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COLOR~黒の魔法使い~  作者: 葉月十六夜
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第Ⅰ話【六名の新入生】

タイトルの『COLOR』は『コロール』。

スペイン語で『色』という意味です。



 僕の記憶の中に“彼女”はいる。

 白くて、柔らかくて、日の光でキラキラと靡く短い髪が、何時も僕の傍で輝いていた。

 肌も、瞳も、お気に入りのワンピースも白くて、汚しちゃうんじゃないかって何時も変にドキドキしてた。

 でも彼女はお構いなしに、僕にしょっちゅう抱き着いて来てた。抱き枕とでも思ってたのかな?

 だけど、彼女の所為でドギマギしてしまう日々も、彼女のお陰でドキドキしちゃう日々も、僕には……とてつもなく“幸せ”だった。


 そんな大好きだった“彼女”を、僕が殺したんだ―――



 この世界には、二種類の“人間”が存在している。

 平凡で安定。多少の格差はあれど、働けばそれなりに不自由なく暮らしていける“一般人ヘンテ”。

 そして、そんな“一般人ヘンテ”に溶け込み暮らす存在。

 過激で混沌。絶対的な実力主事で、“一般人ヘンテ”ではお目にかかる事が出来ても手に入れる事が出来ない“魔力”を有する存在。それ故に彼等から畏敬の念を持たれている“魔法族”だ。

 

 更に―――“魔法族”の中には魔法を極め、世界を裏側から“調整”もしくは、“崩壊”へと誘う者達の事を“魔法師”と呼ばれる者達が存在している。


 これから紡がれるのは、世界の“調整”を望む“魔法師”となるべく奮闘する―――魔法学校の生徒達の物語である。



 聖歴、XXXX年。季節は春。温かなそよ風が吹き抜け、何処からか訪れる花の香りに癒しを感じる四月の始まり。

 誰もが春の陽気に浮足立つ季節に、決まって訪れる新たな生活への第一歩。

 王国に暮らす国民達の中にも十代半ばにして王立の教育機関へ入学する未成年達がいる。

 とは言え、知識を学べる者は限られる。所謂、貴族等の金持ちの家系の子息や令嬢だ。

 貧民の中には親が働き手に入れた雀の涙程度の金の中から学費を支払い、将来は国の為に、強いては家族を養う為に真面な職に就こうと学業に励む者も居るが、金が滞納した時点で無情にも切り捨てられる。

 当時の世界では、ごく普通の習慣だ。

 

 だが―――そんな国民の未成年達とは違った待遇で学業に勤しむ者達が居る。

 “彼等”そして“彼女等”は学費を支払う必要が無い。その代わり、学費以外の生活費は全て学業の中の“課題”を熟して得られる“報酬”で支払う制度の高等学校。

 その学校の生徒には二人一部屋の寮が存在している。部屋の面積を変えなければ自分好みにアレンジし放題の自由空間。おまけに学校側が支給する外套ローブ以外は服装も自由。

 格差激しい王国の中で、何故こうも圧倒的な違いが生まれているのか。


 それは、その学校に通う未成年達は―――“時として、命を失う事があるからだ”。


 そう。その学園は、ただの学園ではない。その学園は古来、王国に存在する“魔法族”を育てる為の養成機関―――名を『王立アルコ・イーリス魔法師養成高等学校』。通称、『アルコ・イーリス』。

 世界が認め、国が管理する“魔法師育成”の為の施設だ。


 そして本日。『アルコ・イーリス』は入学式を行う。

 新たな“魔法師”となるであろう新芽を育て、数年後には世界の調和を支える花を咲かせる為に、世界各地から魔力を秘めた若人を募る。

 年に一度の新入生は毎年数人程度。例年、自身を“選ばれし者”と称し、自信に満ちた態度で学校の門を潜る者も居る。

 だが今年の新入生の中に、一際やる気を感じさせない少年が居た。


今年の新入生の一人―――クロム=シャドー。

一切の交わりが無い漆黒の髪と瞳。他の生徒に比べ特徴的な印象が無く、姓の通り“影”の様な少年だ。強いて特徴を上げるとするならば、十五歳にして百八十センチ越えの身長で、感情が読み取れない程の無表情だと言う所だろう。

そんなクロムは『アルコ・イーリス』の門を前にしても、やはり表情を変えない。

ただ一言―――


「デカい門だ」


 と、言っただけだ。それ以上は特に感想も無いらしく、さっさと門を潜る。

 新緑が鮮やかな木々の中を進み、大きな噴水がある中庭を抜ける。

 

「広い…日当たり良い…眩しい…温かい…眠い…」


 クロムの感想はまるで脳と口が直結しているような簡単な物ばかり。しかし考える事が苦手な脳筋のクロムにとっては、これでも多弁な方だった。

 クロムは淡々と歩みを進める。魔法によって自由自在に形を変える幻想的な噴水に目も向けず、中庭を通り過ぎる。

 屋内へ入り、事前に梟便で受け取った文に書かれていた指定の教室へ向かう。

 毎年の入学生が一桁の人数の所為か、在学中の先輩と一切遭遇しない。それも人付き合いの苦手なクロムには好都合だった。

 

 教室の入口まで辿り着くと、突然扉に文字が刻まれる。


(ワンド)を構え 戸を開けろ》


「?」

 

((ワンド)を構える?)


 疑問に思いつつ、クロムは指示通り自身の“魔法の杖(ワンド)”を構える。警戒する素振りも無く、鞄をその場に置き、ドアノブを捻る―――


「…………これは?」


 まだドアノブを捻っただけだ。それなのに、今自分が居るのは明らかに“闘技場”だった。

それも二階に観覧席が設けられ、其処から教師と思われる大人達と、自分と同じ外套ローブを着た在校生達が見下ろす様に自分を見ていた。

 否―――自分達(・・・)をだ。


 闘技場の中心にはクロムだけではなかった。

 クロムを除き、そこには他五名の新入生が居た。


「―――転移魔法の一種か」

「それも相当高度な……ね」

「ケッ!」

「ひっ! えっ? ナニッ!?」

「こ、これってどういうコト?」


 口々にこの状況を整理し始める。若干二名が挙動不審だが、他三人は実に落ち着いた様子だ。 

 そして当然、五名の新入生も自分以外の新入生の存在を確認する。

 青かかった白銀の髪。深海の色を閉じ込めた様な深い青色の瞳。圧倒的にクールな雰囲気の男子生徒。外套ローブの下の服も上等な物を着込んでいる、明らかに貴族位の出自だ。

 その近くに一際目を引く女子生徒が一人。首元で一つに結っている髪も、瞳も、外套ローブの下の服も、全てが“赤い”。クロムと同い年とは思えない程の美少女だ。

 そして美少女と苦労の間に悪態をつく不良が一人。逆立たせた橙色の髪。異常につり上がった三白眼でクロムを思いきり睨みつけていた。

 更に、クロムの右隣りに居る深緑色のオカッパ頭の気弱そうな男子生徒。まるで小動物の様に震え上がっている。情けなく垂れ下がった眉と目尻。橙色の髪の生徒と対照的な印象だ。

 そして更に、クロムの左隣に居る金色の長髪と瞳の少女。少し小柄で、高身長のクロムと並ぶと余計に低身長が際立った。

 六名の新入生同士がざっと顔を見合い終えると同時に、闘技場に“声”が響き渡る。


「新入生諸君」


 声のする方に視線を向ければ、そこには一人の老人が立っていた。長い顎髭あごひげと、その髭と同等に真っ白な頭髪が、その老人がとてつもなく長生きである事を容易に予想させる。

 老人が鼻にかけている丸眼鏡の向こうからクロム達を見つめる瞳は、とても優しい。故に今まで挙動不審だった深緑髪の男子生徒や金髪の少女も、過剰に怯える事無く老人の話に耳を傾けた。


「ようこそ。我が『王立アルコ・イーリス魔法師養成高等学校』へ。儂がこの『アルコ・イーリス』の校長―――ゴールディ=タイムスじゃ」


 手短に自己紹介を終えて軽く会釈をするタイムス校長。それに続いて、新入生側も何名か頭を下げた。

 タイムス校長が一通り新入生の顔を伺い、何かに納得する様に数回首を縦に振った。

 そして人相良さ気に柔らかく微笑み、クロム達六名の新入生に指示を出したのだった。


「それでは新入生諸君。今から君達同士で―――」

 

 ―――闘ってもらう(・・・・・・)……



新作初投稿です。

恋愛要素多め(?)。けどバトル中心のファンタジーです。


現在、本腰を入れる別作品も作成途中なので、こちらは気ままに更新していきます。

宜しくお願い致します。

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