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第7-24話 ソードマン・レシーブ・ドキュメント

 翌日、ついに交渉が成立が完璧に終了する日になる。タリビアたち町の住人がどれほど今日という日を待ちわびたか。


 そんな彼らの願いを叶えるため、アベルは町を離れ、王国の使者との合流する待ち合わせの場所に向かっていた。この後彼は使者から書類を受け取りタリビアに渡すことになっている。重大な役目だ。彼の行動一つでタリビアたちの運命が変わりかねないのだから。


 もし何か問題が発生して書類を損失してしまうなどしてしまえば、町中の悪感情はアベルに一斉に剥くことになり、タリビアを敵に回す。加えて向こう五十年はこの町の協力を得ることが出来なくなってしまうだろう。そうなれば大惨事どころではない。もはやこの国で生きていくことすらできなくなる。


 まあ、特に書類を受け取って渡すだけの簡単な作業だ。下手に失敗する方が難しいまであるが、念には念を入れてアベルは気を引き締め直す。


 町の外れ、結界の外からさらに離れた場所でアベルは王都からの使者と合流する。


「アベル・リーティスで会っているか。もしそうであれば王都より国王様から書類を預かっている」


「ここまでお疲れ様です。早速ですが書類の方は」


 アベルが問いただすと使者は腰のポーチから丸められた書類を取り出し、アベルに手渡した。受け取ったアベルが中身を確認すると確かに国王であるギランのサインやタリビアたちの権利を保障するなどの文章が書かれていた。


「確かに受け取りました。あとはこれを渡せば今回の目的は達成ですね」


「ああ、軍の人間の俺としてはあそこに人間が権利を得るっていうのは複雑な感じだが、後先考えてられないみたいだからな」


 使者はどこか複雑そうな表情をしているが、彼に配慮して動く義理はアベルにはない。これを渡すことが最優先である。


「なあ、少し聞いておきたいんだが」


「なんです?」


「連中の印象はどうだった? 直接同じ場所で過ごしてきたお前だったら正当な評価はできるだろう」


 使者の問いかけにアベルは一瞬口ごもると素直な気持ちを伝え始める。


「普通にしてる人間は王都の人間と一緒だったかな。子供とか老人とか、ここに集まらざるを得なかった人間たちは。もちろんどうしようもないのもいてそいつらには同情の余地はなかったけど。少なくともあそこで暮らしている人間の大半は生きるのに必死な人間ばっかりだ。だから王国が手を出す必要は無いと思うなぁ」


 アベルの発言に少し思うところがあるのか使者は軽く目を細め、睨むような視線を向けたがそれも一瞬の事。すぐに元に戻るとアベルの言葉を噛み砕き飲み込んだ。


「そうか……」


 視線を上げ、空を仰ぐ。その直後、使者は何かに気づくと、小さく声を上げた。


「……おい、あの煙は何だ?」


 使者の指さす先にアベルが視線を向けると不壊竜骨跡地から煙が上がっているのが見えた。それも複数本。あそこで今、よからぬことが起こっているのだとすぐに察知できるそれを視認したアベルはすぐに向かう準備をする。


「俺は向こうに戻ります。あんたはもう戻ってもらって大丈夫です! それじゃ!」


「あ、オイ!」


 引き留める暇もなく、風のように駆け抜けていき小さくなっていくアベル。その姿は暫く見えたままだろうが追いつくことは不可能だろう。


 使者は空に昇っていく煙を眺めながら思考を働かせる。アベルのあの焦り用からあの煙が普段から上がっているものではないイレギュラーだと推察できる。つまり不壊竜骨跡地を何者かが襲撃しているということである。


 これから協力関係を築かなければならない場所が襲撃され、戦力を削がれることは王国にとってどのような利益、不利益を生むだろうか。そして自分が動くことでどのような利益を生むか。頭の中で算盤を弾きながら考える。


 同時に先ほどのアベルの言葉を脳内で逡巡し、しばらくした後彼は結論を下す。


「……やれやれ。獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)として少しくらい身体を動かしてから帰りますか」


 そう言うと小さいアベルの背中を追うようにして走り始めるのだった。




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