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第2-2話 タウン・ウェルカム・ツーピープル

「おぅいお二人さん。着いたぜ、起きろぃ」


 御者を助け、馬車に乗せてもらってから三日。ゆっくりと揺れる馬車の中で眠りこけていたアベルとラケルの二人は御者の言葉にゆっくりと目を覚ます。


「ああ、寝ちゃってたのか。申し訳ない」


「気にすんねぇ。命の恩人とその連れが寝ちまったくらいで目くじら立てるほど気のちいせえ男じゃねえやい」


 アベルの謝罪を笑顔で受け流す御者。身体を起こしたアベルは対面でまだ眠っているラケルの肩を揺すって起こす。二、三度肩を揺すったところでラケルは薄く目を開く。


「んぅ……、着きましたか」


「着いたよ。ほら起きて」


 アベルの言葉に眠気眼を擦りながら応えるラケルは、身体を起こすと這い出るようにして馬車から出ようとする。


「待った待った! まだ馬車動いてる!」


 しかし、まだ馬車は動いている。今馬車を降りると体勢を崩して地面に顔面着地を決めることになる。アベルはまだ寝ぼけているラケルの服の裾を掴み間一髪のところで止めると馬車が止まるまで彼女の行動を注視した。


「よし、お二人さん止めるぜ。それじゃここまでだ」


 それから五分ほどで馬車が停止する。二人は馬車の荷台から降りる。降り注ぐ太陽の光に目を細めながら周囲の様子をうかがったラケルは、寝ぼけて細まっていた瞳を一瞬のうちに開いた。


「うわぁ~! おっきい! 広い! 人がたくさん! こんなところ初めてです!!!」


 周囲に広がる初めての光景に瞳を輝かせて興奮するラケル。彼女の瞳に移っているのは何件も規則的に並ぶたくさんの建物とそれらを縫うようにして歩く千人単位の人々。中央付近にそびえたっている城のような巨大な建造物。そしてそれを囲う巨大な壁。初めて見る未経験の光景に脳の処理が追い付かなくなったラケルは失われた語彙力で必死に感想を紡いだ。故に彼女に自分に都合の悪い情報を受け止める余裕はない。


 そんな彼女に眼差しを送る幾人かの民衆。お上りさんと言わんばかりの反応を見せたラケルを揶揄うような生温い視線を送っていた。しかし、彼女にそれを気にするような素振りはない。むしろ気にしているのはアベルの方だった。


「随分楽しそうですなぁ」


「ずっと田舎で遠出することもなく暮らしてたからね。このくらいは許されるでしょ」


 ラケルを揶揄うような言葉をアベルに向ける御者と親族のように優しい視線を送るアベル。二人はラケルに視線を送った後、顔を見合わせる。


「それじゃ、私はこの辺で。お二人ともご達者で」


「ああ、ここまでどうもありがとう。そっちも気を付けて」


 お互いに別れの言葉を掛けた二人は別れるとお互いの方向へ進み始めた。アベルはそばではしゃいでいるラケルのもとに歩み寄ると彼女を目を手で塞いだ。


「ひゃっ!?」


「落ち着いてちょーだい。興奮する気持ちはわかるけどやるなら人目のないところでね」


 目が塞がれたことで落ち着きを取り戻したラケルは、手が外れ再び開けた視界に移る人々を見て羞恥で顔全体を赤く染めうつむいた。


「とりあえず宿を取るよ。さ、行こう」


 周囲の人間に睨みを効かせながら前を向いて歩くアベルと、うつむいたままアベルの後ろを歩くラケル。そんな二人、もといラケルに視線を送る存在があった。 



























 当面の宿を確保したアベルは昼食を取るために街に繰り出した。ユクリタでギルディからもらっていた所持金はまだまだある。多少豪勢に行ったところで問題はない。人口が多いということもあり料理屋は多い。選択肢はより取り見取りだ。


(さて、何処にするか……)


 が、選択肢が多いというのも考え物である。多すぎるせいでどこを選ぼうか迷ってしまう。特に今食べたいものがあるわけでもないアベルに一軒に絞ることはできなかった。


「ラケルちゃん何食べたい?」


 そんな彼は同行者の希望を聞くことにした。しかし、彼女からもよい回答が返ってくることはなかった。


「何でも構わないですぅ……。もう食欲なんてありません……」


 ラケルは未だに先ほどのことで顔を赤くしており、飯どころではないらしい。


 手詰まりになり決めかねるアベルは細く息を吐くと食べたいものでなく、別の要素で選ぶことにした。歩きながら周囲を見回しその特徴を探していく。

 

 そんな中でアベルの眼に一つの存在が止まる。街を歩く人々の中でも異質な気配を放つ五人組。その先頭を歩く男に目が止まる。


(あれ? なんかあいつ見たことあるような……)


 その人物をどこかで見たことがあるような感覚を覚えるアベルであったが、どうにも思い出せず、考えているうちにそのグループが目の届かないところに行ってしまった。思い出せないのだから大して重要でもないのだと決めつけ再び店を探し始めた。


 それから五分と経たないうちにアベルの眼に一軒の店が止まった。三十秒もしないうちに何人も出入りしている。つまり客の出入りが活発であるということである。客の出入りが活発ということは人気があって集客率が高いことを意味する。単に回転率が高いだけという可能性もあるが、出てきた人々に不満は見えず、満足そうな表情で出てくる。これならば言うこともないだろう。アベルはその店に決め二人で足を踏み入れた。


「いらっしゃーい! 準備するからちょっと待っててねー!!!」


 それから三十秒ほど経ち、先ほど快活な声で応対した店員にテーブルに案内される。


「ご注文は?」


「そうだな……。じゃあ、あの人が運んでるやつ。酒じゃない飲み物何かちょうだい」


「かしこまりました~!」


 アベルが店員の一人が持つパスタと塊の肉を指さすと店員は笑顔で承諾し、足早に離れていく。料理が到着するのを待つアベルは、対面に座るラケルに視線を送った。


「ラケルちゃんや。多分もう誰も気にしてないよ。だからもう立ち直りなよ」


「お待たせしましたー。先に飲み物でーす!」


 ラケルに慰めの言葉を掛けた直後、店員が飲み物の入ったジョッキ二つをテーブルに置いた。それをひっつかみ流し込んでいくラケルは、半分ほど飲んだところで吹っ切れたように大きく息を吐いた。


「もう気にしても仕方ないですよね!!! お腹空きました!!!!!」


 二人の間で共有できる程度に声を張り上げたラケルは、堂々と、あるいはわざとらしいといえる様子で空腹を宣言した。その様子で忘れようとしていることを感じ取ったアベルは何とも言えない表情になってしまった。


 しかし、そんなことを気にした様子もないラケルはテーブルに置かれたパスタを自分の目の前に引き寄せると口に運び始めた。それを見て苦笑いを浮かべるしかなかったアベルは同様に置かれた塊肉を引き寄せると食べ始めた。


 和やかに会話を行いながら食事をする二人。そんな中、ラケルがふと思いついたことを口に出す。


「そういえばアベルさん。この町に来てこの後どうするんですか。冒険者になるんですか?」


 考えもしなかったことを言われ、アベルの食事の手が止まる。 


「そっか……、魔獣退治するんなら色々決めなきゃいけないよな。しっかし冒険者か……。所属しておいたほうがいいのかな……」


 ラケルの指摘からこれからのことを考え始めたアベルはぽつりぽつりとつぶやきを零していく。魔獣の皮や肉が産業になっている以上、利権の辛みなどもあるかもしれない。色々面倒があるかもしれないと考えると冒険者になっておいたほうがいい可能性がある。



 しかしそうなるとラケルという問題が発生する。彼女は戦闘能力皆無であり、戦闘力が必須となる冒険者としてやっていくには厳しい。重ねて彼女の性格上戦闘向きとは言えない。彼女が冒険者として活動するのは厳しいだろう。かといってアベル一人だけ冒険者になるというのもラケルを放置するようで気が引ける。


「なんか、……すいません。私が何もできないばっかりに……」


「いやいや、気にしなくてもいいよ。そういうこと全部ひっくるめて面倒みるって決めたんだから」


「……ありがとうございます。そう言ってもらえると嬉しいです」


 笑顔で何の気なしに答えるアベルを受けて、軽く頬を赤く染めながら感謝を伝えるラケル。


 しかし、冒険者になるかどうかの問題が解決したわけではない。どうすればいいだろうかと二人は悩む。


 そんなとき、彼らの近くのテーブルに座っていた男たちが不意に立ち上がった。そして二人のもとに近づいてくる。


「おいおい、兄ちゃん。どうやらお困りみたいじゃねえか」


 いきなり近づいてきた男たちに一瞬動揺しながらも、すぐに立ち直り対応する。


「イヤ、そんなことはねえけど……」


「あぁあぁ、みなまで言わなくてもわかってる。俺たちも冒険者だからな!」


 関わり合いになりたくないと感じたアベルは言葉を濁し適当に流そうとするが、冒険者たちは旧来からの友人かのように馴れ馴れしく肩に手を回す。それに不快感を覚えた二人は眉を顰めるが冒険者たちはその変化に気づかない。


「女を連れてるとその子が戦えないときいろいろと大変だもんな。俺たちもいくらか経験あるからよぉーくわかるぜ。そこで物は相談なんだけどよ、お前が依頼に出てる間、その子うちで預かってやるぜ。最近この町に来たみたいだし、いろいろと俺たちが教えてやるよ」


 アベルと肩を組んだ冒険者がアベルにひとつの提案をする。だがしかし、アベルはこの言葉が単純な善意からきているものでないことをすぐに理解する。おそらく目的はラケル自身であり、下心ありきの提案であろうと察しをつけた。


 彼女の身を案じるのであれば当然のめる提案ではない。すぐに断ろうと口を開くアベル。が、下心で近づいてきた彼らがそう簡単に引き下がるはずもない。


「いや、こっちの問題はこっちで解決するからいらない……」


「まあ、そう遠慮すんなって。てめえにはその子はもったいねえんだからよ」


 アベルの肩に回っていた手がいつの間にかアベルの頭に乗っており、彼の髪を握り締める。次の返答次第で彼らは行動に移るだろう。周囲の人間は異様な雰囲気を悟ってからアベルの周囲から離れている。一触即発の空気が漂う中、アベルは口を開く。


「いや、やっぱりいいや。あんたら胡散臭いし」


 その言葉が紡がれた直後、アベルの神が引き上げられると彼の腹部に拳が叩き込まれる。これをした人物など言うまでもない。


「調子に乗ってんじゃねえぞカス! つべこべ言ってねえで言う通りにすりゃいいんだよ!!!」


 口が閉じた直後、追い打ちのようにアベルに膝蹴りが打ち込まれる。始まってしまったトラブルに店の中の人間は軽いパニック状態になる。店の外に仲裁の人物を求めて駆け出していく者、どうにかして間に割って入ろうとする者、各々が思い思いの行動を起こす。が、彼らが割り込んでくるその前にアベルが行動を起こした。


「いっ、てえなああぁぁぁぁ!!!」


 絡んでいる男を振り払ったアベルは、反撃と言わんばかりの一撃を言葉とともに男の顔に叩きこんだ。その衝撃で後方に吹き飛んでいった男は彼らのテーブルを巻き込みながら倒れこんだ。


「あっ、やべ」


 一発叩きこんで頭が冷えたアベルは、小さく声を漏らす。しかし、その矛先は殴ったことに対してではなく。むしろ男の状態に対してだった。パンチの衝撃で気絶、さらには前歯がすべて折れてしまっており、上の犬歯も折れてしまっている。加えてその傷で口の中は血だらけになり、残った歯が真っ赤に染まってしまっている。


 まさかこんなことになるとは思わなかったアベルは意識しないうちに呟いてしまっていた。だが、彼にこれ以上男を心配している暇はない。自分の心配を必要がある。


「てめえぇぇぇ! 何してくれんだぁ!!!」


 彼の仲間が男の状態に怒り狂いその矛先を向ける。ラケルの身の危険を守らなければならないと判断したアベルは即座にその場から逃げ出そうとする。


「ラケルちゃん行こう! ご馳走様、釣りは要らないから」


 ラケルの手を取ったアベルは、確実に足りる分の金をテーブルに置くと店の扉に向かって走り始める。


 が、怒り狂う彼らがそう簡単に逃がすはずもない。後ろで見守っていた彼の仲間がアベルを追うでもなく立ち止まったまま何かをつぶやき始める。


 ――アル・アイブ・インクル・ブセタ――


 耳に覚えのない言葉が走るアベルの耳に届いたその時、何処からともなく男の周囲に氷の塊が現れる。そして一秒と経たないうちにアベルたちに向かって打ち出された。


 男たちに背を向けて逃げ出そうとしたアベルはそれに当たる直前まで気づくことが出来ない。男たちの動向を確認しようと背後に視線を向けて初めて氷の存在に気づく。


 しかし、気づいたところで回避することなどできない。背中でもろに受け止めることになったアベルは衝撃で吹き飛ばされ、扉を破壊しながら腹で着地する。いくつかがヴィザリンドムに当たったため、ある程度緩和されたが、その衝撃はとても無視できるものではない。


 痛みにえずくアベルと、彼を心配して寄り添うラケル。そんな二人に向かって男たちが飛び出してくる。それを見たアベルは痛みをこらえながら跳ね起き迎撃の態勢を取る。


 立ち上がったアベルに対して男たちは攻撃の態勢を取る。一人は拳を振りかぶり、先ほど氷を打ち出した男はさらに呟きを紡ぎ始める。


 ――アル・アイブ・フージュ・ブセタ――


 今度は巨大な氷の塊が一つ男の前に出現する。それを視認したアベルはもう一人の動向に意識を払いながら氷の出現条件を理解する。


(これが噂に名高い()()か!)


 そこから思考を深堀する暇もなく男たちの攻撃は続く。アベルに一撃入れた男は追撃せずにその場を離れていく。一発をもらうことを想定して追撃に備えていたアベルは一瞬その動きが理解できないが、その直後その行動を意味を理解する。迫りくる巨大な氷の塊、それが回避不能なところまで来ていた。いや、厳密には回避はできる。しかし、彼が回避すればその後ろにいるラケルや何も知らない一般人に当たることになる。特別頑丈でもない彼らが氷の塊を受ければただでは済まない。最悪命を落とすことになる。


 回避できないということを一瞬のうちに悟ったアベルは、全身で氷の塊を受ける準備をする。どことなく既視感を覚えながら身構えるアベルに氷の塊が迫りくる。両者の距離はまさに手を伸ばせば届きそうなところまで迫ってきていた。



 この話は伸びるぞ、と思った方は



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 ぜひ次回の更新も見に来てください!


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