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第7-26話 マイン・ターンイントゥ・バトルフィールド

 不壊竜骨跡地に魔獣が襲撃してくる少し前。約束の日を迎えた鉱山内部は非常に慌ただしくなっていた。普段の労働と違う慌ただしさは空気となって鉱山内部に漂っており、その空気の違いは見張りの人間にも伝わっていた。 


 この時点でこの空気の違いを仲間たちと追及していれば後の悲劇は起こらなかったかもしれないが悔いたところでもう遅い。既に事は始まっているのだ。


「いいかお前ら! ここから出たいと思うならキリキリ働け! それしかお前たちにここから出る手段なんてないんだからな!」


 見張りの一人が労働者の尻を叩くために声を上げる。普段であればいつものことと労働者たちは苛立ちを覚えながらも適当に流して作業を進めていただろう。


 だが、今日ばかりはその言葉に反旗を翻す。監視の男の言葉が彼らに火をつけてしまうことになった。


 監視の男に殺意を覚えながらも労働者たちは静かに行動を起こし始める。武器にするため、採掘用の道具はそのままに、彼らは監視をさりげなく監視を囲むような位置に移動する。


「死ねやボケええええ!!!」


 そして、視線で呼吸を合わせると一斉に監視に襲い掛かった。


「な、てめえら何を!?」


 いきなり襲い掛かってきた労働者たちに抵抗の意志を見せる監視だったが、多勢に無勢。一瞬で制圧されてしまう。採掘道具で動けなくなるまで滅多打ちにされた監視の男たち。中でも先ほど罵声を浴びせた男は一撃一撃に他以上の恨みが籠っており、撲殺されてしまっている。


 監視を制圧した労働者たち。拠点と言える場所を確保した彼らは目的地である地上を目指して行動を開始する。商人の男が確保した鍵を各班ごとに分けた男たちは地上に出るための扉に向かう。


 クーデターに協力している全員が扉の前に集合したところでリーダー格の男が扉に鍵を刺し、素早くひねり扉を開けた。


「なっ、てめえらどうやって鍵をッ!?」」


 当然、扉の前には見張りがいるが素早くツルハシの先を脳天に突き立て黙らせた。地上への道を切り開いた労働者たちはそれを喜ぶようにニヤリと笑みを浮かべる。


「さあ、行くぞお前ら! 俺たちの自由は目の前だ! とっとと連中の首を取るぞォオオオ!!!」


「ウオオオオオオ!!!!!」


 そして獣と化した男たちは一斉に地上をめがけて駆け出した。警備の兵も何のその。数にものを言わせて突破した彼らの一部はとうとう日の光のあたる場所へ出た。


「ウオオオオオォォォ!!! 外だァァァ!!!!!」


 日の光を浴びた労働者たちはその喜びを声に混ぜ込むと高らかに雄たけびを上げた。中には何年かぶりの日の光ということもあって涙を流す者もいる。


 だが、まだ彼らは外に出ただけであり戦いが終わったわけではない。自由はこの土地から逃げ去って初めて得ることが出来るのだから。


「おい、もう外に出てるぞ! 取り押さえろ! 社長の命令通り殺すなよ!」


 外の空気を満喫している労働者たちの前に現れたのはタリビアの命を受けて彼らを制圧に来た精鋭兵たち。素早い動きで彼らの前に現れたかと思えば即座に労働者たちを制圧しにかかる。


 一方の労働者はそれに受けて立つ構えを取った。兵士たちを難なく突破し自分たちの戦闘能力の高さを確信している彼らはたとえ兵士が何人か増えたところでどうしようもないと思っているからだ。どんなに強かろうと数の暴力で圧し潰してしまえばよい。そう思って彼らは制圧にかかる兵士たちに向かって構える。


「ちょっと数が増えた程度で俺たちを抑えられると思うなよ! とっととやっちまえ!」


 声を張り上げた労働者たちは勢いよく襲い掛かっていった。 


 だが、彼らはすぐさま認識の甘さというものを思い知らされることになる。数の優位を生かして囲んで背中を取ったものから襲い掛かる。これをすれば兵士などすぐに倒せると思っていた。 


 だが、兵士は囲ませてくれない。素早い動きで逆に背後を取ると一人ずつ確実に意識を刈り取っていく。よしんば背後と取って攻撃を仕掛けてもそれを逆手に取られて相打ちを誘発させられ、戸惑って攻撃を躊躇ったところを一瞬で制圧される。


 さらにはまだ坑道につながる通路に残っている労働者たちも制圧され始めていた。狭い通路では数の優位など生かしきれない。連携など微塵も練習してない労働者たちではなおさらだろう。結果として一対一の戦闘を余儀なくされてしまう。当然戦闘力の差は歴然で一人一人確実に刈り取られていく。


「な、な……」


 通常の兵士と精鋭兵との練度の差を見誤り、次々と刈り取られていく労働者たち。武器すら使わずに淀みない動きで制圧していく彼らに男たちは恐怖を抱き始めていた。


 自由を目の前にして圧倒的な武力にそれが奪われていく。彼らにとってのトラウマを刺激するこれほどの恐怖はなかった。


「う、ウオオオオオ!!!!!」


 恐怖で思考がめちゃくちゃになりつつあるリーダー格はせめて奪われるのならばとやけくその捨て身で兵士の一人に襲い掛かった。


 どうせ奪われるなら一矢報いて――。そう思って武器を振りかぶりながら襲い掛かる。兵士は完全に背を向けておりこちらに注意を向けた様子もない。これなら確実に当たるだろう。


 そんな彼の甘い考えを奪い去るのが、兵士たちの仕事である。背を向けたままつるはしの振り下ろしを躱すとそのまま男を転ばせ、関節を決め動きを封じたのだった。一寸の淀みもない動き。男が気付いた時には地面に倒れ伏しており、腕を決められ少しも動けない状態であった。


「クソッ、くそぅ……」


 一瞬で制圧されてしまい、悔しそうに声を漏らすリーダー格。そんな彼に向かって兵士は呆れたように溜息をついた。


「お前らも相当のアホだよな。ここから逃げたところで社長から逃げられるはずもないのによ」


「……へ?」


 兵士の言葉にリーダー格は素っ頓狂な声を漏らす。


「ここに連れてこられた時のこと思い出せよ。いきなりうちの社長が目の前に現れてここに転移させられたんだぜ。こっちはお前の居場所がわかってるし問答無用で転移させられるくらい想像できるだろ。こっから逃げたところでまた居場所がバレて捕まるに決まってる」


「な、じゃあ俺たちがしたことの意味は……」


「ねえだろうな。誰にそそのかされたのかは知らんがカモにされたってことだな」


 兵士の言葉を聞いて男は顔を絶望の色に染めて脱力する。もうこれ以上の抵抗が無いと判断した兵士は彼を最低限の拘束で転がすとまた別の労働者を制圧するため動き出した。


 数の上で圧倒的な差があった労働者たちであったが、精鋭兵の参戦によりそれが一瞬にして覆された。しばらく抵抗を続けていたが、次第にその勢力は衰えついには戦意を失って降伏したのだった。


 だが、今は一勢力を抑えただけである。外の魔獣の大群という脅威は過ぎ去っていない。まだ戦いはこれからだ。



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