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第5章「悪意の塔」13


 いきなり巨大な赤黒い塔が出現し、リチャードに僅かな隙が生じた。目の前で有り得ないことが起こったのだから当たり前だ。彼から感じる魔力も減少しているように思えた。

 レイルも目の前の光景には充分驚いたが、一緒になって突っ立っている訳にもいかない。すぐさま体内に雷を充電し、一気に放出する。異常なエネルギーの放出により、光の鎖が弾け飛んで消える。

 甲高い音と輝きに、リチャードは剣を構えながら振り向く。一瞬で状況を理解し、舌打ちされた。イイ男のそういう顔もそそられる。

「悪いな。縛られたくらいじゃイケねえんだよ」

「ならもう少し痛めつけてやろう」

 リチャードはすぐさま詠唱に入るが、今回はレイルの方が早かった。火花の散る剣をリチャードの右腕に深々と突き刺す。剣はよく鍛え上げられた腕を貫通し、筋肉の裂ける感覚をレイルは楽しむ。

 するりと剣を引き抜くと、一気に血が噴き出した。方向が無理矢理――隙はあったが、やはり光将だけはあった――だったので、流血のカーテンによりレイルの視界が一瞬狭まる。赤いシャワーの反対側から光の瞬きが見えた時には、レイルの体は地面に激突していた。背中をしたたかにぶつけ、一瞬息が止まる。

 何が起こったかは理解出来た。自分は相手の利き腕は潰したが、光魔法の直撃を喰らった。その衝撃で吹き飛ばされて中庭の柔らかい土の上に落ちた。そして、相手は光の剣を両手で持ってとどめを刺しに来ている。

 リチャードが距離を詰める為に地を蹴った。美しい月明かりに照らされた彼の姿は、聖なる天使そのものだ。

「綺麗だ……」

 これはもう避けられない。斬首刑のギロチンよろしく、レイル目掛けて剣を振り下ろすリチャード。

 レイルは一か八か剣に雷を集中させた。剣全体に一瞬にして蓄積された雷が、逃げ場を求めて剣先から上に伸びていく。急速にリーチの伸びた剣を真上に突き出す。肉を断つ感触と、腹に穴が開く独特の痛みが同時に襲ってきた。痛みのせいで思わず閉じてしまった目を開くと、レイルの真上で右の肩に剣が突き刺さったリチャードの姿が飛び込んできた。

――出来れば左が頭をやりたかったな。

「ぐっ……き、貴様っ」

 レイルと同じく痛みに耐えるリチャードが、口から血を吐きながら言葉を発した。どす黒い血液が、レイルの喉元にかかる。生暖かい感触がレイルのシャツを染めていく。

「さっさと、どけよ……束縛野郎!!」

 叫ぶと同時に腹が猛烈に痛んだが、レイルは力を入れ直してリチャードを蹴り飛ばした。力を入れると感覚が冴えてきた。

 剣ごと吹き飛んだリチャードは、なんとか受け身を取る。だが彼も先程のようには動けないのか、苛立った表情でこちらを見ながら片膝をついている。剣を手放さなかったのはさすがだ。

 レイルもいつまでも寝転がっている訳にもいかないので、なんとか立ち上がる。腹に開いた穴からドクドクと血が流れ出ていた。太い血管を傷付けているらしく、脈のリズムに合わせてレイルの意識が遠くなる。流れる血液の感触は不愉快極まりなく、おまけに寒気がしてきた。

 即死しなかったのが奇跡的で、立っているのがやっと。だがそれは相手も同じだ。肩から入った雷は、彼の表面以上に体内を傷付けている。

「まさか、狂犬に……手をやくとはな」

「こっちもまさか、光将に腹に風穴開けられるとは思ってなかったよ」

 不敵に笑ってやったつもりだったが、リチャードは小さく舌打ちすると光に包まれながら上に跳んだ。レイルは上空からの奇襲を警戒したが、彼はそのままヤートがいる場所に向かった。

「あの野郎! 逃げやがった!! おい! ロック!!」

 叫ぶ度に傷口が広がるような気がしたが、レイルは無線に向かって怒鳴り声を上げる。

『こっちからも見えてる!! どうやら味方も負傷しているらしい。あの身体じゃヤートさんは連れ去れねえよ。まずはリーダー達を助けてやろうぜ』

「風穴開いてるのにか!?」

『どこの貫通式でも血は出るもんだ』

「どこの話してんだよ!?」

 無線で話しながらレイルは跳躍。そこら中に転がる兵士達が装着していたメットや剣を一気に跳び越し走る。

 腹に走る痛みは我慢。昔、クリスに開けられた痛みに比べれば何も辛くはない。普段の半分のスピードも出せなかったが、それでもルークの背中にはすぐにたどり着いた。クリスを守るようにして立つルークの前方には、赤黒い不気味な塔がそびえ立ち――

「――ルークっ!!」

 塔から針状の物が伸びて、ルークを串刺しにしようとする。レイルは叫びながら雷をその針に打ち出す。

 しかしレイルの声は痛みにより大きくは出ておらず、ルークは雷撃が自らの横を通り過ぎるまでレイルの接近に気付かなかったようだ。

 それ程までに、前方の塔の存在感が強いのだ。いくらルークがフェンリルの中で一番鈍いと言っても、鋭さは常人のものとは比べものにならない。

 あらゆる負の思念を、その塔は強く発していた。


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