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第31話〜アリエス杯開始、陰謀の影〜



「先輩方、お疲れ様です。初日に比べたら大分動きが良くなってきましたね?いよいよアリエス杯当日ですね!」



 アリエス杯当日、アリシアとエリス以外はウォーミングアップがてらのジョギングで息をしながらも大分マシに動ける様になった。


 アリシア、エリスも成長したが先輩方四人は特に成長が目覚しい、因みにヒュウガは毎日遊べると喜んでいたが3日目位からユイに耳を引っ張られ引き摺られていった。…まぁ、ユイもユイで大変だなぁ、とは思う。



「へへ…俺この一週間で何個か新しい技を考えついたもんね!」



「ふん…っ、それを言うなら私もだ…というか、この一週間過ごした地獄を考えればそれくらいの成果は欲しい…っ…」



「はは、それでも結局魔法石を砕く処か良いのを一発も入れられなかったけどね…やる事はやったさね!」



「はい、確実に強くなった気はしますぅ…」



 四人共本当に良く頑張ったと思う、連携技も幾つか使うようになってきたし何より戦い慣れした事で確実に動き方が“上手く”なっている。



「…四人共…頑張った……」



「そうだね…ユウキは容赦ないから……」



 ちらりと、準備運動をしている私に視線を向けるエリスとアリシアに視線が泳いでしまう。


 限られた時間で強くするにはある程度厳しく指導するしか無かったのだから仕方ない、まぁ、必ずしも勝つ事が目的、という事は無いのだが。



「じゃ、じゃあ…そうですね…実現可能な範囲で良ければ優勝したら皆の願い事を1つずつ叶えてあげますよ…?」


 がばっ!と今まで肩で息をするような感じだった先輩達やエリス、アリシア迄私を一斉に見るものだから若干引いてしまう……ぶっちゃけ怖い。



「あ、なら俺師匠の一番弟子になりたい!」



「……私は、故郷に一緒に来て欲しい。勿論、変な意味ではなく見て貰いたいものがある…」



「あたいは…そうさねぇ、一度マンツーマンで魔法弓の手解きをして欲しいもんさね」



「私はぁ……えと、悩みます〜…」



「……ユーくんのご飯が食べたい…」



「…その、で、……を…だね、……は、はずかしい…っ…」



 うん、皆叶えたい事が現実的で何よりだ、アリシアに関しては良く聞き取れないが。私達の関係性を顧みれば差程的外れな予想ではないだろう。


 だがいっぺんに叶えられる願いもあれば少し時間が必要なものもある。


「解りました、では日を要するものに関しては連休等を活用する形で叶えていく形を取らせて貰いたいですが構いませんか?」



 リリア先輩はそれで構わない、と頷くとそれで契約は成された。勿論、優勝すれば、だが。



「──うふふ、面白そうですわ…私も是非叶えて欲しい願いがありますの」



 不意にこの数日間逢おうとしても体調が優れないという事で逢えなかった女性(セチア)の声が聞こえ振り向くと一見すると普段とは何の違いも無いが、確実にナニカが変わっている彼女の気配にたじろいでしまう。



「セチア…なのか…?」



「…違う……セチアだけどセチアじゃない…誰…?」



「悲しいですわ…私はちゃんと私ですわよ…?ただ、少しだけ吹っ切れただけですわ…♡」



 先輩方と違い多少なりとも接触した事のあるアリシアとエリスは突如現れた様子のおかしいセチアに警戒心を顕にするも当の本人は普段と変わらない態度で纏う空気に違和感しか感じない笑みを浮かべながら私をじっと…それこそ艶めかしさすら感じる妖笑(ようしょう)を以て見詰めてくる。



「…私が優勝したらユウキ様、貴方を下さいまし。その髪の毛先から足の爪先迄…生命や魂すら全て…」



 先輩方も居る前で私が欲しい、と…艶っぽく囁くセチアの背後には先日廊下ですれ違った女性と狐の面を被った濡れ羽色の髪を肩まで伸ばした女性が此方を見詰めている。



「……死にたくなければ棄権を勧めるわ…」



「あはは、シオンちゃん殺しちゃだァめ♡…と、はろはろー、今日の試合ではよろしくね?───貴方達と戦えるの楽しみにしてるよ、“ユーくん”?」



 !?


 まさかあの時すれ違ったのがシオンさんだというのは驚いたがそれ以上に狐の面をした女性からは懐かしい気配と共に“身内以外は”その様な呼び方をしない様な呼び方に心臓を握られた様な、何とも言えない焦燥感を覚える。



(まさか…いや、有り得ない…あの子は…いや、しかし…)



 私だってただ周りに言われるがままに政務に携わったり竜族の繁栄に尽力していた訳では無い、15年前に起きた惨劇、その首謀者や村の生き残りの行方、奴隷商の名簿等を調べたが全て分からずじまいだった。


 生死不明、それがあの(レナ)の足取りを追った私が得た結果だった…だが、目の前の女性から感じるそれは一週間以上前に任務で立ち入った遺跡で感じていた気配そのものであった。




「…レナ…なのかい…?」



 私の声に反応したのは狐面の女性だった、隣に寄り添うエリスも彼女をじっと見詰めている。



「……また後でね、(レナ)のユーくん」


 背中を向けて歩き出すレナに追従する様にシオンさんと「それでは…御機嫌よう…」と、一礼した後にセチアは去っていった。



「……ユーくん…大丈夫…?」


 正直に言えば、大丈夫では無い。やっと逢えたかもしれない実の姉とこういう形で競い合うのは精神的に来るものはある。


 何より、若しも彼女が本当に(レナ)があの遺跡で何か関与しているなら…私は魔法士協会に席を置くものとしても、領地を治める領主としても何かしらの決定を下さねば「えい…っ」ぐはっっ?!



「…ユーくん、…ユーくんがしたい事をして…?」



 私の背を叩くエリス、昔から喝を入れてくれるのは彼女だ…この子には何度も救われてきた…。



「エリス…」



「…そうだ、君は君のしたい事をしてくれ、私達はその為に出来る事を協力しよう」



 アリシアが力強く頷く、昔の彼女を知っているからこそ…私はより強く奮い立たされる。



「そーだぜ師匠?なんか良くわかんねーけど俺達で良けりゃ力を貸すからよ!」


「単細胞が…ただ、静観するよりは多少なりとも手伝う方が良さそうだ、私は君に力を貸そう」


「しっかりしなッ!あんたはあたい等の大将なんだ、ケツ持ちはあたい等がしてやるからあんたは好きに動きな!」


「あの、その…が、頑張りますからユウキさんも頑張ってください…!」



 皆…、…私は、私の頼りになる仲間(チーム)に支えられている…今程彼等を頼もしいと思った事はない。


 正直、彼女達が何を考えているのかは解らないが…戦いの中で見えるものがあるというなら戦い抜こう、先ずは1回戦だ。



----------------


 魔法騎士養成学校イージスには三大国家から選りすぐりの人材が集められるのは周知の事実ではあるが、貴族という生き物は常に刺激を求める傾向が強い。


 裏では金品や希少な調味料等を賭け賭事が横行しているが今年のアリエス杯では主に『死滅の魔眼姫』である先代大魔王の忘れ形見であるシオン率いる一寮と『曙の勇者と神降ろしの勇者』と呼ばれるユウキ、アリシアの勇者コンビを擁する四寮のカードに掛け金が集中していた。



「…毎年の事だが良くやる、魔法士協会で取締りを強化すべきでは?」


 今回の目玉であるシオン、ユウキ…共に私生活の顔を知る今代の大魔王であるファラは今年優勝した寮にトロフィーと賞状を渡す役目を務める事となっている。


 特等席である理事長室のソファで苦々しい顔をしながら理事長であり魔法士協会のトップでもあるゼノンに聞こえる様にファラは進言するが門外顧問であるソフィア、同じく主賓として招かれたアレクシア、イレーナも苦笑するばかりだ。


「まぁまぁ、祭りごとに水を差すのはね…勿論、裏工作をしようものなら私達の手で処罰すれば良いさ」


 嘗ての勇者であり王国を治める女王アレクシアは実の娘であるアリシアに裏工作をする貴族は全て何らかの処罰を行ってきた、女王と勇者、立場を優先した結果母娘としては触れ合えずとも護れる範囲で護っている。


 それは勿論、一寮に娘を預けているイレーナと姪を預けているファラも同じ。育ての息子を預けているソフィアも例外では無い。



「うむうむ…お主等が語り合っている間に組み合わせが決まったぞい?1回戦目はAブロックは一寮VS二寮、Bブロックは三寮VS四寮じゃ」



----------------


「そ、そこまで!勝者四寮!」


 ルビア先輩の魔法弓が放たれ、敵陣地の拠点は疎か天を突かんばかりの爆炎と爆音が轟く戦場を制したのは私達四寮であった。


「なんと四寮、開始5分で勝利をもぎ取りましたァッ!強い!今年の四寮は強いです!」



 去年一昨年までの四寮の戦績は対戦相手も悪過ぎた事もあり1回戦敗退が続いたがちゃんと勝ち筋さえ与えれば先輩方は強い、寧ろ結果でしか見ていない周りに軽い頭痛を覚える。



「よし、次もよろしく頼むよベラ!」


「う、うん…っ、頑張るね…?」



 四つある拠点の内一つを落とした後、彼処のメンバーを全員外に誘き寄せつつ、妖精族であるベラ先輩が空間に極小の穴を作り要であり敵の拠点にルビア先輩の渾身の一矢を繰り出せる様にする連携技、ディメンション・ブレイズアローが炸裂した瞬間の2人の喜びようといったら見ている私も喜ばしく感じた。



「四寮決勝進出!ぁ…え、Aブロックも今決着が付いた模様!一寮決勝進出です!」



 …矢張り、か。ヒュウガには悪いが二寮のメンバーでレナ、セチア、シオンさんとまともに戦える力を持つのはヒュウガとユイ位なものだろう。


 何より、一寮には敵には負荷を、味方には一騎当千の力を与える神歌を用いるセチアが居る、…シオンさんが魔法が得意だろう、という事位しか解っていない状態ではキツいかもしれないな…。


 私は見舞いがてらにヒュウガ達二寮のメンバーが運ばれた救護室へと脚を運ぶ事にした。


----------------


「いちち…っ、よ…ユウキ…負けちまったわ…」


 救護室へと赴くと回復魔法を掛けられた後なのか比較的元気なヒュウガと顔を合わせる。


「負けちゃったか…楽しめた?」


「いや、全く。つーか逆に楽しめなかったわ…」


 回復魔法を掛け直しながらヒュウガの感想を訊くもどうやら彼としては不満しか感じない戦いだったらしい。



「なんつーのかな…一寮の奴等何かに操られてる感じだったわ、去年はあんな感じじゃなかったんだけどよ。…ユウキ、気を付けろよ?彼奴等間違いなくお前を狙ってくるぜ」



 それは理解している、だが操られている…か…



「ありがとう、参考にさせて貰うよ。試合迄時間があるしユイや他の二寮の人達も治療してくるね」


「悪ぃな、ユイも喜ぶだろ。彼奴お前の事が……って、これ内緒な?」


 苦笑しながらも頷く、…どうやら一筋縄では行かない相手だというのを頭の隅に置きつつ私はユイを含めた他の傷付いた選手達の治療に赴くのであった。



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