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第6-30話 パワーオブサイス・イズ・リヴェールド

 マルアイドとナギスが協力の意志を見せたことで彼女に逃げの一手は無くなり、相手をせざるを得なくなる。


「クソッ、早く向かわねばならんというのに……」


「行きたきゃとっとと俺たちを倒すんだな!」


「手合わせ願うぞ、カルミリア・ガリーズ!」


 跳びかかってくるナギスを、地を這うように距離を詰めてくるマルアイドを前にしてカルミリアは手元で槍を回すと迎撃の体勢を取る。


 空中で振り下ろしの体勢を取っているナギスに向かって突きこむカルミリア。しかし、その一撃は振り下ろしから体勢から槍に叩きつけることで軌道を逸らす。


 その隙を突いて自分の間合いまで詰めてマルアイドが大鎌の刃をカルミリアに叩きこもうとする。それを阻んだのはカルミリアの身体から爆発したかのような勢いで生えてきた三本の炎の槍であった。予備動作も無しにいきなり生えてきた槍にガードが間に合わないマルアイドは炎に身体を貫かれ膝をつく。


 その間にナギスに攻勢を仕掛けるカルミリア。地面に着地したナギスに対して突きと薙ぎ払い、そして超高温の炎を織り交ぜた猛攻を繰り出す。斧捌きと土を使った防御で捌こうとするナギスであったが、彼女の本気の猛攻をさすがに捌くことが出来ず、しばしば彼をヒヤリとさせられる攻撃が掠めていく。


 反撃の一手として合間を縫って攻勢のための布石を打とうとするナギスだったが、カルミリアが持ち前の身体捌きと炎で対処してしまうため、うまくいかずに舌打ちをする。


 このままいけば押し通せる。そう考えた彼女だったが、同時に神装使いをそう簡単に攻略できるはずがないというのもはっきりと理解していた。


 目の前に生えてきた土壁を粉砕するため、渾身の突きをぶつけようとするカルミリア。全身のバネを使い槍を引いたその瞬間、彼女の胴体の前に巨大な鎌の刃が現れる。


 このまま刃が引かれれば彼女の上半身と下半身は泣き別れをすることになる。かといって踏み込んでしまっている彼女に不意のこれを回避することは難しい。攻撃を中断し防御するしかない。


 刃が動いたと察した次の瞬間、彼女は突きこもうとしていた勢いを利用し、素早く槍を前に出した彼女はそのまま刃の軌道上に槍を差し込んだ。直後、槍の柄に刃が甲高い音を立てながら当たり、カルミリアの身体を後方に引いた。


 後方に引いてくる力に対抗するため、全身に力を込めるカルミリア。そんな彼女を隙だらけと見るや否やナギスは壁ごと、土で巨大化させ質量をこれでもかと増した斧で薙ぎ払ってくる。さすがにこれも加われば彼女の小さな身体は耐えきれずに吹き飛ばされるだろう。その隙を二人が見逃すはずもない。


 前後に挟まれる形で攻撃されたカルミリア。しかし、彼女はそれでも冷静だ。彼女は槍からあえて手を離すと同時に膝を抜き体勢を低くする。手を離したことで槍は刃に引かれて後方に吹き飛んでいく。同時に体勢を低くしたことで薙ぎ払いの斧は彼女の頭上を通り過ぎていった。


 体勢を低くしたカルミリアはそのまま低い姿勢で地面を這うようにナギスとの間合いを詰めると彼の腹部に跳ね上げるようにして蹴りを放ち距離を開けさせる。


 同時に炎の渦を手のひらに作り出すとそれを後方に向かって撃ち出した。この渦に飲まれれば身体中の水分という水分を奪われ、常人はカラカラの炭になる。


 だが、渦に飲み込まれた《《マルアイド》》は渦の中でも平気そうな顔をしている。


 彼の身体は先ほど本当に攻撃をもろに受けたのかと思ってしまうほど無傷であり、いつの間にか青い炎が纏わりついていた。


 炎の専門家であるカルミリアには分かる、あの炎が普通の炎ではないことが。炎であるにも拘らず、熱いどころかむしろ冷たいという矛盾を孕んでいるのもだということが彼女にはわかる。


「……それが冥府の炎というやつか」


 そしてその正体に見当がついていた彼女はその答えを口に出す。するとマルアイドはさすがだと言うように肩を竦める。


「さすがに詳しいな。さすがは炎の専門家だ」


 そういうとマルアイドはくるりと鎌を回すと刃先を自分に向けて持つ。そしてそのまま心臓近くに向かって突き刺し、すぐに切っ先を抜いた。カルミリアの脳裏には血が噴き出す想像が思い浮かぶが、マルアイドの身体から一切血が流れることはない。身体に溢れ出たのは纏わりついているものと同じ青い炎。突き刺したところから溢れた炎が消えることには身体に合った傷は一切残らず消えていた。


 その光景に心底うんざりしたように眉をひそめたカルミリアは、彼の言葉に返すため口を開く。


「私の専門の炎ではない。話に聞いていただけ、この目で見るのは初めてだ」


 これこそ死を司る神が形どる神装、亡神鎌サーディンの力の一つである死の炎である。死した罪人を焼くための炎を纏っている間、使用者は死んだことと同義になり、どんな攻撃を食らっても死ぬことがなくなる。もちろん長時間の使用をすると、能力の過剰発動で即死してしまうという制限もあるが、それでも防御能力で言えば神装の中でもトップクラスの力である。


「だとしてもすぐに理解できたのはすごい。それにさっきの対処も見事だった。さすがは歴代でも屈指と言われる獣鏖(じゅうおう)神聖隊(しんせいたい)隊長だ。心の底から憧れる」


「お世辞か?」


「本心だよ。俺はあんたのように心も身体も技術も優れた人間に憧れているんだ。色々と歪んでしまったけどな。そんなことより呑気におしゃべりしていていいのか? ボケっとしてると土くれが飛んでくるぜ?」


 その言葉の直後、マルアイドのほうを向いているカルミリアの背後から土礫が飛んでくる。以前よりもキレの増した礫だが、カルミリアは即座に振り返ると槍で叩き落とす。

 

 間髪入れずに背負うことになったマルアイドが鎌を振りかざす。それを背を向けたまま弾き、振り返りながら一息で三段の突きを打ち込むが、彼は身のこなしで二発を回避し、三発目を鎌の刃で受け止め地面に押さえつける。必然的にカルミリアの動きは一瞬鈍る。


「そのまま抑えてろォ!!!」


 それを待っていたかのようにナギスがマルアイドの背後から姿を現すとそのまま彼ごと薙ぎ払いにかかる。ナギスはサーディンの能力を知らなかったが、しっかりと二人の会話に耳を傾けそのからその性質を分析していた。それを踏まえての攻撃である。カルミリアにカウンターの隙を与えず、一方的に攻撃を加えるための策である。


 カルミリアもこの攻撃をある程度予想はしていた。しかし、それをあまりに躊躇なく実行した彼らに思考と身体が追い付かなかった。回避が間に合わないと判断した彼女は全身の魔力と炎を集中させ防御する。しかし、勢いを殺すことまでは出来ず、彼女は槍を置き去りにしたまま後方に大きく吹き飛ばされる。


 彼女の手から槍が離れたことで能力に大きく制限が掛かったと判断した彼らはこの機を逃すものかと追撃を仕掛ける。彼女がいるはずの場所の地面から剣山のごとく槍を生やし、青白い炎球をそこに殺到させる。一撃一撃が当たるたびに土煙が上がり、彼女の身体を覆い隠していく。


「……やったか?」


「この程度であの女が死ぬかよ。あいつはカルミリア・ガリーズだぞ?」


 身体に纏わりつく炎を消しながらマルアイドが呟くと、ナギスが反論する。マルアイドにはぼやけてしか感じられなかったが、一度戦ったナギスには彼女がこの程度で死ぬような人間でないという確信が得られていた。


 そしてその言葉の通り、カルミリアは復活する。砂煙の中から三十本の炎の槍が飛来、彼らの身体を食らいつくそうと襲い掛かった。。かなり荒い狙いだったため二人が交わすのは容易であったが、槍が飛来した砂煙の方からとてつもない熱波が押し寄せてくる。


「どうやら本気になったみたいだな」


「なんて熱量……。これが太陽の本気か……」


 やはり立ち上がってきたかとニヤリと口角を上げるナギスと、カルミリアの本気を実感しこちらもニヤリと笑うマルアイド。彼らのそばに刺さっていたアボリスヒイトもふわりと浮かび上がると、砂煙のほうに飛翔する。未だに姿も見えず、分かるのはじわじわと襲い掛かる熱波のみ。だが、それだけで彼らにはすぐに分かった。彼女が本気になったのだと。


そして砂煙に飲まれその姿が完全に消えると同時に砂煙が一瞬にして晴れた。その奥から姿を現したのは槍を振り抜いた体勢のカルミリア。彼女の身体からは黄色の光を放つ炎が猛っており髪の毛も心なしか逆立っている。


 だが、それなりに砂煙の中でやられてもいたのか鎧は砂に塗れ、ところどころへこんでおり、頭から血を流している。


 だが一番気を引いたのは、小さいその身体からは想像もできないほど巨大で濃密なオーラ。まるで彼女が本当に神になってしまったのかと錯覚させるほどのオーラは二人に改めて彼女の危険性を認識させる。


「上等だ。少し本気で相手をしてやる」


 そこまで声を張っていないにも拘らずはっきりと聞こえるように彼女の口から吐かれた呟きは二人に戦闘態勢を戻させるには十分すぎるほどの力を発揮した。


 直後、カルミリアが炎を纏ったまま勢いよく走り出す。これが第二ラウンドの合図となり三人は勢いよくお互いの武器をぶつけ合うのだった。





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