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「あらぁ、失敗」
「うぉっ、今の音なんですか?大丈夫ですか?」
「脚立に上ろうとして足を踏み外したら、倒してしまったんです」
「佐藤さん小さいので、そういうときは俺に言ってください」
職場に変わった人がいる、佐藤さんという女性。
教育担当でもないし、役職はないけれどベテラン。
誰にでも優しくて、いつも穏やかな笑顔で、ちょっとした失敗が多くて、ものすごくチョコレート好きなんだ。
実は20cm以上身長差があると最近知った。
もっと大きいと思っていたんだけど、どんな魔法を使っているんだろう。
佐藤さんが使うからチョコレートの魔法と名付けよう。
「高橋さんに頼らずとも、棚から書類を取るくらいは出来ますよ」
照れ隠しなのか、握りこぶしをつくる佐藤さんは脚立と比べると、小ささが認識できた。
必要な書類は俺なら手が届く高さなんだけどね。
書類を棚から取り出し、佐藤さんに渡す。
「ありがとうございます。あ、これお礼です」
書類が無くなり空いた掌にポンと置かれた黒い箱は、たぶんチョコレートなんだろうけど、見たことがなかった
「えっとこれはチョコレートです。あ、知ってますよね。どうぞ」
ふふふと何も説明せずにいなくなってしまった佐藤さん。
いや、大切なこと何も言ってないよ?どこのチョコレートですか?どんなチョコレートなの?
マイペースだなぁと力が抜けた。
「よし、お仕事頑張っちゃうぞー」
気を取り直して書類の提出やら、電話でアポイントメントを取ってと、あっという間に昼休憩になった。
頂いたチョコレートをよく観察して、よく味わう。食感が面白くて、おいしい。
「この仕事量で残業なんて許さないからね」
午後も張り切って仕事をして、残業になりそうなところを酒谷主任にヘッドロックで制止された。
この人、やっぱり怖い・・・。
珍しく定時で上がった佐藤さんはダッシュで帰宅してた。誰かと約束があったのかな?
塩崎は健康診断の結果、ジムに通うことにしたそうだ。
ジムに誘われたけど、俺は友達と定期的にテニスしてるから、A判定もらってますよー。
後日談:
実はここのセット商品にはもう1種類のチョコレートが入っていることを知った俺は、人生初のお取り寄せをした。
どちらもとってもおいしくて、佐藤さんにあげたらとびっきりの笑顔を見られた。
佐藤さんは既に買ったことがあるんだから、どちらも食べたことがあるんだし、義理で笑顔にならなくても・・・と思いながらも、嬉しかった。
チョコレートの魔法は皆を笑顔にするんだと、心が温かくなった。
最後までお読みいただきありがとうございました。