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第5-23話 ソードマン・リニュー・デタミネーション

 街の復興の手伝いをしたアベル達。しかし、その活動も夜になってしまえば一区切りをつけざるを得なくなる。夜風を凌げる場所で身を寄せ合って大半の人々はしばしの休息を取り始める。


 アベル達もその例に漏れず、病院に戻り休息を取り始めていたのだが、そんな中アベルはふとベットから立ち上がると荷物をまとめ、扉の方に向かって歩き始める。


「アベルさん、どこか行くんですか……?」

 

 既に眠っていたラケルはアベルの行動で目覚めると彼の行先について問いかけようとする。


「んー、まあいろいろとね。じゃ、ちょっと行ってくるよ」

 

 するとアベルはどこか濁したような答えを返す。


「そうですか……。行ってらっしゃい……。なるべく早く帰ってきてください……、ね……」


 しかし、ラケルはそれ以上追及することなく送り出す言葉を紡ぐと再び眠り始めてしまう。アベルの一連の様子で何かを察してしまっているのだろう。言葉にせずとも大体を理解してしまう二人の様子はもはや熟年夫婦のそれに近いものがあった。


 扉に向かってたはずの彼は進行方向を変えるとラケルの方に向かう。そして彼女のベットの傍らにしゃがみ込むと彼女の髪の毛をそっと撫でた。


「……行ってきます。元気でね」


 彼女の感触を確かめ、別れの言葉を小さく吐いたアベルは扉から病室を後にし、そのまま病院を後にした。


 アベルは半壊している建物を横目に、月明かりに見守られながら寝静まった町を進む。改めて半壊した町を確かめるようにしばらく町中を進むと、辿り着いたのは一度訪れたことのある一軒家。かつてロバートとリュティエルが共に暮らしていた家であった。ここも魔獣の被害に巻き込まれ、外壁と屋根の一部が壊れてしまっている。


 家としての機能を半分失った建物に足を踏み入れるアベル。するとそこには見覚えのある少女が膝を抱えて座っていた。


「……起きてるか?」


 アベルが声を上げると、俯いてみることのできなかった顔が明らかになる。目を真っ赤に泣き腫らし、頬に涙痕をくっきりと残したリュティエル。彼女はアベルに気が付くと、頬を拭った。


「起きてたみたいでよかった。ほれ、食わないと身体が持たないぞ」


 彼女が起きていることを確認したアベルは依然行ったようにサンドイッチと飲み物を手渡す。今回は素直にサンドイッチを受け取ったリュティエルはそれをもそもそと口に運び始めた。


 その間に彼女の隣に陣取ったアベルは、しばらく黙って彼女の隣に座っていたがしばらくして口を開いた。


「お前の親父さんの遺体は町長が丁重に供養するそうだ。町の被害を最小限にするために身体を張って立ち向かった英雄として」


 それを聞いてリュティエルは何も言わない。アベルはさらに言葉を続ける。


「それより、最後の最後、ちゃんと言えてよかったな。俺の時とは大違いだな」


 自虐をおどけたような口調で発するアベル。いったいこれにどのように反応すればいいのだろうか。ようやく口を開く気になったのに言葉に困るリュティエルが考えているとアベルが真剣な声色になって次の言葉を紡いだ。


「……どうだった?」


 アベルの問いを噛みしめるように考え始めるリュティエル。その間、二人の間に静寂が流れる。そしてしばしの時間が経ち、気持ちの整理がついたリュティエルが、気持ちを吐露し始める。


「……悔しかった」


 アベルは聞き役に徹するため、彼女の言葉に耳を傾けるだけで何も言葉を発さない。続けてリュティエルは言葉を紡ぐ。


「あの男を見たとき、確実に殺されるって思って私は震えることしかできなかったから……。あそこで何かすることが選べたら間に合ったかもしれないのに。口だけでまともに行動できないんだって実感させられて、悔しかったしすっごい自分にムカついた……」


「……そっか」


 アベルは一言だけ、短く相槌を返す。


「………………ねえ」


「どうした?」


 たっぷりと時間をとって結論を出したリュティエル。アベルは彼女の声に慈愛の籠った声をもって答える。その声にリュティエルは意を決し声を上げた。


「あんたって強いのよね?」


「まあたぶんそれなりには」


「だったら私を強くして。戦えるようにしてほしいの」


「なんで?」


「……私やアンタみたいな思いするのは、もう私だけでいい。少なくとも身近な人間がそんな思いしなくていいようにしたいから」


「戦いに身を投じるってことは今日みたいなことがたくさん起こる。何が起こったのかわからないまま焼き殺されたり、魔獣に食い殺されることだってある。お前、それでも戦おうって思える覚悟があるか?」


 アベルは脅すようにしてリュティエルに覚悟を問いかける。だが、リュティエルは自信満々にフンと鼻を鳴らすと彼の問いかけに答える。


「物心つく前から殺し合いに関わらされてるのよ。そんなのいまさらよ。それに……、お父さんみたいに戦えない人を守れるような人間になれるんだったら怖くても戦う気になれるわ」


 リュティエルの覚悟の籠った声を聴き、納得したアベルは首を縦に振り了承する。


「わかった。お前のことを鍛えてやる」


 アベルの言葉を聞き、リュティエルは笑みを浮かべる。しかし、今日、この瞬間から特訓をするわけにはいかない。まずは落ち着いて身体を休める必要がある。


「とりあえず今日のところは休め。きっと明日からは忙しくなるからな」 


 アベルはリュティエルに休むように促すと立ち上がり、家の外に出て行ってしまった。声をかけ引き留めようかとも思ったリュティエルであったが、彼の背中になぜか圧倒されてしまい声をかけることができず、去っていく背中を見送ったのだった。


 残されたリュティエルは重い腰を上げ、家に置いてあるベットに籠って眠ろうとした。しかし、なぜか眠れない。気分が昂って身体がおかしくなっているのだろうか。


 いくらかベットの中で眠れない原因を考えるリュティエル。しばらく考えたところで結論を出した彼女はベットから起き上がり家の外に出ていった。
































 患者で一杯の病室。その一室、ラケルが眠っている病室の扉が音を立てずに静かに開く。月明りに照らされ明らかになった張本人の顔はリュティエルのものであった。


 病室の中をぐるりと見まわしアベルがいないことにちょっとだけ、残念そうな表情をした彼女。しかし、今回ここを訪れたのは彼が目的ではない。決してそうではないのだ。


 病室の扉を開けた彼女は足を踏み入れるとラケルの眠るベットのそばに近づいていく。そしてわざとらしく彼女のベットのそばにしゃがみ込んだ。


「んぅ……? アベルさん……?」


 隣に留まる気配にアベルが帰ってきたのだろうかと目を覚ましたラケル。しかし、寝ぼけ眼でベットの隣を見るとそこにいるのはアベルではなくリュティエル。


「あれ、リュティエルちゃん……? どうしたの……?」


 アベルじゃなかったことで少々の動揺を見せるラケルであったが、知り合いだったことで動揺はすぐに収まる。どうした彼女がここにいるのか、その疑問を問いかける。すると彼女は羞恥心で尻つぼみになりながらも言葉を紡いだ。


「……ちょっと眠れなくて」


 彼女の表情などから彼女が何を求めているのかを寝ぼけた思考で理解したラケルはベットの上の身体を少しずらし空間を作ると、毛布を持ち上げた。


「はい、どうぞ」


 毛布を持ち上げた場所には、人一人が寝転がれるスペースが空いている。リュティエルはその空間に恐る恐るであるが、寝転がった。


 彼女が入ったことを確認したラケルは毛布を下ろすと、彼女の頭を軽く抱くと再び眠り始めた。人肌の温もりがより快適さを増したのか、より深い眠りに落ちていく。


 一方で最初は不安で縮こまっていたリュティエルであったが、ラケルの温かさで徐々にほぐれていくように身体の強張りを弛めていく。今まで意識したことはなかったが人肌というものはここまで心を落ち着かせるのか、と彼女は驚きと感激を覚えていた。


 しかし、そんな思考も長くは続かない。緊張のほぐれた彼女に積み重なっていた疲れがどっと押し寄せる。それに耐えられるほどの気力もなかったリュティエルはそのまま眠りに落ちていくのだった。





























 リュティエルの前から立ち去ったアベル。しかし、彼は病院には戻らず町の出口に向かって歩いていた。一度立ち止まり、月明りを見上げる。


 彼は今回のライーユの町の一件、もっと言えばここに辿り着くまでの道のりではっきりと理解したことがあった。それは自分の対人戦闘能力の低さである。 


 魔獣を相手にするのであれば力押しでどうにかなることが多い。現に戦闘のせのじも知らない最初のころですら魔獣を倒せていたのだからそれは顕著だろう。


 しかし相手が人となると話は全く異なる。人が相手になると力押しではどうにもならないことが多い。駆け引きや技術が必要不可欠である。まだ神装の力を発揮することのできていないアベルであればなおさらである。


 ラスターに惨敗を喫しただけでなく、クォスにまで敗北を喫した。これが今のアベルの対人戦闘能力を如実に示している。これを改善しなければこれから世界に牙を剥いてくるであろうラスターには確実に対抗できない。


「もっと……、力を付けないとな」


 彼一人だったらどうにでもできる生来の頑丈さと本能的な戦闘スタイルで逃げるなどの判断を下せる。しかし、彼にはラケルという守らなければいけない存在がいる。もう目の前で焼き殺されてしまうなどうんざりである。


 アベルはグッと拳を握りながら虚空に向かって呟いた。名残惜しそうに振り返り病院のほうを見つめたアベルであったが、振り返り再び出口の方を向くと再び歩き始め町を後にするのであった。





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