表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
178/178

第7-33話 ソードマン・デパートフォー・ニューワールド

 前代未聞の不壊竜骨跡地大地信教団襲撃事件から三日が経過した。町を襲っていた魔獣たちは精鋭部隊の前にすべて滅ぼされ、彼らは事後処理に当たることになっていた。


 魔獣の死体は肉や皮など有効活用され、町の資源として有効活用されることになる。ある意味で思わぬ収穫であったと言えるだろう。


 反旗を翻した労働者たちは、実行の多寡に応じて厳しい罰が課せられることなる。具体的にはありもしない町の修繕費を被せられ、最低でも今後十年はこの鉱山から出ることを許されなくなった。慈悲が二つほどあるとするならば、反乱に参加しなかった者には罰が課せられることがなかったことと、彼らの()()()()()()が出来たことだろう。まあ、その慈悲が一体いつまで続くかは分からないが。


 そしてこの反乱で一番の問題である鍵が一体どこから流出したのかはすぐに判明した。鍵を持ち出した人間がその様子を目撃されてしまっており、背後関係などからすぐに彼が犯人であることが判明したのだ。


「とまあ、今回の反乱に手を貸したあの男は死んだ方がいいと思うほどの罰を与えることになった。もともと調査がついていたから罰を与えることは確定事項だったのだが、今回の一件でそれが重くなったというだけの話だな」


「大変そうですね」


「具体的に何をするか、聞いてみるか?」


「いえ、結構です。精神衛生上よくなさそうですし。あの男の事なんて興味ありませんから」


 執務室で顔を合わせて会話をするタリビアとアベル。タリビアが一瞬フッと笑うと彼女は机から一枚の書類を取り出した。


「さて、君から王国からの書面は受け取った。これをもって我々は王国の戦争に協力することを約束する。近いうちに王都に私が出向く。そのことは君から伝えておいてくれ」


「わかりました。お伝えしておきます」


 タリビアの言葉を聞いてアベルは首を縦に振る。一度話が切り上がったところでアベルは気にかかっていたことを問いかける。


「ところで、子供たちは今どこに? 集落の方は半壊していてまともに過ごせないと思うんですが……」


「彼らにはまだ集落にいてもらっているよ。野宿がなかなか新鮮で楽しいみたいでね。面倒を見る者がいなくなってしまったせいでうちの兵士たちが面倒を見ているが……、そのうち彼らの面倒を見る者も手配するつもりだ」


 彼の問いかけに笑みを浮かべながらタリビアは答える。纏う雰囲気も柔らかくなっており、とても一か月前は殺気を漲らせて応対した人間とは同一人物とは思えないほどであった。


 そのことをタリビアも理解しているのか、少し恥ずかしそうな表情を浮かべたかと思うと緩んだ空気を引き締め直した。


「そういえば、そばにもう一人神装使いがいたんですよね? そっちはどうなってるんです?」


 彼女の雰囲気の変化を察知し、アベルは話題も変える。


「悪いがそっちに関しては使用者の特定まではいかなかった。まあ、おおよその検討はついているが……。確証がない分、公にはできん」


「そうですか。でもタリビアさんに攻撃を仕掛けたということは敵という認識でいいんでしょうか?」


「まあ、そこに関しては間違いないだろうな」


 もはや雑談程度になりつつある二人の会話。徐々にそれも落ち着き始め、二人の間で会話が減っていく。


 そして二人の口が同時に閉ざされ、静寂が訪れたタイミングでタリビアは身体の緊張を解きほぐすように大きく息を吸い吐き出すと、いきなりアベルに向かって頭を下げた。


「えっ、ちょっ……」


 突然のことにアベルが戸惑うと、間髪入れずにタリビアが言葉を紡ぎ始める。


「あの子たちの件、まだ礼を言っていなかった。だから言わせてくれ。あの子たちの命を救ってくれて本当にありがとう。この恩は、神装使いタリビア、一生忘れず胸に刻み続けよう」


「気にしないでください。俺は俺のやりたいことをやっただけに過ぎません」


 戸惑いを隠せないながらもタリビアに頭を上げるように声をかける。しかし、それでもタリビアは言葉を続ける。


「いいや。君がいなかったら私の宝物は全員死んでいただろう。私にとって君は間違いなく恩人であり、一生をかけても返せるものじゃない。もし君が望むならば私に出来ることだったらなんでもする」


「……じゃあ、まずは頭を上げてください。そうやってるのを見続けるのは心がモヤつくので」


 アベルがそう望むと、タリビアは一瞬間を置いて頭を上げる。顔を上げた彼女は言いたいことが言えたことでどことなくスッキリとした表情をしていた。


「それじゃあ、タリビアさんは王国に本気で力を貸してあげてください。俺が望むのは今のところこんなところです」


「その程度でいいのか? 私に望めば大抵のことが出来る自信はある。もっと強欲な事柄を要求してもいいんだぞ?」


「いいえ、とりあえず俺は今これで満足してますので。それよりも王国が戦争に負けてしまうことの方が重大です。だからこそあなたに協力を持ちかけることに俺は協力したんですから」


 アベルの言い分に思わずかみ殺すように笑い始めてしまうタリビア。


「そうか。君はそういうやつだったな」

 

 ひとしきり笑ったところで一時の別れが訪れる。


「それじゃあ俺はこの辺で失礼します。またどこかで会うと思いますのでその時まで」


「ああ、幸運を祈っているよ」


「お互いに」


 タリビアに別れを告げたアベルは彼女に背を向けると、執務室を後にする。そのままの足取りで建物も後にして、歩みを止めず町からも姿を消した。見張りが巡回している荒野を抜けて存在を隠す結界の外に出て、彼はやっと不壊竜骨跡地を後にするのだった。


 不壊竜骨跡地を後にしたアベルはすぐに懐から通信の魔道具を取り出すとその先に伝わる存在に連絡を取る。魔力を流して数秒後、その向こうの存在と通信がつながる。


「ああ、アベル君か。そっちはどうだ?」


「……なんかそっち騒がしいですね?」


 魔道具の向こうからはカルミリアの声と同時に爆発音や魔獣や人間の叫び声が聞こえてくる。それに訝し気に眉を顰めたアベルがそのことに問いを投げるとカルミリアはすぐにそれに応える。


「ああ、今は目撃情報のあった破神装使いの討伐のため、遠征に出て使い手とそのお付きの魔獣と戦闘の最中でな」


「じゃあ、今はまずいんじゃ?」


「何。もうすぐ終わるし、片手間で敗北するほど私は弱くないよ。そんなことより、何か話したいことがあって連絡してきたのだろう? まあ、大体予想はつくがな。そっちは大丈夫だったかい? 何やらいろいろとあったらしいが」


「こっちは大丈夫ですよ。書類も渡して交渉は完全に成立です。そのうち王都に行って話したいとのことでした」


 アベルが交渉の成功を彼女に伝えると魔道具越しにカルミリアの歓喜の感情が伝わってきた。何の反応すらないままに伝わったことでそれの度合いの大きさが分かる。


「それよりカルミリアさんが遠征に出て大丈夫なんですか?」


 交渉の成功を伝えたアベルは、通信の中で疑問に上がったことを伝える。


「ああ、ナターリア君が君がいない間にそこそこ実力を上げてね。王都くらいだったら防衛できるくらいの戦力になってくれた。それにサリバン君の神装を使った遠距離射撃で近隣地域にも手を伸ばせるようになった。だから防衛は彼女に任せて私は遠征で大地信教団の戦力を潰して回っているというわけだ」


「そういえばサリバンの奴、サドリティウスさんの跡を継いだんでしたっけ? みんな俺がいない間、頑張ってたんですねぇ」


「ところで君はどうなんだい? 二か月間、連絡も寄こさなかったんだから相当力を付けたのだろう?」


「当然、めちゃくちゃ頑張りましたよ。時間にして二十年近くも修行し続けたんですから」


「……二十年という言葉はとりあえず置いておくことにしよう。とにかく強くなったというならば私は文句はない。そんな君にもう一つ頼みたいことが出来た」


「なんでしょう。俺に出来ることだったら」


 カルミリアの言葉を聞き逃さないため、彼女の言葉にアベルは慎重に耳を傾ける。


「連中を捕まえ、尋問したところ。奴ら、世界樹の一部を手に入れようとしていることが分かった」


「……すいません、話を切っちゃうんですけど。世界樹の幹ってどうやっても切れないみたいな話じゃありませんでしたっけ」


「ああ、何世代に渡って人類はあの木を切ろうとしているが、現状切れたという話はない。だが、ラスター・マグドミレアだ。何らかの方法で幹を切れるのかもしれない。もし、奴らが幹を切断しその一部を手に入れた場合、その強度などを考えるとこちらにとっての脅威になりうる。故に君には世界樹そばに急行してもらい、そのたくらみを阻止してほしい」


「それは別に構わないんですけど……。今から向かって間に合うものなんですかね?」


 疑問符を頭に浮かべながら問いを投げるアベル。


「それは心配ない。既に王国の部隊が向かって不穏な動きがないかを見張っている。君には有事の際の戦力として向かってほしいんだ。幸い、今のところ何もおかしな行動はないらしいが……、出来る限り早く向かってほしい。引き受けてくれるか?」


「そういうことでしたら喜んで。今すぐにでも向かわせてもらいます」


 正式に彼女の頼みを了承したアベルはすぐにでも向かうため、通信を切ろうとする。その最中、最後にアベルの耳に届いたのは、カルミリアの短い言葉、アベルが聞きたかった言葉であった。


「ああ、そうそう。その部隊には部隊外の部外者が二人、どうこうしている。久しぶりに仲良くするといい」


 その言葉の意味を理解したアベルは通信を切断した魔道具を胸元にしまう。そして少しの間微動だにせずに立ち止まった。まるで道端に転がる石のようにビタリと止まってしまったアベル。しばらくして意識を身体の奥底から復活させるとまるで限界まで縮んだバネのような速さで走り始めるのであった。








































 不壊竜骨跡地でのクーデターが治められたその直後、それを囲う結界の外で鞭を片手にしていた青年がそれを察し、それを持つ手を下ろす。


「ありゃ、終わっちゃったか。もう少しちょっかいかければよかったかな。まあ、軽く手を出すだけでいいって言われてたし。別に構わないか」


 首魁であるメイダンが捕えられてしまったことで騒ぎが収まったことを理解した青年は早々に撤収の準備をする。このままここでダラダラとしていればタリビアが追跡してくるかもしれない。そうなれば非常に厄介なことになる。


 鞭をしまい、荷物を持った彼は独り言ちりながら歩き始める。


「さてと、頼まれた分の仕事は終わったし、またラスターさんに呼ばれるまでは適当に遊んでよっと」


 そう呟きながら歩く彼はまるで自分が神装使いでないかのように一切の威厳というものを面に出すことなく歩き続け、不壊竜骨跡地を去っていくのだった。


 続々と集結していく神装使いたち。彼らが一堂に会し、各々の力をぶつける日はそう遠くない。




 この話は面白いと思った方は



 ☆☆☆☆☆からの評価やブクマへの登録、願うならば感想をよろしくお願いいたします!



 ぜひ次回の更新も見に来てください!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ