第7-25話 モンスター・アタック・タウン
アベルが走り始めたのとほぼ同時期。煙の発生源である不壊竜骨跡地は大混乱に陥っていた。
「クソッ! 一体どうなってんだ!? 魔獣たちは一体どっから現れた!? 見回りの奴らは何やってやがる!?」
「ダメです! 見張りの奴ら魔獣に囲まれて通信どころじゃありません!」
今、不壊竜骨跡地を多数の魔獣が囲んでおり、我先にと町に入ろうと牙を剥き攻撃を繰り返していた。
「絶対に町には入れるな! 町の中で戦うことなんて俺たちは想定してないぞ!」
幸いこの町は襲撃に備えた防備がされており、神獣の骨という強固な物体で構成されているため、外側からの攻撃には強い。だが、攻撃を繰り返されればいつかは崩されるうえ、内側から攻撃されれば脆い。だからこそ、魔獣を町に入れないように必死になっていた。
警備主任が怒号を上げ、部下に指示を出し、その指示で士気を上げ兵士たちは魔獣の攻撃を必死になって防いでいた。しかし、魔獣の膂力は人間よりも上。突破されるのも時間の問題である。防御ばかりではダメだ。どこかで攻撃に出なければ。
魔獣の侵攻を止めるので必死なものと、魔獣を倒そうとするもので戦場がしっちゃかめっちゃかになり乱戦の様相を呈している。指揮が出来ているのかどうかすら怪しい。
そんなとき、蜂が差すような出来事が起こる。門前、最終防衛ラインで魔獣の攻撃を防いでいたの警備隊の人間が突然発生した爆発に飲み込まれたのだ。魔獣諸共飲み込んだその爆発で門前の警備兵は全員死亡。当然魔獣も死んだが、その奥からさらに魔獣が迫ってきていた。
最悪なのが、爆発で門の一部が破壊されてしまったことだった。
「い、急いで損傷個所を塞げ! 魔獣を食い止めろ!!!」
町を守るべく、部下に指示を出す指揮官。だが、門の外に出ている者たちは乱戦でそれどころではないし、門の内側の人間では間に合わない。
「クソッ!」
間に合うのはその中間。物見やぐらにいる自分だけ。そう判断した指揮官は地面に降りたつと門に空いた穴に駆け寄り魔獣が姿を現すのを待つ。
直後、魔獣が穴から姿を覗かせなだれ込むようにして町に入ってくる。
「ウオォォォォ!!!」
ここから先へは行かせまいと指揮官は魔獣を迎え撃つ。遅れてやってきた警備兵もその戦いに参加するが、如何せん門から溢れ出てくる魔獣は倒しても倒してもキリがないほどの数をしている。故に徐々に徐々に経費兵たちも摩耗していき、処理できる量を超え始める。
そしてついにその時が訪れた。乱戦となっていた戦場で対応しきれなかった魔獣の内の一体が指揮官に向かって襲い掛かった。
ああ、無常。しかしこれが現実である。迫りくる魔獣を前にしてそのことを理解すらできなかった指揮官は反応もできないままに迫りくる現実に押しつぶされそうになっていた。
「逃げろぉ!!!」
そういわれても身体が動かないのだから仕方ない。あと一瞬で殺される、そこまで来てやっと状況を飲み込めた指揮官はもうどうしようもないと腹をくくった。数瞬後の自分に振りかかる苦痛を想像する。
だが、彼の予想した現実は起こることなく、過去のものとなった。迫っていた魔獣の身体は縦に真っ二つに斬り落とされ、指揮官の身体の横を通り過ぎて行った。
何が起こったのかを理解する前に助けてもらったことを理解し、同時に助けてもらった人物のことを理解する。彼の眼前に立つ人物の手には半透明の剣が握られており、仮面の奥から覗く瞳は今も暴れている魔獣を無感情に見つめていた。
スッと振り抜いた剣を持ち上げたタリビアは目の前の魔獣たちに視線を向ける。そして行動を起こした。刹那魔獣の身体には致命傷となる傷が刻まれ、血を噴き出しながら倒れ伏した。彼女の身体は一寸たりとも移動していない。少なくとも周りの人間にはそう見えた。
何か仕込みをしていたかのように見えるがそれは違う。かといって動いていないわけでもない。彼女は一瞬のうちに魔獣の懐に飛び込むと致命傷を与え元居た場所に戻ったのだ。その動きがあまりにも早すぎて彼らには動いていないように見えただけ、というのが事の真相であった。
何が起こったのか、理解できないままうろたえている彼を他所に彼女は状況を伺おうとしていた。周りにはノルウィーグ達、タリビアお抱えの精鋭兵たちがぞろぞろと集まってきており、彼女の指示を待っている。
「状況は?」
「……あっ、はい! 既に門の外は魔獣との乱戦になっており、戦況は数の有利に押されこちらが不利。なお、見回りの兵士たちが群れの中に取り残され、合流できずにいます!」
「乱戦か……」
指揮官の言葉を聞き、小さく呟いたタリビアは含みありげにニヤリと笑う。そして振り返り背後にいる精鋭兵たちに向かって声を張り上げた。
「この中に! 死ぬことが怖い奴はいるか!」
「「「いるわけねえ!!!!」」」
彼女の言葉に呼応し部下も声を張り上げる。負けじとさらにタリビアは声を上げる。
「この中に! 魔獣に立ち向かえない臆病者はいるか!!!」
「「「いるわけねえ!!!」」」
再び前に向き直ったタリビアは今までで一番の声を上げ部下を鼓舞する。
「乱戦上等!!! 外にいる魔獣たちを殲滅する!!! 行くぞォ!!!」
「「「「「ッシャアッァァァァァ!!!!!」」」」」
そういうと彼らは門の外に向かって走り始め、恐怖など一部もないかのように乱戦に突入していくのだった。思い思いの武器や戦い方で魔獣に牙を剥く精鋭兵たち。その破壊力は抜群で、散らばりながら戦っていた兵士たちを助けながら圧倒的な速度で魔獣を倒していくのだった。
だが、数はまだまだ圧倒的に魔獣の方が多い。最初の突撃も落ち着きを見せ始め、ある程度の塊になりながら確実に魔獣を倒していく戦法へとシフトしていった。
複数の塊になって魔獣を確実に殲滅していく精鋭兵たち。そんな彼らの動きをタリビアは物見やぐらの上から伺っていた。彼女が出れば一瞬で片が付くかもしれないがあえて彼女がそれをしていないのは偏にまだ自分が出るべきではないと考えていたからだ。気にせずに前に出ればいいと思うかもしれないが、こういったときの彼女の第六感はよく当たる。
警戒心マックスで戦場を睨みつけているタリビアのもとに慌てた様子の兵士がやってくる。彼は膝をつくと彼女にあることを報告をする。
「ほ、報告です! 地下の鉱山の労働者たちがいきなり暴れ始めました!」
「何? ならば扉を完全封鎖、鉱山中に睡眠ガスを流し込んで制圧しろ」
慌てた様子の兵士に対し、落ち着いた口調で指示を出すタリビア。しかし、続けて発せられた兵士の言葉で彼女は動揺させられることになる。
「そ、それが連中何故か鍵を持っていて扉を開けられ既に鉱山の外に出てしまっています。今現在地上に出さないように守りを固めていていますが、数が多く突破寸前です!!!」
「何だと!? 一体誰が、いや今はどうでもいい。いや、まずは住民を出口付近から避難させつつ兵士を撤退させろ。労働者の鎮圧は精鋭兵にやらせる。数はいても所詮有象無象、質で押しつぶしてやる!」
「わ、わかりました!」
指示を受け兵士は走り始める。その直後、町の中から怒号が響き渡る。労働者が地上に出てきてしまったのだと察知したタリビア。一刻も早く連中を制圧するため、魔獣を討伐している精鋭兵の一部隊を呼び戻し労働者たちの制圧に向かわせた。
内と外。双方からの攻撃からこの町を守るために奮闘するタリビア。労働者が示し合わせたように暴れ始めたという報告を聞いた時にはさすがに血の気が引いたがそれも何とか対処できそうである。
だが、それでも彼女が抱えているモヤモヤが晴れることはなかった。胸の中で燻ぶるそれを晴らさなければこの戦いが終わることはない。それを確信しているタリビアは一体何が原因でそうなっているのかを自分の中に問いかける。
だが、敵はそれすら許さない。思考に没頭し一瞬戦場から意識が離れたその瞬間、何もなかった場所がいきなり爆発し彼女の身体は爆風に飲み込まれた。
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