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第6章「過去」19


 食料庫――と言うには小さい――から年代物らしきハーブティーを取り出したレイルは、ルークが持ち歩いている水筒のお湯で簡単に用意をしていた。

「良い色してるな。それに香りも良い」

 銃の手入れを終えたルークが、こちらに近付きながら満足そうに笑う。その明るい表情にレイルもにっこり笑い返す。簡素な使い捨て容器に入ったハーブティーは、薄い色合いながらも優しい香りを辺りに振り撒いていた。

「物騒な男共には勿体ないし似合わないぜ。だからこれだけ残ってたんだろうが……」

「レイルー。俺も飲みたい」

「ああ。良いぜ……あ、容器切らしてるな」

 レイルは片手に持っていた煎れたての容器を足元に置き――行儀が悪いのはわかっているが、胡坐をかきながらハーブティーを淹れていた――、もう一個の最後の容器に注ぐ。お湯を注がれたその容器の底で茶葉がくるくると回転し、すぐに優しい香りが立ち込めた。それを受け取ったルークは半分程をぐいと飲み、感嘆の声を上げる。

「マジで美味い! 上品! レイルも飲んでみなって」

 あまりに幸せそうに容器を返してくるので、レイルも残りに口をつける。確かに口に含む前から香りを楽しめる。もっとしっかりとした席で楽しみたかった、と内心溜め息をつきながら、ゆっくりと飲み込む。一瞬味を楽しむ為に細めた目の隅で、ルークが生唾を飲み込むのが見えた。

「確かに美味いな」

「だろ? 多分この地方独特の温暖な気候が茶の甘みを出すんだろうな」

「えらく詳しくね?」

「これでも金持ち生まれだから!」

「……お茶なんて楽しんだこともねーよ」

 ニコニコ笑うルークに呆れてしまって、ついレイルは素っ気ない返事をしてしまった。瞬く間に微妙な空気が流れて、レイルは頭を抱えたくなった。

――ルークの気持ちぐらいわかってんのに、自分の馬鹿野郎。

「……ルーク」

「今度皆でお茶会しようぜ!!」

「……は?」

 いたたまれなくなって声を掛けたレイルに、ルークはいつもと同じ明るい口調でそう提案してきた。言葉の意味を飲み込むのに時間が掛かる。

「だからお茶会! 俺、けっこう色んな種類知ってるから、皆でいろいろ楽しもう」

「……でも、よ」

 言い淀みながらレイルは手に持っていた空の容器を足元に置いた。

……時間稼ぎにもならない。

「大丈夫! マナーとか楽しみ方とか全部教える! ……皆が知らないこと、教えたいんだよ! 皆で楽しみたいんだ!」

 ルークの熱い視線が、困惑するレイルに突き刺さる。その中にこちらを探るような光を見付けて、レイルは思わずルークを抱き締めた。

 ほとんど押し倒すように飛び付いた自分を、ルークは驚きながらも抱き締め返してくれた。自分でも驚いていた。

――私は逃げていた。

 “生粋の殺人鬼”を怖がっていた彼のように、自分も“普通に生きること”を怖がっていた。そうはっきり自覚して、レイルは罪悪感を掻き消すように彼の胸に顔を埋める。

「やろう。お茶会」

「うん」

 そう言って頷き合う二人に、無線越しにロックとクリスの声が聞こえた。

 ちなみにフェンリルのメンバーは、任務中は宿以外では常に無線のスイッチをオンのままにしている。プライバシーもへったくれもないが、常に危険と隣り合わせな世界に生きているからこそ、お互いの状況は常に把握し合う必要があった。

 会話も終わってレイルはルークから離れて、ハーブティーがなみなみと注がれた容器を手に取る。ルークが立ち上がり、ロックは地上に降りてきた。レイルも二人に並ぶように立つ。

 中庭の入口からクリスが歩いてくるのが見えた。






 レイルに外套を渡しながら、クリスがさっそく本題に入った。

「どうしたんだ?」

「リーダー、あれを見てくれ」

 ロックが不満そうな顔をしながら塔の上部を指差した。

「えっ!?」

「なんで移動してんだ!?」

 ルークとレイルは同時に驚いた声を上げる。それも無理はない。ヤートの身体が塔の上部まで上がっていたからだ。

「……おそらく浄化が原因だ。彼の精神は今、塔の悪意に繋がっている。浄化により悪意が上に逃げれば、そこに捕われた彼も肉体ごと上に上がる」

「なるほどなー」

 クリスの見解に、レイルも納得したように頷く。

「確かに根本、色無くなってきたよな」

 ロックの指摘に、ルークは初めて塔の変化に気付いた。塔の根本から少し上までが、グラデーションのように透明になっていた。自分達の背後で変わっていたのに、全く気付かなかった。

「浄化が順調ということだ。レイル、光将にお茶を。その外套で顔を隠せ」

「了解リーダー」

 そう返事をしてレイルはエントランスに向かった。彼女の背中が中庭の扉の向こうに消える頃、ロックが口を開いた。

「しばらく無線の専用回線使って良い?」

「え? なんでだ?」

 突然訳のわからないことを言い出すロックに、ルークは説明を求めた。なのに――

「良いぞ。レイル、聞いてたか?」

『おう。了解』

 あっさりとしたリーダーの承諾により、レイルも特に反論無く了解した。代わりに説明を求める視線をクリスに送ったが、彼は何もかもわかったような顔をしただけだった。


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