茨姫
梅吉達が白雪の後を付け、すったもんだ、ああだこうだしてる頃、結女子はもといた会社の先輩の千歳先輩と飲み屋にいた。
お腹の子は大丈夫なのか心配になったが、千歳が大丈夫だと言うので、大丈夫だという事になった。
「お腹の子が通常の子が、異常があるのか分かるまでに三か月かかるんだって。もし、何かあったら下さないと。」
相変らず落ち込んだ表情で千歳が言う。
「でも、旦那さんお忙しいって、言ってたのに、お子さんが出来て良かったですね。お休みも中々会わないってぼやかれてたのに…。」
「うん「出来たの!?」って、心底驚いてた。」
「…あははは」
いまいち千歳のとこの夫婦感がわからないので、何を言って良いか分からない結女子。
「それでさぁ、うちの旦那ったら、相変らず炊事も洗濯もやらないわけ、それで家賃私と半々で払ってるんだけど、可笑しくない。」
「以前、見させて頂いたお写真では、仲良くハートマークつくられていましたけどね。」
そう、結女子が新居に招待された時、分かりやすいカップル写真が目に付きやすい場所に置いてあった。
「今、旦那がやってる店だって、私が物件見つけてあげたんだよ?感謝が無いよね。」
「ははは、」
「それでさ、気晴らしに前に住んでたとこの『ファンファン』に飲みに行ったの、」
「ああ、以前私も連れてってもらいましたよね。」
「でね、その時お会計時に何か変だなって思ったら1000円多く取られててさ!」
「へぇ、打ち間違えじゃないですか?オーナーさん真面目な方だし…」
「聞いたら「チャージ代です」って言われたの!何時もそんなの取らないのにさ!」
「へぇ…」
そんな事をするオーナーでは無かったと結女子は記憶している。
2,3回しかあった事が無いが、何か理由があったのでは無いかと思う。
「それを、一緒にいたまゆみちゃんにいったらさ…」
まゆみさんは千歳さんが単身の頃ご近所に住んでいたお友達で、『ファンファン』の常連である。
結女子とも飲みの席で面識があった。
「まゆみちゃんは「わたしはチャージ代取られても行く」って言うんだよ!」
「はぁ」
「だいたいまゆみちゃんもさ、太り過ぎだよね!」
「そんなお給料良いわけじゃないのにさ、しょっちゅう『ファンファン』で飲んでて、親に仕送りしてもらってるらしいよ!もう、独り立ちした社会人なのにさ!」
「……はぁ、」
「「ちょっと太り過ぎだし、もっと節約したら」って、いったらイライラしてた!心配してんのに!」
「私何か、後輩に誕生日プレゼント買うために、毎日カップめんで過ごしたりしたんだよ?」
「…。」
結女子はまゆみの柔らかい人柄が好きなので、彼女の悪口に同意したくなく、口を噤んだ。
「この前も、私の優待券で三ツ星レストランに飲みに行けたのにさ、「5000円も取られた」って、言ってんの!「5000円で済んだ」でしょ?」
「忙しいと、細かい事に気が行き届かなくなるのかも知れませんね。」
千歳先輩はむすっと不貞腐れた顔でジュースを飲み干した。
「お腹の子が通常の子か、以上があるのか分かるまでに三か月かかるんだって。もし、何かあったら下さないと。」
(また、同じ事言ってる。)
結女子は何だか、千歳が「おろさなきゃ」という度に、梅吉の言う『言霊のトゲ』が千歳のお腹の子に、何度も何度も突き刺さってるような、感覚を受けた。
自分は結婚も妊娠もこの歳でまだした事が無いという引け目があるので、積極的に自発的な意見は言えないが、言葉に出来ない違和感を強く感じていた。
この違和感は千歳の妊娠のストレスによる、一時的なモノだろうか?
いや、思い起こせは結女子の記憶の中で、千歳は何時もイライラしていた。
それでも、たまに気前よく奢ってくれるものだから、結女子も気を許したのだ。
この人も、根は悪い人では無いからと。
しかし、今日は何だか、酷く自分の気力を蝕まれる気持ちで辛い。
思いはいっぱい駆け巡るのに、口は一文字になって、無意識に強く噛みしめていた。
それからその後も、ファミレスに連れてれ、延々と愚痴に付き合わされる結女子だった。
彼女の愚痴の大半の内容は数年前から変わらない。
それを、延々とループして聞かされるのだ。
「…千歳先輩って、いっつも同じ話しばかりされますよね?」
結女子は正面の千歳から顔を背け、髪をかきあげながら言った。
何時もの優しい結女子なら、こんな事は言わなかった。
(いや、違う。ずっと自分の意見を言って傷つくのが恐かったんだ。)
「何度も同じ話を聞く事で、新しく分かる事だってあるでしょ!?」
いきり立った千歳が叫んだ。
お店の中の全員がこちらを見てた気がしたが、それを見返す勇気は結女子には無かった。
「相変らず、我慢出来ない性格だよね?まだ、新しい仕事も見つけて無いんでしょ?」
「帰ります。」
結女子は財布から適当に数枚のお札を出して席を立った。
(私が悪いんだろうか、社会とはこういうモノなんだろうか、だったら私何て微塵も幸せになれる自信がない。この世界で、この社会で生きてける気がしない。)
「…死にたい。」
ぽつりと目下の空気に向って呟いた。
一端時間を遡り、場所は病院に戻る。
梅吉達が白雪の後を付け、すったもんだ、ああだこうだしてる頃、クマは病院内のコピー機で、ある用紙を印刷していた。
そして、その用紙を確認すると、それを手に武仁の母の病室に向った。
クマは失礼しますと、声をかけてから武仁の母の病室に入ると、相手の状況も鑑みず、ずんずんべっとの横まで進み出て行った。
「これは、二度と直接二人きりで颯斗とは会わないという契約証です。」
武仁の母のいるベットにクマはそれを置いた。
布団越しに膝に置かれた用紙を、武仁の母は睨み付ける。
「どうして、赤の他人のあなたに介入されないといけないんですか?あなたには関係ないでしょ?」
武仁の母は紙を突っぱね、それを床に落とした。
クマが紙を拾い、また手に取る。
「…アイツの子を下したというのは、本当の事ですか?それとも気を引くための嘘ですか?」
「ホントに出来てたのよ!」
烈火の如く怒って、武仁の母が叫んだ。
「もう、何なのよ!失礼ね!親の教育が悪いから、そんな風に育つんでしょ!どうすれば、年上に向ってそんな口聞けるの?」
「…。」
思う事はある。言い返そうと思えば言い返せるが、クマはそれをしなかった。
礼儀を持たない人間が、他人に失礼な事をいったのとして、何ら不思議はないからだ。
腹の中では、折角見舞いに来た息子の武仁にさへ、暴言を振りかざすこの女に、心底腸が煮えくりかえっていたが、この女に自他の命への敬意を、一から教えてやる程、自分は良い人間で無いと自覚していた。
そんな事を喋り出したら、話しが脱線してしまうし、こういう人間は言い訳を始めるとガンになり、絶対的に自分の正当性を主張して、無駄に時間を浪費してしまう。
こういう類の人間は同じ愚痴を何度も何度もして、3時間も4時間も人の時間を奪っておいて、決して反省しようとはしない。
クマは三十路は既に過ぎている。
功労者達はまだ短いという、その人生の中でクマが学んだことは、誰に対しても寛容で、優しくある事は、真摯に生きている人にすべきものであって、何時までもすねたりごねたりすることで、構ってもらえると思ってる阿保にする行為では無い。
「あなた、スポーツセンターで見たことあるは!立場が変わるだけで、がらりと態度が変わるのね!そうやって人によって態度をかえるわけ?」
スポーツセンターと言うのは、クマの仕事場の事だ。クマはそこでトレーナーとして、働いている。
スポーツセンターでクマの後輩の先原颯斗と、武仁の母は出会い不倫関係になった。
颯斗にスポーツセンターでのトレーナーの仕事を紹介したのはクマだった。
なので責任の一端のようなモノを感じて出向いて来たのだが、相手の話しの脈絡の無さに、腹立たしさが加速し、少し後悔の念が生れる。
クマは口を一文字に結んだまま、決して自分の心を言葉にしようとはしないが、心底我慢をしていた。
しかしクマはただ立っていた。
相手が黙るのを待っていた。
言葉を言い返すより、自分の正当性を言葉にするより、その方が効力があると分かっているからだ。
「このデカいだけのデブが!」
これはちょっとカチンと来た。眉を寄せると、肩を飛び上がらせて武仁の母が怯えた。
「恐いわ、人殺せんじゃないの、ふふふ」
誰もいないのに、誰かに告げ口するように、ベットの布地に向って、膝を倒して話しかけている。
「…。」
(俺はデブではない。毎日鍛えてるし…。)
クマは心の中で、自分に言い聞かせていた。
クマは大柄で確かに脂肪もついてるが、その下には確かな筋力を思わせる、真っ直ぐな芯がある。
本人も、日々規則正しく凄し、身体を動かしている為、その事を理解していた。
だからこそ立ち姿に厳かさが現れるのだが、それが何なのか、どうしてなのか日々堕情に生きているモノには、おののくほど恐ろしく感じるだろう。
「サインを下さい。」
クマはもう一度、契約書の紙を、ベットの上に置いた。
次の瞬間、武仁の母は呼び鈴ブザーを押そうとした。
しかし、それを大きく伸びて来たクマの手で遮られてしまう。
ぶつん!
という、鈍く、短い音を立て、呼び鈴の線が切れた。
武仁の母は、クマに背を向けたまま震え出した。
「わあああああああ!私だけが、悪いんじゃないのにいいいいいい!」
クマは無言だった。
可哀想にとか、大変でしたねとか、そういう類の言葉を絶対にかけてたまるものかと、ガンにその場に立っていた。
そうこう、して一時間半過ぎて、クマは無事に武仁の母からサインを貰う事が出来た。
「では、」
と、言ってクマが武仁の母の病室を出る頃には、武仁の母はもうすっかり白けた顔をして、そっぽを向いて白けた顔をしていた。
病室を出る際、唖然とした顔の看護婦二人と目が合ったが、ただ会釈だけしてその場を去った。
クマは暗く暮れた場所を一人歩き、駐車場に向った。
先刻、賑やかに大勢でこのワゴン車に乗っていたというのに、一人で乗るワゴン車はだだっ広く、ドアを開いた時の薄暗さが、クマの中の孤独を軽く突いた。
「早く帰ろう。」
無口なクマが独り言を暗闇を見つめたまま、零した。
クマが大梅街道を真っ直ぐ運転をしていると、歩道側に一人のひょろ長い人の影が目に付いた。
通り過ぎ際、窓からその顔をちらりと盗み見る。
結女子だった。
クマは車を横断歩道の手前で止めると、窓を開け、顔を出して振り向いた。
「どうした?」
もともとやせ形の結女子が、普段よりやつれた顔をしているのを見て、クマは言った。
結女子は突然クマが現れた事に、顔を立てに広げて驚くも、次には苦笑いしてただその場に立っていた。
クマは結女子を車に乗るように促すと、また車を走らせた。
結女子は千歳と会って話したことを、辻褄なく、延々と延々と、女子席で話していた。
クマはただ、乏しい表情で、それらの話しを聞き流していた。
時たま愚痴を挟んでは、その度に口を結び、結女子は見えない何かと葛藤していた。
結女子は先輩の愚痴に付き合わされて大変だった話しはするものの、「おろす」という単語は口にしないようにした。
何だかその言葉を口にしてしまえば、身近にいる自分より小さな命を、梅吉やその友人たちを軽んじているような思いになったからだ。
七村橋の高速道路まで差し掛かった時、結女子が高速道路の上の看板の表示に、『美人木まだあと20分』と表示されてるのを見て、ふふふと笑った。
赤信号で車を停車させていたクマがそれに気が付き、結女子の方を見る。
「このまま、あの高速道路に車を走らせて、20分経ったら、美人になれるんですかね?」
「もう、なってるよ」
間。
嘘偽りを言う人では無いクマの人柄を、まだ出会って一か月も経ってない結女子も理解していた。
結女子は指をさしたまま、固まる。
クマも固まっていたが、信号が赤から青になったので、顔を正面に戻して運転を再会する他無かった。
クマは車を家に向わせずに、七村橋の高速道路に入っていった。
結女子はそれについて、特に何も突っ込まなかった。
「…クマさんは、病院で何をされていたんですか?梅吉君達は、どうしたんですか?」
少し落ち着きなく結女子が喋りだした。
まくしたてて喋るのを押さえる為に、おどおどした手を、宙でバタバタさせ、挙動不審気味になっている。
クマは考えた。ハンドルを握ったまま、言葉を探す。
結女子になら話しても、大丈夫だろうと思えた。
クマは国道に車を走らせながら、結女子にぽつりぽつりと、武仁の母との話しをした。
聞き終わって、結女子が顔を下げたまま言った。
「どうして、クマさんがそんな事しなきゃいけないんですか?クマさんには関係ないじゃ無いですか?」
「颯斗今の会社に入れたのは俺なんだ。」
「…そうですか。」
結女子はしょんぼり更に俯いた。
俯いて前方に頭をぶつけた。
「ふっ」
クマが結女子のドジに笑った。
結女子は顔を上げ、恨めし気にその顔を見る。
「クマさん、お腹空きました。」
「そうだな、何か食べに行こう。」
本当は、飲んできた後なので、全然空いてなかったが、結女子は小さな嘘をついた。
「あ、梅吉君に連絡しました。」
「あ。」
「連絡入れて置きますね。」
「え?何?結女子クマと一緒なの?やっらしーーー!!」
ふーーーーーーーー!と、言いなが、梅吉は携帯片手にふざけて飛び回った。
「…。」
「ごめんなさい」
結女子の無言の圧に、愛嬌たっぷりの声で梅吉が自発的に謝罪した。
謝罪したと言うには、いささか声音が明るいが。
「そう言えば、タケが泊まるって言うの忘れた。」
武仁は自分の家で荷物を取って来てから、また梅吉の家に来ていた。
クマに了承を得るのを忘れたが、今連絡を入れない方が良いだろう。
「…おれって、出来る男だよな。」
スマホ片手に感慨深く梅吉が呟いた。
「…。何一人でにやにやしてんの?」
お風呂から上がった武仁が怪訝な顔で、浮ついた様子の梅吉を見た。
また一緒にお風呂に入ろうと、武仁を誘った梅吉だったが、丁重にお断りされたのだ。
しかし、今はそんな寂しさもどこへやら、にへらにへら笑って、腕をじたばたさせている。
「今日、お母さんも、お父さんも…帰り遅いみたいなの…。武仁ど・う・す・る?」
「気持ち悪いから、しなつくんな。」
目の座った武仁が、梅吉のワザとらしい演技に苦々しい顔をした。
「いや、でも…」
武仁が目を逸らして何か考え込んだ。
「え!何だよ!」
「泊めてくれて、ありがとうな…。」
手を顎に付きながら遠慮がちに武仁が微笑んだ。
その笑顔に、目を点にして立ち尽す梅吉は何も答えられなかった。
その夜梅吉と武仁はリビングにシーツをしいてネタ。
武仁はソファで、梅吉は床で。
0時を過ぎても、クマと結女子は帰ってこなかった。
梅吉は今日は何だか色んな事があったので、寝付けずにいたし、敢えて寝ないようにもしていた。
真っ暗なリビングの中、そっと立ち上がる梅吉。
そっと立ち上がると、眠った武仁のソファに手をつき、屈んで、暗闇の中、その顔を覗いた。
武仁がぐっすり眠っているのを確認すると、梅吉はパジャマのボタンを一個一個外していった。
そこには、細かな言霊のトゲが刺さっていた。
夕刻、武仁の母が、武仁に発したものだ。
(自分の子どもだからって、失礼な事を言っていいわけじゃ無いのに。)
親子だから仕方ないと思うには、余りにも刺々しいそれを、梅吉はほっとく事が出来なかった。
このままだと、武仁の皮膚に徐々に吸収されていって、武仁の免疫力を急激に損なうだろう。
武仁の身体は、背は高いが、白く、脂肪も無いが、筋肉も無い。
そんな未熟な身体で、日々痛々しい現実に寄り添いながら、日常を過ごしていたのかと思うと、梅吉はやり切れない気持ちになった。
梅吉はそっと、武仁の右顎に手を添え、トゲの刺さった額に唇を落とした。
思ったより、トゲの先がしっかり根付いていて、吸い上げる唇が力む。
梅吉は何とか、トゲをごくりと咽喉元まで飲み込んだ。
顔を上げ、武仁の顔を凝視するが、起きる気配は無い。
(ぐっすり寝てる。大丈夫そうだな。)
一心にトゲを受けた武仁の肌に、一か所、一か所、梅吉が唇を落とし、トゲを吸い取っていった。
耳たぶの裏に、咽喉元に、右の鎖骨に、右胸に、鳩尾に、当たりに。
そっと、触れるか触れないかの幅で唇を落とし、トゲを吸い取っていく。
武仁は少しの身もだえをするものの、今日の事で相当疲れているのか、目覚める事はなかった。
梅吉が、パジャマのズボンにゆるく手をかけ、へその下辺に唇を落とし、トゲを吸い上げた頃には、武仁の寝顔は穏やかなものになり、目元が緩んでいた。
穏やかな寝息をたて、ぐっすり気持ちよさそうに眠っている。
梅吉は暗闇の中、武仁の寝息が緩やかな呼吸になったのを確認すると、ほっと胸を撫で下ろし、自分も床にしいた布団に再び寝始めたのだった。
梅吉は布団の中で、自分の腹の中にちくちくした棘があるのを感じ取りながら、考え事をしだした。
考え事をしだしたというよりは、色々な考えが情報が、言葉が、頭の中をぐるぐる勝手に周り出して、自分では止めようの無い状態だった。
我慢強い事は美徳だろうか?
もしかしたら、クマや武仁の持ってる様な忍耐強さと、我慢は別のモノ何じゃないのか?
武仁みたいに、耐えても、耐えても、その忍耐を賞賛されるわけでも無く、気力をかられ続けるだけなら、どうすれば、どうすれば良かったのか?
他人に我慢が足りないという人は、我慢が出来ている人なのか?
我慢する事そのモノに意味はないんじゃないか?
自分の信念を守る為に、忍耐が必要なだけで、他人に利用されて、他人に強要されて良いものなのか?
だとすれば、何処から何処までが強要の範囲なのか?
そんな事を悩んで生きてるうちに、きっと若さ何て費えてしまう。
そうして、諦めて大人になって行くのか?
(おれの母さんや、武仁の母のように)
結局、武仁みたいに、どんなに忍耐強くても、立場が弱ければ、上の人間に利用されるだけなんじゃないか?
(オレが、密売の足にされて、尻尾切りにあったみたいに。)
そういう目に合うのは、自分達が弱い存在だからだろうか?
何か前世で悪い事をしたからだろうか?
自分達が弱い存在だからだろうか?
ついていなかったからだろうか?
梅吉はまだ知らない。感覚的に感じ取っていても。
世界が理不尽で満ちている理由を。
世界には、自分の意固地さを正当化する為に、名誉や金銭を欲し、ただ表面上だ偉人から知りえた知識を、他人を裁くために使うものがいる事を。
それは、所謂洗脳である。
どうして人を洗脳するかと言うと、それが一番手っ取り早く、名誉や、金銭を稼げる方法だからだ。
刺激的であきる事が無く、分かりやすい情報には誰もが飛びつきやすいものだ。
それらの情報を幼い命は真面目に受け止めると知っていながら。
揶揄と教訓をごっちゃにし、自分の見栄をひた隠しにしたい者たちに、若い命は搾取されるのだ。
それは今の時代に始まった事でなく、何時の時代もあった事。
『良くは見られたいけど、損はしたくない。』
そんな社会の下心を知らないまま、ひたむきに生きた命はやがて裏切られる。
そして費えるのだ。消費者社会の中で、消えて費える、それがこの社会の構造。
一時の名声や、一時の快楽の為命は消費されるのだ。
ここで言う茨姫は
武仁の母や結女子の先輩の千歳を指しています。
刺々しい言葉を口にする人を『茨姫』と表現しました。