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第5章「悪意の塔」8


 中庭に飛び降りようとしたロックは、真横から発せられた強烈な殺気に気付いた。目線だけで確認する。それは閉められた扉越しに感じるものだった。まだ探索していない、二階の反対側だ。

「……」

 クリスを抱き留めているルークをスコープ越しに見つめる。呼吸は荒いが大丈夫そうだ。レイルがとても気掛かりだが、敵を野放しにする訳にもいかない。どちらにしろ、腹違いの兄と出会えばクリスくらいしか相手にならない。ここは不安要素を潰してから援護に向かうべきだろう。

 ロックはそう決断すると、ライフルを構えたまま、問題の扉をゆっくりと開けた。

 扉の向こうは、反対側の回廊と同じ造りをしていた。気味が悪いくらいのシンメトリの真ん中に、青髪の少年が佇んでいる。

 まだ幼さの残る甘い容姿。美しい緑の大きな瞳が、ロックを捉える。黒一色で統一されたロングコートから少年が両手を出した。その手に光が集まるのを見て、ロックは瞬間的に危険を感じて飛びのいた。

 次の瞬間にはロックが一瞬前までいた場所に、弾丸で穿ったような跡がついていた。遅れて耳に小さな爆発音が届く。

「……反応、早いんだね」

 特に表情を変えずに少年は言った。少しつまらなそうな声に聞こえる。

「よく似た技を使うやつを知ってるんでね」

 腹違いの兄――リチャードの操る光魔法に、少年の攻撃はよく似ていた。音すら追い付かない光撃は、数ある魔法の中でも最速レベルと言われる。彼は聖剣を使わずとも、かなりの規模の光魔法が扱える。剣術も魔術も高い資質を持つ、天才。自分以上に父親の血を受け継いでいる。

「それって、リチャードさんのこと?」

 少年の問いにロックは無言で頷く。

「そっかぁ。けっこう知ってるの? リチャードさんのこと」

「ああ、知ってるよ。初めて好きになった女も、そいつといつ繋がったかも、軍学校の教官に言い寄られて、その教官をぶん殴ったこともな」

「うわぁ、それって、凄く……非公式だね」

 初めて少年の顔に笑顔が浮かんだ。それまでは甘い顔立ちなのに機械のような硬さがあったので、そのギャップにロックは目を細める。あまりそういう趣味はないが、可愛らしい輪郭には好感を覚える。

「お前、名前は?」

「ジョインだよ。ジョイン・レイビー」

「所属は?」

「軍の後方支援部隊」

「非戦闘員か?」

「違うよ……」

 ジョインがそう答えた瞬間、何も無かった彼の手に光の槍が握られていた。

「……ボクは実験動物」

 無気力な表情で、ジョインはそれを投げ付けた。光の槍がロックに向かって一直線に飛んでくる。

 キィィンと不快な音を立てながら飛翔する槍を、ロックは紙一重で避ける。予想以上の速さに、ロックの頬が軽く切れる。とりあえずライフルの照準を合わせる努力をしながら走る。

 ジョインは槍の二発目を生み出していた。一気に鼓動が早まり、脳はフル回転を始める。

――なんであのガキが光魔法を使える?

 純粋なる光の血統の血が流れていなければ、本来は扱えない魔法。腹違いの弟のロックでさえも、腹違い故に扱えない。存在すらも稀少な魔術。だからこそ、リチャードは天才的な強さなのだ。

 ロックは走り回りながらある結論に達する。周囲では光の槍による爆発で、幾つもの閃光と発熱が繰り返している。

 可能性は二つしかない。そして一つは兄の性格を考えれば有り得ないことで、もう一つは科学技術的に以前のロックならば考えもしないことだった。

――あいつがガキこさえるなんて有り得ねぇ。

 幼い頃から真面目で勤勉な兄は、結婚する相手としか子供をつくるようなことはしないはずだ。セックスは楽しんでいるだろうが、まさかミスを犯すような人間ではない。ろくでもない父親とは違う。

「てめぇは……ゼウス計画に関係あるのか!?」

 無数に襲いくる光の槍を飛び越えながらロックは叫んだ。

 血を受け継いだ実子でないのならば、それしかない。ゼウス計画か、もしくはそれに類似した計画により、光の魔力をリンクさせることに成功したのだろうか……

「良い線だね。ボクはゼウス計画の産みの親である、ミスターアレグロの実験動物」

――ゼウス計画の産みの親のアレグロ?

 そんな奴は知らない、とロックは困惑する。R2の科学者か、違う国の科学者か……とにかくやっかいな奴であることに違いはなさそうだ。

「そのミスターアレグロってのは、お前にどんな仕掛けを?」

「至ってシンプルだよ? ボクに、リチャードさんの光魔法を引き出す魔力の回線を埋め込んだだけ」

「あの計画は人間には使えないと聞いた」

――むしろ今は、使えたら困る。迷惑だ。

「ミスターアレグロは最強の兵士は機械ではなく人間であると信じてる。だからこそ媒体も人間である必要がある。ミスターアレグロからしたら、ゼウス計画すらも踏み台なんだ」

「答えになってない」

 いつの間にかお互い動きが止まっていた。中庭の戦闘音は分厚い壁で完全にシャットアウトされており静かだ。

「ボクの頭は昔、銃弾を貰ってザクロになった。その時にミスターアレグロがボクを拾ってくれて、頭の中に光を操る回路を入れてくれたんだ。それが潰れた脳神経の代わりに動いてくれて、更にボクにも微量の光を操る素質を与えてくれた」

「普通は死ぬな。ましてや魔力の塊を体内に入れちまうなんて」

 ジョインの言葉にロックは軽くうなだれながら言う。科学者というのはどいつもこいつもトチ狂っているようだ。

「この技術は脳が完成していない幼い子供にしか出来ないんだって。でも、一応レイルさんもそうなんだから、あんまりおかしな話じゃない」

「あいつはぶっとんだ腕だけだ。頭にゃ入ってない」

「そう。だからゼウスにすら適用出来ない」

 ジョインが少し誇らしげに言ったので、ロックは心から彼のことを哀れむ。

「それで良いんだよ。人間のままだからな」

「……ボクは、人間以上の存在になりたい! だから殺す!!」

 再び光の槍を生み出し身構えるジョインに、ロックは静かに言った。

「お前は自分の力で戦ってない。リチャードの力がどれ程のものかも、全然わかってねぇよ」

 ロックはライフルを背中に戻すと、レーザーキャノンから剣を引き出し、跳んだ。真下で光の槍が爆発したのを確認して、ジョインに次の装填の暇を与えない為に攻撃を仕掛ける。素早い斬撃にジョインは防戦一方。かろうじて生み出した光の棒――槍の刃の部分がない――を使って器用に立ち回る。

 何故か動きが読まれている気がした。慣れている動きだ。

「お前も僕らの情報持ってるのか?」

「まさか! 君達の情報って全然、ほとんどないよ! なんせ出会った敵を皆殺しだしね。情報を割らせるには、死体に……いや、その時は生きてるんだけど、盗聴機とかカメラとかを付けとかないといけないから」

「えげつねぇな」

「君達の殺し方に比べたら全然。食べちゃったり飾っちゃったり切り刻んじゃったり爆破しちゃったり……こっちは偶然のレベルもあるからね。だけど、ボクの場合は少し違う。ボクはルークと少し行動を共にしたことがある」


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