに男は声を荒げながら答えた。どうやら彼はアベルが神装を持っていることに不満があるらしくさらに言葉を紡ぎ、不満を露わにしていく。


「神装に認められるというのはすべての戦士の目標であり、手にすること自体が既に誇りなのです! 私もそれを目標に今まで剣を振るってきました。それをあんな何の努力もしてこなかった素人が手にするなんて……。腹が立って当然です!!!」


 アベルにも聞こえそうなほど声を荒げる男。それに思うところがあるのか、他の者たちも声には出さないが首を縦に振っている。そんな彼の様子を見てカルミリアは小さく溜息を吐くとたしなめるように声をかけた。


「君が彼の信者であるというのは知っている。が、前にも言っただろう。神装に認められるかは九割が運だということを。我々がいくら努力しようと神の気まぐれ一つでその意思は変わる。だから奴に恨み言をぶつけても仕方なかろう」


「そんなことはわかってますよ……。でも口に出さないと収まりがつかないんです……」


 思いの丈を吐き出して多少冷静さを取り戻した男であるが、まだどこか不満そうな表情を浮かべていた。もう少し吐き出させれば冷静になるだろうと考えたカルミリアはそのまま彼の愚痴に耳を傾けてやることにした。


 しかし、それを阻もうとする者がいる。先ほどの愚痴はうっすらとではあるがアベルの耳にも届いており、離れたところで休息を取っていた彼らの話題はそれについてに移っていた。


「ごめんねぇ。うちのが」


「しょうがないですよ。彼の言ってることは事実でしかないんですから。だからこれから頑張って強くなりますよ」


「おっ、ポジティブだねぇ。オジサン若人のそういうとこ尊敬しちゃうなぁ」


 持っているサンドイッチを口に放り込み無理やり咀嚼して飲み込んだアベルは立ち上がる。


「もう始めるのかい?」


「当然です!」


 特訓の再開を待ちわびているように高らかに宣言するアベル。それを敏感な聴覚で聞き取ったカルミリアは訓練を再開するため、残りを口に入れると槍を片手にアベルのもとへ歩み寄っていくのだった。
























 それからおよそ五時間ほどみっちり訓練を行ったアベルは痛む体に鞭を打って町に戻るための道を進んでいた。


「いたた……、さすがに背中に渾身の一撃を貰ったのはつらいな……」


 アベルは訓練再開の直後、ラケルの怒涛の連撃をかいくぐり、見事に自分の間合いに持ち込むことに成功した。しかし、何年と戦闘を繰り返してきた人物の積み重ねてきた経験がそれの遥か上を行っていた。剣を振り下ろすと同時にアベルの背後に回り込むと、勢いを合わせた横薙ぎを彼の背中に打ち込んだのだ。小さい体躯に全く見合わない恐ろしいほどの膂力から生み出される衝撃でアベルは軽々と宙に舞い、しばらく呼吸が出来なくなってしまった。その痛みが尾を引き、未だに引く気配がない。


「大丈夫ですか? かなり痛そうですけど……」


「多分大丈夫だと思うよ。さすがに三日は痛みが引かないような気がするけど……」


「まあ、隊長に一瞬でも本気を出させたって意味では名誉の負傷みたいなものだよ。あとでうちお抱えの魔技師に治癒もしてもらえるようにお願いするよ」


「助かります……」


 彼の怪我を心配して声をかけるラケルとヘリオス。そんな彼らのもとに戦闘を進んでいたカルミリアが近寄ってくる。


「すまなかったな。力加減がうまくできずに素人相手に本気で打ち込んでしまった」


「いえ、本気で鍛えてくれたっていうのはわかっているので」


 軽く頭を下げるカルミリアに対し、アベルは手のひらをかざし頭を上げるように促す。そのまま彼らのそばについた彼女は歩速を合わせ歩き始める。


 それから少しして町に到着した一行は連なったままの状態で町の中を進み始める。綺麗にまとまった鎧を着こんで彼らは、あからさまに獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)であると主張するように見える。特にカルミリアは神装の存在も相まって他とは違う迫力を放っていた。彼らの存在に気づいた町の住民は口々に彼らに声をかけていく。


「兵隊さん、いつもありがとうねー! おかげでうちの旦那が助かったよー!!!」


「今度うちに食べに来てくれよー! とびっきりサービスするぜー!!!」 


 口々に投げられる彼らを称賛するような声。その一方でその声に交じって彼らを非難するような声も発せられていた。


「ちょっと腕が立つからって偉っそうに、国のいぬっころが……。お前らが間に合わなかったせいで俺のばあちゃんは死んだんだぞ……」


「あいつら肝心な時に来ねえんだよな。誰のおかげで飯が食えてると思ってんだ」


 そんな非難の声を上げた者たちに対して睨みを利かせる部下たち。その視線の先には冒険者らしき存在も混ざっている。 


 やはり冒険者と獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)は仲が悪いのだと再認識したラケル。そのことをヘリオスに伝える。


「やっぱり仲が悪いんですね」


「まあそうだねぇ。もっと仲良くなればもうちょっと助けられる人も増えるだろうに」


「全くだ」


 ラケルの声にヘリオスが反応するとカルミリアが相槌を打った。今まで会話に参加してこなかった彼女が会話に参加してきたことで少し驚いたラケルは彼女の方に視線を向けた。


「カル……、ガリーズさんは冒険者のことをどう思っているんですか?」


「カルミリアでいい。私は冒険者に悪感情なんて持っていない。人々を守れるならばどんな立場であろうと関係ない。むしろ我々だけでは手が回らないことだってある。そこを埋めてくれるのであれば彼らの存在は好ましいだろうさ」


 ラケルの問いに大人な答えを返して見せたカルミリア。そんな彼女を見て大人の女性とはこういうものかと実感させられたラケルは先ほどの返答に尊敬の念を抱き、同時に興奮しほんの少しだけ頬を赤く染めた。


「そんな私たちだ。押し付けるようで悪いが彼には私たちの懸け橋となってほしいんだがな。そこまで押し付けるのは酷だろうな」


 カルミリアは一度小さく息を吐くと前を歩くアベルの方に視線を向けた。今彼は彼女の部下と何か話しており決して険悪な雰囲気ではない。あれだけ彼に対して文句を言っていた部下も彼の人柄に充てられてしまってしまったのか、普通に話している。そんな彼の様子を見ればカルミリアがそのように考えるのも不思議ではない。


「きっと……、できるんじゃないでしょうか」


「それならいいんだがな」


 アベルを見ながらつぶやいた二人の声は薄れていく夕焼けに溶けて消えていったのだった。




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