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「配属になりました高橋です。よろしくお願致します」
「塩崎っす。よろしくお願いしますー」
「初めまして、佐藤といいます。高橋さんは酒谷さん、塩崎さんは桃瀬さんに、仕事を教えてもらってください。あと、チョコレートどうぞ」
職場に変わった人がいる、佐藤さんという女性。
教育担当でもないし、役職はないけれどベテラン。
誰にでも優しくて、いつも穏やかな笑顔で、ちょっとした失敗が多くて、ものすごくチョコレート好きなんだ。
「そういえば佐藤さんって初対面の人にもチョコレート渡してるんですか?」
入社後配属先に挨拶にきたときのことを思い出した俺は、唐突に聞いてみた。
社会人になっていきなりお菓子をもらうなんて想像できなかったから。
「はい、毎年緊張している新人の方に私が代表で差し上げています。3月に米倉課長が100円集めたのを覚えていますか?そのお金で購入しているんです」
そういえばそんなことあったな、100円なんて渡したことも忘れてた。
「ちなみに桃瀬さん、酒谷さんも同期なんですが、桃瀬さんが甘いものが苦手だったので、酒谷さんが2個もらってくれました」
懐かしむように微笑む佐藤さんは可愛いなぁと思いつつ、疑問が沸き上がる。
「酒谷さんが配属になったのを知っているってことは、佐藤さんって酒谷さんより年上なんですか?」
「・・・・秘密です・・・」
佐藤さんの顔色が変わったのを見て、あっと思ったときには地雷を踏んだことを思い知った。
隣の席の塩崎も心なしか血の気が引いている。
「なんでもないです。すみません・・・」
女性に年齢を聞くのはまずった。謝ったけど、怒らせた。
「いえ、高橋さんより年上ですが、酒谷さんたちより年下です。転職前の勤務年数も合わせるとだいぶ長くなりましたが」
ん?年下で転職経験もあるけど、主任より長くここで仕事している?
混乱する頭で更なる地雷を踏まないように、佐藤さんにもらったチョコレートを口に含む。
俺の踏み込んではいけない世界もあるのだ。
今日のチョコレートは予感していたのかハイカカオでちょっと苦みが強かった。
後日談:
酒谷主任とたまたま学歴の話になって、佐藤さんは専門学校卒、主任は大学院卒で実は同い年だと発覚。
専門学校卒だからと人一倍努力した佐藤さんは、最年少課長になってもおかしくない実績があるそうだ。
すごい人だと気づいていたけど、まだ話せていなかった飲み会は塩崎と2人で行くことにした。
酒谷主任には言わなかったはずなのに、なぜか乱入してきた・・・。
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