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第6-10話 ニューゴッドメッセンジャー・ボーン・アンダーワンドマスター

 怒りを心に抱きながら思考するメイ。友人や上司を殺されて怒らないものなどいない。


 だが、それ以上に自身の意思とは無関係に操られるかもしれないという恐怖が彼女を取り込んだ。死ぬのは構わない。それが自分の悲願につながるのであれば、むしろ光栄なくらいである。


 しかし、それ以上に死して後、尊厳を無視し肉体を好き勝手されてしまい、名誉を傷つけられることが恐ろしかった。そうなれば彼女は理想に殉じて死んだ名誉の戦士ではなく、操られてしまったただの人形となってしまう。彼女にはそれが許せなかった。


「……クッ」


 従属することと死ぬことを天秤にかけ、彼女は仕方なく従属することを選んでしまう。彼女の顔は選んでしまった後悔に包まれていた。


 一番抵抗していた彼女がおとなしくなったところでラスターは振り上げた腕を下ろす。すると立ち上がっていた五英信は重力に従って倒れこんでいく


「よろしい。では最初の命令だ。一か月後、王国とファニトラ付近で大規模な戦闘を行う。それまでに信者たちを戦う気にさせ、士気を上げておけ」


「な、何を無茶苦茶なことを言っている!? 王国と大規模戦闘だと!? 向こうには確実に二人、神装使いがつくことになる! そんな中に戦闘訓練もしていない信者を送りこめばただの的になる!」


 ラスターの言葉に動揺したベリアライズが思わず声を荒げながら反論する。動揺は他の破神装使いたちも同じようで、ラスター側に着いたガルボも唖然としていた。


「だから士気を上げろと言っている。戦闘の半分は指揮で決まると言っていい。士気を上げておけば技術の大半が誤魔化せる。それに向こうの神装使いに対する対策など用意しているに決まっている。わかったらお前たちはさっさと信者たちのもとに行って指示を出してこい。どんな手段を使っても構わん。俺に言えばこいつらの姿を使って説得でもしてやる」


 ラスターは地面に転がっている五英信を顎で指した。彼らの威光を使えば説得にさらなる力がつく。それらを駆使すれば士気の向上はそう難しくはないだろう。


「…………かしこまりました」


 しばらく無言で考え込んだベリアライズは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらラスターの命令に従い、肯定の返事を返した。過激な思想を持つわけでもなく、ただ信じる者としての信者を送ることになるかもしれないという懸念が彼を蝕んでいたがそんなことはラスターには関係ない。了承したのだから破神装使いたちは信者の士気を上げて戦場に引っ張り出すことだけである。


「よし、ならば下がっていいぞ」


 彼らが命令を受諾したことを確認したラスターは退出を命じる。すると彼らは意思とは関係なしに部屋の出口に向かって歩き始める。部屋に残ろうとしているのはラスター、ガルボ、シエルの三人である。


「あ、そこの鎌使い。貴様は残れ」


 ベリアライズたちと同じように部屋を退出しようとしていたマルアイドだったが、ラスターに呼び止められて足を止め、振り返る。かなり自由な動きを見せている彼であったが、実は彼だけは膝をついた時点で身体の自由を与えられていた。他の面々が動けていなかったため、周りに従って動いていなかっただけで実際には動けたのだ。


 そんな彼はベリアライズたちが部屋から出ていくのを見送る。そして彼らが全員出ていったところで改めてラスターのほうに向いた。


「さて、邪魔者もいなくなったところで話をしようか。マルアイド・ヌエル」


「あれ、なんで俺の名前を?」


「シエルから大体の話を聞いている。腕のいい鎌使い。そして大地に対しての信仰もない」


 マルアイドが彼が自分の名前を知っていることに驚くと、ラスターはその答えを返す。


「貴様の実力は先ほど見させてもらった。確かにいい腕だった。破神装使いにしておくには惜しい。だから貴様にはこれを与えよう」


 そういうとラスターはローブの内側に手を入れる。何やらゴソゴソと漁っていたかと思うと、手を抜き出した。抜き出てきた手にはとてもローブの内側に収まらない長い棒が出てくる。その長さに圧倒されたマルアイドだったが、彼にさらなる驚きを与えたのは、その先端についている巨大な刃であった。


 三日月状の刃は支える柄ほどあり、その幅は人の頭ほど太い。そして薄暗い環境であるにも拘らず、その黒い刃は鈍い光を放っていた。あまりに重厚な黒い三日月は人など当てただけでも両断できてしまいそうな気配を醸し出してした。


 その気配にとてつもない業物であることを感じ取ったマルアイド。先ほど見たラスターのグリダングルスと()()()()すら感じ取れるそれの名前をマルアイドは口に出す。


「まさか、亡神鎌サーディン!?」


 まさか世界に十本しかないはずの神装の一本が目の前に出てくるとは思わなかったマルアイドは絞り出すような声を上げる。ガルボから話を聞いていなければ目の前の物を信じることはできなかっただろう。


「貴様にこいつをくれてやる。こいつを使い、向こうの神装使い、カルミリア・ガリーズを足止めしろ」


「だけど……、能力を引き出せないんじゃ破神装を使ってた方が役に立つんじゃ……」


 神装を見せられ、使いたいという気持ちに溢れるマルアイドであったが、次に発せられた指示によって一抹の懸念が浮かび上がり伸ばした手を押し留める。だが、彼の反論をラスターはすぐに否定する。


「安心しろ。既にサーディンは俺の支配下に置いている。能力の行使を奴らの意思で妨げられることなどなく、能力をお前の意思で行使することが出来る。安心して使え」


「……ではお言葉に甘えて」


 ラスターの言葉を聞き、信じたマルアイドは彼の差し出しているサーディンに手を伸ばし、恐る恐る受け取った。神装特有の押し潰すような重さもなく、見かけに合わず羽のように軽い。軽く振ってみるとまるで何年も扱っているかのように振り回せる。自分の手足となったかのような感覚に彼は久しくなかったほどの高揚感を覚えた。


「すごい……」


 神装の武器としてのすごさを実感したマルアイドは思わず感嘆の声を漏らす。しかし彼は同時にラスターの実力の高さに恐怖を覚えた。神々を強制的に従えるなど今まで誰もしてこなかったし、出来なかった。それを彼はなんてこともなさそうに実行して見せたのだ。もし、自分が神装使いで彼に敗北し、神装を奪われればもはや彼の戦闘能力は計り知れないものになる。三本も揃えばもはや誰にも止められないだろう。奪われる側の立場になり、彼は寒気を感じた。


「マルアイド・ヌエル。与えられた武器に見合う活躍をして見せます。ご期待下さい」


「ああ、期待しているぞ。破神装はこちらで回収する、置いていけ」


 神装の武器としてのポテンシャルを知ってしまえば、もはや破神装など必要ない。彼の言葉に背く必要もなく、マルアイドは今まで使っていた破神装の切っ先を地面に突き刺し、固定した。


「すごいじゃないマルちゃん。これで夢の神装使いね! 頑張りなさいよ!」


 後ろで彼らの話を聞いていたガルボが彼に近づいていき、激励の言葉をかける。マルアイドはその言葉に思わず頬が緩んだ。戦士であれば誰もが目指す神装使いの座、どれだけ努力しても届かない者がいるという現実でまさか突然そのチャンスが転がり込んでくるとは夢にも思っていなかった。


「ああ、早くカルミリア・ガリーズと戦いたい……」


 早く神装の力を、そして自分の実力を試したいとマルアイドの身体は疼きに疼いていた。だが、それは後一か月先の話。その時に存分に力を振るえるように彼は特訓に向かうために部屋に出口に向かって歩き始めるのだった。



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