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第5章「悪意の塔」10


「ジョイン……逝っちまったか。良い子だったんだがなぁ」

 崩れ落ちた天空回廊から中庭を見下ろしていたアレグロが、無表情に呟いた。

「……部下か何かか?」

 聞き慣れない名前にヤートは聞き返した。根元から落ちた橋から身を乗り出すと、冷たい風に背筋がゾクゾクとした。不快な風だ。

 ヤートは相変わらずコアの中をスキャンされていた。青く光るコアの輝きが、片目からでもちらちら見える。それだけでも腹立たしいが、先程から復旧した無線の声とスキャンによる違和感で、少しばかり吐き気を覚えている。いきなり復旧したシステムに、人間の身体の方が追い付いていないのだろう。

「俺の……なんだろうな……子供、とでも言ったら近いのか……とにかく、"昨日"までの俺の集大成だった」

「昨日まで?」

「……少し俺の話をしようか。どうせどちらも、終わるまでまだ少し時間が掛かる」

 そう言ってアレグロはタッチパネルと中庭を交互に指差した。命――頭の命運を握られているヤートに、拒否権は皆無だ。

「最強の戦士を作り出したかった」

 黙って待っていると、アレグロは静かに語り出した。その顔は再びタッチパネルに向いていた。

「俺は人間の魔力の限界について研究していた。俺自身、魔力の才能が低いことと……この国の空を飛ぶという夢が捩れまくってそうなった」

 南部の砂漠地帯に吹き荒れる砂嵐の砂は細かい。それは本来の魔力をシャットアウトする力だけでなく、精密機械――飛行船も例外ではない――を制御不能にしてしまう。あの砂嵐が吹いている限り、どんな飛行船も飛ばすことは出来ない。だがここデザートローズだけは例外で、豊かな水源と開けた視界が約束されている。

 その為空軍という名ばかりの集まりが、陸軍に対抗するべく設立されても問題はなかった。国の文字通り上空のみの軍事域だが、建前にはそれだけでも充分だ。

「人間の得られる魔力には限界がある。筋力に限界があるように、ある一定の値以上にはなれないように、人間の身体は出来ている。それは身体を過剰な負荷から守るリミッターであり、他から与えない限り超えられない値だった」

 サングラスの奥の瞳は、どこを見ているのはわからなかった。サングラスにはタッチパネルが反射しているが、彼の瞳は現実ではない、どこか遠くを見ているように思えた。吸い終えた葉巻が彼の足元に転がっている。

「この世にはこの値に限りなく近い人間がそれなりにいる。フェンリルの四人は間違いなくこの分類……あまり魔法は得意そうではないレイルやクリスもまぁ、その括りで問題ないだろう。リッチ坊やもそうだ。つまり、最強ではない。"最強に近い"人間を、叩き潰せるような人間を作り出したい。俺の研究はその一点に集中した」

「空を飛ぶ……夢から、えらく脱線したように感じるが?」

 中庭に視線を落としながらヤートは言った。ここからだと中庭の詳しい状況はよく見えない。たまに銃声や剣がぶつかる音などが小さく聞こえるのみだ。

「俺は夢を忘れていないさ……」

 アレグロは小さく笑いながらこちらを向いた。相変わらず視線は読めない。

「他者からの魔力の受け渡しについて研究を開始した俺に、ある国の科学者達が協力を申し出てきた。彼らは自国の機械を人間とリンクさせる計画を提案してきた。人体実験での実証が欲しかった俺は飛び付いた。デザートローズではおおっぴらな人体実験は禁止されていたからだ。しかし俺は、科学者でもあり、デザートローズの人間だった。実験が失敗した場合を想定し、ちゃんと手を打っておいた」

 淡々と話すアレグロに、ヤートは嫌な予感を覚えた。

「何かが起こった場合には、生きた人間を喰らい尽くす召喚陣を用意しておいた」

 最初は予感だったそれが、すぐに強い確証に変わる。状況が、惨劇が、目に焼き付いている。

「科学者達はR2で他者からの魔力のリンクの人体実験の準備を開始した。しかし準備段階で本部に嗅ぎ付けられた。更にはフェンリルによりコアを奪われた。まったく……せめて完成させて欲しかったな」

 アレグロの顔がヤートを向いて止まっている。激しい怒りに刺激された青き光に照らされた彼の瞳は、ヤートの右手に向けられていた。

 固く、血が滲むまでに握り締めた拳。

 気付かなかった。どうしたら良いのかわからなくて、身体が動かない。激しい怒りを、どうぶつけたら良いのかもわからなかった。とにかく瞼の裏に張り付いた部下達の死に様だけが、怒りを増幅させヤートを迷子にさせていた。

「……変なところで冷静なんだな。頭が爆ぜるかと思っていた」

「……お前が、黒幕か」


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