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先輩とチョコレート  作者: 猫屋敷 桜
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8

「高橋さん、来週の金曜日の夜空いてますか?」

「はい、大丈夫です。というより予定がある日がないです」

「ふふ、気を使ってくださらなくて良いですよ。では、金曜日にお願いします」

職場に変わった人がいる、佐藤さんという女性。

教育担当でもないし、役職はないけれどベテラン。

誰にでも優しくて、いつも穏やかな笑顔で、ちょっとした失敗が多くて、ものすごくチョコレート好きなんだ。


以前、佐藤さんの大好きなケーキ屋に連れて行ってもらえる約束をした。

来週の金曜日、あと10日ある。

仕事がある日だし服装はこのままスーツでいいかな。

ケーキ屋の後はお茶とか飲む時間はないかな・・・夕飯は誘えないか。

仕事よりも色んな妄想が捗ってしまう。

桃瀬先輩と塩崎がニヤニヤしている気がするので、仕事に集中する。


「高橋、今日飲みにいこーぜ」

「今日は絶対ダメだ。明日に備えて、早く寝るんだ」

「遠足前の小学生みたいな返事だな、お前らしいけど」

「いやぁ、トラブルがあって行けません、とか嫌だからね。準備は万全にしたい」

「そんなこと言ってると残業になるぞ?」

塩崎にからかわれつつ、淡々と仕事をこなす。

とうとう明日は佐藤さんとケーキ屋に行くのだから、今日のうちに色々片付けておきたい。

楽しみな予定があると、本当に仕事が捗っていいもんだ。


「ええっ、はい・・・はい。ではご連絡をお待ちしています」

取引先からの電話に思わず素が出てしまいそうになり、堪える。

今日の夕方もしくは夜、下手したら明日の午前中、取引先から大切な連絡が来る。

俺が連絡を取らなければ仕事が進まないので、残業が確定した瞬間だった。

しかもいつ終わるか分からない残業、待ちますなんて言わなきゃ良かった・・・。

待つしかないんだけどもと回復するまで5分くらい、机に突っ伏していた。

顔を上げると、目の前に珍しいお菓子。

チョコレート生地の一口サイズのワッフル。

誰がどうしてくれたかなんて明白で、でもそれをアピールすることもなく、さっきまでと同じように席について仕事をしている佐藤さんを、パソコンの隙間から見つめる。


「あの、残業することになりまして、今日の予定はキャンセルさせてください。良ければまた今度お願いします。」

断りたくないけど断らないといけない。

せっかく誘ってもらえたのに、せっかく時間を取ってもらったのに、申し訳なくて顔も見られない。

「そうですね、また今度行きましょう。残業頑張ってくださいね」

いつも通りの佐藤さんの微笑みに癒されつつも、残念そうではないことに俺のほうが残念になる。

そうだよね、チョコレート好きってくらいの共通点しかない後輩なんだから、そんなもんだよ。

自分に言い聞かせて、仕事に戻る。


連絡待ちの俺を気遣って塩崎は残業していた。

「佐藤さん、今日は定時ダッシュの日なの?」

「あれ?定時ダッシュしたの?俺とお店に行くはずだったけど、月1の日ではないはず・・・」

佐藤さんは定時ダッシュしていたらしいけど、全く気付いていなかった。

約束がなしになったから、他の人と行ったのかな?などと考えながら、またパソコンに向かう。

いつになったら連絡があるんだろうか。

義理で残業してくれている塩崎のためにコーヒーを買いに行く。

「はぁ、佐藤さんとデートしたかったなぁ」

思わずため息と共に本音が出る。

いつの間にかデートの設定にしていた自分に驚く。


自動販売機からコーヒーを取り出して振り返って、固まる。

「あの、これ、お店で売っているマカロンなんですけど、買って戻ってきたんです。塩崎さんと食べてください。また今度・・・デートしましょう」

チョコレートの魔法で小さく見える佐藤さんが目の前にいた。

箱を俺の胸に押し付け、慌てて俺が受け取ったのを見ると、お疲れさまでしたとダッシュする佐藤さん。

本音を聞かれていたことを悟った俺は、頷くしか出来なかった。

彼女を呼び止めることも出来ずフリーズしていた俺は、ひとまず塩崎に報告する。

「でででで、デートの約束してたっ。どうしよ、可愛すぎる」

耳の周りが、頬の当たりが赤くなっていた気がするんだと言えず、塩崎の肩をバシバシ叩いてしまう。

「何を言っているかわかんないよ、高橋っ。痛いから!」


マカロンを味わう間もなく取引先からの電話を受け、退勤する。

近場の定食屋で夕飯を食べながら、事の次第を聞いた塩崎はニヤニヤとからかってくる。

「もう結婚してしまえ。んで、俺にブーケトス寄越せ」

「・・・・無理ぃ・・・」


後日談:

マカロンは塩崎と分けようとしたけれど、ブーケのほうがいいと突っぱねられる。

全部おいしく頂いて、お返しを探して街に出たけど、花しか目に入ってこなかった。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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