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第12話 ディフェンスバトル・イズ・オーバー

 剣を握り魔獣を見据え覚悟を背負ったアベルは、一喝とともに魔獣に殺気を解き放った。その殺気に受けた魔獣は怒りのボルテージをさらに上げ、唸り声と殺気を放つ。両者の間で殺気がぶつかり合い当てられた空気が震え始める。


 睨み合うアベルと魔獣の両者。重苦しく震える空気の中、先に動き出したのはアベルの方であった。全身に力を籠め走り出したアベルは、振り上げた剣を魔獣の頭に振り下ろした。しかし、その一撃は見る人間が見ればすぐに分かるほど、ただ振り下ろしただけの、殺気が何一つとして籠められていない羽虫が止まるような一撃であった。当然そんな一撃で魔獣を仕留めることなどできるはずもなく、ぶつかり合った牙に小さく傷をつけるだけに終わる。


 そんな彼に牙を振り回し反撃に出る魔獣であったが、素早い動きで側面に回るように回避したアベルに当たることはない。それどころか背を向けて興味なさげに歩き始める始末。それに怒髪天を衝く勢いで怒りを露わにする魔獣は本格的にアベルに意識を集中させる。それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。距離を詰めるために後ろ足で砂を蹴ると突進気味に走り始めた。


 それから逃げるように歩む速度を上げ走り始めるアベル。これこそが彼の狙いであった。厳密にいえば戦えないラケルから意識を逸らすことで彼女に被害が及ばないようにすることが目的であった。殺気を放つほどの昂っているにも拘らず思考はこの上なく冷静であった。


 ラケルから距離を取りつつ、何かあればすぐに駆け付けることが出来るところまで移動したアベルは本格的に戦うために剣を強く握りなおした。彼は突撃してくる魔獣に対して合わせるように剣を横薙ぎに振るう。しかし、魔獣はその一撃に対して回避行動すら見せようとしないどころか、望むところだと言わんばかりにさらに速度を上げる。アベルが剣を振るっているということは嘘でも足を止めているということである。むしろ向こうからしても狙うのにうってつけのタイミングである。


 両者の攻撃は痛み分けという形で収まった。その切れ味から素人のアベルであるにも拘らず向かってくる魔獣の牙を切り裂き、特徴的な鼻に少なくない切り傷を加えた。しかし、それを受けても突進の足を止めなかった魔獣の重量級の一撃でアベルも吹き飛ばされる。間一髪後方に跳ぶことで衝撃を緩和するが、それでも見逃せるものではない。


 後方に吹き飛ばされたアベルは地面を転がりながら体勢を立て直すと魔獣に視線を向けなおす。落ちた牙に一瞥くれた魔獣もまた同様に吹き飛ばしたアベルを見据える。牙という武器を切り落とされた怒りもあり、唸り声をあげ息を荒くしている。

 

 見据えた体勢のまま剣を身体の側面で構え直すアベル。その直後、魔獣が再び走り始める。今度は明らかに全力より速度を落としており、突進ではない何か別の目論見が見て取れた。


 それを見たアベルは大きく息を吐き出しじっと魔獣を見据えていた。魔獣の進路から外れようとせずただ黙って見据えているにも拘らず全く悲壮感がない。むしろチャンスとすら思っていそうである。


 二者の距離がおよそ五メートルまで近づいたところでアベルは行動を起こした。重心を前に傾けると一歩魔獣に踏み出した。瞬間、魔獣は地面を強く蹴り一気に重量のある身体を加速させた。最初の段階で全速力で走っても直前で回避されるか反撃を合わせられると察した魔獣は直前で加速させることでそれを回避する。これを本能のままに閃いていた。その重量があれば人間一人をひき殺すことなど容易い。もし当てることが出来なかったとしても速度を緩めている分、そのあとの対応も素早くすることが出来る。策としては悪くなかったかもしれない。 


 しかし、アベルの闘争本能はその上を行っていた。そう来ると思っていた。その言葉がしっくりくるほどに流暢な動きで前から右へと直角に重心を転換した彼はそれと同時に身体の横で構えていた剣を振り上げる。そして魔獣の側面に回ったところで全身のバネを使って全力で斜めに剣を振り下ろした。直前で加速した影響でまともに回避行動もできない魔獣はもろにアベルの一撃を受けることになってしまう。


 しかし、ここでアベルが剣の素人であることが災いする。どんな名剣であっても使い手次第で鉄の棒と化してしまうのだ。彼の全力で振り下ろした剣は毛皮に流されるような形で体表を滑っていき、身体自体に致命傷を与えることが出来ない。残されたもう一本の牙を切り落とし、凶器になりうるものを排除することが出来たのは不幸中の幸いであったが、目論見通りの攻撃が出来なかったことでアベルは思わず小さく呟きをこぼす。


「チッ、突いたほうがよさそうか」


 素早く後方に下がった彼は剣を地面と水平に構え直すと、再び距離を詰めその切っ先を突き出した。彼の目論見は見事に当たり、鋭く突き出された切っ先は魔獣の肉体を貫き風穴を開けた。


 が、それでも魔獣の動きが止まることはない。何百年にも渡って人間や他の種類の魔獣と争い続けてきた魔獣たち。彼らの生命力は言い表せないほどに高い。胴体に風穴が開いても、致命傷にはなっても即死にはならない。数秒、長くて数分の猶予があり少しの間動き続ける事が出来る。


 開いた風穴から血を吹き出しながら猛然とアベルに向かって駆け出した魔獣はその鼻面でアベルの腹部で吹き飛ばす。と同時に彼に覆いかぶさるような形でマウントを取った。彼の頭を噛み砕こうと牙を剥きだしにしガチガチと音を鳴らしながら迫ってくる。それを剣を間に挟み抵抗するアベル。力と力のぶつかり合いになり、全力で押し合う両者。しかし、いくらアベルが力が強いといって魔獣と力比べをして勝てるなど普通はあり得ない。アベルは徐々に押し込まれていき、唾液に塗れた牙が迫ってくる。 


 このままでは牙が届いてしまうと考えたアベルは即座に行動を起こす。身体をよじり無理やり魔獣の身体を押し上げると踏ん張るために地面につけていた足を魔獣の腹部にあてがった。そして呼吸を止めると全身の力を足に集中させ、巴投げのように吹き飛ばした。宙に浮きあがった魔獣の身体は血をまき散らしながら重力に従って地面に近づいていく。


 その間に素早く立ち上がったアベルは剣を握り直すと弾丸のように鋭い動きで魔獣に駆け寄った。そして魔獣が地面に落ちると同時に素早く切っ先を魔獣の首に向けて振り下ろし、縫い付けるように二つ目の風穴を開けた。


 しかし追撃はこれでは終わらない。貫いた剣を全力で九十度捻るとそこから力の限り剣を引き切り裂いた。その傷からまるで噴水のように血が一気に噴き出していく。最初はじたばたともがいていた魔獣も次第に動きが鈍くなっていき最終的には動きを止めクタリと地面に倒れ伏した。吹き出す血も比例するように徐々に量が少なくなっていき、息絶える頃にはほぼ止まりかけの状態まで抑えられていた。


 血の海で地面に刺さる剣に手をかけ息を整えるアベル。ある程度息が整いラケルがどうなっているかを確認しようと顔を動かそうと大きく息を吐き出したその時。



















「キャアアアアアアア!!!」










 森の中に悲鳴が響き渡った。それがラケルの声であると即座に理解したアベルは即座に彼女の方に首を振る。すると視線の先にはもう一匹魔獣がおり、今にも彼女に食らいつこうとしていた。しかも先ほどの魔獣よりもさらに一回りほど大きい。先ほどほどの大きさの魔獣が単なる斥候であり、本命がこちらであるということにアベルは驚きの様子を見せる。


「しまった、もう一体来てたのか!」


 突然の事態に思わず声を上げたアベルは、地面に刺していた剣を引き抜くと同時に走り始める。襲われている張本人は悲鳴を上げてなお動くことができずに小さく身体を震えさせていた。このままではあの子が死んでしまうと急ぐアベル。引き抜いた剣を逆手に持ち変えると時間稼ぎのために剣を投げつけた。


 矢のように飛翔するヴィザリンドム。先ほどの魔獣はこれでダメージを与えることができた。そのことを鑑みればアベルが目の前の魔獣に命中し、時間稼ぎになると考えるのはごく自然なこと。


 しかし、魔獣は投擲の直前にはアベルの存在に気づいていた。チラリと視線を向けた魔獣は投擲された剣を確認すると口元から伸びる牙を器用に剣に添わせるとそのまま弾き飛ばした。弾き飛ばされたヴィザリンドムは空中で回転しながら近くの地面に突き刺さる。剣を弾き飛ばした魔獣は勝ち誇るように大きく鼻息を吐くと再びラケルの方に視線を戻した。


 一方で剣を弾き飛ばされたアベルは弾き飛ばされたことに驚きながらも、時間稼ぎができなかったことをはっきりと認識し、さらに速度を上げようと足の動きを速めた。しかし、すでに魔獣はラケルに対して開いた口を近づけておりあと数秒で彼女の震える頭部は魔獣の牙に噛み砕かれてしまうところまで迫っていた。このままでは間に合わない。そう考えどうにか間に合わせようとするアベルであったが、人間にはどうにもならない限界というものがある。既に全力を出し尽くしている彼にはこれ以上の速度を出すことは出来なかった。


 このままでは―――。ラケルの頭部が魔獣の口内に収まる姿を幻視したアベルは無意識のうちに歯をギリリと食いしばり頬に涙を伝わせた。しかし、その涙が文字通り奇跡の呼び水となる。彼が涙を流した直後、彼の身体が薄く光に包まれる。それと同時に踏み込んだアベルの身体は風のように吹き飛び、魔獣との距離を一挙に詰めた。


「おおぉぉぉ!? なんか知らんがくらいやぎゃっれぇぇぇ!!!!!」


 魔獣と一気に距離を詰めたアベルは悲鳴交じりの大声とともに腹部に飛び蹴りを打ち込んだ。魔獣の半分もないアベルの攻撃など本来であれば問題にすらならない軽い一撃であったはずである。が、突如として彼が持った驚異的な速度と何かが彼の背中を押しているかのような圧力に押され、魔獣の身体が浮き上がる。そしてゴロゴロと転がるようにして吹き飛ばされた。 


 吹き飛ばした本人は自分の身体に起こったいきなりの強化に驚きと戸惑いを隠せないが、そんな暇はないとすぐに切り替えるとラケルのもとに駆け寄り、声をかけた。


「ラケルちゃん大丈夫!? 立てる?」


 しかし、彼女は目に涙を浮かべながら首をブンブンと首を横に振るだけである。腰が抜けてしまっているのか、ぺたんと座り込んだ体勢で立ち上がろうとしない。


「くっ、じゃあ抱き上げるよ! ちょっと触るけどごめんね!」


 そういい終わったところでアベルは背後から殺気を感じ取り、バッとそちらに視線を向けた。視線の先には彼が吹き飛ばした魔獣がおり、怒髪天を突く勢いで猛り狂っていた。そしてそれを今にもエネルギーとして消費しようとしている。その考えは行動であらわされており、後ろ足で砂を蹴り、重心を前に傾け、荒々しく鼻から息を吹き出していた。


 一刻の猶予もないことをはっきりと理解したアベルはすぐにラケルを移動させようと手を伸ばす。が、彼が手を伸ばそうとするだけで魔獣の殺気が強まる。実際にも手を伸ばすとさらに殺気が強まり、鼻から吹き出す息がさらに荒くなる。魔獣はアベルの一挙手一投足に注目しており彼が動きを見せるだけでそれに伴って怒りのボルテージが上がる。


 これでアベルにラケルを抱きかかえて逃げるなどという選択肢は失われた。彼に残された選択肢は二つ。猛然と突撃してくる魔獣を真正面から受け止めるか、背後に抱えるラケルを見捨ててその場を離れるか。それとも、などという選択肢は残されていなかった。何かを失わなければこの場を逃れることは普通できない。一瞬のうちにアベルの脳に閃く思考。物凄い速度で回転する彼の思考は一瞬のうちに答えを決めた。


 スッと立ち上がったアベルは二、三歩歩み出ると今にも突撃してきそうな魔獣の前に立つ。そして大きく手を広げ大きく息を吸い込むと、舌を震わせながら吐き出した。 


「来やがれッ!!!!!」


 受け止める体勢を整えたアベル。直後魔獣が砲弾のように走り始める。そして数秒遅れてアベルにに魔獣が突っ込んだ。彼の者の三倍以上の重量が乗った突進を真正面から受け、アベルの身体はくの字形に折れ曲がると同時に浮かび上がる。全身に奔る痛みで全身の空気を吐き出した。彼にぶつかっても魔獣の勢いは止まらず彼を鼻面を乗せたままの状態でラケルに迫っていく。足の裏で土を削りながら後退させられるアベルは魔獣の鼻面を藁を掴むように微かに掴んだ。


 一方で目の前で凄惨な光景が繰り広げられたラケルは、目の前の光景の衝撃とアベルが自分を守るために真正面から受けたというショックで、身体を縛り付けていた恐怖が若干緩和される。身体が動かないなりに必死に全身をよじらせ後ずさる。


 しかし、腕の力だけで後ずさる彼女の速度などたかが知れている。魔獣との距離は容易く詰まっていきその距離は後五歩のところまで近づいた。このままアベルだけでなく自分まで犠牲になるのだろうかと、恐怖でラケルはぎゅっと目を瞑った。


 しかし、彼女に魔獣が襲い掛かることはなかった。あと四歩、あと三歩と距離を詰めたところで魔獣の動きがビタリと止まり全く進めなくなっていたのだ。地面を抉り進もうと試みてもそれ以上魔獣が前に進むことはない。


 何が起こっているのかわからないといった表情をしている魔獣に対してその鼻面に乗っているアベルはぶつかる前とは全く違う表情、体勢を取っていた。


 自らの力で砕かんばかりに歯を食いしばり、弱弱しく掴んでいた鼻面の毛を今は引きちぎらんばかりに強く握っている。地面を削っていた足は今ではつま先で地面を噛み締め、ガチリと強く踏みしめている。現状の彼は全身の力を籠められる最高の体勢を取っていた。


 彼からしてみれば勝機があって真正面から受け止めたわけではなかった。ではなぜ受け止めたか。単純に勝てるか勝てないかではなく、失うか失わないか。勝てる手段を思いついたのではなく彼女を殺させないための手段しか思いつかなかったからである。そもそも戦いの経験がほとんどない彼に思いつけるわけがなかったのだ。それでも彼女を守りたい、魔獣に殺させないという彼の強い意志は実を結んだ。彼は自分を犠牲にして彼女を守るだけでなく、魔獣の動きを止めるという快挙を成し遂げる。


 全身に残る痛みを、気力とギチギチと音を立てる自身の筋肉の痛みで誤魔化しながら、魔獣の動きを全身から迸る剛力で押さえつけるアベル。噛み締める歯をギリギリと鳴らしながら、彼はさらに押さえつけるだけでなくラケルから引きはがすために魔獣を押し返していく。ゆっくりとゆっくりと、鈍足ではあるが一歩、二歩と確実に距離を離していく。そして彼はラケルから五歩のところまで押し返すことに成功した。


 そこまで押し返したところでアベルはゆっくりとラケルのほうに首を傾けた。そして食いしばり横に広がっていた口の端をゆっくりと押し上げる。


 ―――大丈夫、大丈夫だ―――

 

 彼の口から小さく響き渡った言葉。これがラケルの耳に届いた。染み渡るような優しい声と目の前に広がるアベルの背中に光を見たような気がしたラケルは無意識のうちに涙を流した。そして手のひらで自身の顔を覆った。見たくないわけではなかった。ただ、見ることが出来なかったのだ。あまりにも神々しいアベルの姿に目を瞑るしかできなかったのだ。


 そんな彼女を他所に振り返り一言発したアベルは魔獣に向きなおると身体に残る空気のすべてを使い、空気を震わせた。


「戻って来い! ヴィザリンドム!!!」


 彼の声は森中に響き渡り、すべての生物の鼓膜を震わせた。そしてそれに反応するように彼の待っている()()も動き出す。


 弾き飛ばされ地面に突き刺さっていたヴィザリンドムが空気の震えに乗せられるようにカタカタと揺れ始めたかと思うと揺れは次第に大きくなっていく。そして揺れが最大に達したその瞬間、それは予兆すらなくまるでロケットのように物凄い速度で飛翔を始めた。もちろんその先にいるのは所有者、そして彼と押し合っている魔獣である。


 飛翔の勢いで魔獣を横から貫いたヴィザリンドムは手のひらが本来あるべき所在地であるかのように、迷うことなく伸ばしたアベルの手、その内に収まった。貫かれた当人は貫かれた痛みと衝撃で声を上げながらたたらを踏む。その瞬間、二者の力の均衡が崩れる。そこをアベルは見逃さなかった。


 押し返したアベルはあえて突き飛ばすように魔獣から距離を取ると手に持った剣を懐まで手繰り寄せると弓となった全身を使って全力で打ち出した。打ち出された剣は声を漏らしている魔獣の口に滑り込んでいく。その一撃は口の中に入ると同時に魔獣の体内を容赦なく傷つける。体内の奥深くまで突き刺さったことで増加した痛みに耐えきれなかった魔獣はさらに声を上げ、もがき苦しむ。最後にアベルは止めを刺すための行動に移った。体内に突き刺した剣に九十度の捻りを加え刃を下に向けると、そのまま力の限り振り下ろした。


 腹部を切り裂かれ、その内側に収められていた内臓がもろび出る魔獣。せめて一矢報いようと身体を動かすが、それよりも早くアベルに滅多打ちにされる。もはや剣ではなく鉄の棒として振るい、力任せに魔獣の身体を殴打していく。彼が変貌する前とは比べ物にならない威力に魔獣は衝撃で身体を揺らすだけで何もすることができない。ただただサンドバックとしてアベルに叩かれるだけである。


 アベルの殴打が三十発ほど打ち込んだところで、魔獣は一矢報いる時間すらないままにズルリと力なく地面に倒れ伏した。それでもなおアベルは魔獣の身体を叩き続ける。もはや彼に魔獣の生死など見えていない。ただ魔獣の命を、動きを終わらせるだけ、それだけに集中しきっていた。


 しかし、それもいつか終わりがやってくる。五十発ほど打ち込んだところで魔獣が息絶えその身体に抵抗の意思がないことにアベルはやっと気づく。それと同時に魔獣の身体に剣を振り下ろしていた動きが徐々に緩やかになっていく。数秒もしないうちに彼の動きが完全に停止した。
























 二体の魔獣との闘いに決着をつけたアベルは、剣を地面に突き刺したところでブハッと大きく息を吐き出した。呼吸すら忘れるほど集中していたアベルの身体は酸素を求め喘いでいた。荒い息を落ち着けようと試みるアベルは、血の海の中で全身の痛みと葛藤しながらゆっくりと深く呼吸を行い息を整えていく。そしてまともに行動が出来るほどに息が整い、呼吸音が薄れたところで彼の脳内に声が響き渡る。


『フン、やればできんじゃねえか』


「あのさ……、この魔獣にダッシュしたとき……、妙に身体能力が上がったんだけど……、あれってお前が?」


『ようやっと覚悟見せたんだ。こんなところの下らん戦いで折れられちゃ困るんだよ』


「ずいぶん……、優しいこって……」


『当然だ。俺は十柱の中でも善神の類だぞ』


 呼びかけても一切返答をしなかった剣の主との会話に勤しむアベル。声が途切れたところで彼は思い出したようにラケルに意識を向けた。


「そうだそうだ。ラケルちゃん!」


 声を張り上げるとともに彼女のもとに駆け寄っていくアベル。彼女はアベルに視線を向けながら放心しており、問いかけにも無反応である。 


「大丈夫!? どこか怪我したとかは?」


 さらなる言葉を掛けながら、安否を確かめるように顔の前で手を振るアベル。それを数秒ほど行ったところで彼女はようやっと現世に帰還した。しかし、それでも彼女は彼の問いかけには答えなかった。


「う、ふええぇぇぇ……」


「え!? そんな泣くほど痛いところが!?」


 彼の姿を見て泣きじゃくり始めるラケルと、泣いている原因を勘違いするアベル。妙なところですれ違っている二人がお互いに落ち着きを取り戻すまでもう少し時間を要することとなる。とはいえ彼らの身に降りかかった問題は解決した。そして神装使いとなった青年は試練を乗り越えようやく覚悟を決めることが出来た。今回はそれだけで良しとするべきである。


 

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 ぜひ次回の更新も見に来てください!


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