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第7-21話 ワーカー・プレイ・トリック


 魔獣の調査を終えて寝床に戻るアベル。彼にとっては簡単な仕事を終えたのに対して、先日タリビアに部署転換を言い渡された男。彼は鉱山で労働者を見張る仕事をさせられていた。


「クソ、何で俺がこんな薄暗いところで仕事をしなければならないんだ……」


 彼は労働者が逃げ出さないように見張りながら小さな声で不満を吐く。しかし、身体は心なしか縮こまっており、この環境に恐怖しているかのようである。


 鉱山労働者の見張りという仕事はこの土地でかなりカーストの低い仕事である。もちろん、鉱山労働や娼婦などとは比べて楽な部類ではあるが、何分命の危険に晒されることの多い仕事なのだ。


 鉱山労働者を一人一人人数を割いて見張るわけにもいかないため、数十人単位を一人で見張るという構成になっているのだが、もし労働者に反乱でも起こされようものならば一瞬で制圧されてしまう。もちろんそれを防ぐための対策もしているし、最悪鉱山を閉め切り、彼らを物理的に閉じ込めるという手段も用意はされているが、そのような状況になった場合、諸共に閉じ込められる可能性が高い。そうなればもう、悲惨な未来はすぐそこである。


 本来この仕事は武闘派の人間が多く携わっているのだが、新たにここに配属になった男はまるっきりの文学派。喧嘩は数えるくらいしかしていないし、剣など握ったことすらない。彼の担当が反乱を起こせば一瞬で制圧されてしまうだろう。


「あの仮面め……、少し腕っぷしが強いからっていい気になりやがって……。見てろ、ここから這い上がったら貴様の寝首を掻いてやる……」


 この仕打ちが彼女からの制裁であることを十分に理解している男はふつふつとタリビアへの負の感情を募らせていく。心の内でどす黒くドロドロとしたものが溜まっていき、彼の心を蝕み悪い方向へと導いていく。


 そんな時であった。


「よう、あんたあの社長に恨み持っているだろう?」


 彼の心を見透かしたような素振りを見せながら一人の男が話しかけてくる。一瞬、それに驚きながらも一応彼は監視者としての仕事を果たそうとする。


「貴様! 仕事に集中せんか!」


 だが、話しかけてきた労働者は言葉を止めることなくさらに口を動かす。


「まあまあ、だったら耳だけでも貸してくれよ。きっと悪い話じゃないぜ」


「…………全く、これだから借りた金も返さないクズ共というのは!」


 労働者を蔑むような言葉を吐いた男。しかし、彼の耳は明らかに労働者のほうに向いており、身体もわざとらしく彼に近づいている。周りに二人でこそこそと話しているのを視られたら何かをしているのではないかと勘繰られる可能性が高い。だから少しでもバレない様にわざとらしい負の言葉でカモフラージュした。


 その意図を理解した労働者は作業を再開すると小声で男に聞こえるように話を始める。


「二週間もしないくらいくらいだったかな……。どっから入ってきたのかローブを来たやつが来てな、そいつがお前らを解放するから仲間を集めておけってよ」


「それを上は知ってるのか」


「言うわけねえだろぉ。そんなのはここを第二の故郷なんてふざけたことを言えるやつだけだぜ」


「私にそいつに協力しろと?」


「あんたは俺たちを支配する側の人間だ。外に出るための鍵なんかも調達できるだろうし、何よりこの環境に不満があるんだろう?俺たちに協力すればあの仮面を倒してあんたがここのトップになれるかもしれないぜ?」


 男の提案に伸るか反るか男は考える。だが結論はすぐに出た。あれが表に出た以上すぐにそれが本当のことかもバレる。そうなればこの仕事から離れられず、最悪の場合ここで働くことになるかもしれない。


それよりかは彼らに協力してその後に手に入る地位にかけた方がいい。仮面のあいつがふんぞり返っている地位につければ人生やり直せるどころかなんでもやり放題である。その甘美な匂いは臆病な彼にその結論を出させるには充分だった。


「……私は何をすればいい?」


「ヒヒッ、そう言ってくれて嬉しいよ兄弟。あんたは扉の鍵を手に入れて俺たちに渡してくれればいい。あとは……、上が持ってる情報をこっちに流してくれ。あとは時期が来れば俺たちが暴れるだけさあ」

 

 労働者の要求を脳に刻み込んだ男は早速行動を起こす、と言いたいところだが、今は彼も自由の身ではない。仕事が終わるまで、先程聞いた事を悟られないように気をつけながら、仕事に戻るのだった。


 翌日、いつものように鉱山で働いていた男。計画がバレない様に気を配りながら労働者に言われたことを少しずつと進めていく。


 そしてその日の仕事を終え、男が帰ろうとしたその時。計画を切り出してきた労働者が彼の肩を掴む。


「ちょっと俺、いや俺たちに時間をくれねえか。あの人が来ている」


 男は労働者の口から発せられた言葉の意味を推察する。こんな閉鎖的な空間で名前を使わずに存在を伝えようとするということは普段はここにいない人物であるということ。つまり計画を持ち出してきた彼らよりも上の存在ということである。


 そんな人物は一つだ。男は首を縦に振る。


「分かった。ちょっと待っててくれ」


 男は一旦その場から離れ、作業用の道具をもとに戻すと再び労働者と合流する。


「こっちだ。ついてきな」


 労働者の誘導に従って歩き始める。男が後に続いて坑道の中を歩き続けると坑道の行き止まりに辿り着く。騙されたのかと思って憤慨しそうになる男だったが、労働者が気にせず行き止まりのそばの横の壁に向かって進み、壁に触れると土の壁がまるで一瞬で砂になってしまったのかのようにその奥に労働者が消えてしまった。


 一体何が起こったのかと男が驚いていると壁の中に入っていった労働者が顔だけを出して手招きする。


「何やってんだ。早く来な」

 

 顔を引っ込め再び姿を消す労働者。彼に手招きされるまま、男も意を決して壁に進むと問題なく入ることが出来た。その奥には小さな広場があり、そこには何人もの男たちが集まっていた。


(これだけの人数が集まっているのか……。それなりに前からこの計画は進められていたらしいな)

 

 坑道の中でもさらに奥まった、そして薄暗いこの空間では見回りもそう簡単に見つけることはできない、というかまず入ってこないだろう。そんな場所にみっちりと詰まった男たち、およそ五百人はいようかという人数に本当にできるかもしれないと男は胸を高鳴らせた。


 男と連れてきた労働者が一番最後だったらしく、彼らが落ち着いたところで何もないところからすうっとローブを着こんだ人物が姿を現した。


「これほどまでの人数をよく揃えられたものだ。感謝するぞ」


「いえいえ、ここから解放されるならばこれくらいの事は大したことはありません」


 リーダー格の男がローブの人物に頭を下げると周りの男たちもうんうんと首を縦に振る。その言葉に嘘は無くローブの人物を純粋な瞳で見つめていた。


「決行の日取りが決まった。六日後、我々は上で君たちのことを見下している者たちに向かって攻撃を仕掛ける。それに合わせて君たちもここから抜け出し我々の攻撃に参加してほしい」


 ローブから発せられた言葉に男たちは無言のまま小さく首を振る。本当だったら士気を高めるために声を張り上げたいところだが、そんなことをすればこの場がバレかねない。気持ちをグッと抑え、しかし、それでいて士気は高く保っておく。


「それまでに各々準備を済ませておいてほしい。君たちの健闘を祈るぞ」


 それだけを言い残すとローブの人物は再び姿を消した。


「六日後か……。あとそれだけ我慢すればここから抜け出せる……。そうすればやりたい放題だ! 飯でも女でも、好きなように出来る!」


「俺は久しぶりに肉がたらふく食いてえなぁ」


「俺は魚だな。表面をバリッと焼いたのを酒でグッと流すんだよ」

 

 六日後になれば自由の身だと疑わない彼ら思い思い六日後、そしてその後を妄想して気持ちを高めていく。


 しかし、長時間この場に留まっていては怪しまれるかもしれない。妄想を話し合うのもほどほどにして彼らは少しずつ、この空間から出て散らばっていくのだった。


 その一方で、姿を消したローブの人間は秘密の通路で地上に上がると口を開く。


「全くクズ共が……。お前たちみたいなのが上に上がってくるのなんて大地に対する冒とくのようなものだ。せいぜい私たちの作戦のための囮になってくれ」


 誰もいない空間で一人ごちったその人物は視線を地面に向けると嬉しそうに笑みを浮かべて再び一人呟き始める。


「ああ、大地様。もうすぐ忌々しい十人のうちの一人を滅することが出来ます。あと少しの辛抱ですのでどうか、何卒辛抱いただきますよう」


 反応が帰ってくるはずもない地面に向かって呟いたその人物は、呟きを終えるとその場から去っていくのだった。






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