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第5章「悪意の塔」12


「ちょろちょろ逃げたって、絶対逃げきれないよ?」

 相変わらず自身の生み出した兵士達に守られたナオが、ケラケラと笑いながら言った。あの高さから落ちてクッションにしたというのに、兵士の数は減るどころか更に増えている。

「わかってるから相手してやるっての!!」

 ルークは走り回りながら拳銃を発砲する。弾が尽きても慌てずに、リロードしながら走り続ける。必要最低限の敵を倒して、敵の壁の穴を探す。

 僅かに開いた隙間――兵士と兵士の間に開いた十数センチの切れ目だった――からナオの眉間を捉え、ルークの照準が重なった。すぐさまルークは発砲。小型の銃弾は狙い違わずナオに直進する。

 対集団戦は、ルークの十八番である。ルークの普段の戦い方は、味方を盾にしての中距離戦。クリスやレイルといった接近戦のプロ達の隙間から、離れた相手に追撃を与える。味方のすぐ側を何発もの銃弾を通していく。失敗イコール味方の死に繋がる、神技のような芸当。こんな高度な戦い方は、強固な信頼関係がなければ成立しない。今はその信頼する相手を守る為に孤軍奮闘中だ。

 後ろのクリスに指一本触れさせる訳にはいかない。彼が切られればルークは大事な者を亡くし、彼に斬らせれば彼自身が狂ってしまう。

 ルークの放った銃弾は、ナオの僅か上を通過する。どうやら紙一重で避けられたらしい。相手の反応の良さに知らない内に舌打ちが出る。

 相手はただの少年ではない。戦闘の大部分を作り上げた兵士に任せているが、彼自身もかなりの力を持っている。そうでなければこうも自分の攻撃が見切られる訳がない。

 状況は圧倒的に不利。無数の兵士の壁が、ルークの銃弾を通さない。先程から一向に詰まらない距離に苛立つ。

「仲間がいないと辛そうだね?」

 クスクス笑いながら言うナオ。彼はわかっているのだ。ルークの戦い方を。

 先程から氷結魔法を唱える暇も与えてくれない。ルークが手を考えている一瞬の隙を突き、兵士が二体切り掛かって来た。咄嗟に銃を撃ち倒すが、体勢が崩れる。

「ルーク!!」

 向こうで大人しく待っているはずのクリスが、間に割って入って来た。長刀を流れるように振るい、周囲の数体を瞬殺する。

「大人しく待ってろって言ったのに……リーダーってばそんなにお仕置きして欲しいの?」

「正直、欲求が抑え切れなくなってる。縛られるくらいなら大歓迎だ」

「出たよ、さすがはドM王子!!」

「その呼び方は止めろ……俺が前に出る! 一気に仕留めるぞ!!」

「了解!!」

 ルークは叫ぶと、援護射撃を開始。既にナオに向かって飛び出しているクリスの周りに、銃弾のカーテンを作り出す。迫り来る敵を全て撃ち倒す。

 それによりクリスは余裕を持ってナオに近付く。鬼と化す一歩手前のクリスのあまりのプレッシャーに、ナオの表情が引き攣った。慌てて回避に移るナオを長刀が追いかける。

「赤く甘い血をぶちまけてくれないか」

「絶対嫌だよ!! クリス! 君にはこの液体が一番!!」

 正確に胸を狙った斬りを、ナオは水晶で受けた。透明度の高い美しい表面に亀裂が走り、その内部から湧き出るように赤黒い液体が出てきた。

「くそっ!!」

 刀に纏わり付くようにして付着した液体に、クリスは悪態をつきながらナオから離れた。際限なく流れ出る液体は、次第に大きな塊となって動きを止めた。

 それは天空へと伸びる長細い塔のようだった。今は墜ちた空中回廊の高さまでその先端は伸びている。

 赤黒く輝くそれは、ルークの位置からだと脈動する血液のように見えた。塔の根本で、ナオが疲労を隠さない顔をしている。

「こいつはなんだ!?」

 クリスの元に走り寄りながらルークは叫んだ。なんとなく、こうしなければナオに自分の声が届かない気がした。

――危ない目をしてやがる。

 疲労した表情の上の瞳は、何処かぼんやりとしている。

「エドワードお爺ちゃんも死んじゃった。ボクはもう一人ぼっち……」

 ナオはそう呟くと両手を天高く突き出した。すると赤黒い結晶の塔が一際強く輝き出し、エドワードが操っていた兵士の残骸を取り込みだした。

 水晶から湧き出たとは思えない量の塔が、更に太さを増す。まるで質量と共に憎しみが増したかのように、一気に塔から発せられる憎悪が増えた。

 あまりの悪意にルークは吐き気を覚える。

 隣でクリスが倒れるのがわかった。前のめりに倒れた彼は、かろうじて片膝をつく。長刀を杖のように地に突き刺して支えにしている。ふらふらと揺れるその体は、刀の支えがあっても辛そうだ。

「俺には……これ以上は無理だ」

 遮光グラスの奥の瞳が潤んでいる。壮絶な悪意に押され、引きずり出されそうな欲求に耐えているのだ。

 ルークはナオに視線を戻す。ナオは両手を下ろし、ただぼんやりとこちらを見ている。ルークがどうするべきか悩んでいるところに、後ろから閃光が襲った。


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