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第5-22話 クリーニング・アップ・ビギン

「何が起こったんだ……」 


 ライーユの町に辿り着いたサリバンは、目の前に広がっているライーユの町だったものを見て絶句する。


 彼らがスートの町で出発の準備をし、さあ出発だというタイミングでラスターの初手火球攻撃が炸裂し爆音が周囲に鳴り響いた。その音はそれなりに距離が開いているはずのスートの町まで届いており、町の人々を驚かせた。


 サリバンたちも例にもれず驚きで狼狽気味であったが、地面を揺るがすほどの爆音と何も無いはずの空中から不自然に上がる煙でライーユに何かが起こったことを察し、全速力でライーユの町に辿り着いたのだった。


 しかし、彼らがたどり着いた時にはすべての事が終わってしまっていた。こんな惨状を前にして、何もできなかったことに歯痒い思いをする彼ら。


 だが、またすべてが終わったわけではない。怪我人の治療など彼らが出来ることは残っている。そのことを自覚し彼らは動き始める。


 散らばって町の人々の手助けを始めるサリバンたちのパーティ。それと同時にサリバンはこの街を目指した本来の目的も達するべく走り始める。


 しばらく走って目的の人物を見つけたサリバン。彼を見つけたのはこの惨劇で命を落としてしまった人々の死体が安置されている建物、その隅に彼は座っていた。


「アベル!」


 サリバンが声を上げるとアベルがその声に反応しそちらに視線を向ける。その先にサリバンの姿を見つけると彼は立ち上がり彼の下へ駆け寄っていく。


「久しぶり。というかずいぶんな偶然だな?」


「マーブルの町でお前の姿を見かけてな。風の噂でこの街に来ることが分かったから、暇だったし久しぶりに顔でも合わせようと思って追いかけたんだ。まさか一月近く逃げ回られることになるとは思わなかったけどな」


 サリバンはこの街にやってきた理由を話す。見知った顔を見て気持ちが緩んだアベルは呆れたような笑いを零しながら頬を弛めた。


「なんだよそれ。随分変なことしてたんだな」


「なんか大変だったらしいな。大量に回復薬を買いこむくらいだからな」


「まあな。いろいろと迷惑をかけてるよ」


 サリバンの口ぶりでなんとなくの状況を知っていると判断したアベルは、彼が知っている前提で会話を進めていく。場にそぐわない緊張感の無い会話を繰り広げる二人。しかし、そんな時間を長く続ける気は二人にはない。


 どこか抜けたような口調で会話をしていた二人だったが、二人が同時に黙り込んだタイミングで場の空気が引き締まり、会話の内容が切り替わる。


「それより一体この街で何があったんだ?」


「ああ、ほんとに一瞬の出来事だった……」


 アベルはこの街を襲った悲劇とその首謀者について説明し始める。すると、首謀者の名前を聞いた途端にサリバンが驚きの表情を見せる。


「ラスター・マグドミレアだと……。ここにきてとんでもない人間の名前が出てきたな……」


「俺も聞いた時、なんか聞き覚えがある気がしたんだけど、ハッキリとは思い出せないんだよな……。誰だっけか?」


「魔技の技術を百年は先に進めたと言われる大天才だ。魔獣を使役するための調教技術の開発なんかも有名だな。十五年くらい前にいきなり失踪したって話だったはずなんだが……」


 サリバンの説明を聞いてアベルはあることを思い出す。以前、カルミリアと王都を目指して進んでいた時に使役されていた魔獣の話を聞かせてもらったときに聞いた弱冠十二歳の天才少年。それがラスター・マグドミレアなのだろう。


「それに神装使いとしても有名だったから、失踪したときには相当話題になったらしい。どうやら普通に生きてるみたいだが」


「ああ、無詠唱で大量の火の玉を出したかと思えば、戦闘技術も卓越してた。あのレベルの攻撃が小手調べだと思うとヤバいかもしれないな……」


 ラスターのことを思い返したアベルは、全身に鳥肌を立てると身体を大きく震わせた。実際に戦った彼は、ラスターの人間の限界を超えたのではないかという実力をまざまざと見せつけられている。故に自分と彼の実力の差を明確に理解している。今の彼では天地がひっくり返ってその上、裏返っても不可能だろう。


「だが、今回なんでこんなことを? それほど人物だったらこんなことをしなくてもどうにかできそうなものだけど」


「なんかよくわからんけど、泉の水が欲しかったみたいだ。今じゃ泉が空になっちまった」


 いきなり現れて町をめちゃくちゃにした人物に一矢報いることすらできなかったことを思い出し、拳を強く握るアベル。しばらく情報交換を進めていたアベルたちであったが、そんな彼らのもとに町長であるミランダが姿を現す。


「やれやれ。まさかこの街にそんな大物が来ていたとはね」


「ミランダさん!? 俺たちの話聞いてたんですか?」


「別に盗み聞ぎするつもりはなかったのよ。けど立ってたら聞こえちゃってね」


 謝罪をしながら薄く笑みを浮かべるミランダ。しかし、彼女の笑みには影があった。自分同然の町がここまで派手に破壊されてしまったことで少なからず消耗しているのだろう。


 アベルは今まで考えていたことを疑問として投げかける。

 

「……これからこの街はどうなるんですか?」


 するとミランダはその問いに答えた。

 

「しばらくは復興で手いっぱいになっちゃうでしょうね。その後は少し泉の水を保存しておいたから規模を縮小しての運営になるわね……。今まで通りに運営できるようになるのはいつになるやら。頭が痛いわね」


 顎に手を当て溜息を吐くミランダ。


「私はそろそろ行くわね。こんなことになって怪我人がたくさん。医者として休む暇がないわ」


「お気をつけて。お身体に気を付けてください」


 二人の下を去っていったミランダにねぎらいの言葉をかけながら見送ったアベル。彼は再びサリバンのほうに意識を向ける。


「これからどうするんだ?」


「色々解決した後は、ちょっと用が出来たからこの町を離れる。向こうがどう出てくるか、俺一人じゃわからないしな」


「そっか。俺はそろそろ他の奴らと合流していろいろと手伝ってくる。少しは冒険者らしいことしないとな」


 そういうとサリバンもアベルの前から去っていく。残されたアベル。今度は彼のもとにラケルが姿を現す。


「アベルさん!」


「ラケルちゃん。リュティエルは?」


「今はそっとして置いてほしい、って自分の家に」


 魔獣を殺して少し経った後、町に戻ってきたラケルと合流したアベル。しかし、再会を喜ぶ暇もなくリュティエルは死体から目を逸らすかのようにその場から駆け出し去っていってしまった。


 同性のほうがやりやすいと判断したアベルは、ラケルにその後を追ってもらうように頼み、彼本人はロバートの遺体を即席で作られた安置所に移動させていた。


 それが功を奏したかしないかは本人のみぞ知るだが、アベル的にはいろいろと考える時間を得ることが出来た。そのおかげでいろいろと今後どうするかを決められた。


「とりあえず後で俺があの子のところに行っておくよ」


「わかりました。あとなんですけど……」


「ん? どしたの?」


 アベルが彼女の声に聞き返すと、ラケルは自分のカバンからからアイリースにもらった液体の瓶を取り出す。


「あの仮面の人にもらったんですけど……」


「あいつが持ってた液体……。まさか……。試してみるか……?」


 するとアベルは左手の人差し指を右手で握る。そして


「フンッ! ンンッ!?」


 人差し指をへし折った。一瞬痛みで表情を浮かべるが、すぐに元に戻した。


「ちょっと!? 何やってるんですか!」


 いきなりの奇行にラケルが驚きの声を上げるが、アベルは聞く耳を持たずにラケルの手から液体を取ると、その中の液体に自分の指を付けた。


 するとどうだろうか。九十度、曲がらない方向にへし折れてしまっていた彼の指は三秒と経たずに元の形に戻り、折れたときに青黒くなった肌色は元の色に戻る。


「やっぱりか……」


「ええっ!? なんですかこの液体!?」


 大体推測のついていたアベルはやはりと声を漏らし、初めてその効能を目の当たりにするラケルは驚きの声を上げる。彼女の疑問を解決するためにアベルは液体から指を抜きながら説明する。


「あいつがラケルちゃんたちの怪我を治すときに使った液体だよ。これがなかったらラケルちゃんたち死んでたよ。多分だけど泉の水のさらに効能が強い液体なんじゃないかな。それも相当ね」


「そうなんですか……」


 アベルの説明を聞き、納得した様子を見せたラケル。彼女は少し考え込むような素振りを見せるとアベルのほうを見た。彼女の瞳の奥を見て、何を考えているかがある程度わかったアベル。


「アベルさん。これ……」


「多分ね、ラケルちゃん俺と同じこと考えてると思うよ。当ててみようか?」


「やっぱりそうですよね!」


「それじゃあ行こうか」


 そういうとアベルたち二人は歩き始める。彼らが辿りついたのは滞在しており、ミランダも働いていた病院であった。


 人々の間を縫いながら、病院内を歩き回り目的の人物を見つけたアベルは彼女に声をかける。


「ミランダさん」


「ん? どうしたのかしら? 今すごく忙しいから怪我人じゃない人に構っている暇はないんだけど?」


「いえ、今のうちに渡しておきたいものがありまして」


 そういうとアベルは鞘から先ほどの瓶を取り出す。彼女の前に差し出すと彼女は第六感で何かを感じたのか、興味深そうにそれを見つめた。


「おそらくですが、この町の泉の水と同じ成分でより濃いものです。町の復興に使ってもらえればと……」


「なんですって!?」


 ミランダはアベルの手から奪い取るように瓶を受け取ると、病院の廊下を歩き始める。アベルのその後についていき、病院の一室に入る。するとそこには血まみれの包帯に包まれた男性がおり、そのそばで女性がベットに顔を突っ伏して泣いていた。


 入って言ったミランダは携帯している医療セットの中からガラスの棒を取り出すと液体に突っ込み持ち上げる。そして表面張力でガラス棒に留まっていた液体を一滴垂らした。


 するとどうだろうか。荒い呼吸をしていた男の呼吸が急激に落ち着き、包帯の隙間から見えていた傷から流れていた血が止まっていく。


 重く閉ざしていた男の瞼が持ち上がるのを見た女性は、感情を爆発させ男に抱きつい喜びの声を上げた。男の経過を見届けたミランダはアベルたちの下に戻ってくる。


「どうやら君の言うことは本当みたいね。あの患者、あと一時間も持たないだろうと思っていたんだけど、君のこれのおかげで危機を脱したみたい」


 信じられたことでほっと息をつく二人。


「だけど君たち、こんなものをいったいどこで? いえ、出所はこの際どこでもいいわ。それ以上に、こんな貴重な物、受け取っていいのかしら? 今の私たちにこれに釣り合うものは出せないわよ?」


 しかし、こんな貴重な物をただで渡すがないと疑っているミランダは、疑いと申し訳なさの混じった視線を向けながらアベルたちに問いかける。


「いいんです。俺たち二人で持ってるよりもそっちの方が有意義でしょう。俺たちが使う分には多すぎます。あんなに強い効果があるならほんのちょっと持っていれば十分です。だから使ってください」


 だが、アベルに裏などない。ほんの少し、必要な分は他の瓶に移して鞘の中で管理している。それ以上持つのは明らかに過剰であった。


 裏の無いアベルの目を見て彼が嘘をついていないことをはっきりと理解したミランダは深々と頭を下げると感謝の気持ちをアベルに伝える。


「だったらこれは受け取らせていただきます。この町の町長として最上の感謝を。この御恩はこの町に対するものとして永遠に語り継がせていただきます。本当にどうもありがとう」


 彼女の感謝を受け取ったアベルは、頭を下げると病院を後にする。


 病院を出たところでラケルが声を上げた。


「本当に渡してよかったんですか?」


「いいのいいの。俺たちには魔技があるし、あの量は本当に過剰だったからね。この町の風呂用に使ってもらった方が有意義だよ」


 ラケルの疑問にアベルは応える。ラケルは彼の返答を聞いて納得したが、アベルはさらに続けて声を上げる。


「それに…………。もう二度とあんなことにさせないしね」


 一気に声色が落ち込み、最早殺気すら感じられるアベルの声を受け、ラケルは押しつぶされそうな重圧を感じ、身体を小さく震わせた。今までの関係を考えると、その殺気がこちらに向くことが無いとわかっているのに、彼の言葉に恐怖せざるを得なかったのだ。


「さてと。そういえば今、この町にサリバンたちに来てるんだよ。ラケルちゃんは誰かと会った?」


「えっ、そうなんですか!?」


「あー! ラケルちゃんたちだ!」


 ラケルが驚きの声を上げると彼女の名前が叫ばれる。声のほうに視線を向けるとナリスが二人のことを指さしながら声を上げていた。


 久しぶりの友人との再会だが、大っぴらに喜べるような状況ではない。控えめに再会を喜ぶと、早くこの町が復興するよう、彼らは町の復興の手伝いに尽力するのであった。




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