第6-25話 ゴッドドレッサー・フェイス・イーチアザー
相対した神装使いたち。その破壊的なまでのオーラは常人には割って入ることを許さないほどの密度と重量を誇っていた。少し離れたところで見守っている兵士たちは彼らの空気にあてられごくりと生唾を飲んでいる。
「オラァッ!」
「グッ、オオッ、アァ!!!」
振り下ろした斧にさらに力を込めたナギス。ものすごい膂力で押し込まれる斧の圧力にカルミリアは小さくうめき声をあげたが、負けじと力を込めて押し返し跳ね飛ばした。跳ね飛ばされたナギスは空中で身を翻すと何事もなかったかのように地面に着地し、斧を構えなおした。
「久しぶりだなぁ……。あの時の傷を治すのにずいぶんと時間をかけさせられた」
「仕留められてはいないと思ってはいたが、そこまで完璧に治しているとはよほど右手のいい治療師に巡り合ったようだな」
お互いに武器を構え挙動に警戒しながら軽口をたたき合う二人。
「それにしても意外だな」
「あ? 何がだ」
カルミリアの呟きに反応する形でナギスが声を上げる。
「貴様は人の下につくような人間だと思っていなかったのだが。なぜラスターのもとについた?」
「……俺は奴に敗北を喫し、奴の命令を受け入れる形で下についた。だが、別にそれを悪いことだとは思ってねえ。誰のもとであろうと、俺のやることは変わらねえからな。そして俺は力をつける。俺に敗北の味を味あわせてくれたお前と、あの男に敗北の二文字を与えてやるためにな」
そういうと彼はニヤリと笑みを浮かべると同時にカルミリアの足元の土をいじり、無数の土の槍を生やす。
「だが、今回でそれが叶うことはなさそうだな。残念だ」
しかし、カルミリアは足元の土を跳躍する形で回避すると、意図的に身体のそばで火球を爆発させその反動で空中を移動し、着地する。そして一言、ナギスを挑発するような言葉を吐いた。
「抜かせ! 前回の雪辱、晴らさせてもらうぞ!!!」
そんな彼女の言葉が気に障ったナギスは額に青筋を浮かべると再び攻撃に移るのだった。
二度目となる激闘を繰り広げ始めたカルミリアとナギスの二人。一方で向かうあったサドリティウスとマルアイドは顔を突き合わせ警戒し合いながらも、どこかのほほんとした空気を纏っていた。
「初めまして、英雄サドリティウス。お手を合わせることが出来て光栄だ」
「おう、初めまして。しかしさっきの一撃、いい腕してるなお前さん。名前は?」
「マルアイド・ヌエルだ。以後、お見知りおきを」
初めて顔を突き合わせた二人は、互いに自己紹介をする(とはいっても一方は超有名人であるため、実質的に自己紹介をしているのは一人だけだが)。
「一つ聞きたいのだが、お前さんの持つその鎌、自分で奪ったもんか?」
「なんでそんなことを聞く? 前の持ち主が知り合いだったとかか?」
「まあ、そんなところだ。あいつはわしの古い茶飲み友達だった。お前さんがあいつを殺したっていうのなら、わしはお前さんを敵として、全力尽くして倒さねばならん」
その瞬間、サドリティウスから濃密でドロドロとした殺気が漏れ出てくる。身体に纏わりつき、そのまま首を掻き切ってくるのではないかと思うほど、濃厚で鋭利な殺気にあてられ冷や汗を流すマルアイド。
――これが大英雄の本気の殺意か――
しかし、彼はそれ以上の変化を一切見せない。身体を震わせることも、後ずさりすることもなく、ただ普通に平然として振舞ってみせる。
「そうだったのか。だが、あいにく俺はあの人にこいつを使わせてもらっているだけだ。本人から直接奪ったわけじゃない。わかってもらえるか」
声は震えていないだろうかという一抹の不安を抱きながらもマルアイドはサドリティウスの問いに答える。マルアイドの脳内にサドリティウスが引いた弓を自分に向けた光景が浮かび上がり、いつでも動き出せるように身構える。
しかし、彼の脳裏に浮かんだ光景が起こることはなく、サドリティウスの殺気が一瞬にして引っ込んでいく。
「そうか、だったらいい……、いや良くはないんだがまあとりあえずいったん置いておこう。それはそれとして貴様がそれを使うというのならばわしは王国側の戦士として貴様らのことを止めなければならん。どうだ、引く気にならんか?」
サドリティウスが改めて矢をマルアイドに向ける。その瞬間、彼の纏う空気が落ち着いたものから歴戦の戦士の纏う重厚で研ぎ澄まされたものへと変化する。首元に刃物を当てられたような緊張感にマルアイドの背中に汗が走る。
だが、彼もここで退くつもりはない。ごくりと喉を鳴らしながらも彼の言葉に反発し、鎌を構えなおした。
「悪いが、こっちとしても退くつもりはない。心遣いはありがたいが遠慮させてもらう」
矢を向けてくるサドリティウスに対し、ニヤリと笑みを浮かべたマルアイド。そんな彼に対してサドリティウスは少しだけ悲しそうな表情を浮かべ、口を開いた。
「そうか……。残念だの」
「それに……」
「ん?」
「あんたの相手をするのは、俺じゃない」
マルアイドが口を開くとほぼ同タイミングで二人に割り込むように声が響き渡った。
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