第7-29話 ファナティック・スレッテン・マスク
爆風の中から身を翻しながら姿を現したタリビア。回避することは出来たものの、それ以上に精神的ダメージが大きかった。 当然、至近距離にいた老人たちは爆発に巻き込まれ木っ端みじんに吹き飛んでいる。爆風で吹き飛んだ肉片がびちゃびちゃと音を立てながら周囲に撒き散らされタリビアの周囲に飛び散った。
彼らを守るために力を誇示してきた彼女にしてみればこれほど悲しいことはない。怒りの炎を内で燃やし始めるタリビア。そんな彼女の背後から声が響き渡る。
「遅かったじゃないか。神装使いタリビア。待ちくたびれてしまったよ」
神経を逆なでするような声にタリビアは心の内で燻っている怒りをぶつけてやろうかと思いながら諸手の剣をギリギリと音が出そうなほど力強く握る。そして斬りつけるつもりで一気に振り返った。だが、そんな彼女の思考は振り向いた先の光景を目にした瞬間、一瞬で吹き飛び、同時に一歩も動くことが出来なくなる。
ローブを着た人物とその周囲で彼女のことを取り囲む取りまきたち。そして縄で縛られて身体の自由を奪われている十数人の子供たちと大勢の老人が彼女の視線の先にはいた。人質にされている者にはもれなく先ほどの老人たちのように爆弾が取り付けられており、下手に動けば彼らは一斉に先ほどの彼らのようになってしまうだろう。
彼女の宝物と言って差し支えない者が人質にされていることで止まりそうになる思考を何とか働かせながらタリビアは必死で襲撃者たちの風貌から正体を推察する。
その答えはすぐにはっきりとする。ローブを纏った中心の人間の腰にかかっている武器がそれを明確に表している。
「神殺しの武器、破神装……。噂に聞く大地信教団という奴か!」
「おお、話が早くて助かるね。私は大地信教団、破神装部隊の一人、メイダン。私の正体が分かったということはここに来た理由も分かってもらえるかな?」
「……私の持つこのクライネルンか」
「ご明察。さすがならず者たちをまとめる女社長だね」
飄々とした態度でタリビアの言葉に応えていくメイダン。それに対してタリビアは苦しそうに表情を歪めている。目の前に恐怖でおかしくなりそうな存在がいるというのに手をこまねいて何もできずにいた。その歯がゆさと無力感が彼女を蝕んでいた。
そんな彼女のもどかしさなど知ってか知らずかメイダンはさらに話を進める。
「その手の神装を私に渡してもらおうか」
「もし断ると言えば?」
そうタリビアが問いを投げるとメイダンは不思議そうに首を傾げる。
「君は聡明だと思っていたんだけど違うのかな?」
「は?」
「君はさっきの爆発を目の当たりにしただろう。私の隣には先ほどの老人たちと同じ状況になっている者たちが大勢いる。断れば先ほどの光景がもっと大規模な形で見ることになるというのは推測が付くだろう?」
傍の子供の頭をなでながら伝えてくるメイダン。怯えている子供の様子など一切気にした様子もなく、愛し気に優しい手つきで撫で続ける。
そんな様子を見てマグマのように怒りが燃え上がるタリビアだったが、冷静さを保つことに努め問答に意識を集中する。
「……ただの確認だ。どうなるかくらい想像がつく」
「ふん? だったら別にいいのだけど」
タリビアの反応に鼻を鳴らしたタリビア。
「……少し聞かせてくれ。ここの場所をどうやって知った。並の人間どころか余程気配察知に過敏な人間でないと見つけられないほど強固な結界を築いていたはずだ」
「んん? 時間稼ぎのつもりかい? まあ、そんなことをしても無意味だが聞きたいのであれば聞かせてあげても構わないとも。まず私はここを襲撃するために万全の準備をしたよ。そのためにまずは最大戦力の君の弱点を探さなければならなかった。足で探して君が子供を大切にしていることを知った。だが、町には子供はほとんどいない。となれば他の場所にまとめて匿っていることは明白だ」
誇らしげに聞いてもいないことをべらべらと話すメイダン。時間稼ぎが目的のタリビアにしてみれば好都合。それを理解しているつもりなのか、メイダンはさらに言葉を続ける。
「そんな場所が手近な場所にない何てことがあるだろうか? いやない。きっと目の届く場所にあるはず。だから君の動きを追ってその場所を特定しようとしたけど、何せ瞬間移動で行動する人間を追いかけることなど不可能だ。実際、君にはそのつもりはなかったかもしれないけど何度も撒かれたよ」
メイダンは首を横に振りながら溜息をつく。
「そんな時だったよ。この町にあの剣の神装使いがやってきたのは。彼を仕留めてもよかったんだが、個人の彼と町を従えている君とでは勢力がまるで違う。大きな勢力を落とした方がこちらに都合がいいのでね。君を落とすことは変わらなかった。とはいえ神装使いから目を離すわけにはいかない。彼にも監視の目を付けさせ様子を窺った」
「……つまり何が言いたい」
「分からないかい? 私は彼のほうを尾行てこの場所を発見したんだよ。何の予兆もなくいきなり彼の姿が消える場所。そこに張られた強固な結界で私は確信した。この場所に子供たちが匿われているのだとね」
メイダンの話を聞き、タリビアの全身に力を籠る。
「おっと、彼の攻めるのは筋違いに思うよ私は。私は見つからないように細心の注意を払いながら行動していた。一度気づかれそうになってヒヤリとはしたが、気づける彼が優秀と言って差し支えない。むしろ自分の町へ向く敵意に気づけなかった長である君の方が悪い」
そしるような言葉にタリビアの身体にさらに力がこもる。
「というわけで君の弱点を確保した私たちは今日という日に備えて地下の労働者たちを味方につけ、この土地に魔獣を少しずつ侵入させてたというわけさ。お分かりいただけたかな」
「ああ、十分に理解できたよ。どうもありがとう」
皮肉交じりの声色でメイダンに礼を告げるタリビア。彼女の礼の意味を知って尚ニッコリとした笑みを浮かべたメイダンは腕を腰にやる。
「そうか。じゃあ」
そう言うと彼女は部下に無言のまま指示を出した。直後、彼らは三人の老人の首を刎ね、メイダンもそばにいた子供の首を飛ばした。目の前でいきなり友人が殺されたショックで人質たちは悲鳴を上げパニックを起こす。
「なッ、貴様ッ!?」
「情報提供の代金というやつだよ。お友達じゃないんだからおしゃべりがタダな訳ないだろう。私はこういう細かいところが気になる性質でねぇ!」
今にも跳びかかりそうになる身体を必死で押さえつけながらタリビアはメイダンを睨みつける。
「さて、これが君が拒否した場合の末路だよ。さあ、話しは終わりだ。今すぐ神装を差し出したまえ」
「……わかった。こいつはくれてやる。その代わりそいつらに手は出すな」
タリビアは人質となっている彼らを救うためについに神装を引き渡す決断をする。もともと彼らを救うために引き渡すつもりではあったが、本当に渡すとなると覚悟が必要になる。
両手で持っていた剣を両手で束ねて持つと、それをメイダンの元に投げた。投げられた剣は不思議と体勢を整えたまま落下し始め地面に突き刺さった。
あとはそれをメイダンが回収するだけでいい。だが、彼女は部下に何か指示を出す。それに応えるように首を縦に振るとタリビアに歩み寄り、縄で厳重に拘束した。
「神装には所有者が考えただけで動くことの出来る力があると聞きます。だからあなたのことは拘束させてもらったうえで無力化させてもらいますよ。下手に抵抗されると対抗できませんから」
タリビアを縛り付けた男たちは彼女に何か黒い物体を張り付ける。人質につけられている爆弾かとも思ったが、それが着けられた途端、彼女の身体から力が抜けていく。意識ははっきりとしているのに身体は動かない。
メイダンは部下に神装を持たせ、それをジロジロと観察を始める。
「ふむ、血の一滴もつかないような透き通るような半透明の刃。なんて忌々しい」
眉に皺を寄せ、明らかな嫌悪感を示したメイダンは神装から目を逸らすと身体に力が入らず地面に這いつくばっているタリビアに視線を向ける。
「さて、これで交渉成立。この方々はもう必要ありません」
そう呟いたタリビアは周囲に響き渡るように大きく指を鳴らす。これで解放されるのだと人質たちは表情を明るくさせ、安堵した雰囲気を放つ。
刹那の事であった。人質を取り囲んでいた部下が全員人質から距離を置く。何が始まるのかと考えた次の瞬間。人質はもれなく全員、爆発に飲み込まれその肉体を木っ端微塵に変える。それに続くように集落のあちこちで爆発が続くのだった。
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