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第6章「過去」20


 エントランスに口を開けたエレベーター乗り場に、レイルは少し躊躇してから飛び降りた。乗り場から少々の段差を残して停止したエレベーター――どうやら老朽化により昇降位置が下にズレてしまったようだ――に降り立ったレイルに、エントランスと同じカーペットが敷かれた床はミシリと不吉な音を鳴らす。

「……」

 レイルは轟音を立てて動き出したエレベーターの上で、なんとなく自分の腰周りを確認。

――太ってはねぇはずだ。

 一瞬、リーダーの体を思い出す。だが重さの比較よりも邪な想像が掻き立てられたので、すぐに考えるのを止めた。今は任務中で、刻印のこともある。むやみやたらと興奮するのは、この国を出てからでも遅くはないはずだ。

 微妙な浮遊感を与えるエレベーターが、これまた轟音と共に目的地に到着した。レイルはゆっくりと金網に降りる。自然と、足音を消している自分に気付いた。原因は目の前の男の背中から感じる威圧感だ。

 光輝く剣を掲げ、一心に聖なる呪文を唱えている。聞く者を魅了するその美しい低音は、人間と言うよりは天使に近いと思えた。

 レイルはリチャードに音も無く近付く。警戒心よりも、邪魔をしたくなかった。彼の美しい声を止めることは、犯してはならない罪のようだったから。彼の後ろで思わず跪いたところで、リチャードがこちらを振り向いた。

「……何してる?」

「光将様、おもてなしの準備が出来ました」

 真面目な台詞を笑いながら言うと、リチャードは明らかに不快な表情をして、レイルが手に持ったままの容器に目をやった。

「ハーブティーです。毒は入っていませんよ」

「……だろうな」

 リチャードは溜め息を一つついてから、光を失った剣を鞘に戻した。そのまま容器を受け取り、口につける。レイルは、彼のゆっくりと動く喉の動きを目に入れないようにする。

 熱くなる欲望を抑える為に何か違うことを考えようとして、もう片方の手に握り締めていたお使いの品を思い出した。リチャードがハーブティーを飲み終えた。

「地元の茶葉を使った高級品だな。どこでこれを?」

「普通にここに置いてあったぜ?」

「そうか。ここにも良し悪しのわかる奴がいたとはな……」

 リチャードの言葉にレイルは特に反応せずに、片手をリチャードに差し出した。開いた手の平の上には、ロックから預かったピアス型の無線がある。

「……これは?」

「仲間からのお使い。専用回線がもうセットされてるから、私らには聞こえない」

 つけろ、と目で訴えると、リチャードも釈然としない表情で耳にあてた。レイルはつまらないので、彼から少し離れて金網の上にどかっと座り込む。この距離なら確実にロックの声は聞こえない。

 リチャードの声が聞こえるのは仕方がない。あのロックが、リチャードの返答だけでこちらに話題を悟らせるなんて、そんなヘマはするはずがなかった。


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