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「意外だって言われるんだけど、甘いもの苦手なんだよねぇ、私」
「桃瀬さん、素が出てますよー」
「あらっ、やだ。塩崎くん、仕切り直しよっ」
「だから素が出てますってー」
「桃瀬さんと塩崎さんは息がぴったりですね。ふふふ」
職場に変わった人がいる、佐藤さんという女性。
教育担当でもないし、役職はないけれどベテラン。
誰にでも優しくて、いつも穏やかな笑顔で、ちょっとした失敗が多くて、ものすごくチョコレート好きなんだ。
甘いものが苦手な桃瀬先輩、なんでも食べる塩崎、チョコレート好きの佐藤さんのカオスな会話をこっそり盗み聞きする。
先日年齢を聞いて怒らせてしまった気がして、今日も佐藤さんの顔が見られない。
「苦手な人に押し付けるのは嫌なので、初日に言ってくださってよかったです」
「佐藤ちゃんにそう言ってもらえるのは、嬉しいね」
「桃瀬さんと佐藤さんは同級生になるから、飲み会とかも行ったことあるんすか?この間高橋と飲み会したんですけど、先輩たちも誘いたいなって」
「あぁ、何回か飲んでるよ。佐藤ちゃんって意外と」
「も、も、桃瀬さんっ。しっ、言わないでくださいっ」
「えー、気になるなぁ」
うん、俺もすごい気になります。最後まで言ってほしい。いや、こっそり聞いているから口にできないけどさ・・。
結局最後まで聞けなかった。
酒谷主任から全員に仕事が割り振られたのもあるけども・・・。
なんとなく仕事に手が付けられず、何度も文章を書いては消し、パソコンに向かっているだけだった。
【集中が切れてる?ガンバっ】とメッセージが書かれてた。
受験生がゲン担ぎに購入するあの赤いチョコレート・・・俺は学生か?
トイレから戻ったら机に置いてあった佐藤さんの隠し財宝を見ながら、知らずに頬が緩んでいた。
もう怒っていないのかな?お礼ついでにもう一回謝っておこうと決める。
「佐藤さん、チョコレートありがとうございます。あと、この前はすみませんでした」
「んー?なんのことでしょう?お仕事頑張ってくださいね」
いつもの笑顔で励ましてくれる佐藤さんに癒されて、仕事が捗った。
気が付くと終業時刻。
佐藤さんは珍しくダッシュで退勤したようでいつの間にかいなかった。
やっぱ、彼氏さんがいるんだろうなぁと、ちょっぴり胸のあたりが痛くなる。
いやいや、居たからって不思議はないし、それに対して何かいう間柄じゃないな。
後日談:
塩崎が唐突に佐藤さんに定時ダッシュの真相を質問して、俺は凍った。
なんてことはない。低糖質チョコレートでも有名なケーキ屋さんに月1回通っていたんだそうだ。
休日では遠出になるそうで、会社帰りに行くことにしているらしい。
楽しみにしすぎて走ってしまうとの佐藤さん。なにこの可愛い生き物。
今度連れて行ってもらうことになった。よっしゃ!
最後までお読みいただきありがとうございました。