第6-41話 キャプテン・シンク・アバウトフューチャー
二日間の休暇を過ごし終わったカルミリアは再び仕事に励むべく執務室に戻る。そこではヘリオスが書類と戦っていた。執務室は掃除されており、以前よりもだいぶきれいになっているが、ヘリオス自身がどこか不潔な印象を抱かせる姿へと変貌していた。
「ああ、隊長お帰りなさい。休暇はいかがでしたか?」
「ああ、ずいぶんと休めたよ。わざわざ心遣いどうもありがとう。気の利く部下を持てて私は幸せだよ。それはそれとして彼をここに連れてきたことに関しては後で少し話をしよう」
獰猛な笑みを浮かべながらヘリオスの問いに応え、言葉を突き付けたカルミリア。それを受けてヘリオスは驚きで目を見開くが、カルミリアは気にすることもなく椅子に座った。
「では、頭もすっきりしたところで少々今後の話をしよう」
真面目な雰囲気を纏ったカルミリアにもう抵抗できないことを悟ったヘリオスは叱られている未来を想像して陰気になりながらも机の前に立ち、カルミリアの話に耳を傾ける準備をする。
「今回の戦いで我々は想像を絶する大敗を喫した。兵士の半分近くが死に、戦いのショックでさらに兵士は減るだろう」
「ええ、もう既に知り合いが何人か辞めたみたいですからね」
「だが、サドリティウス殿のおかげで向こうの戦力も少なからず減らすことが出来たはずだ。不幸中の幸いだな」
天に上ったサドリティウスに感謝の気持ちを持ちながらカルミリアはさらに言葉を続ける。
「だが、こちらの戦力と向こうの戦力を鑑みればこのままでは摺りつぶされて戦いに負けるだろう。それを防ぐためには戦力の拡充は必須」
「とはいってもどこから補充するんですか? 国内から兵士を集めても向こうが同じ戦法で来るならほとんど意味ないでしょうし……」
カルミリアの言葉に疑問を呈すヘリオス。
「向こうに神獣クラスの魔獣が大量にいるのであればこちらは神装使いを多く揃える必要がある。それに神装使いも三人。だが、こちらでまともに戦えるのは現状二人。だったら頭数を増やさなければならない」
「…………え、本気で言っているんですか!?」
カルミリアの言葉の意味を悟ったヘリオスは驚愕と不安の混じった声を上げる。今から彼女が言おうとしているのはヘリオスたちからすればあまりにも不可能なことであり、彼の脳裏に少しも成功するビジョンが見えなかった。
「ああ、最早背に腹は代えられないだろう」
「で、でもどうやって味方につけるんですか。向こうがまともに交渉を聞いてくれるとは思えないですし、大体誰を交渉に出すんですか。王国の人間も冒険者も向こうは嫌っているんですよ?」
「何、いるじゃないか。王国側でも冒険者側でもない第三勢力の人間が」
ヘリオスの疑問に答えたカルミリアはニヤリと笑みを浮かべる。屋敷で戦力拡充のことを考えていた時、お誂え向きの立場にある彼のことを思い出した彼女は奇跡的な偶然に屋敷で大笑いしてしまった。彼の存在がなければ今ごろ、王国兵士だけでどう対抗するかを考えていただろう。
「……あ、まさか彼を?」
「さんざん休暇を楽しんだ頃合いだろう。戦争で剣を振るわなかった分、こっちで活躍してもらおうじゃないか」
そういうと彼女は通信用の魔道具を懐から取り出すのだった。
王国軍と大地信教団の戦いは、ラスター・マグドミレアの綿密に練られた策によって大地信教団側の勝利に終わり、大英雄サドリティウス・ミルスが失われた。神装使いが失われたことで戦況はさらに大地信教団側に傾くかに思えた。
しかし、サドリティウスの消失によって新たな神装使いが生まれた。
まだ戦いは終わっていない。この戦いはまだ序章、ラスター・マグドミレア側の神装使いと王国側の神装使いはこれから激しくぶつかる運命にあった。
戦いに参加し鎬を削った神装使い。新たに生まれた神装使い。そして今回の戦いに参戦しなかった神装使い。彼らによる新たな火蓋が今、再び斬られようとしていた。
次の章まで書き溜めをするので少しの間お休みです。
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